これまでの伝統のFRからFFベースのプラットフォームへと変貌を遂げた新型クラウン。クロスオーバーを皮切りに、セダン/ワゴン/スポーツと計4タイプのボディが発表されたが、その第1弾として発売されたのがクロスオーバーだ。2.4Lターボハイブリッド搭載車など一部グレードの生産開始は2023年1月以降となるが、今回は先行して発売された2.5Lハイブリッド車を試乗した。
●文:川島茂夫 ●写真:トヨタ自動車株式会社
クラウンの血筋を感じさせる静粛性。全開加速で高回転まで回してもエンジン騒音は静か
車名は「クラウンクロスオーバー」ではなく「クラウン」である。クロスオーバー以後はグレード名なのだ。つまりクラウン派生モデルではなく、これが新型クラウンなのだ。とは言え、先の発表会で披露されたようにセダンやワゴン(SUV系)、スポーツ(2BOX)もそれぞれクラウンであり、個性明快な4車型を合わせて新生クラウンを形成する。
第1弾となったクロスオーバー系は、自社サイトの分類ではSUVとなっているが、SUVとしてはイレギュラーなタイプである。最低地上高は145mm。昨今の一般的な乗用車プラス10mm程度であり、悪路向けとは言い難く、開発コンセプトでもSUVらしい性能は求められていない。
ちなみにプラットフォームはFF系の上級モデルやSUV用のGA-Kを用いているが、リヤサスはクロスオーバーRSに搭載されるeアクスルの採用に合わせて新開発されている。ただし、ジオメトリー設定は従来型を踏襲しているとのこと。
試乗車は、クラウン クロスオーバーでは標準型となる2.5L直列4気筒エンジンを搭載するスプリット式ハイブリッド。つまりTHSIIにE-Fourを搭載。前後輪それぞれの駆動用モーターはRAV4用と同型を採用。ただし、ハイブリッド用バッテリーには大出入力時のパワーと効率に優れる積層型バッテリーを用いている。
セダン系に比べて後輪駆動容量を大きくするのはSUVらしいとも言えるが、車重やサイズを考慮するなら車格相応の感も強い。
実際に試乗しでも特別パワフルな印象は受けなかった。プレミアムを感じさせる余力も含めて必要十分。低速域の扱いやすさから高速追い越し加速までクラス相応。初期加速は穏やか。電動特有の初期加速も控え目なのはちょっと物足りなさを感じたが、先代クラウンやカムリ等からの乗り換えるユーザーには馴染みやすい。
クラウンの血筋を感じさせるのは静粛性だ。全開加速で高回転まで回してもエンジン騒音は静か。エンジン音がちょっと野暮ったいのだが、ロードノイズも含めてバランスよい遮音感がある。
これについては荷室を独立させた3BOX構造の利点でもあり、開発の狙いのひとつにもなっていたとのこと。外観の印象ではハッチバックのほうが似合いだが、トランク式としたのもクラウンのこだわりだ。
ゼロクラウン以来、スポーティな走りもクラウンのセールスポイントのひとつになっているが、フットワークは1に快適性、2にファントゥドライブといった感じだ。
試乗車は標準の225/55R19を履く。段差乗り越え等で若干の車軸揺動感があるものの、刺激的な突き上げや重さ負けしたような揺れ返しは抑えられている。外観の印象では重量や重心高を力で押さえ込むハードサスペンションでもおかしくないが、騒音ともどもくつろぎを生み出す穏やかな乗り味でまとまっている。
今回は後席試乗が出来なかったのだが、リヤサスペンションまわりからのロードノイズも特に意識せずに済んだ。収まりのいい座り心地もあって、後席乗員のほうが新型クラウンの快適を深く味わえるだろう。
ファントゥドライブはキレのよさ。中立から操舵の回頭性がよく、横G(旋回力)発生までのタイムラグも少ない。切った瞬間から曲がり始めるような感じで、ちょっと反応しすぎの感さえ覚えた。
ただし、回頭量は適度であり、横Gあるいは速度が高くなるほど穏やかになる。高い安定性をベースに小気味よさをトッピングしたような操縦感覚である。このあたりは運動性/安定性/取り回しの両立点を高める電子制御後輪操舵システムの効果も少なくない。
もっとも、ファントゥドライブとハイパフォーマンスについては、パラレル式をベースとした新システムの2.4Lターボデュアルブーストハイブリッドシステムを搭載したRS系が本命。同系を「アスリート」に準えれば、2.5Lハイブリッドを搭載するG系は「ロイヤルサルーン」相当と言うわけだ。
興味深いのは燃費だ。WLTC総合モードで22.4km/LはカムリのE-Four車を多少ながら上回っている。しかも車重はクラウンが約100kg重いのだ。同クラスでは最良レベルの燃費性能であり、ドライバビリティなどを総合的に判断しても実燃費で20km/L超えも難しくないだろう。
運転席パワーシートはG以上。アドバンストレザーパッケージ以上にならないとメモリー機能や降車時シート退避が採用されないなど、トヨタブランド最上級モデルとして装備面のグレード展開に些かの不満もある。欲を言えば乗り味にもう少し重質な味わいが欲しくもある。それらを含めてもクラウンクロスオーバーGアドバンストは魅力的である。
前述の燃費もそうだが、先進的装備も備えて価格は510万円で、同クラスではコスパでも優等生。フォーマルな味わいの従来クラウンもいいが、スペシャリティ感を重視して選ぶなら新クラウンのクロスオーバー系はなかなかの好バランス。試乗前は伝統破壊による進化とも思えたが、見た目に寄らず意外とクラウンらしさにもこだわったモデルだった。
CROSSOVER G“Advanced”主要諸元
- 全長×全幅×全高(mm):4930×1840×1540
- ホイールベース(mm): 2850
- 最低地上高(mm):145
- 最小回転半径(mm):5.4
- 車両重量(kg): 1770
- パワーユニット:2487 cc 直列4気筒DOHC(186PS/221Nm)+前モーター(88kW/202Nm )/後モーター(40kW/121Nm)
- WLTCモード総合燃費:22.4km/L
- タイヤサイズ:225/55R19
- 4WDのみ
- 車両本体価格: 510万円 ※メーカーオプションを含まず
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