
バリエーション豊かなクルーザー・モデルを展開するインディアンモーターサイクル(以下、インディアン)の新型車「スポーツチーフ」は、空冷OHVツインエンジン/サンダーストローク116を搭載したパフォーマンス・クルーザーだ。クルーザーにパフォーマンスを与え、スポーツすることが人気のアメリカ。その最新のアメリカン・スポーツを体感する。
●文:河野正士 ●写真:Garth Milan ●外部リンク:インディアン・モーターサイクル
アメリカン・スポーツを理解する
インディアンの新型車「スポーツチーフ」の何がスポーツであるかを理解するには、アメリカという国のモータリゼーションを理解しなければならない。
2021年にフルモデルチェンジを受けた新生「チーフ」と、フレームとエンジンを共有する「スポーツチーフ」。排気量1890cc空冷OHV挟角49度V型2気筒エンジン/サンダーストローク116エンジンと、オールドスクールなスチール製フレームはそのまま継承している。ステイアリングヘッドからリアのアクスルシャフトまで、リアサスペンションを介しながら緩やかな曲線で繋がるリジッドフレームをイメージしたフレームラインが特徴だ。
わかりやすい例をあげるなら、“On Ramp/オン・ランプ”でのパフォーマンスだ。オン・ランプとは、高速道路への合流のこと。一見、大きな意味を持っていないように見える高速道路への合流のための加速。
しかしそこでのパフォーマンスは、アメリカではとても重要視されている。アメリカの高速道路は合流時の助走区間が短く、ときには合流手前に一時停止のサインもある。その短い助走で、高速で走る他車の前に合流するためには、強力なトルクで、一気に車体を加速させなければならない。そのパフォーマンスは「On Ramp Acceleration/オン・ランプ・アクセレーション」と呼ばれている。かつて米国サイクルワールド誌の技術系の編集者であるKevin Cameron/ケビン・キャメロンが “On Ramp”でのパフォーマンスについて特集記事を書くほど、それはアメリカのライダーやドライバーに重視されている。
クルーザーカテゴリーは、FMF(フロントフォーク・マウント・フェアリング)と、CMF(シャシー・マウント・フェアリング)の、2つのカウル装着方法がある。一般的に、FMFはクラシカルな、CMFはモダンなクルーザーが採用。インディアンの代表的モデルは、FMFはチーフテインやロードマスターであり、CMFはチャレンジャーである。「スーパーチーフ」はFMFカテゴリーだが、いまアメリカで人気のカスタムスタイルを踏襲。若々しい、いまのトレンドが表現されている。
またアメリカのクルーザーのオーナーたちは、非常に長い距離を走る。スタージスやラコニア、そしてデイトナで開催されるバイクウィークに、全米からバイクでやって来る。大陸を横断したり縦断したりする長距離ライディングには、力強いトルクがライダーの負担を軽くすることも彼らはよく理解しているのだ。
バガーと呼ばれるクルーザーの新しいトレンドは、クルーザーにさらなるパフォーマンスを与え、高速道路の巡航速度を高め、バイカーたちにワインディングを走る楽しさを気づかせた。そして300kgをゆうに超える車重と長いホイールベースを持つクルーザーの車体を意のままに操るには、エンジンの強力なトルクが必要なのだ。
アメリカで人気のバーガーによるレース/King of the Baggersは、そんなスポーツするクルーザーの人気がユーザーの中で高まったことから、その新しいカテゴリーでの優位性やアフターパーツのセール拡大を狙ったハーレーダビッドソンとインディアン、そして巨大なアフターパーツメーカーが仕掛けたレースなのである
スポーツチーフも、そのアメリカン・フィーリング/アメリカ的価値観の中から生まれたプロダクトだ。ベースとなるのは、2021年にインディアンのブランド誕生100周年を記念してフルモデルチェンジを受けた新生チーフシリーズがベース。エンジンやフレームは、そのシリーズと共有しながら、前後サスペンションやディメンション、ブレーキまわりを強化し、走りのパフォーマンス向上が図られている。その効果はてきめんで、それこそがスポーツチーフのパーソナリティの中核だ。
