
2025年8月1日(金)~3日(日)に開催された「2025 FIM 世界耐久選手権“コカ・コーラ”鈴鹿8時間耐久ロードレース 第46回大会」は、決勝をノートラブルで走り切ったホンダとヤマハのファクトリーチームが底力を見せつけた。
●文:ヨ(ヤングマシン編集部) ●写真佐藤寿宏、箱崎太輔 ●外部リンク:FIM EWC
急きょ2人体制になってしまったHonda HRC
2025年の鈴鹿8耐は事前から話題が豊富だった。
ヤマハは創立70周年を記念してスペシャルカラーのYZF-R1投入と6年ぶりのファクトリー体制の復活を宣言。チーム名は「YAMAHA RACING TEAM」だ。
2024年にカーボンニュートラルへの新たなチャレンジとしてレースに復帰したスズキは今年も「TEAM SUZUKI CN CHALLENGE」の継続を発表し、全日本ロードレースへのスポット参戦で順調な車両開発をアピールしていた。
ホンダはファクトリーチーム名をTeam HRCから「Honda HRC」へ変更するとともに4連覇を目指す。これにて国内3メーカーのファクトリー参戦(スズキについては後述)となり、さらに世界耐久選手権(EWC)のレギュラー参戦組として年間タイトル2連覇を狙う「Yoshimura SERT Motul」、3度の鈴鹿8耐の優勝経験と2度のEWCタイトル獲得経験を持つ名門「F.C.C. TSR Honda France」、初タイトルを目指すBMWのファクトリーチーム「BMW MOTORRAD WORLD ENDURANCE TEAM」もグリッドに並ぶ。
ライダー布陣もMotoGPやMoto2、スーパーバイク世界選手権からの参戦組が近年になく多く、レース開催前から盛り上がりを見せていた。
が、ここでHonda HRCを異変が襲う。7度目の8耐制覇を伺う高橋巧選手、現役MotoGPライダーで昨年の優勝に尽力したヨハン・ザルコ選手に続くはずの第3ライダーが直前になって参戦できないことが判明し、近年の暑さやハイペースなレースで厳しさを増す環境からあまり見られなくなった2人体制で走ることになったというのだ。
現役MotoGPライダーとして昨年に続く参戦となった#30 Honda HRCのヨハン・ザルコ選手。
第3ライダー候補だったイケル・レコー選手ナが7月26日にスーパーバイク世界選手権で負傷し、急きょ来日したチャビ・ビエルゲ選手は7月30日のテスト走行には参加したものの翌31日に書類手続き上の問題(ビザ関連といわれる)から出場不可に。
こうして、Honda HRCは速いことは間違いないだろうが体力がもつのか? 復活のヤマハファクトリー相手に抑え込むことができるのか? という混沌とした状況になったわけだ。
0.05秒差でトップ10トライアルを逃したスズキCNチャレンジ
8月1日(金)に行われた2回の公式予選では、各チームそれぞれ全てのライダーがタイムアタックをし、上位2名のベストタイムを平均したもので順位が争われる。ここで上位10傑に入ると土曜日のトップ10トライアルに出場することができ、そこで暫定となっている10チームから各2人を選出。渾身のタイムアタックを行い、ここでのベストラップが最終予選順位に反映される。
ここでトップ10トライアル進出を逃したのがチームスズキCNチャレンジった。10位との差は0.049秒。Moto3チャンピオンで現Moto2ライダーのアルベルト・アレナス選手を迎え、戦闘力を増した2025年だったがわずかに及ばなかった。ただ、これにより土曜日の走行がフリープラクティスのみとなったため、決勝の準備に時間を充てられるという思いがけないメリットもあったようだ。
予選を走る#0 TEAM SUZUKI CN CHALLENGE(写真はエティエンヌ・マッソン選手)。
