KB4の発表から試乗できる日を心待ちにしていた。超軽量&超ショートホイールベースが見せる世界は、予想を遥かに凌駕するもの。1000ccの質量を感じさせないハンドリングに、瞬時にバイクとライダーの一体感を得られる異次元感覚。ビモータオリジナルの車体構成と剛性バランスの緻密な配慮が生み出す独創性に夢中になった。
●文:ミリオーレ編集部(小川勤) ●写真:長谷川徹 ●外部リンク:カワサキモータースジャパン
ビモータを経営危機から救ったカワサキ
ヴァレリオ・ビアンキ(BI)、ジュゼッペ・モーリ(MO)、マッシモ・タンブリーニ(TA)の3人によって1967年にイタリアで創設されたビモータ。社名は3人の名前の頭文字で、1970年代の初頭からバイクの製作に着手。この当時からビモータはオリジナルフレームに様々なエンジンを搭載するバイクづくりを貫いている。
ただし生産効率はとても悪い。1975年に登場したHB1(ホンダCB750Fourエンジン)は、国産の量産車を購入し、それをバラしてHB1に仕上げていくのだから当然だろう。また後年のビモータのディテールを見ればわかるが、カウリングはほとんどがドライカーボン製、フレームは溶接箇所の多いスチールパイプとカーボン削り出しやアルミ削り出しパーツとのハイブリット、アルミパーツのほとんどが削り出しで、量産できるパーツが一つもないのである。
そのため、ビモータは度々経営危機に陥っており、2000年には倒産。2003年に新体制で活動を再開し、ドゥカティエンジン搭載車のDBシリーズなどを多数生産するが、経営は芳しくなかった。そして2019年にビモータを救ったのがカワサキで、そのお披露目はEICMAで大々的に行われた。
カワサキ×ビモータの第一弾であるTESI H2は、2021年に上陸。こちらはそれまで日本のディストリビューターとして活動していたモトコルセから発売され、現在も販売中。今回試乗したKB4からはカワサキがウェブで抽選販売することになったのである。
イタリアンカフェレーサーをビモータのオリジナリティで再現
待望の対面となったKB4。僕は、この日を待ち焦がれてきた。超ショートホイールベースで超軽量。このまったく乗り味が想像つかないバイクづくりは、本当に素晴らしく、常識にとらわれず果敢にチャレンジするビモータの姿勢にはいつも驚かされる。
目の前にあるKB4はとてもコンパクトだが、丸みを帯び、どこかデフォルメ感もある愛嬌のあるスタイル。カウリングの幅はあるためスリムではないが、シート部はシェイプされ、こんなバランスのバイクは見たことがない。コンセプトは「ヴィンテージ・インスパイアード」で、1970年代の象徴的なビモータのクラシックなスタイルと、ビモータが考える現代的なバイクを高い次元で融合させている。
斬新な設計が軽さと短さを生み出す。ニンジャ1000SXよりも42kg軽い!
まずはKB4がいかにコンパクトかを数値で見てみよう。ちなみにKB4のエンジンはニンジャ1000SXである。
●装備重量
KB4 194kg
ニンジャ1000SX 236kg
ZX-10R 207kg
ZX-25R 183kg
●ホイールベース
KB4 1390mm
ニンジャ1000SX 1440mm
ZX-10R 1450mm
ZX-25R 1380mm
同じエンジンを搭載しているニンジャ1000SXよりも42kg軽く、ZX-25Rよりも11kg重たいだけの車重は圧巻。ホイールベースも1000ccクラスの中では一際短い。というかZX-25Rよりも10mm長いだけなのである。
この信じられないような数値はラジエターをシート下に設置することと、様々なパーツに世界最高峰の軽量素材を使用することで実現。本来、エンジンと前輪の間にあるはずのラジエターのスペースがなくなったことで脅威のショートホイールベースを実現しているのだ。
しかし、発表当時から大きな疑問があった。こんな短い車体に142psの1043ccエンジンを搭載して、きちんと走るのだろうか……。
押し引きしてみると、当然のように軽い。念のため、ガソリンタンクを確認すると満タン。改めて軽量な設計に驚いた。しかし気になったのはサイドスタンドの立ちの強さで、軽さも相まって停車する場所にはいつも以上に気を使わないといけないように感じた。
跨るとそれなりに前傾がキツく、それはまるでスーパースポーツ。キーをオンにするとニンジャ1000SXと共通のメーターにbimotaの文字が浮かび上がり、その気にさせてくれる。モードはスポーツ。まずはこれで走り出そう。
ニンジャ1000SXのエンジンはアイドリングのすぐ上からとてもトルクフル。フラットなトルクカーブが思い浮かぶ扱いやすいキャラクターだ。湧き上がるようなトルクは、市街地でも5速/6速を使えてしまうほどフレキシブル。高いギヤの2000〜4000rpmあたりでのスロットルワークに気を使うところはなく、軽量&コンパクトな車体をどこまでにスムーズに加速させていく。
なんて乗りやすいのだろう。同じエンジンでこうも変わるのか……。軽さが生み出す、加速感の違い、扱いやすさに感激する。437万8000円の価格には緊張するが、バイクからのプレッシャーはほとんどない。市街地でもこの異次元感覚……、スポーツライディングが楽しみになってくる。
車体が熱くならないのも、この車体構成のメリットかも
軽さに舞い上がっていると、しばらくしてバイクがまったく熱くならないことに気がつく。今回は市街地から首都高速→アクアライン→千葉のワインディング→袖ヶ浦フォレストレースウェイのルートで150kmほど走行。夏日の渋滞路を経験したが、本当にまったく熱くない。
普通この時期のスポーツバイクは、エンジンからの熱に悩まされるもの。アルミツインスパーフレームに触れる膝や太ももは、渋滞に入りると数分で耐えられなくなるのだが、KB4は足が触れているのはカーボン製のエアダクトだから熱さに悩まされることが1度もなかった。
メーター内の水温が100度を超えるとシート下から「ブーン」という音と共に微振動が伝わってくる。ラジエターのファンが回っているのだ。エンジンから離れた場所にラジエターを置くことで冷却効率も上がっているのかもしれないなぁ、と思わされる。