ホンダGB350のライバルに真打登場!

待望の試乗! ロイヤルエンフィールド クラシック350【レトロとモダンの完璧な融合】

今、これほどまでにクラシックスタイルを追求するバイクメーカーは他にない。1901年に世界で初めてバイクを製造したロイヤルエンフィールドは、1970年までイギリスでバイクを製造していたが、現在はインドで存続。R&Dは今もイギリスで行っている。近年の厳しい規制に対応しつつも、空冷エンジンだけを生産し続ける稀有なメーカーだ。そんなロイヤルエンフィールドがクラシックの名前を使った新しいモデルを提案。日本に上陸したばかりのクラシック350を試乗してきた。


●文:ミリオーレ編集部(小川勤) ●写真:貝塚元 ●外部リンク:ロイヤルエンフィールド東京ショールーム

9種類ものバリエーションから好みで選べる

ついにクラシック350が発売になった。ついに、と書いたのはその期待値がとても高かったから。ロイヤルエンフィールドは2021年に同系列のエンジンを搭載するメテオ350を発売。日本ではホンダGB350の発売と重なったこともあり、350cc単気筒が注目を集めている。クルーザースタイルだったメテオ350だが、クラシック350はわかりやすいレトロスタイル。こちらを本命とし心待ちにしていた方も多いと思う。クラシック350は57万7500〜60万3900円で、ホンダGB350は55万〜59万4000円と価格帯も同一。しかしその乗り味はまるで別物だった。

そしてクラシック350の魅力の1つは、信じられないほど豊富なスタイルとカラーバリエーションがあること。クラシッククローム、クラシックダーク、クラシックシグナルズ、ハルシオンの4カテゴリーに分けられ、カラーバリエーションも入れると9パターンから選べる。自身の趣味嗜好性をバイクに投影したいライダーには、まさにおすすめだ。詳細は本記事の後半に、全車のスタイリングを紹介しているので見ていただきたい。

今回は、もっとも高価なクラシッククロームのレッドを試乗車としてお借りした。

クラシックの歴史は1948年に発売された『モデルG2』に遡るが、これは量産モーターサイクルに初めてスイングアーム式リヤサスペンションを搭載したモデル。そしてロイヤルエンフィールドはクラシックの名を冠した『クラシック500』と『クラシック350』を2008年に世界に送り出し、これまでの12年間でなんと300万台以上も生産してきた。そのエッセンスを受け継いだのが、今回紹介している新生クラシック350なのだ。

楽しい乗り心地が生み出す贅沢な時間

目の前にあるクラシック350は想像していたよりも少しだけ大きく、存在感が強い。エンジンを始動するとメテオ350よりも図太いエキゾーストノートが印象的で、ブリッピングしてもメテオよりもキレが良い。「ドルルルーン」スロットルを開けると緩やかに、それでいて力強く回転を上げる。そして回転の落ち方が絶妙。ゆるやかに落ちるこの感じ、シングルファンにはたまらない。エンジンを始動した瞬間から期待が高まる。エンジンが暖まると「トットットット」っとアイドリングも妙に低く落ち着いている。

走り出すと、爆発感の強い独特の感性を持つ単気筒エンジンは力強く路面を蹴る。それは350ccとは思えないダッシュで、スロットルを開けるとリニアに応えてくれる。市街地でもトルクに押されるように矢継ぎ早にシフトアップ。気がつくと5速まで入っているイメージで、湧き上がるトルクが病みつきになる。シフトタッチも抜群で、カチッカチッとしっかりと入るし、ギヤ比も完璧だ。

近年こんなに気持ちのよい加速があっただろうか。パワーやトルクの数値などどうでも良くなる気持ち良さ。本当に良いエンジンとはこういうことだ。メッキタンクに映り込む青空も相まって、なんだかとても清々しい気持ちになる。走るほどに気持ちが穏やかになり、なんとも言えない優しさに包まれる。

