71歳の夏、マジカルレーシングの蛭田貢さんが見た景色【カーボン製レーシングスタンドも制作して挑んだ『もて耐』2023】

  • 2023/09/08 11:00
  • BRAND POST[PR]: マジカルレーシング
マジカルレーシングの蛭田貢さんが見た景色

チェッカーフラッグが振られるその瞬間まで、チーム全員が71歳のライダーの勇姿を固唾を飲んで見つめた。2023年の『もてぎ7時間耐久ロードレース(もて耐)』に参戦した『カワサキ チーム31』。ラストランを飾ったのは、マジカルレーシング代表の蛭田貢さんだ。今回のマシン、カワサキNinja ZX-25Rレーサーのカウルは蛭田さんのオリジナルデザインであるカーボン製。さらに前後カーボン製のレーシングスタンドも制作。物作りの職人でもある蛭田さんは、レース数日前までこのレーシングスタンドの制作に励んでいた。

●文:ミリオーレ編集部(村田奈緒子) ●写真:安井宏充 ●BRAND POST提供:マジカルレーシング

蛭田 貢(ひるた・みつぐ)/1952年生まれ。20歳代前半はバイクレースに打ち込み、その後はサーフィンに夢中。自身の好きなことに貪欲である一方、職は数えきれないほど転々とした。「FL(当時の四輪フォーミュラーカー)のノーズカウルを作れないか?」というオーダーを受けたことがきっかけで、FRPによるボディワークを知る(ちなみにこの当時はタクシー運転手だった)。その後、独学でサーフボードやスノーボードも制作。1978年、レーシングカウルや外装パーツを手がける『マジカルレーシング』を立ち上げる。現在はFRPやカーボンの造形技術を駆使し、宅配用のデリボックスやパラスポーツの機材製作なども手がける。

6月14日、公式練習後の緊張感

2023年春、いつものメンバーだけでなく新しい監督/ライダーが加わり、『もて耐』参戦チームが結束された。チーム名は『カワサキ チーム31』。監督はカワサキモータースジャパンの桐野英子社長、ライダーは1993年世界GP250ccチャンピオンの原田哲也さん、2015年アジアロード選手権AP250チャンピオンで現在はトリックスターのスタッフである山本剛大さん、モトサロン代表の岡正人さん、MIGLIOREディレクターの小川勤、そしてチーム要となる蛭田さんの5名。

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『カワサキ チーム31』のライダー5名。写真左から山本さん/小川/蛭田さん/原田さん/岡さん。初対面でチームにジョインした山本さんに、レースを楽しむメンバーで構成しており、我がチームの不動のセンターは蛭田さんだと伝えると、「いいですね! 楽しそうですね!」とにっこり。ナイスガイな山本さんなので、蛭田さんの不安は杞憂であった…。

6月14日に開催された公式練習(原田さんは不参加)では、山本さんがかなり良いタイムを記録。幸先の良いスタートではあったが、この帰路、車内は緊張感に包まれていた。いつもなら走行後に気持ちよさそうにビールをクイッといく蛭田さんだが、この日はビールの用意もないと言う。

「山本くんの走りよかったな〜。そんな山本くんに『このジジイ遅いのにビールなんてなに飲んでんねん』と思われたらあかんから、今日はビールはなしや」と蛭田さんは笑う。が、その表情は硬い。やはり緊張しますよね? と聞くと、同じ表情のまま話してくれた。

「そらそーやろ、監督は桐野社長やで。その昔、小川が原田さんをチームに連れてきた時も『そらアカンやろ』と思ったけど、今回はさらに桐野社長とアジアロード選手権AP250元チャンピオンや。勝つためのチームじゃないと言われても、タイムを出せるわけでもないジジイがどこまで走れるのか…」

今年71歳、灼熱のシーズンに7時間の耐久レース、そして錚々たるメンバーがいるチームの一員として参加するのは大きなプレッシャーだろうことは誰もが感じていた。だからこれを弱気だとは笑い飛ばせず、「でもきっと楽しいレースになりますよ」と当たり障りのないことしか返せなかった。

「そうやな、6年ぶりに走ったもてぎは楽しかったしな。なんとかなる…かなぁ…」と、蛭田さんは笑った。

灼熱の7月末、レースのことだけを考える3日間

『もて耐』は、7月28日に受付や車検、翌29日に予選、30日に決勝というスケジュール。「今回は予選落ちがないし、気楽にいこう」と言いつつも、チーム全員が多かれ少なかれレース特有の緊張感をまとっていた。なかでも蛭田さんの緊張感は高い「お腹痛くなりそうやわ…」。

28日の午後には、桐野監督も合流。山本さんと小川以外は桐野監督とはこの日が初対面だったが、「なにをしたらいいですか?」と監督自らが積極的にコミュニケーションをとってくれたので、すぐにチームは一丸となっていった。28日/29日の夜にはメンバー全員で食事をともにし、作戦会議やバイク談義に花が咲く。その様子はリラックスしているようで、どことなくピリッとした空気が薄氷のようにはりつめてもいた。

