「子どもの送迎にちょうどいい⋯」F1ドライバーが惚れ込んだ、0-100km/h加速わずか3.6秒の魔改造セダン。バイク好き・メカ好きに刺さる[アルファロメオ・ジュリア GTAm]

「子どもの送迎にちょうどいい⋯」F1ドライバーが惚れ込んだ、0-100km/h加速わずか3.6秒の魔改造セダン。バイク好き・メカ好きに刺さる[アルファロメオ・ジュリア GTAm]

4ドアセダンの後席を取っ払って、ロールケージを組む。ツーリングカーレースの定番カスタムですが、これを市販車、ロードリーガルなセダンでやっちゃったメーカーとくれば、アルファロメオくらいのもの。創立110周年を記念して2022年に世界限定500台(日本導入84台)で放たれたモンスターマシン、「ジュリア GTAm」は、ディープな裏話が山盛り、かつ、伝説のF1ドライバーまで惚れ込んだ1台です。


●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotherbys

キミ・ライコネンが大絶賛した、アルファロメオのモンスターマシン

ジュリア GTAmが最も濃密な時間を過ごし、その牙を研いだ場所こそトピックです。イタリア北部にある「バロッコ・プルービング・グラウンド」は、1960年代に元祖「ジュリア GTA」を生み出した伝説のレース部門「アウトデルタ」が本拠地とした、まさにアルファロメオの聖地。

ここで2020~2021年にかけて行われた開発テストには、当時F1のアルファロメオ・レーシングに在籍していたキミ・ライコネンが参加。口数が少なく“アイスマン”と称される彼ですが、バロッコで可変式フロントスプリッターや巨大な手動調整式リアウイングといった空力デバイスのテストを重ねると、実に興味深いフィードバックをエンジニアに返しています。

テスト中のキミ・ライコネンと、開発リーダーのフィリッポ・ペルニャ。車体はまだダズル迷彩が施されています。

「高速走行時のバランスが明らかに良くなっている。フロントにしっかり荷重がかかる(ダウンフォースが効く)から、ステアリング操作に対してめちゃくちゃ素早く、俊敏にノーズがインを向いてくれるんだ」と。さらにベース車から100kgもの軽量化を施し、車両重量1580kgに絞り込まれたボディに最高出力540hpの2.9リッターV6ツインターボを積んだ魔改造セダンを、ライコネンは「速くて、運転しやすくて、とにかく反応が良い。攻め込む自信をくれる」と大絶賛。

フェラーリも携わった2.9リッターのV6は比較的コンパクトで、フロントミッド、かつ低めにマウントされています。

また、バイク好き、メカ好きの胸に刺さるのが、テストを終えた彼のこの一言。「このクルマは、平日は子供を学校に送り届けるのに使って、週末はそのままサーキットへ持ち込んでホットラップを攻める、なんて使い方が理想的だね」。

リヤシートを省き、ロールケージを張り巡らした公道走行セダンなど、アルファロメオくらいしか思いつきません。

パワーウェイトレシオは実に2.92kg/ps、0-100km/h加速わずか3.6秒のモンスターを、「子供の送り迎えにちょうどいい」と言い放つライコネンのぶっ飛んだ感覚にはとにかくシビれるというもの。

全域がパワーバンドのようなV6ツインターボ

ところで、このジュリアが用いたFRパッケージ「ジョルジオ・プラットフォーム」のベースにはマセラティのエンジニアリングが深く関わっています。単に「既存のパーツを流用した」という安易なものではなく、当時の親会社であったFCAがアルファロメオを完全復活させるべく結成した精鋭チームを率いたのは、他ならぬマセラティの最高技術責任者(CTO)、フィリッポ・ペルニャ氏でした。

彼が主導してゼロから開発したこの超一級のFRシャシーは、後にマセラティの新型SUV「グレカーレ」や、俊足のスポーツクーペ「グラントゥーリズモ」へと逆に拡大採用されていくことになります。つまり、マセラティを支える最高峰の基本骨格が、このジュリアに先行投入されていたということ。

さらに前述のV6ツインターボはフェラーリのエンジニアが開発に深く関与。最大トルク600Nmをわずか2500rpmから発生させるという、全域がパワーバンドのようなトルク特性が与えられています。マセラティのシャシーにフェラーリ血統のエンジンを積むという、イタリアの血統がとっちらかっている気がしないでもありませんが、そこはアルファロメオらしく手堅くまとめあげています。

偉大な開発者「ジョルジオ」への敬意と追悼をシャシーの込めた

例えば、ジョルジオと名付けられたシャシーからしてアルファロメオ主導というのが伝わってくるかと。これは言うまでもなく、偉大なテストドライバーであり開発者、ジョルジオ・ピアンタ(Giorgio Pianta)氏へ捧げられたオマージュにほかなりません。

ピアンタ氏は、ランチアのグループBモンスター「デルタS4」や「037ラリー」の開発(ドライバー兼任)をはじめ、1990年代にはアルファロメオのレース部門「アルファ・コルセ」の監督として、あの「アルファ155 V6 TI」を率いてドイツDTM(ドイツツーリングカー選手権)を完全制覇した伝説の闘将です。

この新たなFRプラットフォームの開発が佳境を迎えていた2014年4月、ピアンタ氏は79歳でこの世を去りました。BMWの3シリーズをハンドリングで凌駕するマシンを作るという、不可能とも思える挑戦に挑んでいた若きエンジニアたちは、かつてドイツのライバルたちをサーキットで叩きのめしたボスへの敬意と追悼を込め、このシャシーに彼のファーストネーム「ジョルジオ」を選んだのです。

サーキットのラップタイムというデジタルな数字の裏に、こうした「漢(おとこ)たちのウェットなドラマ」が秘められているのが、いかにもアルファロメオらしいところ。まるで、かつて名車を生み出した闘将の精神が、最新の限定スーパースポーツに宿っているかのような……と胸を熱くしているリッチマンは少なくないようで、モナコで出品されたこちらは約5800万円という情熱価格で落札されています。

ジュリア GTAmは、国内での新車価格が2199万円だったことを考えると、5800万円というのはスーパープレミア落札!

ホワイトのセンターフラッシュは1972年に初代GTAmがシルバーストーンで大活躍した際のカラーリングをオマージュ。

サベルト製バケットシート、6点式シートベルトを標準装備。繰り返しますが、これで公道走行用に発売された4ドアセダンなのです。

540馬力、600Nmを操るわりにはストックのジュリアとさして変わらないダッシュボード。

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