排気量拡大で王座を維持:カワサキMACH III / IV【1969~1975】各部解説

排気量拡大で王座を維持:カワサキMACH III / IV【1969~1975】各部解説

ニッポンがもっとも熱かった“昭和”という時代。奇跡の復興を遂げつつある国で陣頭指揮を取っていたのは「命がけ」という言葉の意味をリアルに知る男たちだった。彼らの新たな戦いはやがて、日本を世界一の産業国へと導いていく。その熱き魂が生み出した名機たちに、いま一度触れてみよう。


●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●取材協力:ZEPPAN UEMATSU

ENGINE:世界最速を目指してたどり着いた型式

ヤマハやスズキのような“専業メーカー”ではなかったけれど、’54年から2輪事業への参入を開始したカワサキは、基本的に2ストロークを得意とするメーカーだった。もっとも、後にZ1/Z2が搭載する4スト4気筒の開発は’67年から始まっていたのだが、初めて世界最速を狙う車両のエンジンとして、同社が2ストを選んだのは、言ってみれば自然な流れだったのだ。

【KAWASAKI 500-SS MACH III】

【KAWASAKI 750-SS MACH IV】

開発初期に掲げられた目標は、最高速200km/h、ゼロヨン13秒以下で、これを実現するには、60ps前後の最高出力、500ccの排気量が必要とカワサキは判断。

吸入方式と気筒配置は、既存のA1/A7の技術を転用したロータリーディスクバルブ式並列2気筒も候補に上がったが、吸排気効率や耐久性などを考慮した結果、過去の量産車に前例がない、ピストンバルブ式並列3気筒を選択。

ちなみに、中央気筒の発熱量に不安を抱えていた当初のカワサキは、風洞実験で並列2気筒と3気筒、さらにはV型3気筒の冷却性能比較を行っている。

【KAWASAKI 500-SS MACH III】

【2気筒では実現できない高回転高出力】500SSの60×58.5mmというボア×ストロークは、高回転化とピストンスピードの抑制、さらには左右幅の短縮を念頭に置いて決定。ただし、設計思想が微妙に異なる750SSは71×63mm。

クランクシャフトはウエブやピンを圧入で一体化する組み立て式。ここで得たノウハウや生産技術が、後のZ1/Z2も組み立てクランクを採用する背景となった。

【カワサキ初のナナハンは74psを発揮】左右幅に対する考え方が変わったのだろうか、750SSのボア×ストロークは思い切ったショートストローク。ミッションの一部は500SSと共通だが、ほとんどのパーツは専用設計だった。

【キャブレターは 2スト専用のミクニVM】キャブレターはミクニVM。型式はW1やZ用と同じだが、内部構造が異なる2スト専用品。口径は、500SS(左):φ28mm、750SS:φ30mmで、500SS用は現代的なインシュレーターを装備。

【良好な燃焼を実現するCDI点火】2ストの持病であるスパークプラグのカブリを避け、良好な燃焼を実現するため、’68年型A7で革新的なバッテリーCDI点火を導入したカワサキは、マッハシリーズにも同様の機構を採用(ただし欧州仕様はポイント式だった)。なお750SSの点火ユニットは、構造の簡素化を図ったマグネトーCDIで、500SSも‘73年型から同様の機構を導入。

FRAME & CHASSIS:あえて設定したジャジャ馬的な ハンドリング

フレームはオーソドックスなダブルクレードル式だが、パワーユニットの上に3本のパイプを配置したのは、カワサキでは500SSが初めて(既存のW1シリーズやA1/A7は2本だった)。

なお当初の500SSは、加速時に簡単に前輪が持ち上がるうえに、直進安定性がいまひとつだったため、ジャジャ馬、ウイドウメーカー(後家作り)などと呼ばれることがあったものの、このあたりは2ストトリプルの猛烈な加速感をアピールするため、ある程度は意図したキャラクターだったようだ。

ただし、最高出力が60→74psに向上した750SSでは、安定性の向上が急務となり、エンジン搭載位置やディメンションを一新。500SSも’72年型からは同様の見直しを受けている。

【KAWASAKI 500-SS MACH III】750SSと比べると、500SSのエンジン搭載位置はかなり後ろ。なお’71年型以前の500SSの前後重量配分は前75kg:後99kgだった。

【性能に見合わない旧態然とした構成】500‐SSはフロントのφ34mmフォークやφ200mmドラムで、パイプ式フェンダーステーは設計年度の古さを感じる部分。リヤショックのバネレートはかなり硬めの2.5kg/mmで、リヤドラムはφ180mm。

【KAWASAKI 750-SS MACH IV】キャスター角は500SSより1度少ない28度だが、750SSの操安性は安定性重視。軸間距離は500SSより35mm長い1435mm。

【カワサキ初のディスクブレーキ】φ36mmフォークと油圧式ディスクブレーキ(φ296mmディスク+片押し式1ピストン)は、後にW3やZ1/Z2が継承。リヤショックのバネレートは2.0kg/mmで、リヤドラムはφ200mm。

【ヘッドパイプ周辺は似て非なる構造】エンジン上部の左右に配置された2本のパイプが、緩やかなアールを描いてヘッドパイプと結合する500SS(左)に対して、750SS(右)はダウンチューブ内側を直線的に経由してヘッドパイプへ向かう。この部分に多くの補強材を溶接するのも750の特徴。

※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。