直近で関税を支払うのは米国の消費者だが……

トランプ関税はバイクの世界にも影響ある? なんと税率50%の製品カテゴリーも……〈多事走論〉from Nom

決まったようでまだ正式な書面も交わされていないトランプ関税だが、すでに発効していて大きな影響を受けている分野もあることはニュースなどでご存じだろう。では、バイク業界はどうなっているのだろうか?


●文: Nom(埜邑博道)

トランプ関税はバイクの世界にも影響があるのか、国内各メーカーに聞いてみました

世界中に吹き荒れている「トランプ関税」の深刻な影響。

特に、自動車に課されることになった15%の相互関税は日本の自動車メーカーに多大な影響を及ぼす見込みで、報道などによればトヨタ自動車など国内大手7社の米関税影響額は2兆7000億円(2026年3月期通期)にのぼる見通しで、営業利益を約4割近く押し下げると言われています。

ご存じのように、自動車産業は我が国の基幹産業で、自動車工業会は自動車産業に携わる人々を「クルマを走らせる550万人」と呼んでいます。

おそらく、バイクに乗っている方々の中にも、直接、自動車産業に携わっている方や、自動車産業で働く親類・縁者、友人などがいらっしゃるでしょう。それらの方々にとっては、依然として不透明なトランプ関税の行方は将来に対する不安に他ならないでしょう。

また、ここまで経済がグローバルになっていると、マクロの視点で見た場合、さまざまな影響が世界的規模で起こることも考えらえれます。

バイクや、バイク用のパーツ、ギアにも関税の影響は出ざるを得ないと思います。

関税を払うのはアメリカの輸入業者で、上乗せされた関税の影響で値上がりした商品を購入するアメリカの国民が実質的な損害を被ると巷間言われてはいますが、「風が吹けば桶屋が儲かる」という例えがあるように、一見、無関係に思えるようなことが巡り巡って影響を及ぼすことも考えられるでしょう。

アメリカのバイク事情を見ると、日本製のスポーツバイクの市場はそれほど大きくなく、販売台数が多いのはオフロードモデルとATVやバギーといった四輪のオフロードビークルです。とはいえ、アメリカでのバイクの販売台数がトランプ関税の影響で激減するようなことがあれば、日本のバイクメーカーにとっては大きな打撃になることも考えられ、その影響が巡り巡って国内のバイクの販売価格に影響することもあるかもしれません。

7月末に相互関税15%(一部、関税率が異なるものもあります)で合意をしたというトランプ関税ですが、合意文書が日米で現在も作成中など、なかなかその全貌と確かな道筋が見えていません。

さらに、トランプ大統領の思い付きでいつまた関税率が上下するかさえ不透明な状態です。

とはいえ、日本のバイク、用品メーカーは、着々と関税の影響に対応しながら日々ビジネスを行っています。そこで、車両メーカーと用品メーカーにトランプ関税は日本のユーザーにも影響を及ぼす可能性があるかどうか聞いてみました。

日本市場への影響はない、と各メーカーが回答

各社への質問項目を以下に記しますが、アメリカ国内の産業を守るためという理由で一部製品には15%をはるかに上回る追加関税がかけられてもいます。

たとえば、鉄鋼、アルミ製品に対する関税はなんと50%という高いものです。

その個別の関税をすべて把握するのはとても困難ですが、基本的には15%、特例が設けられているものは対象のメーカーに聞き取りをしました。

〈質問項目〉

  • (1)アメリカに輸出するバイクにも、相互関税の15%が課せられることになりました。御社製品について、どのような影響が出るとお考えですか(販売価格などできるだけ詳しくお願いします)
  • (2)御社は現在、アメリカ合衆国内(以下アメリカ)で御社製品を製造されていますか。それはどこの工場で、どんな製品を製造していて、アメリカで御社が販売している総台数の何%に当たりますか
  • (3)上記質問2に関連しますが、御社が現在アメリカで販売している商品は、日本国内で生産、日本以外の他国で生産(生産国も教えてください)、アメリカで生産のそれぞれの%を教えてください。
  • (4)今後、アメリカでの製造を増やすことをお考えですか。また、増やすことをお考えの場合、それは従来工場での増産ですか、それとも新たに工場を建設することをお考えですか
  • (5)日本国内で販売する御社製品に、何か影響はあるでしょうか(販売価格などできるだけ詳しくお願いします)
  • (6)そのほか、15%の関税が施行されることでどんな影響で起こりうるでしょうか

