パンアメリカ&スポーツスターSは最新水冷エンジン搭載

スポーツスターS ついに発売! 最新世代の水冷ハーレーまでには40年の歴史があった【歴代解説】

新設計の水冷Vツインを積む大型アドベンチャー「パンアメリカ」のリリースに続き、同系統エンジンを搭載する「スポーツスターS」も登場、一気に水冷エンジンのラインナップ拡充を進めるハーレーダビッドソン。100年以上も拘り続けてきた空冷45度Vツインのイメージが強烈な同社ではあるが、実は過去に何度も水冷エンジンにトライしている。その真打ちとなりそうな“レボリューション・マックス”が登場した今、その歴史を振り返ってみよう。

●文:ヤングマシン編集部

水冷H-Dその① V4搭載! ノバ・ツーリング[1981]

世界GPに参戦していた’70年代の250cc/350ccレーサー(伊アエルマッキ製の水冷2ストを搭載)などを除けば、“水冷ハーレー”として現存する最古の車両は1981年に作られたプロトタイプ車「ノバ・ツーリング」だ。日本製高性能車への対抗策として進められていた「ノバ・プロジェクト」から生み出された1台で、1000ccの水冷V4エンジンを搭載していた。

エンジン設計は西ドイツ(当時)のポルシェが担当しており、このV4を2分割したV2や、+2気筒のV6といったモジュラー化を想定していたと言われる。今見ると、空冷と見紛う立派な冷却フィンや、シート下に置かれて見えないラジエター(冷却風はフロントカウルのダクトから取り入れる)など、水冷であることを極力隠すような仕立てとされている点が興味深い。

当時、ハーレーのエンジンは通称ショベルヘッドの時代。この後、1984年に新世代の空冷45度Vツイン“エボリューション”が発表されるのだが、少し歴史の歯車がズレていれば、ハーレーはここで水冷化されていたのかもしれない!?

HARLEY−DAVIDSON NOVA TOURING[1981]

HARLEY−DAVIDSON NOVA TOURING[1981]ポルシェが設計に関わった水冷V4エンジンを搭載。現車はハーレーの本拠地・ウィスコンシン州ミルウォーキーにあるハーレーダビッドソンミュージアムに展示されている。 [写真タップで拡大]

HARLEY−DAVIDSON NOVA TOURING[1981]

HARLEY−DAVIDSON NOVA TOURING[1981]弁形式はOHCの2バルブ。ヘッドやシリンダーには立派なフィンが刻まれるうえ、ラジエターはシート下に配されるため、一見して水冷には見えない。 [写真タップで拡大]

HARLEY−DAVIDSON NOVA TOURING[1981]
HARLEY−DAVIDSON NOVA TOURING[1981]

HARLEY−DAVIDSON NOVA TOURING[1981]巨大なカウルにはダクトが設けられ、シート下のラジエターに走行風を送り込む。余談だが、1983年に登場したFXRTスポーツグライド(右)は、このノバ・ツーリングのカウルを転用したとされる。 [写真タップで拡大]

水冷H-Dその② 打倒ドカ! ホモロゲモデルVR1000[1994]

エボリューションの発表からちょうど10年後の1994年。ハーレーは4気筒750cc以下、2気筒1000cc以下というレギュレーションで争われていたスーパーバイク選手権への参戦を発表、そのホモロゲーションモデルとして発表されたのがVR1000。ノバに続く2代目の水冷ハーレーだ。

エンジンはDOHC4バルブヘッドを備えた995ccの水冷60度V2で、キャブレターが主流の時代に燃料噴射を採用して135hpを発揮。これを見るからに頑強なアルミツインスパーフレームに搭載する。当時、排気量の利を生かしてスーパーバイクレースを席巻していたドゥカティLツイン、851/888系を標的に据えた完全なレーシングマシンだった。

まずレースバージョンを発表したVR1000はその後、AMAスーパーバイク選手権のホモロゲーションに必要な50台のストリート仕様を生産。これを諸規制の緩かったポーランドで販売したとされる(実際に販売されたかどうかは諸説あるが、公道仕様のVR1000は現存する)。市販車と言うにはやや苦しい台数であり、そういう意味ではノバ・ツーリングに近い立場かもしれない。

