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7月1日から制度がスタートした「特定小型原付」。16歳以上なら免許不要、ヘルメットも着用は努力義務という新たな電動モビリティだ。様々な企業が参入を表明しており、現状は玉石混交といった状況だが、ホンダ発のベンチャー企業が手掛ける「ストリーモ」は、それらの電動キックボードとは一線を画する信頼性や安全性をアピールする1台。コイツに試乗し、さらに開発者に突撃して根掘り葉掘りしてきた!
●文:ヤングマシン編集部(マツ) ●写真:編集部 ●外部リンク:ストリーモ
不安定なら、技術で安定させればいいじゃない?
ヤングマシンでも既にお伝えしたが、新しい電動モビリティ「特定小型原動機付自転車(以下特定原付)」制度が7月1日よりスタートした。これはざっくり説明すると、今までは原付一種扱い(免許はもちろん、特例措置を除けばヘルメットも必要)だった電動キックボードなどを、最高速度を20km/hに制限することで16歳以上なら免許不要・ヘルメットも着用は努力義務としたもので、自転車とバイクの中間的な新しい移動手段として期待されている。
免許は不要とはいえ、車両登録や自賠責保険への加入は義務付けられており、登録には保安基準を満たし、特定原付制度の適合車両として認可を受けていることも必要。このあたりは従来の原付一種(特定原付に対し、今後は一般原付と呼称される)とあまり変わらない。余談ながらネットで売っている怪しげな電動キックボードは特定原付でも何でもないので、公道で乗れば一発アウトなのは今後も同様だ。
とはいえ、この特定原付には様々な疑問が呈されているのも事実。免許もなく、ヘルメットも被らない人々がいかにも不安定そうな乗り物で車道を走るのだからそれも当然だろう。ならば、その不安定さや危険性を技術力で払拭してやろうじゃないか…と、そんな考えで作られているのがホンダ発のベンチャー企業が手掛けるストリーモ。あまたある電動キックボードとの決定的な違いは、人が乗った状態で「自立する」という点だ。
ポイントは3輪+独自のバランス保持機能で、停止時でも足を着く必要はなく、ステップボードに立ったまま発進でき、人が歩くような極低速でも安定して走行できる。電動キックボードに乗った経験があれば、この3つの場面が非常に不安定(というか物理的にできない)なことは理解できるはず。加えてストリーモの開発者がホンダでモトGPやダカールラリーマシンに携わっていたエンジニアと聞けば、その技術的なレベルも分かってもらえるだろう。
今回販売されるストリーモは、特定原付の「ストリーモS01JT(30万円)」が250台、一般原付の「ストリーモS01JG(30万5000円)」が50台の計300台で、7月上旬から抽選の予約を受け付ける(詳細はストリーモのWEBサイト参照)。写真は特定原付のS01JTで、S01JGとの相違は最高速度が20km/h(S01JGは25km/h)に制限されるほか、メカ的にはバックミラーがオプションとなり、電子ホーンが自転車用ベルとなること、加えて車体前後に緑色の最高速度表示灯を装備(特定原付には義務付けられる)するなどが異なる。既にストリーモは2022年に「ジャパンローンチエディション」として原付一種バージョンを販売済みだが、今後もユーザー動向を睨みつつ受注販売を続け、2025年に年間3000台を販売できる体制の構築を目指すという。
車体は転舵&左右にバンクする1輪の前半部と、人が乗る2輪の後半部で構成されており、両者がつながる部分に自立機構を内蔵する(詳細は企業秘密とのこと)。取り外し可能なバッテリーはアルミ製のフレーム内に、駆動モーターは前ホイール内(ストリーモは前輪駆動)にそれぞれ収められている。また、写真のように前輪の上あたりで折り畳み、引っ張って移動したりクルマのトランクに収納することが可能。バッテリーの充電時間は約3.5時間で、走行距離は約30km、車重は24kgと発表されている。
タイヤ径は前後とも10インチで、前輪に機械式ディスクブレーキ、2つの後輪にそれぞれドラムブレーキを配する。ブレーキ操作は自転車同様のレバー(専用開発品とのこと)で、速度は右グリップのレバーを押して調整。左グリップのRボタンで後退も可能だ。専用アプリでスマホと接続すると、ストリーモの利用で削減したCO2量が分かるなどのユニーク機能も。
特定原付のS01JTは歩道走行がOKとなる「特例特定小型原動機付自転車」にも、最高速度を6km/hに制限するモードを装備することで適合しており、このモードで走行している時は車体前後の最高速度表示灯がチカチカと点滅する(特定原付での走行時はずっと点灯)。もちろんヘッドライトやウインカー、ブレーキランプなど通常の灯火類も備えている。
特定原付の制定に際しては専用ナンバープレートも用意された。寸法は車体サイズを考慮した10cm✕10cmの正方形で、従来の原付よりもずいぶん可愛らしい印象。写真のプレートは見本なので張られていないが、自賠責保険のステッカーも貼付が必要だ。ストリーモでも、一般原付扱いとなるS01JGは従来の原付サイズのナンバープレートが装着される(右の上写真)。
頭を使って乗りこなす“ファン”がある
【ストリーモS01JT】
今回はメディア向けの試乗会で、短時間ながらストリーモに試乗することができた。まずはウリの自立機構。そもそも3輪だから自立はするわけだが、ストリーモの場合は身体を動かしても、車体の前半部が揺動することでバランスを保ち続けてくれる。この感覚が何とも新鮮だ。もちろん意地悪に体重移動すれば倒れてしまうが、逆に言えば意図的に転倒させようとしない限りは自立状態を保ってくれる。