前述したように、関税の先行きが不透明な中、各社の担当者からご丁寧な回答をいただきました。感謝を述べるとともに、以下、各メーカー別に回答をお伝えすることにします。

●ホンダ

販売店やサプライヤーなどステークホルダーに対し、共創活動を通じて関税影響のミニマム化に取り組んでいきます。売価については、他社の動向を見ながら、実施タイミング、改定の幅、対象モデルを慎重に判断していく所存です。

サウスカロライナ州とノースカロライナ州の工場でSXS、ATVをアメリカ向けに生産していて、アメリカでの販売台数の45%を占めています。

アメリカで販売する商品の海外生産比率は、タイ20%、日本15%、中国13%、メキシコ4%、ブラジル3%で、今後のアメリカでの生産については以上の状況を鑑み、必要に応じて対応を検討いたします。

日本国内で販売する商品については、関税の影響はありません。

●ヤマハ

関税対応として、6月よりアメリカで8%の値上げを行っています。当社における24年の二輪車販売台数は496万台、そのうちアメリカを含む北米は8万台、1.6%です。また、二輪車はアメリカでは生産していませんが、ATV、ROV(レクレーショナル・オフハイウェイ・ビークル)は、基本的にアメリカ・ジョージア州ニューナンの工場で生産しています。

アメリカで販売している二輪車の生産は、日本約8割、インドネシア1割強、その他が1割となっています。また、アメリカには二輪車の工場はなく、現時点で工場建設の予定もありません。

日本国内で販売する商品については、関税の影響はありません。また、ATV、ROVは日本国内では販売しておりません。

ただ、アメリカの関税を含むマクロ経済の先行きの不透明感が世界経済に波及して他の国の市場にも影響するリスクは常に注視しています。ただ我々の二輪車でいうと、プレミアム戦略などは、ある意味お客さまのセグメントをしっかりターゲットを定めてアプローチする戦略を取っているので、マクロ経済による影響は今のところ大きくは出ておりません。随時状況をウォッチしながら、適切なマネジメントをしていきたいと思います。

●スズキ

当社は主に二輪車、船外機を米国へ輸出しています。関税の影響についてはまだ不透明なところもあり、これから販売への影響がどれくらい出るか見通せません。

アメリカでは、同国でのATV(四輪バギー)販売のうちの90%をジョージア州のSuzuki Manufacturing of America Corporation(SMAC)で生産しています。

アメリカで販売する二輪車は、ほぼ日本製で、ATVは前述のように90%がアメリカ製、10%が台湾製です。船外機については生産台数の詳細は公表していませんが、日本とタイで生産しています。アメリカでの製造を増やすことは、現在のところ考えておりません。

日本市場におけるスズキへの影響は、関税政策が直接的に影響を及ぼすことは少ないですが、景気後退の影響や先行きの不透明感による影響が考えられます。グローバルなサプライチェーンへの影響を注視し、部品供給に支障が出ないよう取引先と連絡を密に取ると共に、コスト削減や効率的な生産体制の構築を進めることで、関税によるコスト増を吸収し、国内販売への影響を最小限に抑える努力を続けてまいります。

●Arai Helmet

弊社製品は100%国内生産ですので、アメリカ向けの商品は4月10日から10%の関税がヘルメット、パーツに課せられ、8月7日からは15%の関税となりましたが、どのような影響が出るか現在精査中です。