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原田さんが様々な情報をチーム員全員にフィードバック(右)。左はマシンを制作してくれている千葉のMSセーリング代表の竹内さんと。蛭田さんは、ポルシェで大阪から千葉に行くことも。

30日、9時30分より7時間決勝レースが火蓋を切る。今回、もてぎの36番ピットには『カワサキ チーム31』(ゼッケン31)と『チーム38レジェンド』(ゼッケン38)があてがわれた。この『チーム38レジェンド』はカワサキの社内チームで、デザイナーやテストライダー、エンジニア、そして元テストライダーの齋藤昇司さん(『もて耐』参戦時は69歳。現在は70歳)という若手とベテランで構成されたチーム。

齋藤さんは蛭田さんが参戦し一緒に走れることを楽しみにしており、それは蛭田さんも同じ気持ちだった。速さを競うのではなく、ともに同じ舞台に立ち、その時間を共有できることに喜びを感じている様子だ。

しかし、いざレースが始まり、エキゾーストノートが轟くと状況は少し変わってくる。燃費やアベレージにより作戦は刻一刻と変わる。蛭田さんは、スタートから約1時間半後に第3走者として12周走り、次は最終走者としてフィニッシュラインを切るというもの。『カワサキ チーム31』は暑さ対策で回転をセーブしたり、ピット&給油の回数を変更するなどしながらも、転倒や大きなトラブルもなく最終走者である蛭田さんにマシンをつないだ。

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無駄のないリラックスしたフォームで走る蛭田さん。

ゼッケン31と38が並走した最終スティント

7時間耐久のラスト30分を切った頃、蛭田さんが最後のスティントに向かった。少し経つと「あ、蛭田さんと齋藤さん一緒に走ってますね。仲良しだなぁ〜」と、まず最初に気付いたのは山本さんだった。コース上の車両位置をリアルタイムで確認できるスマートフォンアプリを見ると、確かにゼッケン31と38が並走していたのだ。

ピットからは実際にその走りを見ることはできなかったが、2人が一緒に走っている光景が脳裏に浮かび、メンバー全員が笑顔になった。

早くチェッカーフラッグが振られてほしいと思う反面、この3日間が終わろうとしていることが寂しい。そんな矛盾した気持ちを抱えながらチーム全員がコースを食い入るように見つめ、蛭田さんに声援を送った。肌をジリジリと焦がす西日が容赦なく照りつけるなか、1周1周がさらに長く感じた。やがてゼッケン31のZX-25Rは無事にチェッカーフラッグを受け、ホームストレートに停止。7時間の戦いは幕を閉じた。

結果として、『カワサキ チーム31』は150周を走り42位。蛭田さんのベストタイムは2:31.305。6年前の『もて耐』参戦からは約3秒落ちだが、71歳という年齢を加味すると速さと体力は驚きに値するものだった。

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ゼッケン31の蛭田さんとゼッケン38の齋藤さんが一緒に走る。ストレートで斎藤さんは蛭田さんに手を挙げながらパスしていった。

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無事にゴールし、マシンを降りた直後。原田さんや仲間が駆け寄り、蛭田さんを労う。3日間張り詰めていた緊張感からも解放され、笑みが溢れる。

自身の身体と向き合い、日々のケアを重ねる

レースを終えた後日、改めて蛭田さんに今回の『もて耐』の挑戦がどうだったのかを聞いてみた。

「終わってみると、思っていたより走れたかなぁ。とはいえ最後はタイヤも滑るし、ただただ早くチェッカーが振られてほしいという祈る気持ちだったわ。チーム戦は個人的なレースとは圧倒的に異なるプレッシャーがあるし、やっぱり疲れるわなぁ」

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蛭田さんは、バイクに乗り続けるために身体をケアする。筋トレを欠かさない。

そしてこう続けた。「体力の衰えや技術の無さもどうしても気になるしなぁ」

一般的に定年と言われる年齢をゆうに過ぎても元気な蛭田さんの姿から、そんな風に考えていたのかとは思いもよらず、さらに聞いてみた。「バイクライフにおける終活というものを考えますか?」と。

「レースで言うと、思い返せば55歳くらいから変わったかな。それまでは走りたいという気持ちが先行していたのに、この年齢からチェッカーが気になるようになって…レースが早く終わらないかと願う自分もいることに気づいた感じやな。その頃からかな、いつまでバイクでレースに出れるのだろうか? と少しずつ思うようになった」

漠然とした不安は、60代半ばの怪我によってさらに大きくなった。

「怪我が治ったにも関わらず不調が続いて、それはインナーの筋肉の衰えが原因ということが分かった。で、このインナーマッスル(身体の奥深くにある筋肉の総称)を鍛えるというのがなかなか難しい。短期間鍛えて不調が改善しても、トレーニングを止めるとすぐに衰えてまた不調に…その繰り返しから、68歳ぐらいからは軽い運動を毎日するようにしている」

軽い運動と蛭田さんは言うが、朝晩と1日2回の入浴後、筋肉がやわらかくなっている時に、腹筋と背筋を各20回ほど、そしてゴムバンドを使って腕を上げるトレーニングを100回×2セットというのを毎日行っている。50代半ばから筋トレは意識的に行ってきたが、このインナーを鍛えることもプラスするようになったのはここ数年のことなのだ。

