
ニッポンがもっとも熱かった“昭和”という時代。奇跡の復興を遂げつつある国で陣頭指揮を取っていたのは「命がけ」という言葉の意味をリアルに知る男たちだった。彼らの新たな戦いはやがて、日本を世界一の産業国へと導いていく。その熱き魂が生み出した名機たちに、いま一度触れてみよう。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:山内潤也/YM ARCHIVES ●取材協力:ZEPPAN UEMATSU
R90Sから受けた影響とXLCRとの意外な共通点
Z1‐Rに対するイメージを聞かれたら、多くの人が”カフェレーサー”と答えるだろう。ただしカフェレーサーは車両のオーナーやチューナーが作るもので、原点は’50~’60年代のイギリスで流行したカスタムと言われている(レーサー的な改造車のオーナーが各地のカフェに集まり、愛車自慢や公道レースを楽しんでいた)。
そして’60年代後半から、そういったムーブメントが世界中に広がり、’70年代に入ると車両メーカーが市場の動向を反映する形で、既存モデルのバージョンアップ版としてカフェレーサーを販売することになったのである。
’70年代に登場したメーカーメイドのカフェレーサーは、①高度なチューニングが施された市販レーサー的なモデルと、②レーサー的な雰囲気を取り入れつつも、ストリート重視のモデルの2種に大別できる。
そして黎明期のこの分野を牽引したのは、①に該当する’71~’72年型ノートンコマンド・プロダクションレーサーや’73~’74年型ドゥカティ750SS、②に分類できる’71~’73年型MVアグスタ750Sや’73~’75年型BMWR90Sといった欧州勢だった。
では’70年代中盤のカワサキが、Z1‐Rを開発するにあたって、どちらの道を選んだかと言うと…。それはもう、言わずもがなの②で、中でもR90Sからはかなりの影響を受けたようだ。
もちろん、丸みを帯びたシルエットのR90Sと角型基調のZ1‐Rではパッと見の印象は大きく異なるものの、ステアリングマウントのビキニカウル、シート下左右に設置されたボディと同色のカバー、ワイヤを介して作動するフロントブレーキマスターシリンダーなどは両車に共通する要素だった。
とはいえ当時のカフェレーサーの中で、もっともZ1‐Rに近い資質を備えていたのは、ハーレーが’77~’78年に販売したXLCRかもしれない。 既存のXLCHスポーツスターをベースにして、専用設計の外装と足まわり、ライディングポジション関連パーツが与えられたXLCRは、端的に言うならZ1‐Rと同様にハンドリングに問題を抱えていたのだ。
当時のカフェレーサーの世界では、各部にモディファイを加えた結果として、ある程度の乗りづらさは止むを得ない…と考えられていたのだけれど、ベースモデルとの落差、本来の資質が味わいにくくなったという面で、Z1‐RとXLCRは悪い意味で、群を抜く存在だったのである。
もっとも、Z1‐Rが1万5000台以上を販売する人気車になったのに対して、現役時代のXLCRは市場からほとんど受け入れられず、販売台数はわずか3400台に留まった。
とはいえ、XLCRの場合は台数の少なさが希少価値につながったようで、’80年代後半以降は人気が上昇し、昨今のE中古車市場ではZ1‐Rに勝るとも劣らない高価格で取引されている。
なお欧州勢を中心として始まったメーカーメイドのカフェレーサーブームに対して、’70年代に独自の見解を示したのはカワサキとハーレーだけではない。
ホンダCB400フォア/550フォアII/750フォアII、ヤマハGX500、スズキGS1000Sなども、カフェレーサーブームの影響を受けたモデルだったのである。ただしこれらはZ1‐RやXLCRほど大胆な改革を行わなかったため、ベースモデルとほぼ同様の資質を維持していた。
黎明期を牽引した代表モデル
【1971 MV AGUSTA 750S】初の公道用4気筒となった’66年型600GTでは、あえて実用車的な構成を選択したMVだが、’71年型750Sはルックスと乗り味の両面でイタリアンスポーツの魅力をアピール。
【1977 HARLEY-DAVIDSON XLCR1000】XLCH1000スポーツスターをベースとするXLCRは、ダートトラッカーXR750のイメージを注入したカフェレーサー。外装部品/排気系/足まわりに加えて、ほぼ一文字のハンドルバーとバックステップも専用設計。
2代目で行われたキメ細かな改善作業
今回の主役は初代だが、Z1‐Rを語るうえでは、’79~’80年に販売された2代目に触れないわけにはいかないだろう。なんと言っても、Z1000MkIIと同時開発された2代目は、初代の問題点を見事に解消していたのだから。
初代とは異なる2代目の特徴と言えば、容量を13Lから20Lに増やしたガソリンタンクと、外装と同様の角型になったシリンダーヘッドカバーが有名だが、18インチから19インチに変更されたフロントホイール、フォークオフセットを60mmから50mmに短縮したステアリングステム、歴代最小の85mmから101mmにまで増加したトレール、4‐1式集合から左右出しに改められたマフラー、操作力を軽減したセンタースタンドなど、実際の改良点は多岐に及んでいた。
そしてこれらの変更によって、2代目はカフェレーサーならではのスタイルを維持したまま、Zシリーズ本来の資質、万能車としての扱いやすさと良好な操安性を取り戻したのである。
そんなZ1‐RIIの販売が奮わなかった最大の理由は、’79~’80年のレギュラーモデルであるZ1000MkIIとの性能差がほとんどなかったから、と言われているけれど、’79/’80年からZシリーズの新たな派生機種として、ツアラー仕様のZ1000ST、気化器を燃料噴射としたZ1000Hが加わったことも伸び悩みの原因となった。
