数で勝負する小排気量向けとハイエンドのレース用、両方とも追求する

年間1000万台に採用される部品も?! ケーヒン、ショーワ、ニッシンなどを擁するAstemoの本領は『アジアの足を支える』こと

年間1000万台に採用される部品も?! ケーヒン、ショーワ、ニッシンなどを擁するAstemoの本領は『アジアの足を支える』こと

2025年5月末に、Astemoによるメディア向け技術発表・試乗会が開催された。次世代の電子制御サスペンションと次世代ADASについてはすでに記事をお届けしたので、今回は“アステモって何?”という素朴な疑問についてなどを記事にしたい。


●文:ヤングマシン編集部(ヨ) ●写真:真弓悟史 ●外部リンク:Astemo

ケーヒン/ショーワ/ニッシン/日立を統合した“日立Astemo(アステモ)”が4月より“Astemo”へ

自動車業界で「100年に一度」と言われる変革期を迎えるなか、キャブレターや電子制御スロットル、電子部品で知られるKEIHIN(ケーヒン)、サスペンションのSHOWA(ショーワ)、ブレーキパーツのNISSIN(ニッシン)、そして電子部品などを擁する日立が経営統合し、“日立Astemo”になってから数年が経った。

2025年4月1日には社名をAstemo株式会社とし、さらなるシナジーを追求する。

5月末にはAstemoによるメディア向け技術発表・試乗会が開催され、次世代の電子制御サスペンションに試乗、また次世代ADASについてはシミュレーションを体験することができた。

今回は、同日に行われた囲みインタビューをベースに、4つのブランドによる相乗効果を読み解いていきたいが、まずは技術発表されたものについてざっくりお伝えしよう。

ブレーキのニッシンとサスペンションのショーワによる相乗効果

ハーモナイズドファンクションデザイン(機能協調設計)として見せてくれたのは、フロントフォークのボトムにあるアクスルホルダーと一体感のあるデザインとされたブレーキキャリパー。同じ社内にNISSINとSHOWAがあることで互いの領域をオーバーラップすることができたというものだ。

面白いのはボルト1本で取り付けられているところで、これで剛性的に問題はないのだとか。また、アクスルホルダーとキャリパーの接触面積を30%増加させたことで、ブレーキの発した熱をフロントフォーク側へ放熱させるヒートシンク効果が拡大し、キャリパーの平均温度が5℃下がったという。バネ下重量は左右合計で200gの軽量化を果たした。

キャリパーはモノブロック構造。放熱フィンが独特の印象を与える。取り外すとボルト1本で支えられていることがわかる。

加工穴を隠すために後からフィンを装着している部分も。ブリッジ部分はかなり有機的な造形だ。

小排気量バイクにトラコン/クルコンを実装可能にする電子制御スロットル

EICMA2024にも展示されたもので、200cc以下の小排気量バイクにトラクションコントロール/クルーズコントロールといった商品価値を提供する電子制御スロットル「MINI-ETB」。小型モーターを採用することで本体の小型化とコストダウンを図っている。

また、実走行燃費も改善。これは「これ以上スロットルを開けても意味がない」という領域でスロットル開度を調整することにより、パワー感を損なうことなく燃費を低減できるという。スロットルをON/OFFスイッチのように使いがちな小排気量ゆえにかなり有効なのではと思えた。

キャブレターと大差ないのではという大きさ。

年間1000万台に搭載される小型バイク用スロットルボディ

インドで年間200万台が生産されるホンダのスクーター「アクティバ」などに搭載されると思われる小型スロットルボディを展示。このスロットルボディが年間1000万台に採用されるというから驚きだ。この規模感により、1個あたり1円のコスト削減でも大きな効果になる。

