総決算として、バイクライフ最後の1台を選ぶとしたら…。ホンダの新型 ホーク11がコンセプトとして掲げた“上がりのバイク”は、人それぞれ、バイクへの考え方がモロに露出する正解のない概念だろう。…というわけで、2輪業界の様々な識者たちに質問してみた。「アナタにとっての“上がりバイク”を教えて下さい!」本記事では伝説的レーサー・原田哲也さんに”上がりのバイク”を伺った。
●文:ヤングマシン編集部(伊藤康司) ●写真:真弓悟史
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老いてからも乗り続けられる1台を:ホンダ スーパーカブ
僕の場合、「最後に所有していたいバイク」と、「最後まで乗っていたいバイク」がある。
所有していたいのは、僕が世界グランプリ250ccクラスでチャンピオンになった、’93年のヤマハTZ250Mだ。現役時代のあれこれに基本的には執着がないが、あのマシンはやはり手元に置いておきたい。
自分のグランプリ生活に一片の悔いなし…とまでは言えない。細かいことを思い返せば、「ああすればよかった」「こうすればよかった」と反省することばかりだ。
だが、世界タイトル獲得という目標に向けてレースを続け、自分なりのやり方でその目標を叶えたのは確か。TZ250Mは、自分が人生を懸けてやってきたことの証のような、特別な存在だ。このマシンで世界チャンピオンになれたからこそ、今の自分がいるのだから、やはり思い入れがある。
「TZ250Mを所有したい」という願いはたぶん叶わないが、「上がりバイク」と聞いて真っ先に思い浮かんだ。
「最後まで乗っていたいバイク」は、スーパーカブだ。今、僕は52歳。まだまだ体は動くが、現役時代に比べれば間違いなく老いているし、残念ながらこれから若返ることもない(笑)。老いる一方だ。でも、バイクには生涯にわたって乗り続けたい。
僕には目標とする人がいる。それはSP忠男の鈴木忠男社長──忠さんだ。ノービス時代にお世話になった忠さんは、今も現役バリバリのライダー。サーキット走行会に誘えば喜んで来てくれるし、林道も一緒に走る。
忠さんは77歳。走りのキレ味は相変わらず鋭くて、オフ車やビッグバイクを操る姿は、年齢をまったく感じさせない。自分がその域にまでたどり着けるかは分からないが、忠さんは憧れの存在であり、僕の師匠だ。
でも、「上がりバイク」となると、忠さんよりもっと先、80歳、90歳をイメージする。
「老い」とどのように向き合うかは、人それぞれだと思う。自分の老いを認めずに頑張ってトレーニングして、ビッグバイクに乗り続けることを目標にする人もいるだろう。
僕は、自然派。どんなに頑張っても目も反射神経も筋力も衰えていくのだから、そんな自分を受け入れながら、それでも毎日乗れるバイクを選びたい。ギヤチェンジはしたいから、そうなるとやはりスーパーカブだ。
やがて孫ができて、「おじいちゃん、バイクは危ないからやめてよ」なんて言われる日が来るかもしれない。でもスーパーカブなら、「これならいいか」と許してもらえるんじゃないか、という希望もある(笑)。
バイクには、乗る/いじる/集める/眺めるなど、いろいろな楽しみ方がある。そして人に迷惑さえかけなければ、バイクとはどんな付き合い方をしてもいいと僕は思っている。
僕自身のバイクの楽しみ方はものすごくハッキリしている。僕はとにかくバイクに乗っていたい。本当に気持ちいいし、いつでもどこでも楽しい。
今は、トライアルをやったりしながら「思い通りにならないバイクをどう操るか」と、自分が習熟することに喜びを感じている。でも、もっと年を取ったらそんな欲もなくなって、本当にただ乗っているだけでいい、という境地に達する気がする。それはそれで、いい付き合い方なんじゃないかと思う。僕は、老いを楽しみたい。
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