トップ10トライアルでは各ライダーが会場を沸かせていくなか、「AutoRace Ube Racing Team(BMW)」の浦本修充選手が2分5秒001でファクトリー仕様M1000RRのポテンシャルを見せるが、これをYAMAHA RACING TEAMのアンドレア・ロカテッリ選手が2分4秒316の驚速タイムで突き放す。それでも最後にMotoGPライダーの凄みを見せつけたのはHonda HRCのザルコ選手だった。ヤマハをわずかに上回る2分4秒290を記録し、予選トップをもぎ取った。
一騎打ちになったホンダvsヤマハ、だが差は縮まらず
例年以上の猛暑のなかスタートした決勝は、2人体制という不利な状況を跳ね返したHonda HRCが横綱相撲を見せつけた。
スタートからトップで1コーナーに入っていく“ホールショット”を獲得したのはHonda HRCの高橋巧選手。その後SDG Team HARC-PRO. Hondaが一時はトップを走るものの、高橋巧選手は慌てず2番手で観察するように走り、開始30分過ぎにはバックマーカー(周回遅れ)の処理で巧さを見せて再びトップに。ここからはピットインで見かけ上の首位を譲ることはあっても、ヨハン・ザルコ選手とともに実質的なトップ走行を最後まで守り切ったのだった。
ホールショットを奪った#30 Honda HRCの高橋巧選手に対し、Moto2ライダーらしく序盤は積極的に先行する姿勢を見せた#73 SDG Team HARC-PRO. Hondaの國井勇輝選手。
これに続いたのがYAMAHA RACING TEAMだったが、レース前に怪我を負っていた中須賀克行選手のペースが上がらず、アンドレア・ロカテッリ選手とジャック・ミラー選手は速さを見せるもののホンダの安定感にはやや及ばない。
他車との接触によってか、レース序盤から左ウイングレットが失われた姿で走り切った#21 YAMAHA RACING TEAM(写真はジャック・ミラー選手)。
ドラマがあったのは開始6時間を過ぎた頃。ヘアピンで激しい転倒が発生し、セーフティーカーが導入。これでトップのホンダと2位のヤマハの差が縮まった。6時間20分を過ぎてレースが再開され、Honda HRCは176周目に2分06秒670を記録、バックマーカーを上手くかわし、YAMAHA RACING TEAMとの差は再び広がっていく。
1回目のセーフティカー導入。
ところが7時間10分が経過した頃、またも転倒により2度目のセーフティカーが導入。ホンダはこのタイミングでピットインし、コース上のトップはヤマハに入れ替わる。これで俄然面白くなったかに見えたが、ヤマハはホンダよりも1回多いピットインをしなければ8時間を走り切れないことがわかっていた。
残り35分ほどでヤマハがピットインし、これでトップのホンダに何事もなければ勝負ありという空気が満たされていく。
実際のところ、2度目のセーフティカー導入は体力の限界に近づいていたホンダのザルコ選手が「身体を少し休めるチャンスになった」とレース後に語ったように、Honda HRCの横綱相撲を脅かす出来事にはならなかったようだ。
静かな緊張感のなか、ジリジリと差がコントロールされる、そんな鈴鹿8耐らしいトップ争いを制したホンダが4連覇を達成、ブリヂストンタイヤ装着車は18連覇&12回目の表彰台独占となった。
ドラマを演出したのはヨシムラとスズキCNチャレンジ
昨年に続き3位表彰台を獲得したYoshimura SERT Motul(スズキ)は、スタートから1時間経過後のライダー交代直後、第2スティントで痛恨の転倒を喫した。それまで4番手あたりを走行していたが、ダン・リンフット選手の転倒は幸いにもマシンに大きなダメージを与えることはなく、40秒ほどのタイムロスにより12番手でコースに復帰した。
EWC連覇がかかるヨシムラの転倒に鈴鹿サーキットの観客からは悲鳴も上がるが、凄かったのはここからだ。
戦列に復帰したあとマシン修復のためのピットインはなく、そのまま走り続けた。3時間経過時には7番手まで上がり、1回目のセーフティカー導入時には4番手まで回復。さらに3番手走行中のSDG Team HARC-PRO. Hondaを追い上げる。
