インディアン「チーフ」誕生から100周年【新型チーフ デザイン責任者インタビュー】
インディアンモーターサイクル(以下インディアン)は、間もなく新型車「チーフ」を日本で発売する。2021年にデビュー100周年を迎えるチーフは、1920年代のフラッグシップモデルであり、そのパフォーマンスとスタイルが世界中のバイクファンの羨望の的となるとともに、同時に世界中のバイクメーカーが目指す当時最高級の2輪車製品でもあった。
●文/まとめ: 河野正士 ●写真:インディアン・モーターサイクル/ ©Jenny Jurneliu ●BRAND POST提供:インディアンモーターサイクル[ポラリスジャパン]
「エンジンも車体も、可能なかぎりシンプルにしたかった」
デビューから100年の節目に復活した「チーフ」は全3モデル。「チーフダークホース」「チーフボバーダークホース」「スーパーチーフリミテッド」だ。エンジンやフレームなどの基本コンポーネンツに加え、燃料タンクなど一部外装パーツを共通としながら、ホイール径や素材、ハンドル形状やステップ位置を変更、装備を追加するなどして各モデルのキャラクターを作り上げている。
エンジンは、インディアンの大型クルーザーモデルおよびバガーモデルであるチーフテン/スプリングフィールド/ロードマスターなどに搭載されているサンダーストローク116。挟角49度のV型2気筒で、排気量1890ccを有する空冷OHV3カムで構成されている。そして、そのエンジンを包み込むフレームはチーフシリーズのためにデザインされたもの。剛性バランスの向上とは裏腹に、製造コストの低下が至上命題となる昨今の2輪車フレーム製作のトレンドに反し、パフォーマンスにおいてもスタイリングにおいても、フレームこそが新型チーフのアイデンティティと確信し、徹底的に造り込まれている。
チーフが復活したのは、実はこれが最初ではない。1897年に前身となる自転車メーカーを立ち上げ、1901年には自社製作の2輪車を開発。1923年に「インディアンモーターサイクル」に社名変更。そして1953年に2輪車ブランドの名簿から姿を消してからは、いくつもの復活計画が持ち上がっては消えていった。そして2011年、ATV/サイドバイサイド/スノーモービルなどを開発し製造販売するアメリカンブランド・ポラリスインダストリーがブランドを買収し、現在へ続く新しいインディアンが誕生。その新生インディアン最初のモデルとして開発し2013年に発売したのも、やはりチーフであった。エンジンはサンダーストローク111。新型チーフが搭載するサンダーストローク116のベースエンジンであり、シリンダーヘッドカバーとシリンダーのフィンが異なる方向を向くマルチダイレクションフィンや、シリンダーと平行に並ぶプッシュロッドカバー、それにシリンダーヘッドから下に向かうエキゾーストパイプのパワートレインをはじめ前後ホイールをディープフェンダーで覆い、美しいボディラインを纏うなど、今から100年前に造られた初代チーフのディテールを継承している。
インディアンにとってチーフとは、スカウトと並び100年以上前から続く看板モデルだ。大排気量エンジンを搭載するフラッグシップのチーフに対して、軽量でコンパクト、そして先進的なスポーツモデルとしてのスカウトというキャラクターは、いまもしっかりと受け継がれている。インディアンが現在ラインナップするスカウトシリーズの各モデルが、挟角60度のDOHC水冷V型2気筒エンジンやアルミフレームという近代的なディテールを採用している理由も、そこにある。
だからこそ新型チーフは、スカウトとは異なるアプローチで、インディアンの歴史とバイク作りのフィロソフィーを踏襲しながら紡ぎ出した意欲作だと言える。
この新型チーフのデザインをまとめ上げ、同時にコンセプトやパフォーマンスの開発にも大きく関与したのが、2018年にインディアンのデザイン部門の責任者に就任したオラ・ステネガルド氏。そう、かつてBMWモトラッドに在籍し、R nineTの開発に携わると同時に、世界中でカスタムプロジェクトを推し進め、BMWモトラッドのイメージを大きく変えた人物だ。
「シンプルさこそが、新型チーフ開発のプライオリティだった。だからエンジンも車体も、可能なかぎりシンプルにしたかった。幸運にもバージョンアップしたばかりのサンダーストローク116エンジンは、わずかな変更で厳しいユーロ5をクリアできた。クラシックインディアンの外観的特徴も継承しているし、なによりも美しくてパワフルだった。このエンジンを、新型チーフに使わない理由が見つからなかった」
ステネガルド氏は、リモートインタビューでエンジン選択の理由をそう語った。しかしながら、シンプルさを追求するのは想像以上に難しかったとも語る。
「シンプルな車体を作り上げるうえでもっとも重要なのがフレームだ。エンジンを最適な場所に置き、その強烈なパワーを受け止め、最適な場所に最適な角度で足まわりや外装類を装着するためには、フレームがすべての起点になる。なにより美しくなくてはならない。シンプルな車体ではフレームそのものが外装部品となるからだ。そのためにスチール鋼管とそれを繋ぎ合わせる鍛造および鋳造パーツで、美しいフレームを構成した。いわゆる古典的な素材と手法でフレームを製作しようとしたが、高効率を追求して進化した現在の製造現場では、そのような古い手法を再現することは、想像以上に難しい作業だった」
そして冒頭で紹介したように、新型チーフは、サンダーストローク116エンジンとフレームなどの基本コンポーネンツに加え、燃料タンクなど一部外装パーツを共通としながら、チーフダークホース/チーフボバーダークホース/スーパーチーフリミテッドの異なる3つのキャラクターを構築している。そのスタイルの鍵となるのは、各年代のトレンドだ。
まずチーフダークホースは、フロント19インチ/リア16インチの前後キャストホイールに、低いハンドルとミッドマウントのペグ、それらによってスポーティーなイメージを作り上げた’80年代のスタイル。続いてチーフボバーダークホースは、高いハンドルにフォワードペグ、前後16インチホイールのボバーホイールを履いた’60年代のスタイル。そしてスーパーチーフリミテッドは、前後16インチホイールにフットボード、大型スクリーンにサドルバッグを装着した’40〜’50年代のスタイルだ。これらのスタイルこそが、その時代を生きたチーフなのだとステネガルド氏は言う。
「メーカー側ではなく、ユーザー側に視点を置いてインディアンの歴史を紐解くと、数え切れないほどのカスタムバイクが登場する。当時のインディアンのオーナーたちはフェンダーをカットし、マシンをシンプルにカスタムし、速さとスタイルを競った。そして彼らはインディアンを愛し、徹底的に乗り込み、バイク乗りとして成熟していったのだ。それは紛れもなくインディアンの歴史の一部だ。今回の新型チーフで我々が試みたのは、そんな成熟したバイク乗りとともに生きたチーフであり、そのパフォーマンスとスタイルだ。新型チーフを走らせれば、各年代のトレンドと、バイクを走らせる本質的な楽しさをすぐに理解できるだろう」
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- 2021/06/22
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