1980年ホンダ「CB250RS」は、『軽量・スリム・楽しい』が ぎっしり詰まった極限シンプルバイクだった【柏 秀樹の昭和~平成 カタログ蔵出しコラム Vol.2】

●文/カタログ画像提供:[クリエイターチャンネル] 柏秀樹 ●外部リンク:柏秀樹ライディングスクール(KRS)
ライディングスクール講師、モータージャーナリストとして業界に貢献してきた柏 秀樹さん、じつは無数の蔵書を持つカタログマニアというもう一つの顔を持っています。昭和~平成と熱き時代のカタログを眺めていると、ついつい時間が過ぎ去っていき……。そんな“あの時代”を共有する連載。第2回は、1980年に登場したホンダ「CB250RS」です。
表紙のライダーは片山敬済
1980年代前期のバイクブームの火付け役の一台として忘れられないのが1980年3月登場のホンダCB250RSです。
カタログの表紙を飾ったのは1977年に世界GP350ccクラスでチャンピオンになった片山敬済。白と赤と紺の3色:ホンダらしいトリコロールカラーを意識しながら俯瞰気味に撮影したCB250RSでした。
カタログのキャッチコピーは「ひらり、瞬足。現代のシングル。」と、今見ても粋ですね。
それまでの単気筒ロードスポーツといえば、ティアドロップ型タンクの伝統的スタイルにドドドッとくる単気筒らしい鼓動の味わいというのが通り相場。しかし、スポーツの本質は「軽く、スリムでヒラリ、ヒラリ」でしょ?とホンダは大真面目にアプローチしたんです。
またがった瞬間に「軽っ!」と思わず口から出てきそうな軽さでしたけど、実はこのバイクを高く評価したいのは「曲がりやすさ」のほうでした。なんで曲がりやすかったのか。そこが今回このカタログを強く推す理由です。
HONDA CB250RS ●1980年3月1日発売
単気筒エンジンの軽さが絶対的な条件ですが、フレームの作りがそこに大きく関係しているというのが私なりの読み。
ステアリングヘッドからスイングアームピボットまで直線で結ぶレーサーレプリカ的な作りは、スズキRG250ガンマ以降、世の常識にさえなっていきました。
しかし、ガンマ以前のカタログ文章で「高剛性」という言葉はほとんど出ることがありませんでした。そんな時代の象徴的な作り方のひとつが、パイプフレームによるダイヤモンド式。このCB250RSに採用したダイヤモンド式フレームは、エンジン本体をフレームの強度メンバーにする方式です。だからエンジンの下部はフレームがなくて、より軽く、よりスリムにできるし、バンク角確保にも都合が良いわけです。
CB250RSの乾燥重量は128kg。この時期のホンダのラインアップにあった同クラス250cc・2気筒のCB250Tが174kgでしたから、CB250RSは46kgも軽かったし、最高出力は1馬力低い25馬力だけれどトルクは2.0kg-mよりも大きい2.2kg-mを低い回転で発生しました。だから、どんな道でも誰が乗ってもスイスイ走ってしまう。しかもスリムでバンク角は42度と、当時のバイクとしてはかなり攻めていける数字でした。
バランサーがあったから軽量な車体を造れた
それを大きくサポートしたのがエンジン。どういうことかというと、単気筒エンジンは大きな振動が出るのでフレームをガッチリ作らなきゃいけません。エンジンをフレームで包み込むクレードルタイプにするとガッチリの車体になるので、とりあえずは安心。だけど大きく重くなってしまう。
ならばエンジンの振動を2気筒並みに抑えればいいじゃないの! ということでこのバイクに採用したのがバランサーだったのです。
クランクの前と後の2か所に半月型のウエイトを配置してチェーンで回して、ピストンとコンロッドの往復運動による慣性力を見事に軽減。そして、振動が減るとフレームが軽くできます。
CB250RSのヒラヒラどころかグイグイ曲がる楽しさや速さは、エンジンのバランサーによるところが大きい。これを明確に、かつ初めて感じさせてくれたバイクがCB250RSだったのです。