弊社としましては、アメリカに生産拠点を持つことは考えておりませんし、日本国内で販売する製品に関しては、特に影響は出ないと考えております。

●SHOEI

仕向け地にかかわらず、弊社製品はすべて日本国内で生産しています。

相互関税によって、弊社のアメリカの代理店の仕入れ価格が上昇するため、ヘルメット本体の販売価格が上昇する予定です。パーツ関係は未定です。また、アメリカでのヘルメットの販売量は、全世界の7%になります。

弊社は、アメリカに生産拠点を持つことは考えておりませんし、日本国内で販売する製品に関税の影響はございません。

各国とアメリカの関税交渉次第ですが、競合他社がアメリカ向けの製品を他国で生産してアメリカへ輸出している場合、市場での販売価格の差がこれまでとは異なる(他社製品と弊社製品の価格差が近づく・広がる)状況というのは起こりうると思います。

●ブリヂストン

トランプ関税は、関税をかけることで輸入需要が減少すれば、輸入財の価格が低下し、それが輸出財の相対価格を上昇させ、交易条件が有利なものに変化するという保護主義の考えをアメリカが推し進めているからと推察します

この関税に対応するために、北米市場において7月から6.4%の値上げをさせていただきました。今後の対応については検討中です。

弊社のラジアルタイヤは100%国内生産です。また、バイアスタイヤのうちスクーター用タイヤの一部をタイで生産しておりますが、全体生産量の10%未満です。また、アメリカでの弊社タイヤの販売量は約10%で、北米での二輪タイヤ生産拠点新設の計画はございません。

現時点では、国内販売価格への転嫁は計画しておりません。

鉄鋼、アルミ製品の関税はなんと50%!

●RKジャパン

弊社製品のアメリカでの販売は、モトクロッサーとATV用のチェーンが主力で、アメリカでの販売割合は全世界の約10%と、依存率は大きくありません。

ただ、鉄鋼関税は50%と非常に高いものですので、自社で吸収するのは困難と考えております。しかし、先日、この50%の鉄鋼関税は商品の中の鉄の割合にかけられるもので、チェーンに用いられているシールリングやブッシュは除くということが現地代理店担当者との話で判明しました。このように、通関の現場でも日々ルールが変わるような大混乱の状況のようで、当面は様子見の状態で、弊社もアメリカへの輸出はこの関税の話が出てからは行っていません。

チェーンは、タイヤ、ブレーキパッドに次ぐバイクにとって重要なパーツですから、現実離れした価格では受け入れてもらえませんので、日本国内での値上げなどは考えておりません。


カワサキは、川崎重工も絡むことから全社的に差し控えているということで回答はもらえませんでしたが、ロイターの報道によるとバイクなどのパワースポーツ&エンジン(PS&E)部門が、米関税の影響と米国消費者心理の冷え込みを織り込んで売上収益予想を従来の6600億円から6200億円に下方修正したとのこと。

スポーツバイクやオフロードモデルなどの二輪車に加え、ATVやサイド・バイ・サイド、MULEなどの四輪バギー、ジェットスキーなどアメリカ市場で大きくビジネスをしているカワサキは、今回のトランプ関税の影響を大きく受けるのかもしれません。

RKジャパンの担当者がおっしゃるように、日々ころころとルールが変わるような先行き不透明な状況が続いているトランプ関税。たった一人の人間が、世界中の輸出入にかかわる人々を混乱、苦悩させているなんて本当にたまったものじゃありません。

従来は無税だったものにまで、15%の輸入関税がかけられているのですから、当然、アメリカでの販売価格は関税分を上乗せされていくことでしょう。

それによる販売不振、アメリカへの輸出の減少、そして世界全体の販売量の減少など、これからさまざまなことが起きてくると思います。

現在は、日本国内の販売価格などに影響はないと質問した各メーカーの担当者は回答してくれましたが、正直言って「一寸先は闇」であることは間違いありません。

「自動車関税」ばかりに目がいってしまいますが、我々ライダーにもいつトランプ関税の影響が及ぶか分かりません。

対岸の火事ではありませんから、これからもトランプ関税の動向に大いなる注意を払っていきましょう。

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