OEM先の需要に合わせて別体タイプとビルトインタイプを用意。内部構造はほぼ同じ。

エタノール混合燃料に対応する燃料フィルターやインジェクター

水分を取り込むエタノールならではの防錆対策を施したインジェクター、不純物への対策として通過面積を拡大した燃料フィルターなど。

ブラジル向けではすでに長い実績があるが、新たな開発品も。インドでもエタノール混合燃料が普及する流れ。

量産キャリパー各種

NISSINブランドのキャリパーを展示。次期モトクロッサー向けという開発中のキャリパーも。剛性アップと軽量化を追求しているという。このほか廉価なABSユニットなども展示された。

モノブロック対向4ポットキャリパーの製造過程品も展示された。反対側まで一気に穴をあけ、摩擦溶接のような形でフタを接合する。

Astemo インタビューまとめ:統合が生み出す新たな価値とグローバル戦略

Astemoのメーカー担当者に、二輪技術の未来、特に同社の統合によるシナジーとグローバル戦略について話を伺った。

インタビューに応じてくれた面々。左から、鈴木克昌さん、佐々木朋春さん、櫻井辰佳さん。

──Astemoは、かつて個別に事業を展開していた複数の大手企業(旧日立系、ケーヒン、ショーワ、ニッシン)が統合して誕生しました。

「この統合は、自動車業界で『100年に一度』と言われる変革期に対応するため、規模の追求を目的としたものです。しかし、統合から約4~5年が経過し、メリットは単なる規模の拡大に留まらないものになっています。特に二輪の領域では、ただ同業者が集まっただけでなく、異なる歴史や知見、ノウハウを持った人たちが集まり、オールジャパンを謳う形にできたのが点が強みです。これによって単なる部品屋ではないシステムを提供し、「二輪車全体を見渡した統合協調」を目指せる会社になりました」

──統合の具体的な成果として挙げるとすれば?

「今回展示した車両に搭載した先進運転支援システム(ADAS)が象徴的です。旧日立系のカメラ認識技術、ケーヒンのエンジン制御、ショーワのサスペンション、ニッシンのブレーキ技術が一体となることで、単独の企業では決して達成できなかった車両全体の統合制御が実現しました。この統合により、ADASチームはカメラ開発だけでなく、『車両の挙動まで考えてやれる』ようになったんです」

──ブランド戦略と製品展開はどのように?

「従来の個別ブランドと新しいAstemoブランドの併用を基本としています。旧各社の延長線上にある技術や製品には、これまで通り旧社製品ブランドを使用する一方で、複数の会社が一緒になることで生まれた『新たな価値』をお客様に提供できるようになった製品には『Astemoブランド』を冠していく方針です」

──海外のサプライヤーのように、ソフトウェアからハードウェアまでパッケージ販売するなどの戦略は?

「日本のOEMは独自にカスタマイズを求める傾向が強いため、柔軟な個別販売にも対応できる体制を維持することが重要だと考えています。個別売りを捨てたら多分我々は生きていけなくなっちゃうんで(笑)、そこはやります。できればセットにしたいという思いももちろんありますが……」

──Astemoの強みとは?

「大きな強みのひとつは、アジアのマスマーケットにおける圧倒的なプレゼンスです。特にインドでは年間1000万台、ASEANでは300万~500万台という二輪市場の規模があり、Astemoは廉価なスロットルボディのような製品で、現地の需要に応えています。我々の使命のひとつは『アジアの人の生活の足を支える』ことで、ハイエンド技術だけでなく、そうした技術をコストダウンして幅広い層に提供する『裾野の広さ』がAstemoの強みだと思います」

──でも、ハイエンドのトップオブトップのところもやめない、そこでも負けないと。一方で、裾野の広いところ、グローバルもやってらっしゃいますね。ところで次世代の電子制御サスペンションですが……。

「電制サスペンションについても、Astemoは最上位機種・グレードだけでなく、より多くの車種に搭載されることを目指しています。コストの課題や『ワンパッケージでなければ付かない』といった現状を打破し、例えば中型車種のリヤサスペンションだけでも電制サスを導入できるようにする、そんなコンセプトが今回のEERA Gen2に盛り込まれています」

──今後もこうした情報発信の場を設けていただければ、我々メディアも新しい技術や戦略を知ることができて大変ありがたいです。今後も楽しみにしています!

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