
国内/海外のレース会場でライダーのサポートを行う“レーシングサービス”。今回は鈴鹿8耐の会場にてアライヘルメットの小川幸治さんに話を聞いた。プロのメンテナンス術とともに、ヘルメットの日常管理/ケアの仕方についてお伝えしよう。汗をかく夏こそ重要かと思いきや、オールシーズン手入れを怠らないほうがいいという。その理由とは? ※2025年の記事を再構成したものです
●文/写真:秋摩竜太郎(ヤングマシン編集部) ●外部リンク:アライヘルメット
皮脂や汗に含まれる尿素が生地を痛めてしまう
小川幸治さん。工場長としてヘルメットの組み上げなどについて研鑽を重ねたのち、レーシングサービスとして最前線の知見を深めている。
──一般の方が汗でびちょびちょのヘルメットをリフレッシュさせたい場合、どのように行えばよいでしょうか?
「どこが外せるのか、どういうふうに洗えばいいのかは、取扱説明書に記載されています。まずは説明書を一読いただくところからスタートしてもらうのがよいと思います。
外す手順としては、まずは天井(システム内装)から外してもらうと、チークパッドなどが外しやすくなるかと思います。天井は洗えますし、チークパッドも生地を外せば洗えます。システムネックもモデルによっては洗えますね。
そもそもやりがちかなと思うのは、帰ったあとに濡れっぱなしにしてしまうことです。そういうときは風通しのいいところに置いて乾かすとか、タオルやペーパータオルで汗などの水分を吸収させれば、各部位を外すのもやりやすくなります。とくにレース環境では、とにかく乾かすことが大事です。鈴鹿8耐などは本当にサイクルが速いので、急いで乾かさないといけない。
まずはキッチンペーパーで汗をしっかり吸い取ってから、乾燥機に乗せるような形を取っています。汗をそのままにしておくと、それがにおいの原因になりますので、まず汗を吸い取ること。そして風通しのいいところに置いてもらって、乾かすのがいいと思います」
衛生面、機能面ともにとにかく乾かすことが肝心。
キッチンペーパーを使い、くまなく丹念に水気を取る。
──洗う際、洗剤はどんなタイプがオススメですか?
「中性洗剤を使っていただければと思います。強い溶剤の入ったものですと、生地やパーツを痛めてしまう恐れがありますので。
そして望ましいのは手洗いです。洗濯機に入れるよりも、手でもみ洗いして、まず汚れを絞り出すようなイメージですね。そこから全体をやさしく洗っていただくのがいいかなと思います」
──洗い終える目安としては?
「使用頻度にもよりますが、もみ洗いしたときに、水がきれいになっていれば大丈夫です。ふだん洗っていない方の場合は、何度やっても汚い水のままということもあると思います。
実は皮脂ってわりと強いというか、生地を痛めてしまうんですよ。また汗に含まれる尿素、これも生地にダメージを与えてしまいます。ですので、できればこまめに洗っていただくことが望ましい。“今日はいっか”ではないんです」
──臭くなってしまったり、カビが生えてしまった場合はどうしたらいいですか?
「そこまで菌が入り込んでしまった場合は、漂白剤などを使う必要もありますが、それ以前に生地がもう傷んでしまっている可能性があります。
ですので、そのときは内装自体を交換してしまったほうがいいかもしれません。一度カビが生えてしまうと、洗っても菌がどこに残っているかわからないですからね」
──では洗い終わった後に乾かす際、やはり乾燥機にかけるなどはよろしくないですか?
「熱によって急激に乾燥させるのは生地を痛める原因になってしまいますので、風通しのいい日陰干しなどが好ましいです。
乾燥機については衣類と一緒だと思います。衣類もヘルメットの内装も肌に触れるものなので、生地が傷んでしまうとかぶり心地が損なわれてしまう。
加えて、機能性も落ちてしまいます。要はにおいが出ないような調湿、抗菌の内装生地を使っているものは、乾燥機をかけることによってその機能も損なわれてしまう。そういった点も気をつけてもらいたいと思います」
──脱水機も同様でしょうか?
