
かつてバイク乗りたちのロマンをかき立てた「最速」の2文字。メーカーは威信をかけ、ライダーはプライドをかけてこの戦いに挑んだ。未知の速度域を手中に収めるには、持てる技術のすべてでは不足。持たざる技術が次々に開発された時代だ。本記事では、CB900Fをベースに超急ピッチで開発されたホンダのCB1100Rを取り上げる。※本記事はヤングマシン特別号 青春単車大図鑑からの転載です。
●文:ヤングマシン編集部
本気で最速を目指した第二世代CBの旗艦【ホンダCB1100R】
ホンダにおけるステイタスシンボル、もしくはそのブランドイメージをより強固にする旗艦モデルとして開発されたCB1100R。
ホンダが自社の威信を賭けるとすれば、本機でのレースの勝利も必然。開発段階からこのことが強く意識され、その年のプロダクションレース出場も早くから決められていた。
ベース車として選ばれたのは、バランスのよさに定評があったCB900F。
エンジンは排気量を拡大し、フレームは整備性を犠牲にしてまでも高剛性を追求、専用のディメンションが与えられ、赤塗装で仕上げられた。アルミタンクにFRPのカウルやシングルシートといった装備も、当時の市販車としては非常識な豪華さだった。
開発は1979年末から着手され、デビューレースは1980年10月の豪州カストロール6時間耐久に設定されていたから、その生産が通常では考えられないほどの急ピッチであったことがわかる。これを成し遂げた原動力とは開発チームの熱意だけであったというから、これまた驚きである。
実際、ごく初期のロットではカウルの装着が間に合わず、ノンカウルの丸目ライト仕様がデリバリーされた(RB1)ほどだった。
【1983 HONDA CB1100R[RD]】■空冷4スト並列4気筒4バルブ 1062cc 120ps/9000rpm 10kg-m/7500rpm ■233kg(乾) ■タイヤF=100/90V18 R=130/80V18 ※輸出モデル
ホンダCB1100Rの活躍とその後
こうして戦場に赴いた1100Rは、初陣を制して鮮烈なデビューを飾り、続く生産車には当初の予定通りカウルも備えられ、秋の英国アールズコートショーで正式に発表された。
当初は1000台強の限定販売の予定だったが、好評を受けて翌年型も続投が決定。
開発期間の短さから不満の残った部分も改良が加えられ、1982年型、1983年型が完成した。わが国にも相当数が上陸したが、高価な逆輸入車だけに購買層は限られていた。
ベストセラーだとかヒットモデルといった方向は眼中になく、ひたすら最高を目指し必ず勝つ……。だからこそ値段も性能も、まさに特別なモデルだったのだ。
CB1100Rが走行する様子。
ホンダCB1100Rの系譜
[1981] ホンダCB1100R RB
【1981 HONDA CB1100R RB】異例の急ピッチで開発された初期型は大型のカウルを装着、これはCB900F2から造型を流用(ただし材質はFRP、レッグシールドは省略)したもの。勝利のみを追求した完全なシングルシートで、タンデム不可。ホイールは裏コムスターでF19/R18インチ。じつは時間の関係から煮詰めきれなかった点は少なくない。シリーズを通しての生産台数は約5500台前後と言われる。
CB900Fの64.5×69mmからボアのみを拡大、70×69mmとして1062ccを獲得したRBのエンジン。最高出力115psを発揮する。冷却効果を狙いオイルクーラーも採用。
見やすい2眼式の大径メーターは基本的にCB900/750F系を流用する。カウルステーではなくトップブリッジにメーター本体がマウントされるのも初期型RBの特徴だ。
[1982] ホンダCB1100R RC
【1982 HONDA CB1100R RC】前後18インチのブーメランコムスターホイールを採用。Fフォークはφ37→39mmに大径化され、専用設計フルカウルも備えて技術陣の不満を解消した2型。タンデムも可能に。
RC以降のエンジンは吸排気系の変更でフルパワー120psを発揮。内部は基本的に同一で、左右クランクケースカバーの形状が変更された。RDでは金色のカバーがツヤのある仕上げに。
RC以降はマウント位置がカウルステー側となり、ステアリング周辺の重量が低減。回転計は電気式に変更された。その下にインジケーターを並べ、新たに油温計も装備。
[1982] ホンダCB1100R RD
【1983 HONDA CB1100R RD】一見しての印象はRCと大きく変わらないが、フロントカウルは形状を変更。塗色もソリッドからメタリックへと高級感を増し、スイングアームも角型パイプへと換装された。
RDは角段面スイングアームと冷却性に優れるアルミ製リザーバータンクのリヤサスを採用。空冷直4の王者にふさわしい仕上がりを誇った。
ホンダ CB1100R 派生モデル
[1983] ホンダCB1100F
【1100R譲りのエンジンを持つ「F」系最後発のトップモデル】1100R譲りの排気量を持ち、1983年の1シーズンだけ販売されたF系の最高峰モデル。欧州とカナダ仕様では丸目ライトに金色のブーメランコムスターホイールを装着。
[1983] ホンダCB1100F[北米仕様]
