
カワサキの「補助ブレーキを備えた鞍乗型車両」なる特許が今年1月に公開されている。普通バイクはエンジンブレーキまたはリヤブレーキで後輪を減速するが、これにもうひとつの選択肢を用意しようということらしい。駆動軸からドライブチェーンなどを介して減速力を伝えるという意味では、電磁式エンジンブレーキと言えなくもない……?
●文:ヤングマシン編集部(ヨ)
エンジンの出力軸に作用する補助ブレーキで、車体姿勢の乱れを抑制する
走行中のバイクを減速する手段は大まかに言ってホイールに作用する前輪ブレーキと後輪ブレーキ、そしてエンジンの回転抵抗を用いて後輪に作用するエンジンブレーキの3つだ。大きな制動力を生む前輪ブレーキ、車体を安定させる後輪ブレーキ、そしてクルージング時などのゆるやかな速度コントロールに向くエンジンブレーキ(レースなどでは後輪を可能な限りロックさせずに減速する手段のひとつとしても使われる)である。
ほとんどのライダーはこれらを使い分けながら減速を行うが、ライディングにおいてもっとも難しい場面と言われる『減速~ターンイン』の一連の流れにおいて、ブレーキリリースのタイミングで悩むライダーは少なくない。
最もテクニックの差が出るのがブレーキング~ターンインの場面。マシン開発も、この部分の挙動を安定させることに心血が注がれるという。写真はスーパーバイク世界選手権を走るカワサキのエースライダー、ジョナサン・レイ選手。
街中の一般的な速度域であれば、ブレーキのかけはじめは難しくない。アクセルを戻してエンジンブレーキを発生させ、リヤブレーキ~フロントブレーキの順に入力して減速していく。しかし、そこから例えば交差点を曲がる際などであっても、車体の挙動をまったく乱さずにブレーキレバー/ペダルをリリースしていくのは、簡単なことではない。
これがスポーティな走行になれば、前後ブレーキの扱いがさらに難しくなっていくのは、数々のライディングテクニック記事などでもおなじみだろう。コーナーの入り口においてフロント荷重を逃さず倒し込みに移行していく場面は神経を使う。特に、フロントブレーキを一気にリリースしてしまうとフロントフォークが伸び上がり、フロント荷重が不十分になる。
そんなときの挙動変化を抑制しようというのが、この出願特許による補助ブレーキだ。
構造は意外とシンプルで、既存のエンジンに追加で搭載することもできるこの“補助ブレーキ”は、電気を流すと制動力が発生する電磁ブレーキを基本に考えられているもの(逆に電流が止まると制動力が発生するタイプなども考慮はされている模様)で、ドライブ軸と同軸にマウントすることでドライブ軸そのものを減速する。
この補助ブレーキは、ホイールを減速する前後ブレーキに対しフロントフォークやスイングアームに与える影響が小さく(ここはエンジンブレーキと同様)、かつ電子制御らしく一定の挙動が発生したときに自動的に作動することで、ライダーが感じる“フィーリング低減を抑制”するのだという。わかりやすく言えば、挙動がとっちらからないとか、フロント荷重をなるべく逃がさないように作動する、ということだろう。
ドライブ軸に制動力を働かせるという意味ではエンジンブレーキと似た部分もあるかもしれないが、エンジンブレーキは回転の上下や選択したギヤによって減速成分が変化するし、また減速中のシフトダウン操作によっても荷重の変化が起こる。ゆえに、この“補助ブレーキ”のほうが挙動を安定させるのにより有効と言えそうである。
とはいうものの、おそらくライダーが補助ブレーキの作動を如実に感じることはないだろう。というか、一部の敏感なライダーしか作動に気付かないかもしれない。補助ブレーキは文字通り“補助”を目的としており、あくまでもコントロールユニットが必要と判断したときにのみ、“安定性を逃さないために作動”するからだ。作動条件はサスペンションのストロークセンサーやバンク角センサー、車速センサー、回転センサー(おそらくエンジンの)によって決定されるという。
これ、テンアールじゃないのさ。
ちなみに、カワサキの特許出願図にはニンジャZX-10Rと思われるマシンの図版が使われていることから、補助ブレーキは街中などの走行よりもスポーツ走行やレースをターゲットにしたものと思われる。となれば、MotoGPにおいてドゥカティがエンジンブレーキの制御でアドバンテージを得ていると言われているが、もしかしたらカワサキはスーパーバイク世界選手権においてこの補助ブレーキを武器にしていくのだろうか。ドライブ軸におけるマイナス方向の駆動力をコントロールしようという点では、エンジンブレーキの電子制御と似た効果が生まれるに違いない。
カワサキが実際に市販車に補助ブレーキを採用する日は来るのか、それとも様々あるアイデアのひとつとして検討されたにすぎないのか。いつの日かの答え合わせに期待したい。
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