サンダーストローク116エンジン。2バルブ3カムというユニークな構造を持つ。このエンジンは2011年にポラリスがインディアン・モーターサイクル・ブランドを復活させたあと、2014年モデルとしてラインナップした「チーフ」のために設計したサンダーストローク111がベースになっている。現在は、その111から排気量をアップし、ユーロ5もクリア。この「スポーツチーフ」を含めた新生チーフ・シリーズは、シンプルなスタイルを維持するためオイルクーラーを排除している。またスポーツ/スタンダード/ツーリングの3つのライディングモードを持ち、停車アイドリング中の油温上昇を抑えるため、一定の条件になると自動的にリヤシリンダーを休止させる「リヤシリンダーディアクティベーション」システムも搭載する。
300kg超えの車体でスポーツする。それを実現した新しいサスペンション
300kgを超える車重をヒラヒラと切り返しながらワインディングを走るのは、なかなかに痛快だ。1626mmというロングホイールべースながら、コーナーのアプローチでリヤタイヤの傾きに対して、フロントタイヤが遅れて反応することはない。専用設計されたガンファイターシートに体重を預けながら左右に体重移動を行えば、フロントタイヤの蛇角の付き方も自然で、狙った走行ラインをしっかりとトレースすることができた。
このハンドリングは、前後サスペンションの変更にともなう車体姿勢の変更と、それに合わせたフロント周りのディメンションの変更、そしてサスペンションセッティングによって造り上げられている。
リザーバータンク付きのFOX製リアサスペンションは、減衰力を高めるとともにストローク量を約25mm伸ばし、それによって他のチーフシリーズに比べリヤの車高も高くなっている。たった25mmだがその影響は大きく、突き上げ感は大幅に減り、加速時のリヤタイヤへの荷重の掛かり具合も分かりやすい。チーフシリーズが採用する排気量1890cc空冷OHV挟角49度V型2気筒エンジン/サンダーストローク116エンジンの強力なトルクを活かして加速しているときの安定感と安心感は抜群だ。
またリヤの車高が高くなったことにあわせて、フロントフォークのオフセット量を減らし、それにともなってトレール量も変化。このフロントまわりのディメンション変更が、軽快なハンドリングをつくり上げているのだ。合わせてインディアンのスポーツバガーモデル「チャレンジャー」に搭載されているKYB製倒立フォークは、スポーツチーフの車格やキャラクターに合わせて長さや減衰力特性を変更。
ロードモデルほどないものの、加減速時のピッチングによる前後重心移動が分かりやすく、アクセルやブレーキ操作でコントロールしやすいことも軽快なハンドリングを生み出す理由となっている。スポーツチーフのスタイリング的特徴でもある6インチライザーも、想像していたよりもダイレクトな操作感を得られたのは意外だった。
新たに採用したKYB製43mm倒立フォーク。同デザインの倒立フォークは、水冷のパワープラスエンジンを採用した「チャレンジャー」にも採用されている。そのKYB製フォークを、「スポーツチーフ」の車格やキャラクターに合わせて、減衰力特性や長さを変更して装着。三つ叉のフォークオフセットを減らしてトレール量を変化させ、スポーティなハンドリングを造り上げている。
同じく、「チャレンジャー」に採用されていたラジアルマウントのブレンボ製4ポットブレーキキャリパーとφ320mmブレーキディスクローターをダブルでセット。ブレーキパッドやセッティングを、「スポーツチーフ」用にアレンジして装着している。操作性も制動力も申し分ない。
パワフルなエンジンがアメリカン・スポーツの醍醐味
試乗会が行われた米国テキサス州オースティン郊外は、テキサス・ヒル・カントリーと呼ばれる丘陵地帯。道幅が広く、曲率の緩やかなアメリカ的な高速コーナーが続く道や、日本的なタイトなワインディングが、丘陵地帯特有の激しい高低差のなかに混在する試乗コースが設定されていた。
そこでは、サンダーストローク116エンジンにプログラムされている3つのライディングモードのなかの、出力特性が穏やかなスタンダード・モードやツーリング・モードでは物足りなくなってしまった。それよりも、わずかなアクセル開度でもズバッと加速するスポーツ・モードが楽しい。
