
元MotoGPライダーの青木宣篤さんがお届けするマニアックなレース記事が上毛グランプリ新聞。1997年にGP500でルーキーイヤーながらランキング3位に入ったほか、プロトンKRやスズキでモトGPマシンの開発ライダーとして長年にわたって知見を蓄えてきたのがノブ青木こと青木宣篤さんだ。WEBヤングマシンで監修を務める「上毛GP新聞」。第27回は、ついに剛性を抜く方向にシフトチェンジしたヤマハと、それに応えたファビオ・クアルタラロについて。
●監修:青木宣篤 ●まとめ:高橋剛 ●写真:Ducati, Michelin, Red Bull, Yamaha
運を味方につけたザルコの勝利
天候に翻弄されまくったMotoGP第6戦フランスGP。ややこしいスタートになったのでざっくり説明しておくと、決勝スタート直前のウォームアップ走行がウエット路面になり、全員がピットイン。レインタイヤを装着したマシンに乗り換えている間に赤旗が掲示されて、いったんスタート開始は仕切り直しに。ウエットレース宣言が出された。
ところが2回目のスタート直前のサイティングラップで多くのライダーが「あれ? 意外と路面、乾いちゃってんじゃね?」と感じたようで、スリックタイヤ装着マシンに乗り換えるライダーが続出。レインタイヤ組は問題なくグリッドスタートできるが、スリックタイヤ乗り換え組がグリッドスタートをする場合は、レギュレーションによりダブルロングラップペナルティを食らうこととなった。
そしていざ決勝がスタートすると、路面はしっかりウエット……。レインタイヤ組が淡々とレースを進める一方で、スリックタイヤ乗り換え組はスタート直後にレインタイヤ乗り換えのためピットインを余儀なくされ、さらにグリッドスタートしたことによるダブルロングラップペナルティも科せられ……と、さんざんなことになってしまった。
さらにレース中に意外と路面が乾いた場面もあり、スリック→レイン→スリックとマシンを2度乗り換えたライダーも。そんな中、結果的には、レインタイヤのままデーンと構えていたホンダのヨハン・ザルコが優勝を果たした。
フランス人ライダーが母国GPで優勝するのは’54年のピエール・モネレ選手以来な71年ぶりなうえ、ドゥカティの連勝をホンダとタイ記録の22で止めるという、なんとも歴史的な快挙。終始レインタイヤのままだったザルコにとっては、我慢を強いられる場面も多かったと思うが、最後に笑った。
フランスGPで優勝したヨハン・ザルコ。さらにイギリスGPではドライ路面で2位につけた。
ザルコの自身2勝目は実にドラマチックなものとなったが、まぁしかし、こればかりは運としか言いようがない。母国GPだったザルコに地の利があったとも思えないのは、同じく母国GPだったファビオ・クアルタラロがリタイヤしてしまったことからも明らかだ。天候が不安定な時のレースは、ライダーにはどうしようもない部分が多すぎて、元ライダーとしてはなんとも複雑な心境になります……。
2位になったマルク・マルケスは、本来なら今回のような難コンディションの時ほどイキイキとして、ぶっちぎりで優勝してもおかしくないライダーだ。しかし相当に滑る状況だったのだろう。しっかりと路面に合わせたライディングで、ステディに走り切った。少しはオトナになったのかな……、どうかな……。
コーナー進入で震えている?!
