
目覚ましい発展を見せる電子制御技術。自動クラッチ/電子制御スロットル/ACC/ABS/トラクションコントロール…しかし「いや俺のテクが上だろ」と思うライダーも少なくないのでは?今回はABS/トラクションコントロールについて解説しよう。
●文:宮田健一
いまや攻めにも安全にも効く!
かつてはABS(アンチロックブレーキシステム)といえば「安全装備」、トラクションコントロールといえば「スポーツ装備」というイメージを持っただろう。もちろん概念的にはその通りだが、今やバイクのカテゴリーによって機能や方向性が細分化されているのだ。
まずABSだが歴史は古く、鉄道→飛行機→四輪車→バイクの順で装備。アンチロックブレーキシステムの名の通り、ブレーキをかけた際にタイヤのロックを防ぐための機能だが、自動車の場合はロックして滑ることでハンドル操作が効かなくなるのを回避するのが主な目的。対してバイクは、とくに前輪のロックは即転倒に繋がるので、転倒防止のための機能となる。そのため国内では現在販売される排気量125cc以上のバイクにABSの装備が義務付けられている。
しかしABSは制動距離を縮めるための装備ではない。これはバイクメーカーの公式サイトなどにも注釈として記載されている。そのためスキルの高いライダーなら、ABS非装備車で上手くブレーキ操作した方が短距離で止まれる、というコトでスポーツ度の高いモデルではABS仕様車が好まれない時期もあった。
プロテクを再現する最新ABS
しかし2010年頃から、スポーツ車におけるABSの様相が大きく変わり始めた。従来型のABSがエンジンと前後タイヤの回転差でロックを検知して防ぐ機能なのに対し、スーパースポーツ車が装備するレースABSやコーナリングABSと呼ばれるタイプは、IMU(慣性計測装置)で車体の姿勢をリアルタイムで検出しながら、電子制御によって最適な液圧と前後ブレーキの配分を調整している。
これはパニックブレーキでタイヤロックを抑制する既存のABSとは全く思想も目的も異なり、コーナリング中のフルバンクの状態でもブレーキによって車体の姿勢を制御して、いかに”高効率で曲がるか”を追及した装備になっている。
ちなみにドゥカティのパニガーレV4/S(’25年モデル)が装備する「レースeCBS」は、サーキット走行などでコーナーに進入し、フロントブレーキを離した後に(リヤブレーキペダルを踏んでいなくても)わずかにリヤブレーキを残して車体を安定させるなど、プロライダーが狙い通りのラインを走るために使うテクニックを再現できるという。こうなると、スキルの高いライダーにこそ有効なスポーツ装備といえるだろう。
ジャンルで変わるトラクションコントロールの役目
次にトラクションコントロール。こちらも市販スポーツ車に装備が始まった当初(’00年代後半頃)は、前後タイヤの回転差で後輪の空転を検知して、プラグの点火や燃料噴射を間引いていた。そのため後輪のスピンは抑制されるが、当然ながらトルクやパワーが落ちるので、プロ級スキルのライダーには”立ち上がりが遅い”と不評なモデルもあった。
しかしIMUによって車体の姿勢を検出しつつ、電子制御スロットルで緻密なトルク制御を行うシステムに進化し、トラクションコントロール介入の度合いも細かく調整できるようになり、単純に前進方向だけでなくサイドスライドもコントロール。もはや200馬力を超えるリッターSSを、効率的に速く走らせる必須装備になっている。
またツアラー系やアドベンチャー系では、雨天時や砂が浮いた路面など、滑りやすい路面で車体の安定性を高め、無用な挙動を抑えるためにトラクションコントロールを活用。これらのカテゴリーでは、トラクションコントロールは安全性を高める装備として進化している。
というワケでABSやトラクションコントロールは、今後はいっそう個々のバイクの”特性を伸ばす装備”として進化すると予想できる。
【BMW R 1300 GS Adventure】BMWやドゥカティなど欧州メーカーは、新種の電子デバイスを最初にアドベンチャーモデルに装備して、環境が大きく変わる状況で有効性を試す。それからSS系に技術を移管し、オンロードでのスポーツ性に特化したデバイスに仕上げるパターンが多い。こうしてギミックではない”使えるデバイス”を開発していく。
便利テクノロジー:スマホ連携機能
電子制御とは関係ないが、ぜひオススメしたいのがホンダRoadSyncなどのスマホ連携機能だ。メーターにスマホのナビ画面を映せるモデルもあるし、最近は「スマートモニター」も人気。しかし高いコストをかけずとも”スマホホルダーに直付けで良いじゃん”という声もある。とはいえ、雨で濡れたり振動によるトラブル、また万一転倒した際にスマホが飛んで破損したら助けを呼ぶこともできない…。そのあたりを考えると、連携機能も有用だ!
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
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