連載:青木宣篤完全監修『上毛GP新聞』

未来のバイク、未来のレース【ノブ青木のMotoGP言いたい放談】

上毛新聞 by 青木宣篤

進む少子化や若者のバイク離れ、そして続く不景気。バイク業界に、少しは明るい話題はないものか! とお嘆きのあなたに、ノブ青木が全力で捧げる言いたい放談! 技術トピックスを並べてみれば、バイクはまだまだ遊べそうな予感がしてくる。時代の波をつかまえて、バイクはもっと楽しめる!

青木宣篤の上毛GP新聞

青木宣篤(あおき・のぶあつ):1993年よりロードレース世界選手権GP250にフル参戦を開始。GP500に昇格した1997年にはランキング3位でルーキーオブザイヤーを獲得した。1998年にそれまでのホンダからスズキへと移籍し、以降は2002~2004年のプロトン・チームKR時代を除いてスズキひと筋。2005年以降は主にテストライダーを務めている。

まずは「F1スゲ〜! ホンダスゲ〜!」と言いたい

2輪の話をする前にまずは4輪から。最初に言いたいのは、「F1スゲ〜! ホンダスゲ〜!」ということだ。今さらだけど、F1の動力源は’14年からエンジンではなくパワーユニット(PU)と呼ばれている。既存のエンジン+2種類のエネルギー回生システムを組み合わせたトータルシステム全体を総称したのがPU、というわけだ。

そのエンジン部分は、ガソリン直噴だ。ここに「スゲー」がある。本当に今さらの話だけど(笑)。

鈴鹿8耐を戦っていると、パワーと燃費の両立がいかに難しいかに直面する。燃費向上のために一般的には燃調を薄くしていくのだが、長時間の耐久レースではすごい振動が出たりパワーがなくなったりする時間帯があるのだ。

パワーと燃費の両立が難しいのは、F1の直噴エンジンも同じだ。メルセデスは’14年のうちから、そしてフェラーリやホンダもプレチャンバー技術を採用している。いわゆる副燃焼室ってやつですね。

簡単に言えば副燃焼室で超希薄な混合気を燃やし、小穴を通過した高速な燃焼火炎を主燃焼室に広げる仕組み。今じゃスーパーGTにも導入され、市販車にも広がろうとしている技術だ。

「副燃焼室」と聞いてピンと来る人、いますよね? そう、ホンダが’72年に発表した低公害型エンジン、CVCCだ。当時、世界一厳しいとされたアメリカの排ガス規制・マスキー法をクリアして喝采を浴びたエンジンですね。

これも基本的には混合気を薄くする→燃えにくくなる→副燃焼室で燃焼を促す、という仕組み。’73年のシビックに搭載されたCVCCエンジンで、ホンダの技術力は世界で高く評価された。

言いたい放談的余談だが、CVCCの開発に携わった桜井淑敏さんが、’84〜’87年にホンダF1総監督を務めている。そして今また、F1を軸に副燃焼室がフィーチャーされているのが面白い。そして、今から50年近く前に副燃焼室が開発されていたっていうのが、本当にスゴイ……。

過去の事例からすると、F1で使われた技術は10年後にモトGPに採用される。バイクに搭載する場合、小型軽量コンパクトに仕上げなければならないし、ドライバビリティに対する要求値も4輪より高いレベルにある。だからどうしてもタイムラグが生じる。

さて10年後の2029年には、モトGPもエンジンではなくパワーユニットが搭載され、副燃焼室が採用されているのかどうか……。

モトGPの10年先行くF1/FE
エネルギー回生システム、直噴、そしてプレチャンバー……。フォーミュラEも含め、4輪の技術開発力はスゴイ。10年ぐらい経てば、今のF1テクノロジーがモトGPにもフィードバックされる…かな!?