【北米は角目ビキニにキャストホイール】アメリカおよび南ア仕様では角目ビキニカウル、専用メーターにバーハンドルを採用。ホイールも6本スポークのキャスト仕様だ。黒仕上げのマフラーは仕向け地を問わず同一。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事([連載]青春名車オールスターズ)
公道モデルにも持ち込まれた「ホンダとヤマハの争い」 1980年代中頃、ホンダNS250Rはヒットしたが、ヤマハTZRの人気は爆発的で、SPレースがTZRのワンメイク状態になるほどだった。 しかしホンダ[…]
2ストエンジンの新時代を切り開いた名車 1980年代中頃、スズキのガンマ、ホンダのNSと、高性能レプリカが矢継ぎ早に出揃い、大ヒットを記録していた。 この潮流をみたヤマハはRZ250Rにカウルを装着し[…]
「その時、スペンサーになれた気がした」 MVX250Fの上位モデルとして400版の発売が検討されていたが、250の販売不振を受け計画はストップ。この心臓部を受け継ぎ、NS250Rの技術を融合したモデル[…]
“2スト最強”と呼ばれた栄光のレプリカ ヤマハのRZV500Rと並び立つ不世出の500レプリカが、このRG500ガンマである。 1976〜1982年までスズキはWGP500でメーカータイトルを7年連続[…]
ケニー・ロバーツが駆るYZR500のフルレプリカ 400レプリカが隆盛を極める1984年、ヤマハから究極のレーサーレプリカが送り込まれた。当時最高峰のWGP500王者に輝いたYZR500のフルレプリカ[…]
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
ホンダ「モンキー125」(2024)試乗レビュー この記事ではかわいらしいフォルムと実用性が同居したファンバイク、モンキー125の2024年モデルについて紹介するぞ。初期のモンキー125に近い、シンプ[…]
現代の耐久レーサーはヘッドライト付きのスーパーバイクだが…… 近年の耐久レーサーは、パッと見ではスプリント用のスーパーバイクレーサーと同様である。もちろん細部に目を凝らせば、耐久ならではの機構が随処に[…]
高回転&高出力主義の権化 250クラスでも高性能な直4を望む声が高まっていた’80年代前半、スズキが世界初の250cc水冷直4エンジンを搭載した量産車、GS250FWを投入。以降、ヤマハ、ホンダが追随[…]
0.1ps刻みのスペック競争 日本史上最大のバイクブームが巻き起こった1980年代は、世界最速を謳う大型フラッグシップや最新鋭レーサーレプリカが次々と市場投入され、国産メーカー間の争いは激化の一途を辿[…]
250ccを思わせる車格と水冷2スト最強パワーに前後18インチの本モノ感! 1979年、ホンダはライバルの2ストメーカーに奇襲ともいえる2スト50ccの、まだレプリカとは言われてなかったもののレーシー[…]
人気記事ランキング(全体)
現代の耐久レーサーはヘッドライト付きのスーパーバイクだが…… 近年の耐久レーサーは、パッと見ではスプリント用のスーパーバイクレーサーと同様である。もちろん細部に目を凝らせば、耐久ならではの機構が随処に[…]
GB350に初のツートーン、GB350Sの燃料タンクにはストライプ採用カラーも ホンダ「GB350」「GB350S」マイナーチェンジ。2023年に最新排出ガス規制に適合して以来のイヤーモデル更新だ。2[…]
バイクツーリングにおすすめの都道府県ティア表 バイクツーリングの魅力は、ただ目的地に行くだけでなく、そこへ至る道中のすべてを楽しめる点にある。雄大な自然が織りなす絶景、心地よいカーブが続くワインディン[…]
最新モデルはペルチェデバイスが3個から5個へ 電極の入れ替えによって冷却と温熱の両機能を有するペルチェ素子。これを利用した冷暖房アイテムが人気を博している。ワークマンは2023年に初代となる「ウィンド[…]
高回転&高出力主義の権化 250クラスでも高性能な直4を望む声が高まっていた’80年代前半、スズキが世界初の250cc水冷直4エンジンを搭載した量産車、GS250FWを投入。以降、ヤマハ、ホンダが追随[…]
最新の投稿記事(全体)
シリーズ第10回は『クイーンスターズ』に学ぶ「取り回し」だ! 白バイと言えばヤングマシン! 長きにわたって白バイを取材し、現役白バイ隊員による安全ライテク連載や白バイ全国大会密着取材など、公道安全運転[…]
要望に応え、アンコール販売が決定 「AIO-6」シリーズの初回クラウドファンディングは2025年6月3日に終了し、2015名からの支援と総額7,300万円を突破する大きな成果を収めた。今回のアンコール[…]
なぜ「モンキーレンチ」って呼ぶのでしょうか? そういえば、筆者が幼いころに一番最初の覚えた工具の名前でもあります。最初は「なんでモンキーっていうの?」って親に聞いたけども「昔から決まっていることなんだ[…]
【ヨシムラジャパン代表取締役・加藤陽平氏】1975年、POPの右腕だった加藤昇平氏と、POPの次女・加藤由美子氏の間に生まれる。4輪業界でエンジンチューンやECUセッティングなどを学び、2002年にヨ[…]
ブレーキディスクの大径化が効いたのはメンタルかもしれない 第8戦アラゴンGPでも、第9戦イタリアGPでも、マルク・マルケスが勝ち続けています。とにかく速い。そして強い。誰が今のマルケスを止められるのか[…]
- 1
- 2