10月4日~6日に開催された、ロードレース世界選手権・日本グランプリ。日本人ライダーの活躍も注目されるなか、Moto2クラスでは最後の日本GPとなる小椋藍、現役最後の日本GPになる中上貴晶それぞれのレース模様を追った。
●文/写真:ヤングマシン編集部(佐藤寿宏)
厳しいコンディションでもレコード更新する凄まじさ
MotoGP日本グランプリが今年も栃木県・モビリティリゾートもてぎで開催されました。改めて世界最高峰の2輪ロードレースの“すごさ”を見せつけられました。金曜日から時折雨が落ちてくる不安定な天気となり、当然路面コンディションも難しい状況でした。そんな中でも世界のトップライダーたちは、果敢に攻めていき、オールタイムラップレコードを更新してしまうんですから肝が据わっているというか心臓に毛が生えているというかメンタルもフィジカルもハンパないですよね。
MotoGPクラスの予選では、幻のコースレコードとなってしまいましたがマルク・マルケスの出した1分42秒868は、驚異的でしたね。1分42秒台って数字だけでも、もてぎのコースが短く感じちゃいましたよ。トラックリミットもほんの僅かでしたから。少し気が早いですが、ドゥカティのワークスライダーとして登場する来年の日本グランプリで、しっかり1分42秒台を出してくれるのが、今から楽しみなところです。
タイヤ選択で100かゼロかを手にした小椋藍
肝が据わっていると言えばMoto2クラスをリードする小椋藍も素晴らしいレースを見せてくれました。スタート直後の降雨で赤旗。レースは12周の超スプリントでリスタートが切られますが、ほとんどのライダーがウエットタイヤをチョイスしている中“男はスリック!”をチョイスした小椋は、ウエットタイヤ勢をごぼう向きにして3周目のホームストレートでトップに立ちます。これにはお客さんも大盛り上がりでした。トップを快走する小椋に、同じくスリックをチョイスしたマニュエル・ゴンザレスが小椋を上回るペースで追い上げてきます。母国日本で勝ちたいところですが、タイトル争いを考えれば絶対に転べない状況でしたから、今回は2位で我慢した形でした。
「優勝しなくてはいけないレースだったと思います。スリックを履いているライダーが少ないのはウォームアップで分かっていたので“これは100か0かどっちかだな”と思いました。路面をブーツで確かめて、雨も止んでいたので“これならいける!”と最初の1周は抑えて、2周目から追い上げていきました。不安でしたが、雨が降ってきたら終わりなので、とにかく前に出て差をつけないといけないと全力で走りました。ゴンザレスがハイペースで来ているのは分かっていたので、急に1秒もペースを上げることはできないので抜かれてから考えようとと思っていましたけれど勝ちたかったですね」
2位でチェッカーフラッグを受けると応援してくれた人に対して“勝てなくてゴメン!”と手を合わせて謝るポーズをしていました。Moto2クラスのチェッカーフラッグを振ったのは、加藤大治郎の長男・一晃さん、、そして3コーナーで大ちゃんが日本グランプリのウイニングランで使った日章旗を長女・凜香さんが小椋に渡し、クールダウンラップを走りました。
「レースとしては悔しいですが、チャンピオンシップを考えれば良かったと思います。スリックタイヤで行け! と言ってくれたチームに感謝します」
小椋は、20ポイントを追加し228ポイントとなり、チームメイトであり暫定ランキング2位のセルジオ・ガルシアが14位に終わったため、その差を60ポイントに開きました。ここ数戦、調子の良かったアーロン・カネットは16位とノーポイントに終わり、9位に入ったアロンソ・ロペスにランキングで抜かれ4番手に下がりました。小椋藍、Moto2世界チャンピオンに向けて追い風となった日本グランプリと言えるでしょう。ポイント差を考えると、第18戦タイで初の栄冠達成が見られそうです。
ハイレベルなMotoGPクラスでは中上貴晶が最後の日本GP
MotoGPクラスはフランチェスコ・バニャイヤがホルヘ・マルティンの追撃を抑え切って、もてぎ初優勝を飾りました。土曜日のスプリントも制し、マルティンとのポイント差を10とし、まだまだ2人のタイトル争いの行方は激しくなりそうです。
ドゥカティばかりが上位を独占しましたが、今回はペドロ・アコスタの走りも光っていました。スプリントでは、トップを走りながら転倒。決勝も転倒してしまいましたが、ドゥカティ勢に斬り込んで行く走りはMotoGPルーキーとは思えない大物ぶりを感じましたね。来シーズンはKTMのエースとしてタイトル争いに絡んでくるでしょう。
中上貴晶はスプリントでは、チームメイトのヨハン・ザルコに2コーナーでインから接触されて転倒したものの、決勝では13位でフィニッシュ。レギュラーライダーとして最後となる日本グランプリでファンの声援に応えていました。日の丸を掲げてクールダウンラップを終えピットに戻ったタカは、チームスタッフの出迎えを受けると、そのまま応援席の前までヘルメットも脱がずに駆けつけると、グローブやチェストパッドなどを投げ込んで感謝を示しました。
「本当に多くの方に応援してもらっているのが分かりましたし、感慨深いものがありました。レギュラーシーズンとしては、まだ残り4戦あるので、全力で走りますし、来シーズンもチャンスをもらえれば日本グランプリを走りたいですね」
Moto3クラスでは、優勝したダビド・アロンソが4戦を残してシリーズチャンピオンを決めました。来シーズンは、現在所属するホルヘ・マルティネス率いるアスパーチームからMoto2へのステップアップが決まっています。こちらも注目株ですね。
アジアタレントカップも日本人ライダーが頑張っていました。とりわけレース1もレース2も激しい三つ巴のバトルを繰り広げた三谷然、池上聖竜、荻原羚大がレベルの高い走りを見せていました。この3人の名前は覚えておいもらってもいいでしょう。近い将来、世界で活躍してくれるはずですから。
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