縦ブラインドのコーナーへの進入では、さすがにしっかり減速せざるを得ないが、それをクリアすれば強烈に加速するスポーツ・モードの出力特性を活かして前車に追い着く。そして、その先の下りで車体を切り返して、また車体を寝かしたまま登りのコーナーに入っていく。もちろんすぐにステップが路面にヒットしてしまうが、それでも300kg超えの巨体をこんな風に走らせられるのは、強化したサスペンションとブレーキがあってこそだ。なにより2000cc近い排気量の空冷Vツインのワープするような、その胸の空くような加速感は、洗練された4気筒や2気筒エンジンを抱くスポーツモデルのそれとはまったく違う。
暴力的とも言えるそのエンジンのパワーこそがアメリカ的スポーツであり、そのパワーを味わい尽くすために足まわりを強化したのが「スポーツチーフ」というわけだ。その走りは痛快で明快。あらゆるキャリアや嗜好のライダーに驚きを与える。「スポーツチーフ」のその単純明快さも、アメリカン・スポーツの真髄といえるだろう。
ミッドコントロールのステップは早めに限界に到達し路面を擦ってしまうが、その状態からでも安定感がありライダーをさらに深いバンク角へと誘ってくる。さらにアクセルを開けると、その強力なトルクを受け止めるセットアップが前後サスペンションに与えられていることがよく分かる。
長距離走行にもスポーツ走行にも欠かせない力強いトルクを持つエンジンに、ハイパフォーマンスな前後サスペンションとブレーキが与えられた「スポーツチーフ」。フロントカウルやシート&フェンダーのデザインに、ライディングポジションにもスタイリングにも欠かせない6インチライザーとやや幅の狭いハンドルによって、瑞々しいパフォーマンスクルーザーのシーンが表現されている。
Black Smoke/328万円
【’23 Indian Sport Chief】主要諸元 ■全長2301 全幅842 全高1270 軸距1640 シート高686(各mm) 車重302kg ■水冷4ストOHV49度V型2気筒リアシリンダー休止システム付/サンダーストローク116 1890cc 内径103.2×行程113mm 圧縮比11:1 最大トルク16.52kg-m/3200rpm 変速機6段 燃料タンク容量15.1L ■キャスター28°/トレール111mm ブレーキ形式F=φ320mmWディスク+4ポッドキャリパー R=φ300mmディスク+2ポッドキャリパー タイヤサイズF=130/60B19 R=180/65 B16 ●価格:328万円〜 ●発売時期:ディーラーに問い合わせ
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
あなたにおすすめの関連記事
田中愛生(たなか・あい)/群馬県出身。バイク好きの父の影響から二輪免許を取得。パリダカへの憧れ、そしてオフロード部隊による東日本大震災支援活動を知り、オフロードに興味を持つ。大学卒業後ニュージーランド[…]
ワイルドだけど上品。しかも軽快感に溢れるロー&ロング ロー&ロングなのに、軽やかでスポーティ。その乗り味はまさに痛快だった。身長165cmの僕でも膝に余裕が出るほど両足がベッタリと着く『スカウト ロー[…]
世界限定29台、タイラー・オハラの29号車と同じくS&Sによってレース仕様に仕上げられた特別車 車両重量が300kg近いバガー(大容量パニアバッグを備えたクルーザーモデル)による豪快なレース「[…]
フラットトラックレーサーを継承するストリートバイク 2017年、インディアンはファクトリーマシンであるFTR750でアメリカンフラットトラックレースに本格参戦。圧倒的な強さでハーレーワークスを撃破する[…]
対照的な仕上がりを見せる2台のバガーレーサー 「キング・オブ・ザ・バガーズ」。それはハーレーダビッドソンとインディアンモーターサイクルのプライドをかけた戦いだ。その戦いが始まったのは2022年の秋のこ[…]
最新の関連記事(ミリオーレ)
ファッションからスポーツまで。現代のバイクライフにフィット このバイクは只者じゃない−−。僕はマヨルカ島のリゾートホテルのエントランスに鎮座するトライアンフの「スピードツイン1200RS」に初対面した[…]
ライダーを様々な驚きで包み込む、パニガーレV4S 5速、270km/hからフルブレーキングしながら2速までシフトダウン。驚くほどの減速率でNEWパニガーレV4Sは、クリッピングポイントへと向かっていく[…]
