アイザワグループの無人航空機開発会社、アラセ・アイザワ・アエロスパシアル合同会社(AAA、本社静岡県浜松市、共同代表:會澤 祥弘、荒瀬 国男)は、条件次第で6時間以上もの航行を可能とする998ccエンジン搭載の超無人機「AZ-1000」を開発。10月26日から『第5回名古屋ロボデックス』にて実機を初公開するぞ!
●文:ヤングマシン編集部(ヨ) ●外部リンク:アラセ・アイザワ・アエロスパシアル
開発したのはスズキ育ちのエンジニア
内燃エンジンを搭載したドローンこそが未来を切り拓くのか? そう思わずにはいられない無人航空機が公開される!
アイザワグループの無人航空機開発会社、アラセ・アイザワ・アエロスパシアル合同会社(以下AAA)は、最大積載重量150㎏で航続時間2時間以上、無積載時では6時間以上の航行を可能とする、998cc並列4気筒エンジン搭載のドローン「AZ-1000」を開発。これを10月26日~28日にポートメッセなごやで開催される『第5回名古屋ロボデックス』に持ち込み、実機を初公開する。
公式リリースによれば、アラセ・アイザワ・アエロスパシアルは、會澤高圧コンクリート代表の會澤祥弘さんとスズキの隼やGSX-Rエンジン開発を手掛けたエンジンデザイナー荒瀬国男さんが共同代表を務める無人航空機開発会社である。
同社は2021年10月には先行開発機の「AZ-500」を公開し、自立型の「空飛ぶ産業ロボット」を目指すとしていたが、この機体に搭載していたのは、「高性能二輪エンジン技術を応用した」油冷式500ccエンジン──。
二輪車で油冷式エンジンと言えばスズキである。でも、500ccの油冷エンジンなど聞いたことがない。これはどういうことか知りたいぞ!
……というわけで、さっそくAAAにコンタクトを取り、開発者の荒瀬国男さんに詳細を伺うことに。
のっけから驚いたのは、前回発表したAZ-500が搭載する油冷エンジンとは、ジクサー250の主要部品を2個使ったものだという。我々のようなバイク乗りに分かりやすい言葉で言う二丁掛け……ということでもないらしく、無振動化するための工夫を施したものだ。
そして荒瀬さんは、「ジクサー250は私がスズキを退職する前に開発した新油冷エンジンでして」と仰った。あー、なるほど納得です。
そしてその流れで、新機体のAZ-1000に搭載しているエンジンはと聞くと、これもやっぱり主要部品はスズキの純正部品を購入し、無人機用に主にトランスミッションとクランクケース・カバー類を新作したものだという。
“主要部品”とは、今回のAZ-1000ではピストン/クランク系/動弁系/吸気系部品と電装品を指すとのこと。ところで、このエンジンの諸元は998cc/150psと、どこかで聞いたことがあるような数値だなと思っていたら、GSX-R1000(K5)系から発展した最新のGSX-S1000のものがベースだそう。2001年のGSX-R1000は荒瀬さんが開発したことから思い入れがあり、また超小型軽量高性能のエンジンは“超無人機”にぴったりというわけだ。
無人機を超えた異次元の無人機、それが「超無人機」だ!
2021年に発表した「AZ-500」を大幅に高出力化した新型「AZ-1000」は、低燃費、無振動、高い動力性能を備えた高性能二輪エンジン技術をベースに、エンジン本体から4本の腕を伸ばし直動でローターにエネルギーを伝える「空飛ぶエンジン」という発想をもとに開発されている。AAAは、「高出力ながら圧倒的な小型軽量化に成功し、異次元の性能目標を達成した」としている。
搭載するエンジンの名は「國男」。メイドインジャパンで世界最高水準の性能を誇る二輪車用エンジン技術を応用した小型・軽量・高出力の無人航空機専用エンジンであり、二軸二次バランサーを搭載することで低振動化を図るとともに、特許出願中のトランスミッション設計により、高出力化と機体のさらなる小型化を同時に実現する。世界一を目指すニッポン男児の気概を示すため、エンジン開発者の名前から『國男』(登録商標)と命名されたものだ。
このエンジン、前述のようにGSX-S1000の主要部品を使用しているが、「ピストンやコンロッドの重量を測定して、2軸2次バランサーを最もコンパクトに収まるよう設計したのが特徴です」と荒瀬さんは言う。
エンジンから4本の腕を伸ばしたような構造のフレームは、バイクのフレーム構造と全く同じ考え方、つまりエンジンを剛性の中心に据えて、これにサスペンションなどを繋いでいくのと同じように、アーム型のフレームを伸ばしている。
しかし、もっとも軽く高剛性にできる構造ゆえに、エンジンに振動があるとフレームやセンサー類にダイレクトに振動が伝わってしまい、さまざまな弊害が出るそうだ。
さらに詳しく聞くと、「特にIMU(姿勢センサー)に頼って機体の姿勢制御を行う無人機においては、エンジン振動が小さいことは2輪車以上に強く求められます。そのため、スズキ時代に振動対策なども手掛けた経験を生かして、2次振動を完全になくすバランサー構造を採用しました。元のGSX-R1000では1軸2次バランサーを採用していましたが(その軸配置も当時私が提案したものでしたが)1軸ではエンジンが前後に回転する方向にかなり振動が残るということを知っていましたので」とのこと。
また、特許出願中のトランスミッションについては、「バイクと同じ横置きのクランクの回転を、放射状のドライブシャフトの回転に変えるために、ベベルギヤを複数使った少々複雑な構造になっています。そして4気筒エンジンはスロットルボディーなど吸気系部品の幅が広く、特にエアクリーナーを上手に避けてフレームを構成して、機体の高さを低くするために、ファイナルドライブシャフトを2本に分けたところが特許出願のポイントです」と説明していただいた。
強みは“超”長航続時間、“超”大積載量、“超”小型軽量だ!
