最新チューニング技術を絶版名車にフル投入

「昭和レシプロ機が極上化!!」カワサキZ1・ヨシムラコンプリート試乗インプレッション

「昭和レシプロ機が極上化!!」カワサキZ1・ヨシムラコンプリート試乗インプレッション

半世紀も前のカワサキZ1が、ヨシムラの手で生まれ変わった!! 日本を代表するレーシングコンストラクターがコンプリートチューンを施したマシンは、オリジナル当時の持ち味に忠実でいながら、 そのポテンシャルを最大限に引き出しており、テスターも興奮を隠せない仕上がりを見せた。語り継ぐべき絶版旧車に対するチューニングの指針と言っていい。


●テスター:丸山浩 ●まとめ:宮田建一 ●写真:長谷川 徹 ●外部リンク:ヨシムラヘリテージパーツプロジェクト

当時を思わせながらも高次元のチューニング

【TESTER:丸山 浩】ご存知ヤングマシンのメインテスター。ヨシムラの技術力がフルに注がれた空冷4発の完成度にホレボレ。「この味、若い子にも経験してほしい!」

ヨシムラが手がけたカワサキZ1のコンプリート車は、日本のバイク遺産を今後も伝え残していくことを主眼とした、同社のヘリテージパーツプロジェクトの一環として作られたマシンだ。

核となるのは、やっぱりヨシムラチューニング技術の根幹となるエンジンだろう。本体内部は、正確にバランス取りやバリ取りが行われた上で、ボアアップやポート研磨されたシリンダーヘッド/ステージ1カムを組み込み、吸気にTMR-MJNキャブ、排気に新開発の機械曲ストレートチタンサイクロンを採用。とくに目を惹くこのマフラーは、ツヤ消し黒に塗られていて、一見すると昔ながらのスチール風4in1なのだが、じつはフルチタン製な上に中身は独自構造の4in2in1なのだから驚きだ。

そのエンジンはとにかくトルクフルでスムーズ。低回転から加速のつながりに途切れがなく、レッドゾーンの9200rpmまで淀みなくキレイに回ってくれる。しかも高回転まできっちり回るようにしながら、そこをメインに使うエンジンにはしておらず、あくまで公道で使うユーザーに合わせたフィーリングにしているところが心憎い。

何よりも感動したのは、ちゃんと昔ながらの音がするところだ。エンジンのゴリゴリした感じとアクセルを必要以上に開けた時のゴォーッという音は、本当にZ1が現役当時の頃のそのまんま。しかし、そこで詰まることなくガオーッと吠えながら、ちゃんと進んでいくのはさすがヨシムラならではのワザ。キャブなのにまるでスロットルバイワイヤーのFIが付いてるんじゃないかと錯覚を覚えるぐらい、パワーを正確に引き出すことができる。Z1の持ち味を損なうことなく完璧に仕上げたと言っていい。

ハンドリングは昔ながらの“リヤ乗り”スタイルがベストマッチ。半世紀前のバイクシーンがどうだったのかを乗り方でも再現してくれる。

ノーマルZ1をはるかに凌駕する軽やかさ

このエンジンに合うように、車体やハンドリングの造りもまた当時の雰囲気を高い次元で再構築していた。オフセットを減らしたフォークブラケットも効いていて、まずは寝かし込みが本当に軽い。コーナーの入り口にちょっと顔を向けただけでスッとマシンが寝ていき、ここまでは元のZ1をはるかに凌駕する。

ただし車体が寝て安定したところからは前輪の舵角があまり入らず、二次旋回でグイグイとは曲がってはいかないあの頃の雰囲気を再現。フロントタイヤのグリップ力が乏しかった当時のリヤ乗りスタイルがマッチする。

半世紀も前のZ1の持ち味を崩すことなく快調/完璧に仕上げていたこのマシン。どんどん進化する最新車両がある一方で、昔のバイクがどうだったかキチンと残していくのもとても大事なことだと思う。そこを名門ヨシムラがやってくれているというのはとても心強く感じたのだ。

