
ヤングマシン本誌で人気だった青木宣篤さんの連載「上毛GP新聞」がWEBヤングマシンに移籍! 青木さんは1993年にロードレース世界選手権(WGP)250ccクラスに参戦開始し、1997年にはステップアップしたGP500クラスでルーキーイヤーながらランキング3位に。1998年にはスズキのファクトリーライダーとなり、2002~2004年はプロトンKRでマシン開発に携わった。2005年からスズキMotoGPテストライダーを務め、2022年の鈴鹿8耐で現役引退。長年にわたって蓄積した知見で、最新MotoGPマシン&MotoGPライダーをマニアックに解き明かす!
●監修:青木宣篤 ●まとめ:高橋剛 ●写真:Honda/Ducati/MotoGP.com
ドゥカティの強さ、KTMとホンダのサプライズ!
はい、上毛グランプリ新聞です。ヤングマシン本誌の片隅で約9年にわたってひっそりと連載を続け、MotoGPを中心とした超マニアックなレース情報をお届けしていましたが、このほどWEBへの引っ越しと相成りました。よろしくお願いします。
ワタシ・青木宣篤が群馬県出身ということから「上毛」、主にMotoGPを取り扱うことから「グランプリ」、できるだけ時事ネタを扱うことから「新聞」、3要素合わせて「上毛グランプリ新聞」というシンプル極まりないネーミングのこの企画、主にはマシンの技術的解説やライディングテクニックについてマニアックに解説していく。
MotoGPは二輪レースの世界最高峰。かつては分かりやすい技術的進歩が多く見られたが、最近は開発費高騰を抑えるためにレギュレーションの縛りが厳しく、コレという目立ったトピックが減ってしまったのが実情だ。しかしライダーの走りは進化しているし、何よりレース自体は本当に面白くなっている。上毛グランプリ新聞を通じて、皆さんにレースの魅力の一端が伝われば幸いだ。
さて、2023シーズンMotoGPは第3戦アメリカズGPまで終えている。ちょうど第4戦スペインGPが始まり、1回目のフリー走行でダニ・ペドロサが衝撃のトップタイムを叩き出した、というタイミングである。ダニは’18年をもって現役を引退しており、KTMのテストライダーになっている。ワイルドカード参戦していきなりのトップタイムは、あまりにもスゴイ。
引退以来、4年半ぶりのトップタイムだというダニ・ペドロサの走り。このマシンの前後ウイングやマフラーのつくりもスゴイ……。
今シーズンは、土曜日に通常の半分のレース距離で競われるスプリントレースが開催されており、勝者には通常の半分のポイントが与えられる。優勝すると、通常のレースは25点で、スプリントレースは12点。1大会で最大37ポイントを稼げる計算だ。今シーズンは20大会が行われ(※カザフスタンGPがキャンセル)、全40レースを見られることになる。見ている方は楽しいが、やっている方は大変だろう……。
第3戦までの間で目立ったのは、ドゥカティ勢の強さだ。ポイントランキングトップはドゥカティ(Mooney VR46 Racing Team)のマルコ・ベゼッキ。いわゆるサテライトチームだが、第2戦アルゼンチンGPではメインレースで優勝を果たしている。
ポイントランキング2番手も、ドゥカティ(Ducati Lenovo Team)のフランチェスコ・バニャイア。こちらはファクトリーチームのエースで、開幕戦ポルトガルGPではスプリントレース、メインレースとも優勝を果たし、圧巻の強さを見せた。
そしてポイントランキング3番手は、昨シーズンのスズキからホンダへとスイッチしたばかりの、アレックス・リンス(LCR Honda CASTROL)だ。……え? ホンダがランキング3番手……?