エンジンの振動を低減するバランサー付きで、ホンダ独自のフルオートカムチェーンテンショナーも付いたことでF.D.S.S.(4バルブ、ダブルエキゾースト、スーパーシングル)と呼ばれるエンジン。しかもクラストップレベルの低燃費でした。
そんな凄いエンジンのことなど、なーんにも知らずに多くの女性ライダーが、折りからのバイクブームに乗って急増。ラッタッタの女子がバイクの楽しさに目覚めて、さあ次はスポーツバイクだ! という流れに。同時代・同クラスの2ストバイクRZ250はスピードやパワーに憧れる男子に強く支持されましたが、女子ライダーにとっては軽くて扱いやすいCB250RSこそ本命中の本命でした。
HONDA CB250RS-Z ●1981年3月19日発売
でもね、本音を言うと男子でも右ステップを折りたたんでキックペダルを蹴り下ろしてエンジン始動する作業はハードルが高かった。ということでホンダはセルモーター付きのCB250RS-Zを1981年に追加。1馬力アップさせながら燃費を改善し、セミエア式フロントサス、ハロゲンライト、2ポットフロントブレーキキャリパーなど装備も充実しました。
単気筒スポーツの軽くてスリムでシンプルな作り込みとゆっくりでも飛ばしても楽しい操縦性。それがCB250RSの魅力でした。
時代は一巡しているように感じます。こんな極めて当たり前の、シンプルな作り込みのバイクこそ大切ではないか。CB250RSのカタログを見てあたらめてそう思います。
CB250RSのオプションカタログ。
※本記事の文責は当該執筆者(もしくはメディア)に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(柏秀樹)
1969年の袋井テストコース完成が英国車に負けないハンドリングを生んだ ヤマハ初の4サイクルスポーツ車といえば1970年登場のヤマハスポーツ「650 XS-1」です。XS登場の約1年前にデビューしたC[…]
真摯な取り組みから生まれたスズキの良心だった 日本初のナナハンことホンダ「CB750フォア」に対し、GT750は2年後の1971年9月に登場しました。何に感動したかって、低回転のままスルスルっと滑るよ[…]
日本メーカーによる大排気量車ブーム、その先駆けが750フォア 「威風堂々!」 「世界を震撼させた脅威のスペック!」 「日本の技術力を名実ともに知らしめた記念すべき名車!」 1969年デビューのホンダC[…]
カワサキZ400FXを凌ぐため、ホンダの独自技術をフル投入 ホンダが持っている技術のすべてをこのバイクに投入しよう! そんな意欲がヒシヒシと伝わってくるバイク、それが1981年11月に登場したCBX4[…]
美に対する本気度を感じたミドル・シングル ひとつのエンジンでロードモデルとオフロードモデル、クルーザーモデルまでを生み出す例って過去に山ほどありますけど、プランニングからデザインのディテールまでちゃん[…]
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
ホンダ「モンキー125」(2021)比較試乗レビュー この記事ではかわいらしいフォルムと実用性が同居したファンバイク、モンキー125の2021年モデルについて紹介するぞ。ミッションが5速化されたうえに[…]
幻のヤマハロータリー〈RZ201〉 1972年東京モーターショウの最大の話題は彗星のように登場したこのローターリー車だ。水冷・横置きツインローターを搭載、また前輪とともに後輪にもディスクブレーキを採用[…]
PG‐1の国内導入がオフロードのヤマハを復活させる!? 国内の原付二種市場は、スーパーカブやモンキーなどのギヤ付きクラスはもちろん、PCXなどのスクーターを含めて長らくホンダの独壇場となっている。そん[…]
直立単気筒はオフ車から転用せずロングストロークの専用設計! 1980年代のレプリカ全盛が過ぎると、各メーカーはパフォーマンス追求から多様なニーズを前提に様々なカテゴリーのモデルを投入した。 そんな中、[…]