「高性能車と渡り合えるハーレー」への再挑戦だったVR1000は、1994年から2001年までAMAスーパーバイク選手権に都合8シーズン参戦。ドゥカティLツインや国産4気筒勢を相手に戦ったものの、結果的には一度も勝利を収めることはできなかった。しかし、ここで培われた技術が次なる水冷ハーレーに生かされることになる。

HARLEY-DAVIDSON VR1000[1994]

HARLEY-DAVIDSON VR1000[1994]「オールアメリカン」を標榜し、当初はペンスキーのショックやウィルウッドの前後キャリパーなど、アメリカ製パーツを多用していたVR1000。後にオーリンズやブレンボ、ショーワといった当時のレース定番パーツに変更。 [写真タップで拡大]

HARLEY-DAVIDSON VR1000[1994]

HARLEY-DAVIDSON VR1000[2001]マイク・スミスが駆ったワークス参戦最終年のレーシングバージョン。VR1000は車体右半分がオレンジ、左半分が黒という独特の塗色も特徴。 [写真タップで拡大]

水冷H-Dその③ 初の水冷エンジン市販車・V-ROD[2001]

ノバ・プロジェクトから20年を経た2001年に発売されたのが、水冷ハーレーとして初の一般市販モデルとなるVRSCA V-ROD。当時、パフォーマンスを追求してエンジンにまで手を入れたハーレーカスタムが増殖していたことを受けて開発された、ドラッグレーサーイメージの高性能クルーザーだ。

そして、このV-RODが搭載していた新エンジン“レボリューション”こそ、基本設計をVR1000から引き継いだものだった。DOHC4バルブヘッドを持つ水冷60度Vツインというアウトラインは同一で、排気量はVR1000の955cc(ボア✕ストロークは98✕66mm)から1131cc(同100✕72mm)へと拡大、当時のクルーザーとしてはかなりの高出力となる115psを8500rpmで発生していた。

ハーレーは1999年に、エボリューションの後継となる空冷エンジン“ツインカム88”を登場させたばかり。その2年後に現れた水冷のレボリューションは、20年来の宿願だった「高性能ハーレー」がついに形になったものと言える。空冷系ほどの人気は得られないまま2017年に生産を終了してしまったものの、高回転域の豪快極まりない加速力とハーレーらしい低中回転の鼓動感を併せ持った、非常に痛快なエンジンだった。

HARLEY−DAVIDSON VRSCA V−ROD[2001]

HARLEY−DAVIDSON VRSCA V−ROD[2001]スチール製パイプフレームに複雑な曲げ加工を施すため、水圧によるハイドロフォーミング工法を用いたり、ほとんどの部位をアルミ製とし、その素材感を生かすアルマイト仕上げとした外装類など、各部の凝った仕上げもV-RODの特徴だった。 [写真タップで拡大]

HARLEY-DAVIDSON "REVOLUTION"
HARLEY-DAVIDSON "REVOLUTION"

HARLEY-DAVIDSON “REVOLUTION” ダウンドラフトの吸気系や直打式のDOHC4バルブ、そして水冷機構など、高回転高出力エンジンの方程式に沿った設計を持つレボリューションエンジン。2007年には5mmのボアアップで排気量を1247ccに拡大する。 [写真タップで拡大]

HARLEY−DAVIDSON VRSCA V−ROD[2017]
HARLEY−DAVIDSON VRSCA V−ROD[2017]

V-ROD系の最終型となった2017モデル。左は各部のブラックアウトが特徴のVRSCDXナイトロッドスペシャル。右は左右出しマフラーやインテークダクト、裁ち落としたようなテールセクションを持つVRSCF V-RODマッスル。 [写真タップで拡大]

水冷H-Dその④ 空冷にしか見えない! ツインクールド[2014]

アメリカ国内での制限速度の上昇や排気ガス規制への対応策として、年々排気量を増大させていた空冷ビッグツイン系。その弊害としてエンジンの放熱量も増え続けており、1689ccに達した“ツインカム103”では、夏場のライディングなどには少々厳しいレベルにまで達していた。