少しだけ解説すると、ホンダはここ3年ほど苦戦が続いている。絶対的エースであるマルク・マルケスは’20年に大クラッシュで負傷して以来、なかなか調子が戻らない。軸を失ったこともあってマシン開発は迷走を続けており、残念ながらマシンパフォーマンスには優位性が感じられないのが現状だ。
第3選アメリカズGPではスプリントレース2位、メインレース優勝と好調さを見せつけたアレックス・リンス。
パワーカットせずにウイリーを防ぐのがウイングだ
特に最近は、空力デバイスの開発競争が激しく、ボディのあちこちからウイング状のパーツが突き出している。久々にMotoGPを見た人なら、そのあまりの異形ぶりに驚くほどで、正直、あまりカッコよろしくはない。しかし、その効果は絶大なようだ。
四輪フォーミュラマシンなどは巨大なウイングを装備しているが、これはダウンフォースを高め、タイヤを路面に押しつけることが狙いだろう。MotoGPも基本的には同じ。ダウンフォースによって前輪への荷重を増やし、接地感を高めたり、ウイリーを防止することが大きな目的だ。フロントの接地感を高めるというマシン開発のあり方は、MotoGPのワンメイクタイヤがブリヂストンからミシュランに代わった’16年以降、顕著になった。空力デバイスの進化も、そのあたりから急加速したと言える。
一方のウイリーはハデなアクションとして人気だが、レーシングライダーにとってはあまり喜ばしいことではない。前輪が浮きすぎるとアクセルを戻す必要があり、加速が鈍るからだ。そこで電子制御、ウイリーコントロールの登場だ。前輪の浮きを検知するとエンジンパワーをカットするシステムなのだが、多少なりともパワーをカットすると、どうしても加速力が低下する。その点、ほどよいダウンフォースをもたらす空力デバイスなら、アクセルを大きく開けてもそれなりにフロントの浮きを抑えてくれる、というわけだ。
ワタシは’17年頃までスズキのMotoGPマシン、GSX-RRの開発ライダーを務めていたが、当時は空力デバイスの出始めで、今ほどの依存度ではなかった。だから最新MotoGPマシンにおける空力デバイスの効果は、ほぼ実体験できていない。しかし最近は、BMW M1000Rのような市販スーパースポーツモデルでも、ウイングレットなどの空力デバイスが装着されるようになってきた。M1000Rのライディング経験では、ウイリーしても浮いたタイヤがしっとりと押し戻される。そして高速ストレートなどでも、前輪にしっとりとした接地感が得られる。「しっとり効果」は確実に感じられた。
二輪の場合、やみくもにダウンフォースを増やせばいいわけではない。極端なダウンフォースは切り返しが重くなるなど操作性が悪化するし、バイクはコーナリング時に車体を深く傾けるので、空気の流れが読みにくく、ネガティブな作用が発生することも考えられる。高度な解析技術が求められ、そのあたりでもドゥカティが1歩先を行き、ホンダが出遅れているのだ。
だがしかし! その不利を撥ね除けて勝ってしまったのが、第3戦アメリカズGPのアレックス・リンスなのだ。マシン的にはドゥカティに敵わないはずなのに、後続のドゥカティに3秒以上もの差を付けての勝利。これはもう、ライダーの腕というか、ノリというか、勢いでしかない。
マシンがどうあっても、結局のところは人間力。これぞ二輪レースの魅力だ。スペインGPのフリー走行1回目でダニ・ペドロサがトップタイムという驚きの事実にも、つながるものがある。
※本記事の文責は当該執筆者(もしくはメディア)に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
あなたにおすすめの関連記事
限界に挑む自分しか想像できない ワタシが開催しているプライベートレッスン「アオキファクトリーコーチング」の受講者に、70歳からバイクに乗り始めた元内科医の先生がいらっしゃる。サーキット走行にすっかりハ[…]
タイヤメーカーだけでなくホイールサイズも変わる MotoGP発展を願う気持ちと、ちょっと複雑な本音 2015年のレギュラーライダーたちによる最初のミシュランタイヤテストは、私も興味津々。リヤタイヤのグ[…]
photo:G.Tahakashi クラス優勝は果たせなかったが、実り多き鈴鹿8耐だった 鈴鹿8耐が終わりました。僕が初めてレーシングチーム監督を務めさせていただいたNCXX Racing with […]
扱い切れるスポーティ、それが4気筒ナナハンの真骨頂 「やっぱりナナハンは面白い!」 ワインディングロードをGSX-S750で流しながら、ワタシはしみじみそう思った。 イマドキ、ハイパフォーマンススポ[…]
勢いに乗る欧州メーカー、苦戦する日本メーカー マレーシアは常夏の国だ。2月とはいえ気温は30度をやすやすと超え、強い日差しが降り注ぎ、じっとりとした湿気で少し歩くだけで全身から汗が噴き出てくる。 クア[…]
最新の関連記事([連載] 青木宣篤の上毛GP新聞)