電気の話をすれば、4輪のフォーミュラEから遅れること5年、今年からいよいよモトEが始まる。今の段階では賛否いろんな意見があるようだが、フォーミュラEだって最初はイロモノ扱いだ。

でも、環境問題に真剣に取り組む自動車業界の姿勢もあり、ヨーロッパのメーカーを中心にファクトリー参戦が進み、日本でも’18年から日産が挑戦を開始している。

モトEだって、3年も経てばだいぶ盛り上がってくるんじゃないかな。現時点での走りを見ていても意外とレースになりそうだし、エンジンとは違いものすごく静かなモーターは迫力に欠ける反面、新しい可能性のある面白いコンテンツになりそうだし、ワタシとしてはヒジョーに期待している。

さらに未来もある。実はワタシ、地元・群馬のモーターメーカー、ミツバが試作した電動スクーターを走らせたことがある。これがまた、スゴかった!

モトEも含め、今の電動バイクは基本的にエンジンがあるべき場所にモーターなどを搭載し、チェーンやベルトででリヤタイヤを駆動させている。ハーレーのライブワイヤーなんかもそうですね。

駆動方式は既存のエンジンバイクと同じだ。スロットルを回すと、スプロケット類を介してチェーンやベルトが張り、再びスプロケットを介してリヤタイヤが駆動する。ごくわずか……たぶん0.05秒ぐらい、タイムラグが生じている。

でもミツバの試作電動スクーターは、インホイールモーターを採用していたのだ! つまりチェーンやベルトがなく、モーターがダイレクトにホイールを回す。だからスロットルワークに対するタイムラグがゼロ。スロットルレバーをひねった瞬間にいきなり出力がタイヤに伝わるフィーリングは驚きの新感覚だった。

うーむ、2輪もまだまだ面白いことになりそうだ。やっぱりトレーニング頑張らなくちゃ!

電動バイク/電動レーサー
【電気の足音すぐそこに:電動バイク/電動レーサー】今年始まるモトE(左)に、ハーレー・ライブワイヤー(右)。電動化の波は確実に押し寄せる。音の静かさはちょっと寂しいが、今までにない可能性が広がるのも確か。インホイールモーターにも期待!

さて、「F1の技術は10年後にモトGPに採用される」と言ったが、モトGPの技術が意外と早く市販車に使われ始めている。

驚きましたね、ドゥカティ・パニガーレV4R! 羽根生えてますよ! しかも221psって、ちょっと前のモトGP並ですよ!!

つい最近までスーパースポーツは200ps付近で争ってきたのに、頭ひとつ抜けた10%増しとは、凄まじいことになってきたものだ。

ドゥカの強みはデスモドロミック。バルブスプリングを使わず、カムで強制的にバルブを開閉するこの機構は、メリット・デメリットの両方があるが、さしあたって高回転化・ハイパワー化のためにはうまく機能している。

ウイングは、モトGPマシンで実走テストした身としては、ちょっとどうかなと思うところがある。効きすぎると、切り返しを含めハンドリングが重くなるからだ。

ここがバイクの難しさであり、面白さでもある。いちバイクマニアとしては新技術をどんどん採用してほしいが、繊細な乗り物ゆえに必ずイイとは限らないのだ。

もはやモトGP級! 羽根付き肘擦り市販車 〜ドゥカティ・パニガーレV4Rの場合〜

DUCATI PANIGALE V4R
【DUCATI PANIGALE V4R】ウイング、キターッ! 基本性能も底上げされて、ヒジ擦りももはや見慣れた光景に。こうして技術もライテクも、モトGP からフィードバックされていく。
DUCATI PANIGALE V4R
(左)市販スーパースポーツもついに220psを突破! デスモドロミックの強みを生かしたエンジンが新たなベンチマークに。(右)高価すぎて市販車導入は困難とされるシームレスミッション。操作フィールは素晴らしい! 皆さんに味わってほしいが…。

いずれにしてもバイクがまだまだ楽しめそうなのは確か。いろいろ言ってきましたが、明るい未来に向けて頑張ろうぜ! と、こんなまとめでいかがでしょうか…?

●写真:Honda/Suzuki/Ducati/H-D Energica/MotoGP.com
※ヤングマシン2019年3月号掲載記事をベースに再構成

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