その放熱量を抑えてライダーの快適性を高めるために投入されたのが、シリンダーヘッドだけを水冷化した「ツインクールド」という新機構。「プロジェクト・ラッシュモア」と命名された、2014モデル(登場は2013年)のツーリングファミリー大改良における目玉メカニズムだった。採用されたのは同ファミリーの最上位機種・ウルトラリミテッドと次点グレードのエレクトラグライド・ウルトラクラシック、さらにファクトリーカスタムであるCVOリミテッドで、左右のロアフェアリング内にラジエターを分割して配置する。

そのため、ラジエターは外から全く視認できず、しかもシリンダーヘッドには冷却フィンが残されているため、外観上は空冷エンジン車と区別がつかない点も興味深い。このツインクールド機構は2016年に登場した4バルブの新エンジン“ミルウォーキーエイト”にも引き継がれ、現在もツーリング系のトップモデルに採用されている。

FLHTK TC ULTRA LIMITED
FLHTCU TC ELECTRA GLIDE ULTRA CLASSIC

ツインクールドを搭載するFLHTK TC ULTRA LIMITED(左)とFLHTCU TC ELECTRA GLIDE ULTRA CLASSIC(右)。プロジェクト・ラッシュモアにより、2014モデルのツーリングファミリーはフレームやサス、前後連動ABSの採用をはじめ、エンジン系やカウリング、オーディオ類など、ほぼ全ての部位に快適性を高める変更が加えられている。 [写真タップで拡大]

ハーレーダビッドソン ツインクールド

2つのラジエターはライダーの足元にあるロアフェアリングに収められる(ので、ロアフェアリングを持たない車両は空冷のまま)。エンジンのヘッドから下は空冷と共通で、冷却水は電動ポンプにより循環。電動式の冷却ファンも備えられている。 [写真タップで拡大]

ハーレーダビッドソン ツインクールド
ハーレーダビッドソン ツインクールド

ロアフェアリングには直接エンジンに走行風を当てるダクトを配置したり、ライダーにラジエターの熱気が当たらないような工夫も施す。冷却水は最も高熱となる排気バルブのバルブシート周辺を取り囲むように通過する。ツインクールドの採用により、圧縮比は空冷モデルの9.6→10にアップ(CVOリミテッドは9.2)。 [写真タップで拡大]

水冷H-Dその⑤ 若者向けクルーザー・ストリート500/750[2015]

高級車ゆえの悩みとして、購入者の平均年齢が年々上昇していたハーレーダビッドソン。その状況を打破すべく、30代以下のライダーの嗜好を徹底的にリサーチした結果「足着きがよく、市街地を軽快にキビキビ走れる」新世代のハーレーとして2014年に登場、2015モデルとして発売されたのがストリート500/750だ。

エンジンは新開発の“レボリューションX(エックス)”で、その名称からも分かるように、V-RODのレボリューション系と同じ60度のバンク角を持つVツイン。排気量は69✕66mmのボア✕ストロークを持つ494cc版(日本へは未導入)と、ストロークはそのままボアを85mmまで拡大した749cc版の2本立て。「渋滞した市街地でも安定した性能を発揮するため、水冷機構を導入した」とハーレーはアナウンスしている。

このレボリューションXはハーレーらしい鼓動感こそ薄いものの、低〜中回転域で発揮される鋭いアクセルレスポンスが自慢で、小柄な車体とも相まって市街地でのダッシュ力は思わず目を見張るほど。“街中最速のハーレー”を名乗るに相応しい出来だった。2016年には倒立フォークを採用し、出力特性を高回転寄りとした「ストリートロッド」も登場するなどバリエーションを拡大するが、2020年モデルを最後に、わずか6年でレボリューションX系はラインナップから消滅している。

HARLEY-DAVIDSON STREET750[2015]

HARLEY-DAVIDSON STREET750[2015]654mm(荷重時)という低いシート高や前17/後15インチのタイヤ径、さらに装備で222kgという当時のハーレー最軽量となる車重など、独自の構成を備えていたストリート750。ビキニカウルを含む全体のデザインはハーレー唯一のカフェレーサー・XLCRをオマージュしたもの。 [写真タップで拡大]

HARLEY-DAVIDSON STREET750[2015]
HARLEY-DAVIDSON STREET750[2015]