快感の走りを満喫した後は、開発に携わったヨシムラスタッフと意見交換(右の3名。右からマフラー開発担当の吉田学さん/長谷部 済さん、そしてプロジェクトリーダーでエンジン/キャブ担当の杉田洋さん)。このZ1が素晴らしいのは、多くの社員たちが楽しみながら乗ってその方向性を決めていったからだと分かった。

ヨシムラZ1コンプリート・車両解説

【F19インチでノーマルルックを残す】ベースは1975年製のZ1B。カラーリングは1977〜78年にウエス・クーリーが乗り、AMAで活躍したヨシムラZ1レーサーをオマージュしている。メインフレームには補強を入れず、ホイール径もフロント19&リヤ18インチとオリジナル感を尊重したシルエットが印象的。タイヤはブリヂストンのスポーツツーリングタイヤ・T32で、フロントに110/80R19、リヤに140/70R18サイズを履く。

【これ以上ない極上エンジン】ノーマルの903ccから、ヴォスナー製Φ73mmピストンで1105cc化されたエンジンは、カワサキが再生産した純正シリンダーヘッドをベースにポート研磨を施したF-TuningヘッドType2(完売)/ST-L1カムシャフト/Tps付きTMR-MJN38キャブレターなどで武装し、約105psを発揮。オイルはモチュール300Vを使用する。

【黒いがチタン! 機械曲ストレートサイクロン】排気ポートから徐々にエキゾーストパイプ径が太くなるコニカルヘッダーや、ぱっと見は4-1に見える4-2-1集合方式など、凝った構造を満載するフルエキゾースト機械曲ストレートチタンサイクロン4-2-1(39万3800円)。2ピース分割構造でオイル交換などの整備性にも配慮する。ヨシムラEWCレーサーと同じ赤を採用したというエンブレムも新作だ。

【ハンドリング設定のキモ】アルミ削り出しのフォークブラケットKIT(25万3000円)はオフセット量をSTDの60→52.5mmへ減らしてトレールを増やし、バランスのいいハンドリングを狙う。“YOSHIMURA”ロゴのステムエンブレムは試作品だ。

【カバー類もヨシムラ製でキメ】エンジン右サイドのアルミエンジンカバーと左側のアルミオイルポンプカバー(ともに2万4200円)はともに砂型鋳造のアルミ製。ややブラウンがかった標準カラーと写真のシルバーカラーの2色を展開する。

【パワフィル対応の新作カバー】カーボンサイドカバー(左右各2万1780円)はZ1純正品のイメージを踏襲しつつ、加工なしにパワーフィルターが装着できる形状とされる。UVカットクリア塗装済み。

【ハンドルまわりはモダンパーツ】油温や電圧などを表示するPRO-GRESS2 マルチテンプメーター(1万4520円)、ハンドルバーエンドHigh Line(1万7600円)などはモダンなヨシムラパーツでまとめる。メーターはモトガジェット製で、ハンドルにはカーボン製のテーパータイプを採用。

【ブレーキも強力】フロントフォークはSTD形状のPMC製で、スプリングとモチュール製フォークオイルでリセッティング。キャリパーはブレンボの4ポッドをダブルで装着し、ブレーキディスクはサンスターの320mm径を採用。フロントフォークのリフレクターカバーは試作品。

【渋めのリヤまわり】リヤサスは別体タンクレスのオーリンズS36。パイプ補強が入る鉄製スイングアームはPMC製だ。リヤキャリパーはブレンボ対向2ポッドで、ブレーキディスクはサンスターの250mm径。525サイズのチェーンにはRKの525XXWを採用する。

機械曲ストレートチタンサイクロンの装着には薄型のオイルフィルターカバーが別途必要。試乗車は手曲ストレートチタンサイクロン4-2-1”F-tuning”用の付属品を装着する。

燃料タンク上面には故ウエス・クーリーのサインと、その下に代表ゼッケンである#34をあしらって、その功績を後世に語り継いでいる。

シートはエムテック中京製。表皮はZ1純正のイメージとしつつ、前席のみアンコ抜きしたスポーティーなルックスを持つ。角が落とされ足着き性にも配慮。

ステップはベビーフェイス製。ヨシムラ製削り出しサイドスタンドストッパー(小写真。2万6180円)がマフラーとの干渉を防いでくれる。

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