
かつてバイク乗りたちのロマンをかき立てた「最速」の2文字。未知の速度域を手中に収めるため、新たな技術が次々に開発された時代である。ここではホンダが誇る水冷V4エンジンを搭載し、実測最高速度246km/hを達成したVF1000Rを取り上げよう。※本記事はヤングマシン特別号 青春単車大図鑑からの転載です。
●文:ヤングマシン編集部
実測最高速度は246km/h:ホンダVF1000R 誕生の背景
ホンダが開拓したビッグバイク市場は1970年代から激戦区となり、各社が威信をかけて高度な技術を投入した。
そんな中、ホンダは他社が追随できない一歩進んだ次世代機種の開発に着手。これが実を結んだのが水冷V4である。
同社はすでにV4エンジンのGPレーサー NR500を開発しており、その技術が市販車に活かされた。
V4エンジンは幅が狭いため車体をコンパクトにでき、より深いバンク角が得られ、高出力化にも有利と良いことずくめだが、未知の技術であるがゆえ、これを市販化するのは決して容易な道のりではなかった。
【1984 HONDA VF1000R】■水冷4ストV型4気筒 DOHC4バルブ 998cc 130ps/10500rpm 9.4kg-m/8000rpm ■236kg(乾) ■タイヤF=120/80-16 R=140/80-17 ※輸出モデル
V4スポーツ車はホンダの「独走状態」
ともあれ、V4第1号車は1982年に完成。4月にVF750セイバーとマグナが発売された。
ただし本命はこの年12月に発売されたVF750F。エンジンだけでなく、車体も角パイプフレームやフロント16インチホイールを採用するなど先進的だった。
自社を含めてそれまでの空冷直4とは一線を画す動力性能を発揮し、AMAや鈴鹿8耐でもその実力を見せつけた。
サーキットでの活躍もあって、高性能イメージで販売台数もうなぎ登り。もちろん他社にはV4のスポーツ車がなく、まさにホンダの独走状態と言えた。
後述するが、VF1000Rについては排気量の上限変更などで、思ったような戦績は残せなかった。
他社がV4を市販せず、直4にこだわったのにも理由があった。工業製品あるいは道具として優秀であっても、人間の感性に訴える部分となるとV4は必ずしも受けが良くなかったのだ。
「フラットな出力特性や独特の低い排気音は快感を刺激しにくい」。バイクを趣味の乗り物として捉えた場合、この事実は無視できなかった。
事実、ホンダもRC30などの傑作V4を生む一方、並行して直4の開発も続けていた。
正確な吸排気バルブの開閉で高回転化とハイパワーを狙い、レーシングマシンに採用される歯車によるカムシャフト駆動をいち早く採用。
ホンダVF1000Rの系譜
1984 ホンダVF1000R
発売年にTT-F1の排気量上限が750ccに引き下げられたため、レースで活躍する機会を喪失。実力に見合う戦績は残せなかった。
【1984 HONDA VF1000R】
1985 ホンダVF1000R
色変更程度に見えるが、エンジン/フレーム/外装など、共通部品の方が少ないほど全身を改良。
【1985 HONDA VF1000R】
1986 ホンダVF1000R
1982年のデイトナでフレディ・スペンサーが2位を獲得したRS1000RWの公道版モデル。
エンジンはレーシングテクノロジーをフィードバックしたカムギアトレーンV4、車体もフローティングディスク、クイックリリース式アクスルホルダーなど、レーサー並みのハイメカを備える。
ライバルより3割以上高価で、CB1100Rに代わる当時のステイタスシンボルだった。
【1986 HONDA VF1000R】F・スペンサーの1985年ダブルタイトル獲得記念の限定ロスマンズ仕様を設定。
初期型VF1000Rのカタログ。仕向け地の法規により、ヘッドライトは1灯と2灯の両仕様が用意されていた。
ホンダVF1000R 兄弟モデル
1984 ホンダVF1000F
日本ではVF750Fが旗艦だったが、海外では1000Fが当初の最高峰。
バルブ駆動はカムチェーン式で、750似のハーフカウルを装着。Fホイールは16インチ。
【1984 HONDA VF1000F】
1985 ホンダVF1000F II
フルカウルを装備したツアラー仕様で、ペットネームは伝統のBOLD19OR。前輪は安定指向の18インチ。
【1985 HONDA VF1000F II】
ホンダVF1000R ライバル機
1984 ヤマハFJ1100:ヤマハ渾身のハイスピードツアラー
世界最速を目指して開発されたヤマハ初の大排気量スポーツ。
ゼロヨンは10秒681で世界1位、最高速度は233.82km/hで世界2位に輝いた。
1986年にFJ1200(130ps)へ発展し、1991年に国内投入(97ps)。国産車初のABS仕様もラインナップされた。
【1984 YAMAHA FJ1100】主要諸元■空冷4スト並列4気筒 1097cc 125ps/9000rpm 10.5kg-m/8000rpm ■車重227kg(乾) ■タイヤF=120/80-16 R=150/80-16
最速といってもGT寄りのキャラクターがFJの特徴。荷物満載でタンデムツーリングを楽しむオーナーが多かった。
1984 スズキGSX1100EF:カタナの跡を継ぐ最速
カタナ(GSX1100S)のエンジンを4mmボアアップして排気量を1074→1135ccに拡大。
VF1000RやFJ1100と世界最速を競い合った。ここからハイスピードツアラーというカテゴリーが確立。RF900Rの誕生につながっていった。
【1984 SUZUKI GSX1100EF】主要諸元■空冷4スト並列4気筒 1135cc 114ps/8700rpm 10kg-m/6500rpm ■車重238kg(乾) ■タイヤF=110/90-16 R=130/90-17
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