難しさを感じさせないハンドリングが多くのライダーを育んできた
最新のバイクと比較すると頼りなくも見える細いタイヤを履くSRだが、どんなカーブも穏やかに曲がっていく。どこにも難しさを感じさせない。元々はオフ車のXT500がベースだからフレームのヘッドアングルが高めで、後輪が傾いた際にワンテンポ遅れるような感じで前輪が追従していく。
今どきの前後17インチのラジアルタイヤは、バイクが勝手に曲がっていくような感覚が強く、その素早い動きを止めるように思わず身体に力が入ってしまうようなシーンによく遭遇するが、SRにそんな動きはない。
立ち上がりでスロットルを開けると同時に、身体の重心を移動して後輪への荷重を増やす。すると後輪が路面をグッと掴み、トラクションを強める。このタイミングがうまくシンクロすると、SRのエンジンは24psとは思えない力強い立ち上がりを披露してくれるのだ。
ちなみ最新のSRは、ブリヂストンのBT45が純正タイヤだが、昔の純正タイヤであるメッツラーのME77にするとグリップは少し落ちるがタイヤハイトがあるため、よりスポーティなハンドリングを楽しめる。
多くの人にバイクの魅力を伝えたSR
そんなSRは、僕に色々なことを教えてくれた。僕はSRでバイクが好きになり、バイク雑誌編集部の門を叩いた。そこでこの仕事の面白さを知り、さまざまな人と出会い、現在がある。
SRに出会っていなければ今の僕はいないし、もしかしたらバイクの本質的な楽しさ知る前に降りてしまっていたかもしれない。長くバイクに乗ってきてわかるのは、良いバイクはライダーを育ててくれるということだ。
ポストSRを狙ったバイクはこれまでにもたくさんあったが、どれも短命に終わった。スペックでは語れない、人の感性に響く魅力は、つくり込まれたものなのか、偶然生まれたものなのかはわからないけれど、時代は変わってもSRらしさはずっと継承されてきた。これはとても大変なことだし、そんなSRを作り続けてくれたヤマハには本当に感謝しかない。
中古車なども考慮すると、SRは本当に多くの人の人生に大きな影響を与えてきた。SRの生産終了で一番の不安は、バイクの本質的な楽しさを教えてくれるバイクが1台消えてしまうことだ。ライダーがきちんと操作した時に、きちんと応えてくれるバイク。それがSRだった。
ノーマルの素性の良さはもちろんだけど、キャブレターやインジェクションのセッティング、フロントフォークの油面やオイルの番手の変更、またカスタムした時の反応もとても素直で、僕は今でもそんなSRとのカスタムライフを楽しんでいる。
最後に残念なのは、いまSRはとんでもない価格(SRに限った話でもないが……)になってしまっていることだ。ファイナルエディションが発表された際に人気が集まっていることは、なんだか最後にSRに脚光が当たっているようで嬉しかったのだが、この価格の上がり方は異常だ。程度のあまり良くなさそうなカスタム車まで価格が上がっている始末だ。早く健全な価格帯になって、まだまだ多くの方にSRの魅力を知ってほしいと思う。
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