神奈川県内でバイク通学を許可している、県立津久井(つくい)高等学校。その背景と理由、安全運転への取組みや課題について連載する。第1回は同校の通学環境や特色をふまえた、バイク通学解禁の背景について。(※以降、敬称略)
●文:ヤングマシン編集部(田中淳麿)
――はじめに、津久井高校の県内の位置付けや特色を教えてください。
熊坂:県立高校に移管される前も含めると、明治35年に始まった学校なので120年を超える歴史があります。全日制と夜間定時制の2課程ありますが、全日制に専門学科の福祉科があるのが特色で、県内で唯一、介護福祉士国家試験受験資格が取れるので、遠方から通学する生徒もいます。また、相模湖がすぐ近くにあって、県立高校で唯一ボート部があるのも特徴です。通ってくる生徒も地元の子が大半で、純朴というか素直な生徒が多いです。卒業後の進学も就職も地元志向が強いと思います。
――地域の交通環境などはどのような感じでしょうか。
熊坂:山梨との県境も近いですし、地理的には特異な場所だと思います。相模原市は政令指定都市ですが、この地域は中山間地です。バイク通学の生徒も、山梨方面に向かった藤野や青根/青野原などの山間地域から通っています。ですから、立地に関して言うと、交通の便が悪い地域と言えます。
学校の前の幹線道路(国道413号)はバスがたくさん走りますが、幹線道路を外れた地域に生徒が大勢住んでいて、そういった地域のバスの便は少ないため、生徒や保護者から「なんとか通学の便を改善してほしい」という声がずっと寄せられ続けていました。いろいろと手を考えたのち、原付バイクによる通学に踏み切ったのが4年前です。
――バイク通学開始に至る背景について詳しく教えてください。
熊坂:私が本校に着任した7年前から、生徒や保護者からの要望が常に出ていて、モヤモヤした3年間がありました。私が着任するもっと昔から言われてきたのだと思いますが、多くの生徒がバス通学をしている中、橋本駅から津久井高校までのバス代が片道520円、往復で1日1040円かかって、定期代が年間15〜20万円かかります。原付バイクであれば、買う時に少しお金がかかるけれど、ガソリン代のほうがバス代よりはかなり安くなるという具体的な話も、保護者の方から何度か聞いていました。
何かの拍子で津久井高校の話題になると、通学事情について言われることも多く、なんとかしなくてはという思いが日増しに強くなり、個人的にはそうした要望をかなりプレッシャーに感じていたのですが、着任3年目の年に職員からの発案で「だったら思い切ってバイク通学を全日制で始めてみてはどうですか」という投げかけがありました。その時にバスの本数が減ったとか運賃がすごく上がったとかいうわけではなくて、通学の便の改善には「バイク通学してみよう」というのが一番じゃないかなと思ったのです。
また、他にも要因はありました。バイク通学を許可する前は、学校の近くまで隠れてバイクに乗ってくる生徒がいて、「あそこに停めているぞ」という苦情が近隣住民から寄せられる
ことがありました。地元の方たちは本校OBの方も多くて、津久井高校をよく見ていますから、「学校の近くまで乗ってきて隠してるぐらいなら、中(校内)に入れてあげなよ」という声も随分聞かされました。地元の方もわかってるわけですよね、通学の大変さとか。自身が本校に通っていた時に、友達が遠くから通学していて困っていたことを知っているんです。地元あっての津久井高校ですし、津久井高校に対していろいろな思いを持っていただいている方がすごく多いので、こうした地域の方の声もバイク通学を始めた理由になります。(続く)
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事([連載] 2輪車利用環境改善部会)
「乗せて指導する教育」を実施、バイク通学者が多い熊本県立矢部高校 熊本県の県立矢部高等学校は、原付免許取得とバイク通学を2年生以上の生徒に許可している。「乗せて指導する教育」を、長年にわたり続けている[…]
改正道路法による道路空間の活用 神戸市は、瀬戸内海から六甲山地まで、約2~3kmほどの平地に繁華街や住宅地が密集しており、坂道も多い。そのため特に原付バイクの利用が根付いている。 そこで同市は放置駐車[…]
「心の教育」とプロテクターの装着推進が課題 バイク通学実施高校、秩父農工 今井教諭の、日本二普協シンポジウムにおける講演タイトルは「地域と連携した交通安全」。埼玉県の秩父地域は中山間地であり、公共交通[…]
