
1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第133回は、大晦日が73歳の誕生日だったケニー・ロバーツさんの家での年越しの模様をお届け。
Text: Go TAKAHASHI Photo: Tetsuya HARADA
「おいテツヤ、肉を焼いてるから早く来い!」
年末年始は、家族でケニー・ロバーツさんの家に遊びに行きました。ケニーさんは12月31日が誕生日なので、バースデーパーティーと新年会を兼ねて、仲間たちで集まることになったんです。
ケニーさんの家は、アメリカ・アリゾナ州。12月25日のフライトでラスベガスに向けて飛び、25日の夜に到着しました。日本人の仲間たちと合流し、入籍したばかりの新婚さんがいたのでお祝いしたり、カジノで少し遊んだりして明け方まで楽しみました。
翌26日午後からレンタカーを借りる手はずでしたが、いきなり「12人乗りのバスしかない」と言われるハプニング発生!「別の車にするなら午前中に来てくれ」とのことで、明け方まで遊んでいたというのに急きょ朝10時にレンタカー屋さんに行くことに。どうにかランクルのような4WDを借りることができ、ひと安心です。
後から来た日本人の仲間たちと合流し、アウトレットモールなどに寄りながらグランドキャニオンの近くにあるウィリアムズという町に1泊。翌27日朝、ネイティブアメリカンの聖地としても知られるセドナを観光したりしながら、のんびりとケニー家をめざしていましたが、途中で「おいテツヤ、肉を焼いてるから早く来い!」と連絡が入り、大あわて。ケニーさん、せっかちです(笑)。
いつ来ても感動。
到着したケニーさんの家は、まぁ大きいのなんの。豪華なプールや離れがある家そのものが大きいのはもちろんですが、ガレージもふたつあり、車やボートが納められています。モーターホームも3、4台入りそうなスペースで、4輪バギーやケニーさんのお遊び用バイク、チーム・ロバーツ監督時代のGP500マシンKR3なんかもゴロゴロしてました。
ケニーさんの家に着いた翌日には、いきなり「おい、ロバを見に行くぞ!」(笑)。「ヒストリック・ルート66」と呼ばれる有名な元ルート66で砂漠の中を進みます。ディズニー映画の「カーズ」そのままの風景で、娘たちも大喜び。奈良のシカのように野生のロバがウロウロしているオートマンという町に着くと、まるで西部劇の舞台のようです。雰囲気たっぷりだし、周辺の道路も楽しそうだし、ケニーさんと「今度はバイクで走ろう」と約束しました。
ただ、少し余談になりますが、ケニーさんいわく「昔と違って、今はアメリカでも若者がすっかりバイクに乗らなくなってしまったんだ……」とのこと。70年代終わりから90年代始めにかけては、ケニーさんを筆頭にアメリカ人ライダーが大活躍していました。エディ・ローソン、フレディ・スペンサー、ウェイン・レイニー、ケビン・シュワンツと名だたるGPチャンピオンがいたんです。
でも、’06年のニッキー・ヘイデンを最後に、アメリカ人チャンピオンは登場していません。バイクに乗る若者が減ったことも大きな要因でしょう。「みんなスマホ以外に興味がないみたいなんだよ!」と嘆くケニーさん。この状況を打破しようと何か企んでいるようで、僕も楽しみにしていようと思います。
その翌日は、アクティビティ三昧! トレーラーでボートを引っ張ってコロラド川に行きクルージングしたり、ナマズ釣りをしたり、4輪バギーで裏山を走り回ったり……。ウチの娘たちはケニーさんと初対面でしたが、「一緒に遊んでくれる!」と、あっという間に大好きになってました。ちなみに僕はほとんど寝ていましたが(笑)。
「あれはジェレミーの家だ。知ってるか?」
そんなこんなで、いよいよ12月31日。ケニーさん、73歳の誕生日です。ジュニア(編註:ケニー・ロバーツ・ジュニア。’00年世界GP500チャンピオン)もやって来て、娘たちはしかるべき場所で銃の撃ち方を教わっていました(笑)。ランチは地元バイククラブの皆さんと一緒に。さすがケニーさん、何かと人が集まります。