「脱水機にかけてしまう方もいらっしゃると思いますが、なるべくならタオルか何かで吸水したあと、日陰干しをするのが理想です。
どうしてもそこまでできない方もいるのが現実だとは思いますが、生地を痛めないことを考えるのであれば、優しく吸い出してあげるのが一番です」
──内装以外に、帽体やシールドはどの程度洗っていいものなんですか?
「先ほど言ったようにアルコールなどの溶剤を使わなければ、基本的に水洗いで拭く程度であれば問題ないです。必ずその後は水分を拭き取ってあげて、乾かせてください。これらをこまめに洗って乾かせてあげれば、絶対におうことはないんですよ」
──洗うこと、乾かすことの重要性がわかってきましたが、ということは夏はもちろん、オールシーズン常にケアすべきですよね?
「やはり人間からは皮脂が出ますので、メンテナンスは必要だと思います。冬だって夏と同じように、皮脂で汚れるものは汚れてしまうんです。
ただ、バイクを楽しんで、バイクのメンテナンスをして、へとへとになって家に帰って、いざヘルメットまで手が回るかと言ったら、そうではないと思います。
それでも定期的に、気が向いたときには必ずヘルメットのメンテナンスもしてください。とくにかなりの汗をかいた際は洗っていただきたいですね。それだけ尿素は大敵なんです」
レース活動のノウハウを市販品へフィードバック
──小川さんが接するライダーたちは、自身のヘルメットをどのように扱っているのでしょうか?
「みなさん綺麗にケアされています。自分の頭を守る道具としての意識がすごく高いんじゃないかなと思います。ヘルメット表面も含めて自分で綺麗にしてからこちらへ持ってくる方も多いですね」
──プロフェッショナルであればあるほどそういった意識が高いというか。
「彼らにとっては、本当に血の通う道具ですからね」
──持ち込まれたヘルメットに対して、どのような作業を行うのですか? 乾かすことひとつ取っても、何か特別なやり方があるとか?
「工夫も何も、まずはキッチンペーパーを何枚も使って汗を吸い取ってあげます。とくにヘリや隙間は乾きにくいため、キッチンペーパーを詰め込みます。靴と同じですね。靴も濡れたときに新聞紙を入れたりするじゃないですか。それから乾燥させます。
またサーキット走行のような環境では、タイヤのカスや虫などいろんなものが飛んできますのでヘルメットやシールドが汚れます。ですので、乾燥させている間にティアオフシールドを貼り直します。そして最終的に外側を磨いて、各機能が問題ないかチェックした上でお戻しします。
あとこれは特殊な例で、起きてほしくないことですが、転倒された場合に“これは使えますか?”と聞かれるケースもあります。そういうときは内装や帽体の中のシールドが潰れていないか、外側の塗装が剥がれていないか、下地が出ていないかなどを見ます。総合的に、安全に使えるかどうかを判断します。
原則としては、転倒したら使っていただきたくないです。ただしレースでは限られた個数でやらなければならないため、そういった判断が求められるということです。それでも本当に、ダメなものはダメです」
──他に何か要望を受けることはありますか?
「サイズの微調整ですかね。それは市販品と同じように、調節パッドなどでちょっときつく/緩くするというやり方です。取扱説明書に載っているように、剥がせるものを剥がしたりして対応します。
我々のユニフォームは、社名ロゴとともに“Racing Specialities”の文字が胸に刻まれています。これはレーサーだけに特別なことをしているわけではなく、レース活動で得たノウハウを、一般のお客様に対しても同じようにフィードバックさせていただいているということなんです。それがアライヘルメットです」
一刻を争うレース会場での作業。
各ライダーの要望にひとつひとつ応えるためには極限の集中力が求められる。
胸に刻まれる“Racing Specialities”の文字。レースのノウハウを市販品へ落とし込むため、プロ用製品と市販品で差はない。一般ライダーもレースクオリティの、最高のヘルメットを手にすることができる。
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