ボンネビルT120の穏やかさと、スラクストンRの高いスポーツ性。そのいいとこ取りを目指したのが、伝説の名を蘇らせたスピードツインだ。その爽快な走りを、鈴木大五郎がスペインのマヨルカ島で確かめた。
TEXT:Daigoro SUZUKI PHOTO:TRIUMPH
よりスポーティなボンネビルを求めるファンの声に応えて
トライアンフのリリースするモダンクラシックシリーズは、そのクラシックな佇まいばかりがフィーチャーされがちであるけれど、個人的にはその走りの良さにいつも注目していた。カッコ重視なだけでなく、しっかり作り込んでいると思わせる走りの深みがあったといえる。とはいえ、それは雰囲気も楽しみつつ走りも楽しむという欲張りな要求を非常に高いレベルで実現していることへの評価がまず大きかったことも確か。よりハードに走らせた場合には運動性能が……といった我が儘な気持ちもないわけではなかった。「それはボンネビルシリーズの領域じゃないよ。そこを求めるならスピードトリプルやストリートトリプルに乗ってくれよ」それが彼らのスタンスなんだろうと、個人的には思っていたのだ。
そんな中、スピードツインが登場。カワサキZ900RSのヒットにも関連しているのだろうかと思えばプロジェクトは3年前からスタートしていたという。そしてその大きい要因のひとつが、よりスポーティなボンネビルの登場を望む市場の声だったという。
スラクストンをベースとしながらも、よりスポーティなマシンとするべく、エンジンはもとより、足まわりもセットアップ。軽量なキャストホイールの採用や、車体全体の軽量化等、慣性力の大幅な削減を狙ったマシン作り。スポーティではあるが、日常的にそれを感じられるように、ライディングポジションはアップライトなものであるが、肩肘張らずと言うのが開発テーマのひとつでもあるようだ。
地中海に浮かぶスペイン・マヨルカ島にて行われた試乗会では、タイトなワインディングを中心に約270kmを走行した。 スラクストンに対し、前後の荷重配分を48対52から50対50とフロント寄りとし、前輪荷重をより稼ぐ方向としたディメンション。しかしこれは、アップライトなポジションとなったことによる、走行中の荷重配分の補正という意味が大きいかもしれない。決してヒップポイントが高いとか前傾が強いということはなく、シートに座った際の当たりの柔らかさ等、スポーティとはいえ、スーパースポーツをベースとしたスポーツネイキッドなどと比較すれば、その設定は穏やかといえる。
鋭すぎないスポーツ性が走りに没頭させてくれる
しかし、前述した前後の荷重配分に加え、キャスター角を22.8度に設定したことによるものか、低速域での走行ではややハンドリングに重さというか、自由度の少なさを感じる。ダイレクト感とも言い換えられるレスポンスの良さはあるが、穏やかでヒラヒラと自由度の高い兄弟モデルの面影は薄い。
しかし速度を上げていくにつれ、ライダーの意志や操作とマシンの動きがシンクロし、狙ったであろうマシンのキャラクターが顔を出してくる。車体の姿勢や状態にあまり気を使うことなく、スッとマシンが倒れ込み、即座に旋回力を発揮してくれる。
クラシックモデル的な、スロットルを開けることでマシンを安定させ、コーナーリングでも軽めのブレーキング、あるいはエンジンブレーキだけ。登りのコーナーでは軽くスロットルを当てたまま……といった、ワインディングで多用する走り方のままでも高い旋回力を生み出し、行ける! 行ける! と走りにのめり込んでいく感覚だ。
逆にハードにブレーキングをして、キャスターを立てて旋回力を高め……といった走り方では、タイヤにやや依存度が高いようなフィーリングになってくる。軽快で自由度のある兄弟モデルとはあきらかにキャラクターが異なるが、その狙いは明確であり、プラスαのスポーツ性能とともにそのマインドがこのマシンの魅力である。
しかし、それが先鋭化しすぎたかのような印象とならないのは、マシン全体のパッケージングの良さにあるだろう。やはり肝はエンジンのフィーリングの良さにある。トルクフルでコントローラブルという、現代の大型バイクのマストな性能は当然クリアしているのだが、そこに穏やかさやぼやけた肌触りがあるのだ。
疲れにくいエンジン特性にパワフルさも併せ持つ
極低回転域からトルクフルで使いやすい出力特性はタコメーターやシフトインジゲーターを頻繁にチェックせず、回転数を気にすることのない走りを許容する。3種類のライディングモードにより、出力特性は変化するものの、必要以上にシャープになったりぼやけたりといったことのないフレンドリーな一貫性を持っている。
適度で嫌味のない鼓動感は長い時間での走行でも疲れにくく、それでいて飽きにくいという優れもの。
しかし、その気になれば十分速く、軽くタイミングを合わせれば、フワッとフロントホイールが浮いてくるほどのパワフルさは旧式の並列ツインではないことをしっかり感じさせる。エンジン出力はスラクストンと変わらないものの、マネージメントの変更や軽量化でこのシリーズ最速と思える速さを備えている。
並列2気筒というエンジンレイアウトによるものか、強烈な個性を前面に出してくる押しの強さはないものの、むしろ自然で速さを引き出しやすく、しかもその操っている感覚も強く得られるキャラクターは、狙い通りの作り込みであったのだ。
TRIUMPH SPEED TWIN/トライアンフ スピードツイン
スピードツインのディテール詳細
1938年に生まれた、トライアンフ初の世界ヒット
オリジナルのスピードツインは、パラレルツインを革命的なシャーシに搭載して大ヒット。トライアンフを世界一のモーターサイクルブランドへと引き上げた。1960年代まで名前が引き継がれたのち、途絶えていた。
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