駒井俊之(こまい・としゆき)/1963年生まれ。バイクレース専門サイト「Racing Heroes」の運営者。撮影から原稿製作まで1人で行う。“バイクレースはヒューマンスポーツ”を信条に、レースの人間[…]
駒井俊之(こまい・としゆき)/1963年生まれ。バイクレース専門サイト「Racing Heroes」の運営者。撮影から原稿製作まで1人で行う。“バイクレースはヒューマンスポーツ”を信条に、レースの人間[…]
駒井俊之(こまい・としゆき)/1963年生まれ。バイクレース専門サイト「Racing Heroes」の運営者。撮影から原稿製作まで1人で行う。“バイクレースはヒューマンスポーツ”を信条に、レースの人間[…]
最新の関連記事(インディアン)
クルーザーにスポーティなエンジンを搭載するのがインディアン流 なんてアグレッシブなんだろう。インディアンモーターサイクル(以下、インディアン)の101スカウトに乗った瞬間にそう思った。この車体にスポー[…]
会場に並ぶ新型SCOUT(スカウト)シリーズ 高性能な水冷Vツインエンジンで車体ディメンションやエンジン搭載位置にこだわってきた、クルーズ性能だけではなくスポーツ性能が高いクルーザーモデルの「スカウト[…]
磨かれた伝統と進化したスポーツ性 2014年に登場した先代のインディアン・スカウトシリーズは、1133cc水冷Vツインエンジンをアルミダイキャストフレームに搭載し、インディアンらしいスタイルで包んだ同[…]
ぱっと見で違いがわからない人に説明する、大きな差異 インディアンモーターサイクルで人気のある代表的モデル「Scout(スカウト)」と「Chief(チーフ) 」。クルーザータイプに興味のない方には、ぱっ[…]
インディアンモーターサイクル FTR1200&スカウト(1133cc) まずはFTRの車両紹介をするにあたり、スカウトの存在を忘れてはならない。アメリカ生まれのインディアンモーターサイクルには、水冷エ[…]
人気記事ランキング(全体)
いざという時に役に立つ小ネタ「結束バンドの外し方」 こんにちは! DIY道楽テツです。今回はすっごい「小ネタ」ですが、知っていれば間違いなくアナタの人生で救いをもたらす(大げさ?)な豆知識でございます[…]
V3の全開サウンドを鈴鹿で聞きたいっ! ここ数年で最も興奮した。少なくともヤングマシン編集部はそうだった。ホンダが昨秋のミラノショーで発表した「電動過給機付きV型3気筒エンジン」である。 V3だけでも[…]
1978 ホンダCBX 誕生の背景 多気筒化によるエンジンの高出力化は、1960年代の世界GPでホンダが実証していた。多気筒化によりエンジンストロークをショートストトークにでき、さらに1気筒当たりの動[…]
ファイナルエディションは初代風カラーでSP=白×赤、STD=黒を展開 「新しい時代にふさわしいホンダのロードスポーツ」を具現化し、本当に自分たちが乗りたいバイクをつくる――。そんな思いから発足した「プ[…]
ガソリン価格が過去最高値に迫るのに補助金は…… ガソリン代の高騰が止まりません。 全国平均ガソリン価格が1Lあたり170円以上になった場合に、1Lあたり5円を上限にして燃料元売り業者に補助金が支給され[…]
最新の投稿記事(全体)
オートレース宇部 Racing Teamの2025参戦体制 2月19日(水)、東京都のお台場にあるBMW Tokyo Bayにて、James Racing株式会社(本社:山口県宇部市/代表取締役社長:[…]
Schwabing(シュヴァービング)ジャケット クラシックなフォルムと先進的なデザインを合わせた、Heritageスタイルのジャケットです。袖にはインパクトのある伝統的なツインストライプ。肩と肘には[…]
新レプリカヘルメット「アライRX-7X NAKASUGA 4」が発売! 今シーズンもヤマハファクトリーから全日本ロードレース最高峰・JSBクラスより参戦し、通算12回の年間チャンピオンを獲得している絶[…]
小椋&チャントラの若手が昇格したアライヘルメット まずは国内メーカーということで、アライヘルメットから。 KTM陣営に加入、スズキ、ヤマハ、アプリリアに続く異なる4メーカーでの勝利を目指すマー[…]
王道ネイキッドは相変わらず人気! スズキにも参入を熱望したい 共通の775cc並列2気筒を用い、ストリートファイターのGSX-8S、フルカウルのGSX-8R、アドベンチャーのVストローム800系を展開[…]
- 1
- 2