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新世代の空冷シングルマシンとして’21年4月に発売されて以降、爆売れ状態の続くホンダGB350。若年層の支持をも集めるニューフェイスに対して、もっとも比較されるであろうネオクラシック系モデルがヤマハSR400だ。排気量が近く、ともにシングルエンジンを搭載する両車、その魅力の違いはどんなところにあるのか? 両マシンのディテール比較に続き、ヤングマシンメインテスター丸山浩氏が公道にて比較試乗を行なった。
【テスター:丸山 浩】長年にわたり『ヤングマシン』誌のメインテスターを担当。全日本などで活躍してきたレーサーとしても知られているが、実は2輪旅の経験も豊富だ。
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雑味のないパルス感のGB350。振動にレトロを感じるSR400
ヤマハのSR400は、’10年型での燃料供給インジェクション化、’19年型のキャニスター追加など、近年は数々の熟成を受けて環境規制適合化が続けられてきた。しかし’21年についにファイナルエディションが発売され、さすがに今度こそ復活するのは難しいのではないか…、という意見が多数を占めている。
SR400が根強い人気を誇りながらも生産終了となってしまう背景には、FI化をはじめとする変更を受けながらも、キックのみの始動方式にこだわる399cc空冷単気筒エンジンや、一部をオイルタンクとして使う鋼管フレームをはじめとする車体の基本部分を、’78年登場の初代からずっと受け継いできたことが、今となっては逆に大きな足枷となってしまったことも挙げられる。
現在のパッケージを大きく変更してレギュレーションに合致させても、既存のファンからは「そんなのSRじゃない!」なんて言われそうだし、かといってリヤドラムブレーキのままではABSの装着さえ難しい。このあたり、ヤマハの開発陣もきっとジレンマを感じていそうだが…。
まぁそんな背景を一旦抜きにして、単純にホンダGB350とSR400を乗り比べた場合、どのような違いやそれぞれの長所があるのだろうか?
(左)ホンダGB350 (右)ヤマハSR400ファイナルエディション
まずエンジンだが、GB350に感じる長所は徹底的に計算して築き上げられたサウンドとパルス感。シングルはどうしても振動が発生しやすいエンジン形式だが、不快な振動をほぼ消しながら、それでいてシリンダーでの爆発(正しくは燃焼)を一発ずつ感じられるような鼓動が演出されている。これ、簡単なことのように思えてかなり難しい。「ホンダってやっぱりスゴいよな」と思わざるを得ない。歯切れのよい排気音と雑味のない鼓動感。これがGB350の誇る最大の長所だ。
対してSR400は、エンジンをかけた瞬間から昔ながらの振動がある。これをネガと捉えるかどうかは、それぞれの価値観で変わるはず。ひとつの”味”として、あるいは現代まで受け継がれてきた本物のレトロさとして考えれば、アイドリングで小刻みに揺れる前輪の姿さえかわいく見えてくるはずだ。
排気量はSR400のほうがあり、最高出力も4ps上回るが、むしろSR400のほうが出足のパワー感は優しい印象。これは、GB350に備わる強烈なパルス感を力強さと感じやすいことも影響している。
高速道路では、SR400のほうが高速域でややアドバンテージがある。ただしSR400は、80km/hを超えたあたりからかなり振動が大きくなり、これが影響して「ゆっくり走ろうかな」という気にさせられる。対してGB350は、その領域でも振動はかなり少ない……のだが、こちらは上半身がかなり直立したライポジで、長距離の100km/h巡航を積極的にしたくなるような雰囲気はない。結局、どちらもやっぱり一般道をゆったり走るほうが向くのだ。
SR400の基本設計は非常に古いが、オンロードスポーツモデルとしてのバランスは悪くなく、前後18インチタイヤのおかげもありGB350よりヒラヒラとコーナーを駆け抜けられる印象がある。
備わるハードルの高さは、やはりSRのほうが上かも
車体の扱いやすさということでは、コンパクトでスリムなSR400が秀逸。足着き性にも優れ、(キックでエンジンさえかけられれば)小柄な女性でも不安は少ないと思う。対してGB350は、意外と車格があり、小柄な初心者だと、もしかしたら、ややハードルの高さがあるのかも。ただし、350ccでありながら大きなバイクを所有しているという満足感は得られる。車重は両車ほぼ同じだが、コンパクトなSR400のほうが取り回しやサイドスタンドからの引き起こしもややイージーな印象だ。
ハンドリングは、フロントホイールが19インチでホイールベースが長めのGB350は直進安定性に優れてベタッと寝る感じ。対してSR400は前後18インチホイールで、GB350よりホイールベースも短いことからヒラリとしたコーナリング特性がある。”曲がる”ということに関しては、新設計されたGB350のほうが古風で、昔から変わらないSR400のほうがシングルスポーツとしてワインディングでもけっこう楽しめるというのも、意外性のある両車の違いだ。
どちらも、昔ながらのベーシックなシングルロードモデルという点は同じ。しかしSR400のほうは、設計されたものを熟成に次ぐ熟成で継承してきた。その結果、随所に完成された美しさがあるし、リヤドラムブレーキのフィーリングさえ非常にコントローラブルに仕上げられている。ただし、いつかこれ以上ない大きな壁にぶつかる方向に進化を続けてきたのも事実。そしてその時が、今まさにやって来た。時代の流れと考えれば、生産終了も仕方がないことなのだろう。
対してGB350は、同じようにクラシックな雰囲気だが、昔の機構や設計にこだわっているわけではない。トラクションコントロールやABS、アシストスリッパークラッチにギヤポジションインジケーター、そしてセルスターターなど、現代のライダーでもすんなり扱えるパッケージになっている。
GB350の車格も初心者などにとっては多少のハードルになるだろうけど、SR400のキックスタートはその比ではない。でも、SR400はそれでいい。たとえマイノリティになろうとも、時代に合わなくなろうとも、それこそがSR400なのだ。一方でGB350は、きっと今後も、ときにカタチを変えながら長く続いていくと思う。新たなライダーを幅広く受け入れられる懐の広さがGB350にはある。
とはいえ、どちらも単気筒の楽しさを根底に持つ。立ち位置は意外なほど異なるが、その点だけは共通なのだ。
バンクさせた状態でも安定感に優れるのがGB350の魅力。路面が多少荒れていても、恐怖感は少ない。反面、フロントタイヤのセルフステアが生む旋回力は少なめ。クイックに曲がるカーブよりも、大きなコーナーをゆったりとバンクさせて走るときに気持ちよさがある。
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