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蛭田さんと『チーム38レジェンド』の齋藤さん。レース後はとにかく笑顔に溢れた。練習走行終了後には楽しめなかったビールを、プールに入りながら堪能する。

まだまだ広がる趣味の世界と仲間たち

「バイクに乗れる? 乗れない? という境目がいつ訪れるのか…」

ベテランライダーであれば誰もが考え、感じることは蛭田さんも同様だ。その境目をどう判断するのかは各々によって大きく異なるが、蛭田さんの場合は明確だ。

「乗っているだけで楽しいと思えるうちはOKなのかなと。これが車やバイクに乗りたいよりも、家でゆっくり過ごしたいと感じるようになったら、それがきっと終わりの合図やな」

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『もて耐』レース後、いつまでも仲間とのバイク談義は尽きない。

チームで参戦するレースに関して言えば「あの緊張感がそろそろ限界や」と笑うが、個で走るレースに関しては「もうちょっといけるかな」と語る。もちろんバイクの楽しみ方はレースだけではないし、原田さんが日本に帰国した際には一緒にバイクで林道ツーリングに行ったりもしている。

さらに車に関して言えば、数年前に購入したポルシェ 911でのドライブが楽しくてしょうがない。そのポルシェにはもちろん蛭田さんお手製のカーボンパーツが多数装着されている(蛭田さんのポルシェはこちら)。

「レースがきっかけで今こうして仲間が増えて、彼らと一緒にバイクに乗っていることが楽しいし、彼らとの遊びの中の一つにレースがあるっていう感じやな。とはいえ、レースの緊張感にいつまで一緒にいけるかは分からんけどなぁ」

自分自身の身体と心に向き合いながら、蛭田さんの趣味の世界はまだまだ広がっていく。

カーボンカウルはワンオフ。そしてスタンドもカーボン製!

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桐野監督もカーボンスタンドなら軽々持てる!

これまで蛭田さんと参戦してきたレーサーのボディパーツは、すべてマジカルレーシング製だ。今回のカワサキNinja ZX-25Rレーサーは蛭田さんのオリジナルデザインであるカーボン製。恐らく、フルカーボンカウルで参戦していたのは『カワサキ チーム31』だけで、その存在感は格別だ。

チームを作った小川は、裏テーマとしてそのレースで一番美しいバイクを目指そうと思って参戦しているらしいが、それには蛭田さんのカウルが欠かせないのだという。

ただ、今回、カーボンカウル以上に目立っていたのが、前後カーボン製のレーシングスタンドだった。蛭田さんは夜な夜なカーボンスタンドの制作に励み、グループLINEに写真を送ってくる。完成したのは『もて耐』のレース数日前。間に合った。

普通、レーシングスタンドといえば鉄製だ。しかし蛭田さんはそれをカーボンで作る。「これなら桐野監督も前後同時に持てるはず……」と超軽量(前後各1.2kg!)スタンドを用意してくれた。

もちろんワンオフである。『もて耐』参戦にあたり、まずは自分と向き合い、体力と相談するだけでなく、こういったパーツをきちんとお披露目してくれるのが蛭田さんなのだ。みんながカーボン製のレーシングスタンドを持った瞬間に「何、コレ!」「カルッ!」「ヤバッ!」と笑顔になる。「ええやろ!」と蛭田さんも嬉しそうだった。

蛭田さんのパーツ開発の情熱は高まるばかり。今もマジカルレーシングからは蛭田さんのアイデアから生まれてくるパーツがたくさんある。71歳にしてレース、バイク、ポルシェ、そして物作りに没頭する姿はとてもカッコいい。

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ボディパーツはカーボン製(アンダーカウルも決勝直前にカーボン製に交換)。

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蛭田さん渾身のカーボンスタンド。リヤは販売の予定あり!

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ウルトラライト LEDカーボンウインカーミラー『ライトニング』
ミラー部分のヘッドはカーボン製中空モノコックで、ステー部分もLEDウインカーを内蔵したカーボンモノコック製で、隙のない仕上がり。YZF-R7にタイプ1ヘッドを装着した状態。こちらも蛭田さんの発想で製品化。

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CB1000R(2021〜)
新たなる世代のCBをマジカルレーシング流にアレンジ。風防効果を高め、高速走行時の身体への負担を軽減してくれるバイザースクリーンが個性的なルックスを約束。2018-2020年モデルのCB1000R用ストリートボディワークはこちら

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ハヤブサ(2021〜)
ハヤブサらしく個々のパーツが巨大なため、1点変えるだけでもイメージが激変。ハヤブサをスポーティーに、そして高級に変身させることができる。

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MT-09(2021〜)
排気量を888ccにアップした3代目のMT-09用ストリートボディワーク。アッパーカウルやアンダーカウルなど、ノーマルにはないパーツのカーボン化は迫力満点!


※本記事はマジカルレーシングが提供したもので、一部プロモーション要素を含みます。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。