バイクの基本性能である「走る・曲がる・止まる」を極限まで追求したスーパースポーツ1000。国産4メーカーのマシンは200ps級で、おしなべて優等生的な速さが特徴となる。レース参戦を視野に入れたモデルが主流だが、異色の存在がカワサキのH2/R。スーパーチャージャーによる陶酔の加速感が魅力だ。
- 1 レーシーなYZF-R1に対し、ライバルは公道も照準
- 2 HONDA CBR1000RR/SP[反則級の軽さ]600級のコンパクトさとステージを選ばぬ万能性
- 3 「素」でもキレッキレ(STD)
- 4 YAMAHA YZF-R1/M[シロートお断り]純粋な速さなら国産随一! 本物のレーシングバイク
- 5 クロスプレーンの心臓は共通(STD)
- 6 SUZUKI GSX-R1000/R[偉大なる万能選手]エンジンも車体も扱いやすさ随一
- 7 海外にはSTDも存在(STD)
- 8 KAWASAKI Ninja ZX-10R/RR/SE/KRT EDITION[安定旋回キング]SBK4連覇もナットクの全域パワーと従順さ
- 9 電サスとの相性抜群(SE)
- 10 KAWASAKI Ninja H2 CARBON/R[史上最強凶悪加速]プロでさえビビる、唯我独尊SCマシン
- 11 真の加速番長[H2R]
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レーシーなYZF-R1に対し、ライバルは公道も照準
各社自慢の最先端メカを満載する1000ccのスーパースポーツ=SS。国産勢は、2000年代末期から進化が停滞し、主にトラクションコントロールなどの電子制御系で外国車に水を開けられていた。だが、2015年デビューのYZF-R1を契機に、各社とも完全復権を果たしている。
CBR1000RR/SP、YZF-R1/M、GSX-R1000R、Ninja ZX-10R/RRの4車はスーパーバイク世界選手権(SBK)や世界耐久などレースを視野に入れた公認取得マシンとしての性格を併せ持つ。中でもノーマルで最もレーシーなのがYZFーR1。パワー、車体、電子制御と全てがサーキット向きだ。
他の3車は、速さを追求しながら、より扱いやすさも考慮。ストリートを含む様々な状況での対応力が高めだ。車体の軽さ&コンパクトさはCBR1000RR、懐の広さはGSX-R1000R、車体の安定感ならニンジャZX-10Rが群を抜く。一方、異質な存在感を放つのがスーパーチャージャー付きのニンジャH2だ。タイムではなく、怒濤の加速で乗り手を酔わせてくれる。
HONDA CBR1000RR/SP[反則級の軽さ]600級のコンパクトさとステージを選ばぬ万能性
当クラス最軽量の195kgとコンパクトな車体は、またがると「本当に1000cc?」と思えるほど。まるで600ccのような気分が味わえる。この軽い車体を活かし、コーナーに積極的に挑めるのが強み。俊敏ながら、いたずらにシャープではなく、あくまでスムーズかつ安心感の高いハンドリングも持ち味だ。192psのパワーは、ライバルの中で最も控えめだが、低回転から力強いトルクを発揮し、中速域のパワー感に優れる。物足りなさはまず感じないだろう。特にマフラーの排気バルブが開く約4000rpm以降は、サウンドが官能的。トラコンやウイリーコントロールの制御も絶妙だ。
SPは、オーリンズ製のセミアクティブサスやブレンボキャリパーを採用する上級版。ウエットや低温時でもサスが接地感を高めてくれるため、むしろサーキットより公道で輝くアイテムだ。ブレーキは、STDのトキコ製に対し、性能的に大きな違いはないが、フル制動時のシットリ感とコントロール性はさすが。SPに標準装備されるクイックシフターの精度と滑らかな作動性も、ライバルより上と言える。街乗りからツーリングまでOKの万能性に加え、スポーツ走行では軽さを活かしたハンドリングが光る本作。1992年モデルの初代CBR900RR以来、磨き上げた「トータルコントロール」を堪能されたい。
「素」でもキレッキレ(STD)
