
元MotoGPライダーの青木宣篤さんがお届けするマニアックなレース記事が上毛グランプリ新聞。1997年にGP500でルーキーイヤーながらランキング3位に入ったほか、プロトンKRやスズキでモトGPマシンの開発ライダーとして長年にわたって知見を蓄えてきたのがノブ青木こと青木宣篤さんだ。WEBヤングマシンで監修を務める「上毛GP新聞」。第25回は、MotoGP開幕戦タイGPの時点で垣間見えた日本メーカーの現在地と、サプライジングな活躍を見せた小椋藍について。
●監修:青木宣篤 ●まとめ:高橋剛 ●写真:Michelin
開幕戦タイGP、日本メーカーはどうだった?
※本記事はタイGP終了後に執筆されたものです
前回はマルク・マルケスを中心としたドゥカティの話題をお届けしたが、ドゥカティ以外ではホンダが意外とよさそうだった。ジョアン・ミルの3コーナー進入で、フレームがヘナヘナしているのが見て取れたからだ。「ああ、ついにホンダのガチガチフレームも、ここまでヘナヘナになったか」と感慨深いものがあった。
フレームは限界までヘナヘナ化して旋回力を高め、ライダーはそのヘナヘナフレームに歩み寄りながら、今までとは違うフィーリングに対応する。その過程が、いい具合に進んでいるように感じる。
結果的にミルはその3コーナーで転んでしまったが、あそこはめちゃくちゃ滑りやすく、ラインを1本でも外してしまったらアウト、という難所だ。ミルは運悪くズルーッとイッてしまったが、走りの内容は進化していた。
ジョアン・ミルの走り。
ホンダはピボットまわりの剛性をかなり落としているようだ。かなりいろいろな仕様のフレームを試しており、今はまだ模索している段階だが、とりあえずはヨハン・ザルコが7位でチェッカーを受けている。今年のホンダはちょっと期待できそうだ。(編註:第2戦アルゼンチンGPではスプリント4位/決勝6位)
もうひとつの日本メーカーであるヤマハは、テストこそ上向きだったが、決勝のレースディスタンスではまだまだ厳しい。前々回の当コーナーで書いた「攻めた設計のペラッペラフレーム」、どうやら今回のタイGPではジャック・ミラーが使用したようだ。ジャックだけ、アルミ地のままで未塗装のフレームのYZR-M1を走らせていた。
そのミラー、レース序盤は上位を走っていた。カウルを留めるビスが外れそうになるというトラブルもあって11位に終わったが、それでもヤマハでは最上位。今後、ペラッペラフレームに方向性を定めれば、上向きの可能性もありそうだ。
ジャック・ミラーの走り。
ヨーロッパラウンドで真価を問われる小椋藍
小椋藍くんは、見事な走りで5位につけた。スプリントレースではバニャイアの走りを観察し、自分とバニャイアでどこが速く、どこが遅いかを見定めていたし、決勝ではその成果を生かしながら、限界を探りながら丁寧にライディングしていた。
小椋くんが5位、マルコ・ベゼッキが6位と上位でフィニッシュしたことは、エースのホルヘ・マルティンを欠いたアプリリア勢にとって大きな意味を持つ。マシン開発の方向性が正しいことが確認できたのだから、マルティンの復活とともに、ドゥカティへの反撃が加速するだろう。
日本中の二輪レースファンを喜ばせてくれた小椋くんの活躍だが、当の本人はもっと上を見ているはずだ。ワタシ自身、グランプリ最高峰クラスのデビューレースの’97年マレーシアGPで3位表彰台を獲得し、もちろんうれしかったし、「これならやっていけそうだ」と安心した一方で、「勝てなかったか……」という思いも強かった。小椋くんも、決して油断はしていないと思う。
そういえば、タイGPを解説していたアンドレア・ドヴィツィオーゾが「オグラはすごくいいレースをしたね」と言ってから、ポロッと「でも、多くの日本人ライダーが、ヨーロッパラウンドでは、ねぇ……」と付け加えていた。第5戦スペインGP以降でも、その言葉を跳ね返すようなレースに期待したいところだ。
小椋藍。
小椋藍。
フランコ・モルビデリを追走する小椋藍。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
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