そのまま歩くような速度で走行できるのも、2輪のキックボードでは不可能なストリーモの美点。そのまま速度を上げてコースに設置された凸凹に突っ込んでみると、サスペンションがないので衝撃はダイレクトに伝わってくるものの、進路はほとんど乱されることなく直進していく。3輪の安定性に加え、自立機構がいい仕事をしているのだろう。試乗はクローズドされた駐車場だったので断言はできないが、混合交通の中で走行しても、電動キックボードと比べたら緊張感は桁違いに少ないだろうと感じた。
とはいえ、これは面白そうだと積極的にコーナリングしてみようとすると、当然ながらバイクとは違う乗り物だと感じさせられる。前輪駆動であること、車体前半部がハンドル操作で転舵とバンクの2つの動きをすること。加えて自分が乗っている車体後半部はバンクしないこと。このあたりがバイク乗りとしては違和感に繋がるのだろうか。
誤解してほしくないのだが、ハンドルを切って舵角をつけるように乗れば至って普通に走れる。しかし少しだけペースを上げて、ついバイクのような操作をしてしまうとオットット…となるのだ。バイクとはそもそも車体構成が異なるのだから操縦性が違うのは当然で、これはバイクの操縦感覚が身体に染み付いている人間だから起きることだろう。開発者にそんな印象を伝えると深く頷きつつ「バイクに乗ったことのない人ほど、最初から上手にスイスイ操れることが多いです」とのこと。
とはいえ違和感は最初だけ。慣れてくると徐々に面白くなってきて、この操縦性をいかに手なづけてやろうか…とチャレンジ心が沸き起こってくる。転舵とバンク、そして駆動の3つを担う前輪の扱い方がポイントのようで、これに身体をどうシンクロさせるか…なんてやっているうちに試乗時間は終了してしまったが、ストリーモは安心かつ安全な移動手段としての先に、うまく乗りこなしたくなるスポーツ性というか、ホンダ流に言うところの“ファン”を秘めていると感じた。
華麗なコーナリングをキメるには若干の習熟が必要。しかし、それが面白さだとも感じる。それにしても、ストリーモ社の橋本英梨加取締役(左)の肩の力の抜けた走りに対し、筆者のぎこちなさといったら…。
今後の発展性も織り込み済み!! あるかストリーモ「タイプR」?
今回販売されるストリーモは、コーナーでグッと踏ん張ったときの安心感を高めるため、昨年限定発売された一般原付仕様の「ジャパンローンチエディション」よりも車体剛性が高められているという。さらにこのアルミ製フレームはホイールベースやディメンションの変更が容易で、後々の発展性を見越した設計にもなっているとのこと。極めつけは後2輪の間にもモーターを置けそうですね、と振った筆者に対し「そこに気が付いちゃいましたか?」とニコニコされたことだ。
繰り返しになるが、ストリーモの開発陣は最先端のレーサーやスポーツモデルなど、ホンダの“ファン領域”に携わってきたエンジニア。安全に移動できるコミューターとして開発されたストリーモだが、その裏にはファンに踏み込むための”仕込み”が隠れているのは間違いないようで、これが筆者の感じたスポーツ性の遠因だったのかもしれない。ストリーモの会社としての方針は「5km程度の、生活圏内の移動手段を提供すること」だが、短距離の移動だって楽しい方がいいに決まっている。
もうひとつ。ストリーモ社はホンダの社内起業制度「イグニッション」を使って創業した、ホンダとは別会社となるベンチャー企業(ホンダからの出資はある)だが、イグニッションにはホンダに残ってプロジェクトを続ける選択肢もあるのだという。しかしストリーモは決定のスピード感を重視し、あえてホンダからの独立を選んでいる。つまり彼らがその気になれば、いつでもタイプR的なスポーツ仕様や、リヤモーターを配した3輪駆動ストリーモが発売できるということでもある?!
もちろんそれはストリーモがユーザーに受け入れられ、街中に溢れかえった次のステップとなるだろうが、携わっている方々の楽しげなノリの良さに触れると“今まで出来なかった事をカマしてやるぜ!!”と、弾けるタイミングを虎視眈々と狙っているように見えて仕方ない(笑)。というわけでストリーモの今後、乞うご期待ですぞ!!
本邦初公開?! なストリーモの床下。かなり太いフレームが通っていることや、自立システムや転舵機構、バッテリーなどの電制品が集中する車両前半に対し、後半が妙にアッサリしていることが分かる。2本の後輪の間にはモーターがスポッと収まりそうだが?!
ストリーモ社の代表取締役・森庸太朗さん(左)と、取締役で開発責任者の岸川景介さん(右)。お二人とも元ホンダのエンジニアで、森さんはオフロード畑が長く、ダカールラリー用ワークスマシンの設計責任者も経験。2017年に発表された「倒れないバイク」ホンダ・ライディングアシストの担当でもある。岸川さんはモトGPにも携わり、市販車では2017年型CBR1000RR(SC77)の開発取りまとめなども担当。ちなみにストリーモは森さんが2019年頃から自宅でコツコツ開発していた“自由研究”が実を結んだもの。当時、出始めていた電動キックボードに問題を感じ、より安定した乗り物を作ろうと思ったことが起点だという。
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