エンジンはSPと同様。機械調整式のショーワ製前後サスは、ピンポイントなセットアップが可能なため、サーキットではSPより有利な一面も。実際、日光サーキットで2017年型を実測したところ、SPを約0.3秒上回った。SPとの価格差は40万円以上あるが、廉価版というよりシンプル版だ。
YAMAHA YZF-R1/M[シロートお断り]純粋な速さなら国産随一! 本物のレーシングバイク
プロライダーでさえ「本物のレーシングバイクに乗っている感覚」と評する、スパルタンな1台。不等間隔爆発を採用する異色の直4クロスプレーンクランクシャフトは、リニアなトラクションとスムーズな回転上昇で、V4的な特性を持つ。そして電子制御の精緻さがライバル中、随一。車体にムダな動きを起こさせず、車体を前に前に進める。たとえスロットル開けっ放しでもトラコンやスライドコントロールが完璧と言っていいレベルで制御し、無理せずタイムを削ることが可能だ。さらにMは電子制御サスのオーリンズ・スマートEC2.0を標準装備。フルバンク時でサスはよく動くのに、車体はビシッと安定する。また、状況に対して一括でセッティングでき、設定も直感的&わかりやすい。まるで専属メカニックを内蔵するようなものだ。緻密な車体制御で若干パワーを抑えた部分もあるが、まさに自由自在にラインを描くヤマハハンドリングを体現している。ちなみにモードの介入度を最弱にすれば、腕次第でさらなる速さを狙うことも可能だ。
総じて、体感的な速度はさほどでもないのに、実際は途方もなく速い。ベースは2015年の登場ながら、いまだライバルと互角以上に渡り合える戦闘力を誇るのも驚異的だ。2015~2018鈴鹿8耐4連覇を成し遂げた実力は本物である。
クロスプレーンの心臓は共通(STD)
電子制御サスペンションやカーボンカウル、GPSロガーを備えるMに対し、これらが非採用でKYB製サスを与えたSTD。車重が1kg軽く、リヤタイヤ幅が10mm狭いなどの差はあれど、基本の走りはSPと同様だ。上下対応のクイックシフターも備える。約80万円安く、シート高が5mm低いのもメリットだ。
SUZUKI GSX-R1000/R[偉大なる万能選手]エンジンも車体も扱いやすさ随一
最大の特徴は、国産SS唯一となる可変バルブタイミング機構=SR-VVT搭載のエンジンだ。力強いサウンドを響かせつつ、SSながら低回転から粘りのある出力特性を見せる。以降も1万4000rpmまで谷のないトルクバンドを形成。ライダーが思い描いた通りのパワーを生み出し、無類の扱いやすさを誇る。きめ細かなトラコンも手伝って、ウエットなどのコンディションでも右手は開けやすい。さらに600ccと見紛うほどスリム&コンパクトな車体と低めのシート、高め&幅が狭いハンドルも扱いやすさに貢献する。
ハンドリングは総じて安定志向。バランスのよいシャーシと、滑らかに作動する前後のショーワ製バランスフリーサスが相まって、従順に向きを変える。ABSも空走感がほぼなく、減速Gが逃げない。フルバンクでもコンロール性は抜群で、ライン変更もやりやすい部類だ。一方、コーナーでの鋭さはCBR1000RRやYZF-R1ほどではなく、限界アタックで一発のタイムを狙うのはやや難しい。また、エキサイティングさも希薄ではある。とはいえ、この走りやすさは大きな武器。サーキットはもちろん、状況が刻々と変化するワインディングがよく似合う。本作は7代目だが、歴代GSX-R1000が大事にしてきた思想を受け継ぐオールラウンドSSだ。
海外にはSTDも存在(STD)
Rは、コーナリングABSや上下対応のクイックシフターを標準装備。対して海外仕様にのみ用意されるSTDは、これらが非装備で、足まわりをショーワバランスフリー→同BPFとしている。限界性能はRが上回るが、安定志向のハンドリングなどストリートが得意な性格は不変だ。
KAWASAKI Ninja ZX-10R/RR/SE/KRT EDITION[安定旋回キング]SBK4連覇もナットクの全域パワーと従順さ
