いかにも「衝撃を吸収しています!」と言わんばかりの2本ショックは、カスタムした際のアピール度も抜群……だったけれど、最近はなんだか少ないような……。いまやスーパースポーツから小排気量のネイキッドまでモノショックばかりだけど、もはや2本ショックは「昔のメカニズム」なんですか?
●文:伊藤康司 ●写真:ホンダ、ヤマハ、カワサキ、ドゥカティ、BMWモトラッド、KTM、MVアグスタ、アプリリア、トライアンフ、モト・グッツィ、ロイヤルエンフィールド、ハーレーダビッドソン、インディアンモーターサイクル
スイングアーム式のリヤサスペンションが2本ショックの始まり
バイクのリヤサスペンションに、現在のようなスイングアーム方式を採用したのは1955年のBMW各車(R27、R50、R69等)が有名で、スイングアームの左右にショックユニットを装備していた。これがいわゆる「2本ショック」で、現在に至るまで長い歴史を持つ。
そしてモノショック(1本ショック)が登場したのは1970年代初頭。オフロードで戦うモトクロスで、路面のギャップを乗り越えるために長いホイールトラベルが必要になり、ショックユニットのストロークがどんどん長くなっていた。しかし、バイクのレイアウト上、そして人間の体格的にも長さの限界を迎えていた。
そこでヤマハが取り入れたのが、トライアングル状のスイングアームからエンジンの上を通ってステアリングヘッドに届くくらい、長くて太い1本のショックユニットを持つ「モノクロスサスペンション」で、その形状からカンチレバー・サスペンションとも呼ばれる。モトクロスレースで圧倒的な成績を収め、ロードレースにも転用され、それが市販車にも採用され始めたのだ。
市販車もモノクロスサスペンションを装備
リンク式でさらに性能アップしたサスペンション
ヤマハのモノクロスサスペンションの性能は圧倒的だったが、特許の関係でライバルメーカーは同じ構造を採用できない。そこでホンダが1970年代の中頃に考案し、モトクロスレースで開発を進めたのが1本ショックにリンク機構を組み合わせたのが「プロリンク・サスペンション」だ。
これを最初に投入した市販モデルがCBX400FとXL250R。同時期にカワサキが「ユニトラック」、その後にスズキが「フルフローター」という名称でリンク式のモノショックを世に出していった。
2本ショックとモノショック、それぞれの特徴は?
そもそもモトクロスで長いストローク量を確保するところから始まったモノショックだが、それでは不整地を走らないオンロードスポーツも採用したのはなぜなのか?
それはオンロード/オフロードにかかわらず重要な路面追従性の向上を狙ったから。小さなギャップや低速時には素早くソフトに伸縮し、大きなギャップの強い衝撃はシッカリ踏ん張れるように、サスペンションの反発力を二次曲線的な特性にしたかったからだ。これをプログレッシブ効果と呼ぶ。
初期のほぼ垂直に配置された2本ショックでは、このプログレッシブ効果を得られなかった。しかし、モノクロスサスペンションのようにショックユニットを配置することで、長いストロークと同時に良好なプログレッシブ効果も得られることがわかった。さらにリンク機構によって、より理想的なプログレッシブ効果を設定できるようになった。各社が様々なリンク機構の開発を続けるのはそのためだ。
他にもモノショックは、重いショックユニットを車体の重心近くに配置してマスの集中を図るのに役立つ。単純に重量で比較しても、モノショックは太くて重いとはいえ文字通り1本なので、やはり2本ショックより軽量だ。
対する2本ショックも、ショックユニットを斜めに配置することでプログレッシブ効果を得られるので、徐々に取り付けの傾斜が増してきた。しかしリンク機構を持つモノショックには、性能的に及ばないのも事実。
というワケで性能や合理性を考えると、モノショックに軍配が上がる。2本ショックで優位なのは、着脱やメンテナンスが容易なところくらいか……。とはいえサーキットやモトクロス場で勝負をするのでなければ、現代の2本ショックなら公道を走る上では性能も乗り心地もなんら問題ない。