自工会発行「埼玉県三ない運動見直しの記録」から、埼玉県が三ない運動を撤廃した際の流れについて振り返る。埼玉県の教育委員会(以降、県教委)は、かつて指導要項に三ない運動を取り入れていた。全県的に三ない運動を推進しているような自治体では参考になることだろう。
●文:ヤングマシン編集部(田中淳磨)
県議会での質問/答弁から
三ない運動の撤廃は、埼玉県議会(’16年9月定例会・10月4日)における松澤正議員(自民党)の一般質問から始まった。
「本県では’70年代、増え続けるバイクによる暴走行為に対する指導として始まった高校生にバイクの免許を取らせない/買わせない/乗らせないという、いわゆる”三ない運動”を推奨しています。(中略)しかし、’70年代当時と今とでは社会情勢も大きく変わっています。確かにバイクの事故に伴うリスクとしての本人のけが、事故被害者の補償等は高校生にとっても一生の負担となるため、高校生をバイクに乗せることに不安を感じるというのも理解できます。しかしながら、法で免許を取得可能となる年齢に達した者に免許を取らせないという指導は、在学中だけバイクを遠ざけることでリスクを回避するという”ことなかれ”的指導と受け取ることもできるのではないでしょうか。高校卒業後も生涯を通じて交通社会に生きる高校生にとって、真に役立つものなのか疑問であります。(冒頭抜粋)」
このように切り出し、三ない運動が「結果として道路交通法や安全運転を学ぶ機会を奪うことにつながっているのでは?」と述べ、いま真剣に議論すべきとした。松澤議員は元教員であり、教育現場を知る者の視点として、三ない運動の弊害について問うた形だ。これに対して、関根郁夫埼玉県教育長(当時)はこう答弁した。
「(前略)この運動を始めてから35年が経過し、交通網や社会情勢など、高校生を取りまく情勢は大きく変化しております。また、選挙権年齢が18歳以上に引き下げられるなど、高校生の自立を促すことが求められております。在校中のみならず、生涯を通じて交通事故の当事者にさせないためには、発達の段階に応じた交通安全教育を積み重ねるとともに、高校生においても、交通安全について自ら考えさせることが大切であると考えております。今後の三ない運動については、関係者等を入れた検証組織を立ち上げ、これまでの自動二輪車等に関する生徒指導について幅広く検証するとともに、この運動のあり方について検討してまいります」
松澤議員の問いかけと関根教育長の答弁により、三ない運動が検証されることになった。県教委は、検証に関して外部有識者に委ねる必要性を感じ、検討委員会を立ち上げた。当時の担当者は「選挙権年齢の引き下げが大きなきっかけだった」と語っている。また、「生徒の自立を促す教育を進める一方で、運転免許は禁止では説明がつかない」という意見もあり、検討委員会に協議を諮って今後のあり方を探ったという。こうして三ない運動が徹底検証されていき、その結果、撤廃という結論に至ったのだ。
検証を行った理由/社会情勢の変化
- 現行指導要項の施行から35年が経過し、道路の整備向上など交通環境が大きく変化しており、交通事故は大幅に減少した。
- 暴走行為を行う青少年が大幅に減少した。
- ’16年6月から、選挙権年齢が18歳に引き下がった=高校生が自ら考えて判断する自主/自律の教育が強く求められている。
- 関東では埼玉県だけが三ない運動を実施しており、全国的にも三ない運動を推進する教育委員会は少ない状況になった。
埼玉県の三ない運動撤廃までの主な流れ
- ’16/10/04:県議会で一般質問と答弁→教育委員会で検討/検証
- ’16/11/16:検討委員会委員への就任要請(生徒指導課長より)
- ’16/11/24:稲垣具志助教(当時)へ委員就任依頼(教育長より)
- ’16/12/01:「高校生の自動二輪車等の交通安全に関する検討委員会設置及び運営要項」発出
- ’16/12/16:県教委Webサイトで検討委員会開催を告知
- ’16/12/20:検討委員会での配布資料準備完了
- ’16/12/21:第1回検討委員会の開催
- ’17/01/24:第9回検討委員会を開催→終了
- ’17/02/16:検討委員会報告書まとまる
- ’17/02/20:報告書を教育長へ提出
- ’18/09/11:新指導要項を教育長が決裁
- ’18/09/25:新指導要項を制定→報道発表
- ’19/04/01:新指導要項が施行
『埼玉県 三ない運動 見直しの記録』
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