2015年からSBKを4連覇しているワークスNinja ZX-10R。そのベースとなる本作は、2019年モデルでフィンガーフォロワーロッカーアームを採用し、200→203psを達成。さらにレース向けのRRにチタンコンコンロッドを奢り、国産SSトップの204psをマークした。RRは、上でパキーンと弾けるのではなく、下から全体的にトルクが立ち上がり、モーターのようにキレイに回転が伸びていく。トップエンドの1万3800rpm辺りからレッドゾーンとなるが、さらにもう一伸びし、1万4400rpm辺りでレブリミットがかかる。この領域まで引っ張っても頭打ち感がないのだから素晴らしい。さらに全域でギクシャク感がなく、公道でも1速4000~8000rpm辺りを使えば、オートマ感覚で走れてしまうほどだ。
フレームとショーワ製の前後バランスフリーサスは完成の域に達しており、フルバンク時でもピタリと安定して安心感抜群。大柄なライポジと遠めのハンドルが積極的に攻める際は気になるものの、車体制御などの電脳デバイスもライダーに気付かせないレベルで確実にバイクの向き変えに貢献してくれる。ストレートだけでなく、幅広いトルクと安定したバンキングでコーナーの中から速い、それゆえにレースで勝てるマシンなのだ。実に扱いやすく、ツーリングまでこなせるほど、懐が広い。
電サスとの相性抜群(SE)
リアルタイムに自動可変するセミアクティブサスを導入したSE。ソフトなロードモードだと、本当にSSかと思えるほど足が動き、ただでさえ扱いやすい10Rが一段と快適に。速度を上げるとダンパーが効き、荒れた路面のコーナリングでも安定感がある。10Rのキャラと電サスの相性は抜群だ。
KAWASAKI Ninja H2 CARBON/R[史上最強凶悪加速]プロでさえビビる、唯我独尊SCマシン
史上初のスーパーチャージャー(SC)マシンとして2015年にデビュー。以来、改良を重ね、従順さは増したが、鬼の加速性能は変わらない。排気量以上のトルクを感じさせる中低速域を経て、8000rpmからSCが本格炸裂。体が吹っ飛ばされるほど怒濤の加速を示す。1万rpm超ではフロントが浮き、真っ直ぐ走るのも困難だ。レッドゾーン1万4000rpmまで、この状態が続く。実質的なタイムこそ他車に譲るものの、「加速力はモトGPマシンの初期RC211V級、プロでさえビビる」(丸山浩)ほど最強。そしてサウンドも魅力的。ヒュイーンという過給音と、減圧時のバックラッシュ音が乗り手を官能の世界に誘う。高回転で楽しい一般的なSSに対し、H2はゼロ発進で加速した瞬間からエンターテイメントが味わえるのだ。
国産SSより車重はあるものの、走り出せばハンドリングは軽快。ハードな前傾ライポジと、ダンピングの利いた足でメリハリのあるSSらしい走りが楽しめる。ちなみに6軸IMU(慣性センサー)をはじめ、パワーモード、トラコンなど電脳デバイスが充実しており、右手の動きを抑制すれば無難に走らせることも可能。とはいえ、エキサイティングさと攻略のしがいは、他車を大きく上回る。銀鏡塗装の外観を含め、まさにスーパーカー的な存在だ。本稿は205psの2018年モデルのインプレ。231psとなり、昨年、ほぼストックで世界記録の337.064km/hを記録した2019年モデルも楽しみだ。
真の加速番長[H2R]
クローズドコース専用で310psを発生。H2本来の姿がコレだ。H2でさえプロ絶叫マシンなのに、Rは完全に上。0→1000mでメーター読み343km/hに及び、「H2がかわいく思えるほど異次元」(丸山)。2016年にカワサキの自社チームが小変更のみで354km/hの記録を残している。
【掲載インプレッションについて】本文は、本誌の膨大なデータベースから、様々なテスターのインプレを統合し、凝縮している。そのため掲載写真のライダーによるインプレとは必ずしも限らないので、ご留意を! また、限られたスペースを有効活用するため、車両の解説は最小限としている。マシンデータは関連記事をサブテキストとして参照されたい。
※表示価格はすべて8%税込です。
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