とはいえ、2代目Z1‐Rで行われた緻密な改善は、カワサキの良心と律義さが存分に感じられるものだったのだ。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
テールデザインでトラディショナルから新世代を意識させる! 1992年に発表後、実に30年間という史上まれにみるロングセラーだったCB400 SUPER FOUR。 その経緯にはいくつか節目となるモデル[…]
過渡期に生まれながらもマシン全体の完成度は抜群 ’59年にCB92を発売して以来、各時代の旗艦を含めたロードスポーツの多くに、ホンダはCBという車名を使用してきた。そして昨今では、ネイキッド:CB、カ[…]
レプリカに手を出していなかったカワサキがワークスマシンZXR-7から製品化! 1988年、秋のIFMAケルンショーでカワサキのZXR750がセンセーショナルなデビューを飾った。 なぜ衝撃的だったかとい[…]
RZ250の歴代モデル 1980 RZ250(4L3):白と黒の2色で登場 ’80年8月から日本での発売が始まった初代RZ250のカラーは、ニューヤマハブラックとニューパールホワイトの2色。発売前から[…]
250cc水冷90°V型2気筒でDOHC8バルブが、たった2年でいとも容易くパワーアップ! ホンダが1982年5月、V型エンジン・レボリューションのVF750Fに次ぐ第2弾としてVT250Fをリリース[…]
最新の関連記事(カワサキ [KAWASAKI])
機能美を実現したナップス限定ビレットパーツが登場 カワサキZ900RSは、最高出力111ps/8500rpmを発揮する水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ、948ccエンジンを搭載したネオクラシ[…]
レプリカに手を出していなかったカワサキがワークスマシンZXR-7から製品化! 1988年、秋のIFMAケルンショーでカワサキのZXR750がセンセーショナルなデビューを飾った。 なぜ衝撃的だったかとい[…]
粘り強い100mmボアビッグシングルと23Lタンク KLR650の心臓部は、水冷4ストロークDOHC4バルブ単気筒エンジンだ。排気量は652ccで、ボア径はなんと100mmにも達する超ビッグシングルと[…]
昔ながらの構成で爆発的な人気を獲得 ゼファーはレーサーレプリカ時代に終止符を打ち、以後のネイキッドの基盤を構築したモデルで、近年のネオクラシックブームの原点と言えなくもない存在。改めて振り返ると、’8[…]
勝つための合理性と最新テクノロジーが辿り着いたパラレルツイン! レーシングマシンは勝つためを最優先に開発される。だから優位なテクノロジーなら躊躇せず採用する斬新で個性の集合体のように思われがち。 とこ[…]
人気記事ランキング(全体)
250cc水冷90°V型2気筒でDOHC8バルブが、たった2年でいとも容易くパワーアップ! ホンダが1982年5月、V型エンジン・レボリューションのVF750Fに次ぐ第2弾としてVT250Fをリリース[…]
インカムが使えない状況は突然やって来る!ハンドサインは現代でも有効 走行中は基本的に1人きりになるバイク。たとえ複数人でのマスツーリングだとしても、運転中は他のライダーと会話ができないため、何か伝えた[…]
悪質な交通違反の一つ、「無免許運転」 今回は無免許運転をして捕まってしまったときに、軽微な違反とはどのような違いがあるのか紹介していきます。 ■違反内容により異なる処理無免許運転の人が違反で捕まった場[…]
6/30:スズキの謎ティーザー、正体判明! スズキが公開した謎のティーザー、その正体が遂に判明したことを報じたのは6月30日のこと。ビリヤードの8番玉を写した予告画像は、やはりヤングマシンが以前からス[…]
RZ250の歴代モデル 1980 RZ250(4L3):白と黒の2色で登場 ’80年8月から日本での発売が始まった初代RZ250のカラーは、ニューヤマハブラックとニューパールホワイトの2色。発売前から[…]
最新の投稿記事(全体)
機能美を実現したナップス限定ビレットパーツが登場 カワサキZ900RSは、最高出力111ps/8500rpmを発揮する水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ、948ccエンジンを搭載したネオクラシ[…]
バッテリーで発熱する「着るコタツ」で冬を快適に ワークマンの「ヒーターウエア」シリーズは、ウエア内に電熱ヒーターを内蔵した防寒アイテム。スイッチひとつで温まることから「着るコタツ」として人気が拡大し、[…]
知られざる黎明期の物語 最初の完成車は1903年に誕生した。シングルループのフレームに搭載する409cc単気筒エンジンは、ペダルを漕いで勢いをつけてから始動させる。出力3psを発揮し、トランスミッショ[…]
充実してきた普通二輪クラスの輸入モデル この記事で取り上げるのは、日本に本格上陸を果たす注目の輸入ネオクラシックモデルばかりだ。それが、中国のVツインクルーザー「ベンダ ナポレオンボブ250」、英国老[…]
テールデザインでトラディショナルから新世代を意識させる! 1992年に発表後、実に30年間という史上まれにみるロングセラーだったCB400 SUPER FOUR。 その経緯にはいくつか節目となるモデル[…]
- 1
- 2











