マシンの能力を超えた次元で走らせるマルケス、ゆえに…… 第2戦アルゼンチンGPでは、マルク・マルケス(兄)が意外にも全力だった。アレックス・マルケス(弟)が想像以上に速かったからだ。第1戦タイGPは、[…]
開幕戦タイGP、日本メーカーはどうだった? ※本記事はタイGP終了後に執筆されたものです 前回はマルク・マルケスを中心としたドゥカティの話題をお届けしたが、ドゥカティ以外ではホンダが意外とよさそうだっ[…]
バニャイアの武器を早くも体得してしまったマルケス兄 恐るべし、マルク・マルケス……。’25MotoGP開幕戦・タイGPを見て、ワタシは唖然としてしまった。マルケスがここまで圧倒的な余裕を見せつけるとは[…]
拍子抜けするぐらいのスロットルの開け方で加速 マレーシアテストレポートの第2弾。まずはシェイクダウンテストからいきなり速さを見せた、小椋藍選手について。本人は「ブレーキングが課題」と言っていたが、ブレ[…]
イケてるマシンはピットアウトした瞬間にわかる 今年も行ってまいりました、MotoGPマレーシア公式テスト。いや〜、転倒が多かった! はっきり認識しているだけでも、ホルヘ・マルティン、ラウル・フェルナン[…]
最新の関連記事(レース)
※写真はMotoAmerica Mission King of the Baggers ハーレーダビッドソン「ロードグライド」のワンメイクレース! ツーリング装備をサイドバッグに絞った仕様の“バガー”[…]
実は”ホンダエンジン”時代からの愛車だった マンセルがF1のパドックで乗っていたのは、ホンダのダックス70(CT70)でした。1988年モデルとも、1987モデルとも言われていますが、いずれにしろ当時[…]
イベントレース『鉄馬』に併せて開催 ゴールデンウィークの5月4日、火の国熊本のHSR九州サーキットコースに於いて、5度目の開催となる鉄フレームのイベントレース『2025 鉄馬with βTITANIU[…]
全日本、そしてMotoGPライダーとの違いとは 前回は鈴鹿8耐のお話をしましたが、先日、鈴鹿サーキットで行われた鈴鹿サンデーロードレース第1戦に顔を出してきました。このレースは、鈴鹿8耐の参戦権を懸け[…]
長島哲太×ダンロップ×CBR1000RR-R、2年目の戦いへ 2025年の全日本ロードレースの第1戦が4月20日にモビリティリゾートもてぎで幕を開けた。 ダンロップタイヤを3年計画でチャンピオンの座に[…]
人気記事ランキング(全体)
情熱は昔も今も変わらず 「土日ともなると、ヘルメットとその周辺パーツだけで1日の売り上げが200万円、それに加えて革ツナギやグローブ、ブーツなどの用品関係だけで1日に500万円とか600万円とかの売り[…]
正式発表が待たれる400ccオフロード/スーパーモト スズキは、昨秋のEICMA(ミラノショー)にて、新型400ccデュアルパーパスモデル「DR-Z4S」およびスーパーモトモデル「DR-Z4SM」を発[…]
660ccの3気筒エンジンを搭載するトライアンフ「デイトナ660」 イギリスのバイクメーカー・トライアンフから新型車「デイトナ660」が発表された際、クルマ好きの中でも話題となったことをご存知でしょう[…]
カワサキUSAが予告動画を公開!!! カワサキUSAがXで『We Heard You. #2Stroke #GoodTimes #Kawasaki』なるポストを短い動画とともに投稿した。動画は「カワサ[…]
止められても切符処理されないことも。そこにはどんな弁明があったのか? 交通取り締まりをしている警察官に停止を求められて「違反ですよ」と告げられ、アレコレと説明をしたところ…、「まぁ今回は切符を切らない[…]
最新の投稿記事(全体)
[1996] ゼファーχ(ZR400-G1):4バルブ化でパワーアップ 1996年3月20日発売 ネイキッド人気でしのぎを削るライバル車に対抗し、カワサキの空冷4気筒で初の4バルブとなるχ(カイ)が登[…]
日本を代表する3000m級の高峰絶景が楽しめる北アルプス山脈(飛騨山脈)。その雄大な北アルプス山脈の絶景が楽しめるのが、長野県小川村を横断する「小川アルプスライン」だ。約12kmにわたる全ルートとスポ[…]
1万4000人が詰めかけたブルスカ2025 山下ふ頭の特設会場は横浜ベイブリッジを臨む広大なもので、世界限定 1990台限りのアイコン コレクション「ファットボーイ グレイゴースト」のお披露目をはじめ[…]
『ヤングマシン電子版7月号』WEBマガジンの閲覧も読者プレゼント応募も”無料”! 現在、当サイトのトップページに掲載中の『ヤングマシン電子版7月号』において、豪華商品が当たる読者プレゼントを実施中だ![…]
Paceプロジャケット 豊富な安全装備と快適な着心地を高次元でバランスした、ワインディングやロングツーリングに最適なライディングジャケット。腕と肩のトリムには、スチールとプラスチックを組み合わせたコン[…]
- 1
- 2