![中古バイク購入前に読みたい! 完調がわかるホンダCBR600RR(2020) 公道試乗レビュー[自分だけのバイク選び&最新相場情報]](https://young-machine.com/main/wp-content/themes/the-thor/img/dummy.gif)
中古車を選ぶ際、なかなか悩ましいのが何を持って完調の状態といえるかわからないこと。そこで役立つのが、劣化や不具合のない新車当時の試乗レビューだ。自分が中古車を試乗して、それぞれの個体の状態を確かめる際の参考にしてみて。この記事では、国内メーカー製としては唯一になってしまった、公道向け600ccスーパースポーツ・ホンダCBR600RRの2020年モデルについて公道試乗の模様を紹介するぞ。7年ぶりのフルモデルチェンジをはたしており、電子制御を大幅に取り入れていた年式だ。 ※以下、2021年5月公開時の内容に基づく
●文:伊丹孝裕 ●写真:長谷川徹 ●外部リンク:ホンダ
ホンダCBR600RR(2020) 試乗レビュー
排気量も気筒数も関係ない、コイツがいい!
仕事柄、しばしば「スーパースポーツが欲しいんですけど、リッタークラスとミドルクラスのどっちがいいと思います?」と聞かれる。
予算の都合もあるので一概には言えないものの、事情が許すのならリッタークラスをすすめてきた。なぜなら、パワーはとんでもないものの、それを躾ける電子制御のレベルが極めて高かったからだ。
エンジンモードを筆頭に、トラクションコントロール、スライドコントロール、ウィリーコントロール、コーナリングABS…といった各種デバイスをフル装備。とくに近年は精度のきめ細やかさが飛躍的に進化したため、乗り手のミスをかなり許容してくれるようになった。
一方、ミドルクラスはやや特殊なカテゴリーに変異してきた。とくに600ccの国産4気筒モデルは、先鋭化の割に電子デバイスが簡易的で、結果的にシビアな操作を要求。若手レーシングライダーの育成マシンとしては悪くないが、ビギナーには薦めにくいモデルと言わざるを得ない。
もちろん、それはメーカーも承知している。そのため、たとえばカワサキは599ccの「Ninja ZX-6R」をレース専用とし、公道向けには636ccの別バージョンを用意。海外勢に目を向けると、MVアグスタは「F3」に675cc版と798cc版をラインナップしている。
それぞれ排気量の拡大によってピーキーさを解消し、扱いやすさを確保しているというわけだ。その意味で、ミドルクラスのスーパースポーツはけっこういびつな排気量帯と言っていい。
そんな状況下で2020年9月に登場したのが、ホンダの新型「CBR600RR」だ。エンジンを中心に大きく改良され、2016年モデル以来、久しぶりに国内へ投入された。
このモデルの開発目標は明確で、資料にもはっきり「レースで勝つためのポテンシャル」と記載してある。具体的には「アジアロードレース選手権の制覇」であり、もう少し噛み砕くと「これ以上、ヤマハやカワサキに負けてたまるか」である。
1980年代ならいざ知らず、今どきのライダーにしてみれば、「いや、そう言われましても…」な気分だろう。レーサーレプリカ全盛時代を過ごした僕(筆者:伊丹孝裕)でさえ、「意地の張りすぎにもほどがありませんか?」 と心配になったほどだ。
ウエットなどの状況でも安心して走ることができた。
ところが、である。そのフィーリングを知った今、「スーパースポーツの中でなにがおすすめですか?」と聞かれれば、このCBR600RRの名をいの一番に挙げている。これは「ミドルクラスの中なら」とか「国産に限れば」という条件付きではなく、排気量も気筒数も国も価格も関係なく、すべてのスーパースポーツをひっくるめた上での回答だ。
もちろんレースを前提した話でもなく(それにも応えてくれるが)、ごく普通のライダーが、ごく普通に使うことを想定してのこと。そうした場面でこれほど高い一体感を得られるスーパースポーツは少なく、最良の一台と言える
というわけで、ここからはストリートを走らせた時の印象を中心に述べていこう。
820mmのシート高は、このクラスでは特別高くも低くもない。グリップはシートの座面より5cm以上高いところに位置し、前傾姿勢は安楽な部類に属する。平均的な体格であれば、スーパースポーツ特有のプレッシャーは感じないで済むはずだ。
スリムなシート形状のおかげで、足つき性は良好だ。シートとハンドルの位置関係はコンパクトで、小柄なライダーが乗っても上体への負担は少ない一方、シート前後の自由度が高いため、大柄なライダーも許容する。身長174cm/体重63kg
好印象なのは、静的な状態でも動的な状態でも感じられる手の内感だ。車重は194kgを公称し、たとえば兄貴分の「CBR1000RR-R ファイアーブレードSP」は201kgだ。この7kgの差が劇的で、常にズシリとした手応えを伝えてくるCBR1000RR-Rに対し、CBR600RRはヒラヒラと遊ばせることができるほど自由自在。取り回しも渋滞路のストップ&ゴーもなんのストレスもなく行うことができる。