繁華街に多く設置されている”路上駐車場” 県下随一の繁華街として、買い物客や観光客で賑わう三宮(さんのみや)/元町(もとまち)の周辺を歩いていると、バイク駐車場が次々と目に入ってくる。なぜなら、その多[…]
三級自動車整備士資格が統合、”二輪”も含まれることに 原動機研究部はそもそも、「高校生年代からバイクやクルマなどのモビリティに親しんでほしい」という願いのもと活動している地域クラブ。 静岡県は条件付き[…]
最新の関連記事(交通/社会問題)
『通称』と『道路交通法における区分』、『道路運送車両法による区分』がある バイク雑誌やWEBヤングマシンの記事を読んでいて「これってどうなってるの?」と混乱したことがある方もいらっしゃると思う。のっけ[…]
ほとんど見かけなくなったひとり乗車 みなさんがふだん、目にするパトカーには必ずと言っていいほど、二人以上の警察官が乗務しているのではないでしょうか。ただし、駐在所に属している警察官は基本的にはひとり乗[…]
新委員長が公の場に初登場 自動車メーカー14社を会員として構成される自工会は、日本の自動車業界の発達や社会課題の解決を目的とする組織。その2輪関係の部署となるのが二輪車委員会だ。 この二輪車委員会は近[…]
止められても切符処理されないことも。そこにはどんな弁明があったのか? 交通取り締まりをしている警察官に停止を求められて「違反ですよ」と告げられ、アレコレと説明をしたところ…、「まぁ今回は切符を切らない[…]
「乗せて指導する教育」を実施、バイク通学者が多い熊本県立矢部高校 熊本県の県立矢部高等学校は、原付免許取得とバイク通学を2年生以上の生徒に許可している。「乗せて指導する教育」を、長年にわたり続けている[…]
人気記事ランキング(全体)
『通称』と『道路交通法における区分』、『道路運送車両法による区分』がある バイク雑誌やWEBヤングマシンの記事を読んでいて「これってどうなってるの?」と混乱したことがある方もいらっしゃると思う。のっけ[…]
これが後のGL500につながったかは不明 これはいろいろなエンジン型式の可能性を探るために開発された1台で、クランク軸縦置きの200㏄空冷Vツインを搭載したもの。製造コストが高く、商品化できなかったと[…]
クロスオーバー系レトロがアップグレード! インディアヤマハは、ブロックパターンタイヤを履いたネオレトロスタイルの「FZ-X」をマイナーチェンジして発表した。ロングストローク設定の空冷149ccエンジン[…]
さとみ(すとぷり)がアンバサダーに就任! 日本二輪車普及安全協会は、2025年3月かいさいの「第41回 大阪モーターサイクルショー2025」および「第52回 東京モーターサイクルショー」の開催概要を発[…]
通勤からツーリング、サーキット走行まで使えるカウル付き軽二輪スポーツ 日本の道に最適といえるサイズ感や、通勤/通学からツーリングまで使える万能さが軽二輪(126~250cc)の長所。スクーターやレジャ[…]
最新の投稿記事(全体)
日本仕様も近く登場! ホンダは国内向けサイト内で「Gold Wing 50周年記念サイト」をオープン。1975年のゴールドウイング(GL1000)から始まる歴史を紹介するとともに、50th Anniv[…]
【読み飛ばしOK】自動車損害賠償責任保険審議会の結果、基準料率の改定は必要ないと判断【料金表は下の方に】 金融庁が令和7年1月10日および1月17日に行った第150回・第151回自動車損害賠償責任保険[…]
125ccスクーターは16歳から取得可能な“AT小型限定普通二輪免許”で運転できる バイクの免許は原付(~50cc)、小型限定普通二輪(~125cc)、普通二輪(~400cc)、大型二輪(排気量無制限[…]
[A] 前後左右のピッチングの動きを最小限に抑えられるからです たしかに最新のスーパースポーツは、エンジン下から斜め横へサイレンサーが顔を出すスタイルが主流になっていますよネ。 20年ほど前はシートカ[…]
免許返納後もアクティブに楽しむための小型低速EV パワーユニットに自社の電動モーターを、バッテリーにホンダの「モバイルパワーパックe:」を採用した汎用EVプラットフォームをヤマハが初公開したのは、20[…]
- 1
- 2