というわけで、マニアックな上毛GP的にはヤマハのフレームに着目したい。ヤマハのフレーム、ペラッペラのペナッペナです。もうホント、驚くほどペナペナになっている。なぜそんなことが分かるのかというと、全開で寝かし込んでいくようなコーナーでの挙動を見れば、一目瞭然なのだ。ブルブルッと震えているのは、フレーム剛性をかなり落としている証拠だ。
フランスGPのファビオ・クアルタラロ。
コーナー進入時にブルブル震えるようなフレームなんて、今までの日本メーカーでは考えられないぐらいの剛性の低さだ。フレームの剛性は安全性を担保するもっとも重要なスペックだから、ヤマハの社内でも相当な議論が行われたはずだ。恐らく社内的なコンセンサスを得るために、車体設計の方はかなり苦労しただろうと思う。
というのは、日本メーカーは安全志向が強いのだ。いい意味では手堅くて安心だし、悪い意味では攻めが足りない。今回のヤマハのペナペナフレームは、かなりアグレッシブな設計だと思う。そういえば、昨年のシーズン終了直後のカタルニアテストで、ドゥカティのピット前でしげしげとデスモセディチを眺めているヤマハのスタッフがいたことを思い出す。たぶん車体関係の方だと思うのだが、デスモのフレームの同じ箇所に注目していて、ワタシと目が合うと「……薄いですよね〜」と口を揃えたものだ。
ワタシも、ヤマハ・スタッフの方も、デスモセディチのピボットまわりを見ていたのだが、かなり剛性が必要とされていた箇所にも関わらず、肉厚がとことん薄い。「ドゥカティがあんなに攻めた設計なら、ウチだって」と思った……のかどうかは定かではないが、刺激になったことは間違いないだろう。
「力が加わっても壊れないように頑丈にする」という日本流のモノ作りに対して、欧米では「力が加わった時に、しなりで力を逃がす」という考え方があるようだ。どちらがいい、悪いという話ではなく、国民性というか、安全に対する向き合い方というか、物事を見る角度に違いがあるように思う。
ヤマハは、ドゥカティからスタッフを引き抜いたり、ヨーロッパの開発拠点との連携を強化したり、2チーム体制に戻したりと、かなりアグレシッブにMotoGPに取り組んでいる。その攻めの姿勢がペナペナフレームに表れているように思う。ぶっちゃけ、トータルバランスではまだドゥカティに届いていないが、ここまで一気に持ってきたのは本当に素晴らしい。
2024年のヤマハYZR-M1。
2025年のヤマハYZR-M1。なかなか決定的なアングルの写真がないものの、複数掲載するので参考になるかと思う。
2025年のヤマハYZR-M1 その2。
2025年のヤマハYZR-M1 その3はイギリスGPにおけるサテライトチーム・プラマックヤマハのもの。こちらは前年モデルのフレームに近いように見える……? シートレールの付け根のあたりを見比べると分かりやすいはず。
現在におけるペラペラ代表のドゥカティ・デスモセディチGP25。
こちらはサテライトチーム・グレシーニレーシングのGP24だが、おおよそGP25と同じようなピボットまわりの形状に見える。
※その他のアングル写真は記事末へ
ファビオの予選アタックに驚愕
「素晴らしい」と言えば、ファビオ・クアルタラロの予選アタックは本当にしびれた。狙ってできるライディングじゃないし、狙って出せるタイムでもない。「よくやったな!」と思う。彼のライディングはフレームの恩恵だけではなく、エンジンのアップグレードも効いている。シーズン中に開発できる優遇措置(コンセッション)を有効に使っている証拠だし、コロナ禍でできた溝がだいぶ埋まってきたのかな、と感じる。
イギリスGPでは3戦連続ポールポジションを決めて見せた。
ちなみに「1コーナーの進入でブルブルしている」などと聞くと、「そんなの怖くて走れないんじゃないの?」とお思いかもしれない。普通の感覚で言えば、怖くて走れない可能性もある。だが、MotoGPライダーはそんなことを気にしていない。彼らの判断基準は極めてシンプル。「タイムが出るか、出ないか」、ただそれだけだ。
さらにちなみにブルブルにもいろんな種類がある。アプリリアはヘッドパイプまわりがプルプルしているし、ドゥカティは車体全体で力を受け止めている印象。KTMはフレームがしなり切ってしまって何も起きず(サスペンションが底突きしているような状態)、ホンダは相変わらずビターッとしている。
今後、MotoGPを観戦する時は、ぜひフレームのブルブルに注目していただきたい。ジトーッと眺めているうちに、見えてくるものがあるはずだ。たぶん。
その他のフレーム写真
ホンダはブロックのような造り……
……というのは冗談で、こちらはフランスGPで公開されたレゴ製のRCV213Vだ。
チームHRCのRCV213V。ヤマハに負けじとツインスパー後半部分が薄い。
LCRホンダのRC213V。ピボット部分の肉抜きはドゥカティに近いレベルだ。
スペインGPでのプラマックヤマハ・YZR-M1。ピボット部分はやや厚め。
同じ日に撮られたプラマックヤマハのYZR-M1だが、こちらはペラペラフレームを使っている。複数のフレームを投入しているのだろう。
ドゥカティ・デスモセディチGP25のフレームは真横から見ても華奢なのがわかる。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
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