『超無人機』は、無人機の産業利用に欠かせない3つの性能要件、(1)長航続時間、(2)大積載量、(3)小型軽量をすべて“超”級で満たしている。
この先あらゆる産業領域におけるさまざまな要求に応えるべく開発されたが、アイザワグループではすでに2つのプロジェクトでこの「超無人機」を活用するプロジェクトの開発に着手している。
1つ目は、福島県浪江町と共同で「AZ-1000」を使った防災支援システム「The Guardian」の社会実装プロジェクトだ。AZ-1000が強風・降雨のさなかでも自律航行しながら連続5時間にわたって海岸の映像を上空からスマホにライブ中継することにより、報道ヘリや自衛隊のヘリが駆けつける前に、住民一人ひとりに適切な避難行動を促すため開発を進めている。
そして2つ目は、洋上風力発電グリーンアンモニア製造艦「GAPS」の実証機開発プロジェクト。洋上風力発電の風車を支えるコンクリート構造体の製造にAZ-1000を活用する計画で、コンクリートを射出するノズルを機体に取付け飛行しながらコンクリートを積層して構造物を製造するFlying 3D Printerとして開発を進めている。
これらに加え、利用の可能性がある、もしくは想定している分野はあるのでしょうか? という問いに対しては、下記のようにお答えいただいた。
「リリースに載っている二つは會澤高圧コンクリート社内のプロジェクトですが、AZシリーズは基本的には「どんな産業にでも使える」ことを前提として開発しています。私としては、まず人命救助など直接的に人の役に立つことに使ってもらいたいと思っていまして、自衛隊や消防署などで活用してもらえたらいいなと思っています。実際にそういった方面からの引き合いも来始めています。
現状のバッテリードローンと比べてガソリンエンジン機は、私の計算では(機体重量・積載重量などを同条件とすると)約11倍の航続時間が得られますので、「本格的な仕事」に使うには当面はエンジン機しかないと思っています」
環境問題について内燃機関が置かれている状況については下記のように語ってくれている。
「昨今はガソリンエンジンというと言うと『環境に悪い』と思い込まされている方が多いのですが、それは欧米や中国による日本潰しだろうと私は思っています。
特に絶対数の少ない無人機の世界では、環境問題など存在しないし、むしろ最も効率よく仕事が出来る構造を採用するべきだと考えています。
それには小さくて軽くて馬力がある「2輪の技術」を応用するのが最も適しているのです。重い4輪のエンジンではなく、燃費が悪くて耐久性がなくて高価なジェットエンジンでもなく。
強いて環境について言うならば、人が乗るヘリコプター(中型機)の燃費が400L/hほどらしいですが、AZ-500は空荷(カメラ程度搭載)で8L/h程度です。
すなわち、同じ時間飛んだ時のCO2排出量は、ヘリのおよそ50分の1でしかないのです。AZシリーズが活躍するようになるとヘリコプターの飛行時間は大幅に減りますので、結果、環境にかなり良いでしょう」
目指すは2輪技術で世界一になること!
最後は力強い言葉で締めくくっていただいた。
「世界一のエンジン製品を開発することで、2輪エンジンの技術がエンジンの世界でぶっちぎりであることを世に知らしめて、世界中の人々の役に立つことで、すべての2輪技術者や2輪ファンの夢になることもイメージして開発しています。2輪ファンの期待を勝手に背負って第二の人生頑張っています(笑)。
今回開発しているAZ-1000は十分そんな夢になり得る企画ではないかと思っています」
すでに名古屋の現場では会場がザワついているとのこと。バイクの技術が世界を変えていくのなら、我々バイクファンにとってもこんなに嬉しいことはない。
アラセ・アイザワ・アエロスパシアルについて(公式リリースより)
會澤高圧コンクリート代表の會澤祥弘とスズキのオートバイ隼・GSX-Rエンジン開発を手掛けたエンジンデザイナー荒瀬国男が共同代表をつとめる無人航空機開発会社。コンクリート製品の製造に無人機を活用したいと考える會澤とオートバイで培ったエンジン技術を無人機に活かしたいと考える荒瀬が意気投合し、2020年8月に静岡県浜松市に設立した。エンジン、機体、プロペラ全て自社で設計・開発し、日本のものづくり技術を結集した純国産無人機で世界一を目指す。
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