意外なる長寿エンジン「ザッパー系」が積み重ねた31年の歴史 2006年12月、ゼファー750ファイナルエディションの発売がアナウンスされ、1990年初頭から続いたゼファー750の16年におよぶ歴史が幕[…]
最新の関連記事(ホンダ [HONDA])
ホンダ「モンキー125」(2021)比較試乗レビュー この記事ではかわいらしいフォルムと実用性が同居したファンバイク、モンキー125の2021年モデルについて紹介するぞ。ミッションが5速化されたうえに[…]
幻のヤマハロータリー〈RZ201〉 1972年東京モーターショウの最大の話題は彗星のように登場したこのローターリー車だ。水冷・横置きツインローターを搭載、また前輪とともに後輪にもディスクブレーキを採用[…]
2025年10月末をもって現行50ccバイクの継続生産ができなくなることを受け、各バイクメーカーは50cc原付から110~125ccを出力4kW以下に制御した新基準原付、いわゆる新原付の導入に向かうこ[…]
PG‐1の国内導入がオフロードのヤマハを復活させる!? 国内の原付二種市場は、スーパーカブやモンキーなどのギヤ付きクラスはもちろん、PCXなどのスクーターを含めて長らくホンダの独壇場となっている。そん[…]
『Wheels and Wavesフェスティバル』にカスタムマシン×11車を展示 6年目を迎えたHondacustoms(ホンダカスタムズ)、過去にはCB1000Rやレブル、CL250/CL500、モ[…]
人気記事ランキング(全体)
Z1、GPz900R、Ninja ZX-9Rから連なる“マジックナイン”の最新進化系 カワサキは、948cc並列4気筒エンジンを搭載したスーパーネイキッド「Z900」および上級モデル「Z900 SE」[…]
涼しさの心臓部。それは「素材」と「構造」の魔法的組み合わせ うだるような暑さと、じっとりと肌にまとわりつく湿気。毎年繰り返されるこの季節に、多くの人が少しでも快適に過ごせる服を探し求めている。そんな中[…]
『Wheels and Wavesフェスティバル』にカスタムマシン×11車を展示 6年目を迎えたHondacustoms(ホンダカスタムズ)、過去にはCB1000Rやレブル、CL250/CL500、モ[…]
左右2本出しマフラーやベルトドライブ、6速ミッションも採用 ヒョースンモータージャパンは、水冷124.7cc・V型2気筒エンジンを搭載したクルーザーモデル「GV125Xロードスター」を発売する。 挟み[…]
アメリカは”英国車マニア”多し! この1956年製MGAはご覧の通り左ハンドルで、最初から北米仕様だったもの。そもそも、アメリカは英国車マニアが数多く存在しており、1950年代どころか1930/194[…]
最新の投稿記事(全体)
ホンダ「モンキー125」(2021)比較試乗レビュー この記事ではかわいらしいフォルムと実用性が同居したファンバイク、モンキー125の2021年モデルについて紹介するぞ。ミッションが5速化されたうえに[…]
ライダーが抱く「ヘルメットの悩み」を解消するために誕生 デルタから発売される高機能ヘルメットスタンドは、多くのライダーから寄せられた「こんな製品があったらいいな」を形にした、実用性とデザイン性を兼ね備[…]
「パンヘッドのチョッパーに乗りたい」理想像を具現化 目の肥えたファンが集まるカスタムショーに大きなブースを構え、絶え間なくハイレベルな作品を発表し続ける遠藤自動車サービス。その確かな技術力/信頼性の高[…]
2023年モデル:400クラス唯一のクルーザーとして復活 発売は2023年4月25日。先代となるエリミネーター400から実に15年ぶりの登場で、エリミネーター/SEの2グレード展開だった。 ニンジャ4[…]
日本を代表するツーリングロードのティア表だっ! 「次のツーリングは、どこへ行こう?」 そんな嬉しい悩みを抱える全てのライダーに捧げる、究極のツーリングスポット・ティア表が完成した。 ……いや、そもそも[…]
- 1
- 2