DOHCだったV-RODと異なり、4バルブながらSOHCとなるレボリューションX。2016年に登場したストリートロッド(右)ではポートやカムプロファイル、吸排気系変更などで出力をアップ。車体もキャスター角を32→27°へと起こしつつ、倒立フォークや前後17インチラジアル、リザーバータンク付きリヤショックなどで大幅に強化された。 [写真タップで拡大]

水冷H-Dその⑥電動だけど水冷! ライブワイヤー[2019]

メジャーな2輪メーカーとしては世界初の市販電動スポーツバイクとなるライブワイヤー。リッターバイクに匹敵する0-100km/h加速3.0秒という速さも注目だが、リチウムイオンバッテリー下に配されるモーターをあえて縦置きして、出力軸の向きを90度変換するベベルギヤを設け、独特のメカニカル音を聞かせるなどハーレーらしいフィーリングの作り込みも特徴だ。

“レベレーション(Revelation)”と名付けられ、最高出力105hp、最高回転数15000rpmを発揮するライブワイヤーのモーターだが、実はウォータージャケットを持つ水冷で、車体前面には小型ラジエターも備えられている。エンジン車でこそないものの、実は水冷ハーレーの仲間なのだ。

HARLEY-DAVIDSON LIVEWIRE[2019]

HARLEY-DAVIDSON LIVEWIRE[2019]前後17インチのミシュラン製ラジアルタイヤやショーワの高性能サスペンション、ブレンボのラジアルマウントキャリパーなど、SSにも匹敵する足回りを持つライブワイヤー。1回のフル充電で最大235kmの航続距離を持つ。5月には”ライブワイヤー”という名を電動バイクブランドとして独立させることも発表された。 [写真タップで拡大]

水冷H-Dその⑦ 真打ち!? パンアメリカ/スポーツスターS[2021]

ハーレーが初のビッグアドベンチャーに挑んだのが発売されたばかりのパンアメリカ1250。“レボリューション・マックス”と名付けられたDOHC4バルブの60度Vツインはストレスメンバーとして車体の一部を兼ねる構造で、クランクピンを30度位相させて90度V2と同じ爆発間隔を得るほか、吸排気両側の可変バルタイ機構や1次/2次のバランサー機構など、ハーレーのエンジンとは思えないようなメカニズムが投入されている。

さらに7月、ハーレーはこのレボリューション・マックスを搭載したボバータイプのクルーザーを「スポーツスターS」の名称で発表した。1957年の登場以来、4本のカムシャフトを持つ空冷45度Vツインとイコールの存在だったスポーツスター系はここ数年、生産終了がまことしやかに噂されてきた。しかしスポーツスターSの登場により、水冷へと世代交代することが確定的になったと言えよう。

この2台の新世代ハーレーは“ついに水冷の真打ち登場か!”と感じさせる、高い完成度や凝ったメカニズム、そして魅力的なルックスを有している。歴代の水冷ハーレーは、その実力に反してどうしてもマイナーなイメージがつきまとってしまう存在だが、レボリューション・マックスはそうした風評を吹き飛ばしてくれそうな勢いが感じられる。今後はどんな展開が控えているのか、ハーレーの“真・水冷“の今後を楽しみにしたい。

HARLEY-DAVIDSON PAN AMERICA1250 SPECIAL[2021]

HARLEY-DAVIDSON PAN AMERICA1250 SPECIAL[2021]ハーレー初のアドベンチャーモデルとなるパンアメリカ。上位モデルのスペシャルは、停止時に車高を下げて足着き性を高めるアダプティプライドハイトを世界初装備する。 [写真タップで拡大]

HARLEY-DAVIDSON PAN AMERICA1250 SPECIAL[2021]

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ハーレーダビッドソン レボリューションマックス
ハーレーダビッドソン レボリューションマックス

105✕72.3mmのボア✕ストロークから1252ccを得るレボリューション・マックス。パンアメリカ用で152ps、スポーツスターS用で121psを発揮する。クランク/メイン/カウンターの3軸を同一面上に並べず三角形に配置し、前後長を短縮したスーパースポーツ用エンジンのようなレイアウトも特筆点。今後、排気量も含めて様々な仕様が展開されていくはずだ。 [写真タップで拡大]


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