599ccの水冷並列4気筒エンジンの基本設計は、前モデルから踏襲されたものだ。ただし、ピストン、クランク、カムシャフト、シリンダーヘッドといった主要部分が新たに設計され、121ps/14000rpmの最高出力を得ている。従来モデルのフルパワー仕様は、114.6psだった。
既述の通り、レースありきの改良が施されながら、街中での扱いやすさは犠牲にしていない。低回転域のフレキシビリティはスーパースポーツの中では群を抜き、大幅に向上。ネイキッドやツアラーを引き合いに出しても相当なレベルにある。実際、6速3000rpmといった領域からでもスロットルひとつで難なく加速してみせ、操作を少々サボッても幅広いトルクバンドがカバーしてくれる。
このイージーさが街中はもちろん、ロングツーリングで効く。どんな回転域、どんな速度域でも振動はほとんどなく、快適性に貢献。排気音はそれなりに高周波ながら耳障りになるようなものではない。
多少のズボラな走りでも許容してくれるパワー特性で、街乗りやロングツーリングも難なくこなす。
なによりハンドリングがいい。それは旋回力の良し悪しやフルバンク時の安定性といった高次元の話ではなく、リーン初期の応答性で誰もが体感できる。直立状態から30度ぐらい傾けたあたり、つまり街中やワインディングで誰もが使う領域において優れたレスポンスを発揮。
そこからさらに寝かせても、あるいは起こしても車体は素直に追従してくれる。狙ったラインを外すことはほぼなく、たとえ旋回途中でコーナーがきつくなっても修正は容易だ。ハンドリングが単に軽いとタイヤの接地感が分かりにくく、挙動も神経質に感じられるものだが、その一歩手前で寸止め。常に自分のコントロール下にあるイメージだ。
ロングツーリングといっても荷物の積載性に過度な期待はできないが、荷掛けフックを装備し、パッセンジャー側のシートは比較的フラットな座面を持っていること、またETC車載器を収納できるスペースがあるため、及第点を与えていいだろう。
時速100kmで巡航した時の回転数は、5300rpm強といったところだ。レッドゾーンが15000rpmから始まることを思えば、かなり余力のあるギヤレシオと言える。当然、不快なバイブレーションはなく、上体を縮めるとカウルの中で走行風を大幅にカットすることもできる。
デザインや電子制御はトレンドを注入
2020年モデルにおいて、ひと目で分かる変化が、カウルデザインの刷新だ。防風効果を高めるために角度が立てられたウインドスクリーン、LEDヘッドライトの採用によって軽量化とマスの集中化を狙ったフロントマスク、各部に設けられた排風と放熱を促すためのスリット…と多岐に渡るが、もっとも目立つ部分が左右に大きく張り出したウイングレットだ。
これは加減速時の安定性向上の他、ロールモーメント(車体を倒す時の力)の低減を目的にしたものである。新型と従来型を同条件で比較しないと、その効果に言及することはできないが、レーシングマシンのトレンドとしてやはり外せない。スポーツマインドを高めてくれるという意味でも、装着を歓迎したい空力デバイスだ。
CBR1000RR-Rに比べれば小ぶりなウイングだが、翼端渦の発生を抑える先端形状を持ち、同時にダウンフォースを発生してフロント荷重の減少を抑制する。
さてもうひとつ、目に見えない部分で劇的に変化しているのが電子制御だ。
スロットルバイワイヤとIMUを搭載し、ライディングモード(MODE1/MODE2/MODE3/USER1/USER2)によって、パワーセレクター(5段階のエンジン出力特性)、Hondaセレクタブルコントロール(9段階+OFFのトラクションコントロール)、ウイリー制御(3段階+OFFのウイリー挙動緩和)、セレクタブルエンジンブレーキ(3段階のエンジンブレーキ制御)を一括管理。
この他、バンク角とリヤタイヤのリフトを検知するコーナリングABSも採用するなど、リッタースーパースポーツに肩を並べるシステムが盛り込まれた。これらの選択や切換はハンドル左側のスイッチボックスに集約され、決定された各種情報はフルカラーTFTディスプレイに整理されて表示。走行中の操作も容易に行えるよう、エルゴノミクスに配慮されている。
デフォルト設定されているライディングモードの内、MODE3がもっとも穏やかなキャラクターとなる。出力特性はスムーズさが優先され、1~3速の低速ギヤではパワーを抑制。トラクションコントロールの介入度は9段階中8、ウイリー制御は最大の3、エンジンブレーキはもっとも強い3という仕様になる。
明らかにビギナーを想定したものに思えるが、ストリートでは必要十分以上のパフォーマンスを披露し、不満も不足も感じない。日常的にはこれ一択でもいいほど、作り込まれている。
この2020年モデルのCBR600RRは生粋のスーパースポーツとして送り出され、高い限界性能を持っていることは間違いない。しかしながら、ごく普通のロードバイクの役割をこなし、時にツアラーにもなり得るオールラウンダーでもある。
エンジンスペックと電子デバイスが高いレベルでバランスし、優れたハンドリングとドライバビリティも実現している秀作だ。スポーツライディングを長く楽しみたいと願うなら、一度試乗してみてほしい。
ホンダCBR600RRの最新相場情報
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