2度目のセーフティカーが入り、ここでピットインのタイミングもあって解除後に3番手へ浮上。そのまま3位表彰台を獲得した。転倒からの表彰台獲得は、挽回のための時間がたっぷりある24時間耐久レースなどではそう珍しいものでもないというが、“8時間のスプリントレース”とも呼ばれる鈴鹿8耐では異例だろう。これによりヨシムラは、最終戦ボルドール24時間にEWCチャンピオンシップ獲得の可能性を残すことになった。
諦めない姿勢とマシンのダメージが小さいかった幸運もあり、表彰台を獲得した#1 Yoshimura SERT Motul(写真はダン・リンフット選手)。
もう一方のスズキトップチーム、スズキCNチャレンジは、序盤から堅実な走りで10番手前後を走行。周囲の転倒や暑さによるペースダウンもあって、3時間を過ぎたあたりでは4番手まで浮上していた。
ところが好事魔多し。昨年の決勝8位以上の成績を目指してレースを展開するなか、「もしかして表彰台……」と期待させた開始4時間頃、アルベルト・アレナス選手の2回目のスティントの2周目、逆バンク手前の左コーナーで痛恨の転倒を喫してしまう。ライダーは無事だったがマシンはピットに自力で戻れないほど大きく損傷し、修復に1時間近くを要した。
それまでスズキCNチャレンジは不屈の闘志で完走し、最終順位は33位。転倒したアレナス選手も「なんというプロフェッショナリズム、諦めない精神。一生忘れられない経験になった」と振り返る。
社内公募スタッフからなるチームスズキCNチャレンジは、本社運営チームということで“ワークスチーム”と見られることになるが、綺麗に修復されたGSX-R1000Rやチームスタッフの動きはそれに恥じないものだったと言えるだろう。
ピットワークもスムーズだった#0 TEAM SUZUKI CN CHALLENGE。
新たな可能性を見せた外国車勢
5位で完走したBMW MOTORRAD WORLD ENDURANCE TEAMは常に好位置につけ、6時間経過時の7位からラスト1時間で5位へと上がり、そのままゴール。転倒リタイアを喫したYART(ヤマハ)に年間総合順位で1ポイント差の2位へと詰め寄っている。
昨年までのスズキからBMWにスイッチした「AutoRace Ube Racing Team」は、エースライダーの浦本修充選手がトップチームとそん色ないラップタイムをたびたび叩き出す活躍を見せた。3名のライダーのタイムが揃わなかったことや、トップチームに比べると燃費でやや不利だったことから6位フィニッシュとなったが、同チームが2023年に記録した初参戦4位という記録を超える日も予感させる走りだった。
BMW・M1000RRはこのほかにも11位、12位、16位、17位に入るなど勢力を拡大中だ。
“黒船来襲”として2024年に決勝4位、今年は外国車として初めての表彰台を狙った「SDG-DUCATI Team KAGAYAMA(ドゥカティ)」は、全日本ロードレース第2戦SUGOでのマシン全焼から甦り、予選8位を獲得。しかし決勝では他車との衝突から転倒、マシン修復に時間を費やすことになり、29位完走。エースの水野涼選手も怪我を抱えるなか、来年への可能性を感じさせた。
このほか、EWCの年間ランキングでトップから5ポイント差の3位につける「Kawasaki Webike Trickstar」が8位フィニッシュ。「F.C.C. TSR Honda France」はエンジントラブルから開始1時間10分での無念のリタイアとなっている。
5位につけた#37 BMW MOTORRAD WORLD ENDURANCEは最終戦での年間タイトル獲得をうかがう。
#76 AutoRace Ube Racing Teamは堂々の6位フィニッシュ。
2年目の#3 SDG-DUCATI Team KAGAYAMAはほろ苦い結果に……。
昨年の鈴鹿8耐優勝、今年のフランスGP優勝でホンダのエースライダーと言っていい人気者になったヨハン・ザルコ選手。表彰台中央でのバックフリップは優勝したときの風物詩だ。
今年もバックフリップ!
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