富士山近郊の標高の高いところでは新緑が芽生えたばかりだが、まだ所々に桜も見ることができた。ワインディングも力強く駆け上がっていく。

メッキ部分に写り込む青空がとても気持ち良い。エンブレムもコストのかかったつくり。

富士山五合目から山頂を見るとまだまだ雪が。寒かったけれど、空冷単気筒エンジンは気持ちよさそうに応えてくれた。

走り出した瞬間に、「今の時代にまだこんなエンジンが作れるんだ」と感心させられた。インドの排出ガス規制であるBS6(欧州のユーロ5と同等)をクリアしつつ、素晴らしいトルク感を発揮している。『鼓動とは何か』それをこのエンジンが教えてくれる。

349ccの空冷単気筒のボアストロークは72mm×85.8mm(GB350は70mm×90.5mm)で、最高出力20.2ps/6100rpm、最大トルク2.75kg-m/4000rpm。クランクケースはほどよい具合のバフ仕上げ。ここにゆらりと映り込む景色が何とも言えない。シリンダー直下のクランクケースにもフィンが刻まれるのが新しい。優しい曲線を持つディテールが多く、それが何とも心を落ち着かせてくれる。

スペックで語りにくい『鼓動』にどこまでもこだわった

『鼓動感』。それは目に見えないし、数値に出すことが難しい感性だが、クラシック350はそれをとても大切につくり込んでいるのがわかる。昔のバイクの良いところを継承しつつ、現代の技術でまとめられ『クラシックな鼓動』と『モダンな鼓動』をシチュエーションによって両方感じさせてくれるのである。

350ccはそれほど大きな排気量ではないし、最高出力20.2ps/6100rpm、最大トルク2.75kg-m/4000rpmも特筆した数値ではない。ただ、数値では語れない魅力をこのエンジンは秘めている。加速のたびに旧くからのイギリス気質を感じさせ、どこまでもノスタルジーな雰囲気に浸らせてくれる。それでいて極低速から爆発感のある近代のフューエルインジェクションならではの粘りも持っており、クラシックとモダンが完璧に融合している。

速度を問わずスロットルを開けた時のバイクとの対話が楽しい。確かに350ccとは思えないほど乗り心地が良く上質だ。しかし、市街地の交通の流れに乗っているだけで、ただただ『楽しい乗り心地』を提供してくれるのが最大の魅力である。

スロットルを開けるとグイッとリヤタイヤが路面を掴み、トラクションとグリップが得られる。「ズドドドドッ」音質も回転の上がり方もまろやかだ。振動を消し、鼓動だけを強調した感覚が素晴らしい。タコメーターはないが、エンジンは1500〜2000rpmも回っていれば十分なイメージでアイドリングの少し上からでも力強い。

350ccでもしっかりと感じられるシングルエンジンならではの力強い脈動がここにある。バイクとの対話がたまらなく楽しい。

高速道路巡行は100km/hくらいが心地よいが、そこから120km/hまで加速するのもそれほどストレスはない。120km/h巡航は個人的には回転が高すぎるイメージで好きではないが、昔の単気筒エンジンからは考えられないスムーズさを披露。国産の単気筒と比較すると、クラシック350の重めのフライホイール(もしくはクランクウェブ)は速度が乗ると巡航時の安定感を向上させる。ロングストロークにもかかわらず高回転でも伸びるし、350ccなのにその領域でも鼓動を感じさせるエンジンを僕はほかには知らない。

現代においてこんなフィーリングを持つ単気筒はロイヤルエンフィールドだけで、スピードや速さで語らなくても(というか趣味性の高いバイクの良さを語る上で必要がない)、素晴らしく贅沢な時間を提供してくれる。

これが世界最古のバイクメーカーならではの味付けなのか……。今でこそインドが拠点のメーカーだがイギリス気質とバイク文化を継承し、ほかメーカーでは決して真似ることのできない世界観を良質なプロダクトとともに築いている。

コクピットはもの凄くシンプルで、メーターはスピードのみ。キロ表示の下に小さくマイル表示も記載する。テールランプもクラシカル。深いスチールフェンダーも雰囲気だ。

ヘッドライト、メーターパネル、フロントフォークを覆うようにデザインされたフロントマスク。ヘッドライト上部の左右には可愛らしいポジションランプを装備する。

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