夜には、ケニー家から車で5分ほどとご近所のエディさん(編註:エディ・ローソン。世界GP500チャンピオンを4度獲得)、そしてババさん(編註:ババ・ショバート。’85〜’87年のAMAグランドナショナル・ダートトラックで3年連続チャンピオン獲得。’88年AMAスーパーバイクチャンピオン。世界GPにも参戦)も登場しました。
ケニーさんの家はハヴァス湖の近くにあるんですが、どうやらアメリカの成功者たちがリタイヤ後に住むような場所らしいんです。湖畔を散歩してる時、ケニーさんが大豪邸を指して「あれはジェレミーの家だ。ジェレミー・マクグラス、知ってるか?」と。「知ってるも何も、超有名なスーパークロスチャンピオンじゃん!」と、笑ってしまいました。
というわけで、夜はケニーさん、ジュニア、エディさん、ババさん、そして僕も含めると、5人のチャンピオンが揃ったことになり、なかなかの豪華さです。家族や仲間たちを含めて楽しいパーティーになりましたが、皆さんもうかなりのお年なのに元気……。本来ならニューヨーク時間の年明けに合わせて大砲を撃つ、という豪快なイベントもあるそうですが、待ちきれずに夜9時半頃にはブッ放してました(笑)。ケニーさんはとにかくみんなと過ごす時間が楽しかったようで、いつもは早寝なのに、この日はかなり遅くまで飲んだくれていたとか。僕たち家族は少し早めに自分たちの部屋に引き上げましたが、ホントに元気な73歳です……。
年が明けた1月1日には、日本人の仲間たちとともに、ケニーさんの家をおいとましました。仲間たちの何人かはその日のうちに日本に向けて飛びましたが、僕たち家族はラスベガスにもう1泊。2日の朝のフライトでモナコに戻りました。
というわけで、結局ケニーさんの家には12月27日〜1月1日まで、5泊6日もお邪魔していたことになります。娘たちはすっかりケニーさんになついて、「また遊びに来る!」と、早くも予定しているようです。ケニーさんの奥さん、日本人のともちゃんは、「若い女の子がこんな田舎に来て、楽しんでもらえるかしら?」と心配していましたが、娘たちは意外と(?)自然派だったようで、アクティビティにも大喜び。家族で最高の冬休みとなりました。
次回は、僕の現役時代のケニーさんとの思い出や、チャンピオンの皆さんとの交流についてお知らせします。
ケニーさん&ババさんと
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事([連載] 元世界GP王者・原田哲也のバイクトーク)
予選PP、決勝2位のクアルタラロ MotoGPもいよいよヨーロッパラウンドに突入しました。今はヘレスサーキットでの第5戦スペインGPが終わったところ。ヤマハのファビオ・クアルタラロが予選でポールポジシ[…]
上田昇さんとダニと3人で、イタリア語でいろいろ聞いた 先日、ダイネーゼ大阪のオープニングセレモニーに行ってきました。ゲストライダーは、なんとダニ・ペドロサ。豪華ですよね! 今回は、ダニとの裏話をご紹介[…]
15番手からスタートして8位でフィニッシュした小椋藍 モナコでロリス(カピロッシ)と食事をしていたら、小椋藍くんの話題になりました。「彼は本当にすごいライダーだね!」と、ロリスは大絶賛。「ダイジロウ・[…]
マルケスがファクトリーマシンを手に入れたら…… MotoGP開幕戦・タイGPで優勝したマルク・マルケスは、圧巻の強さでしたね。7周目に、タイヤの内圧が下がりすぎないよう弟のアレックス・マルケスを先に行[…]
『状況によって』と予想はしたが── 前回のコラムで「状況によってはトップ5に入る」と予想していた、小椋藍くん。MotoGP開幕戦・タイGPで、本当にやってくれました! 土曜日のスプリントレースが4位、[…]
最新の関連記事(モトGP)
予選PP、決勝2位のクアルタラロ MotoGPもいよいよヨーロッパラウンドに突入しました。今はヘレスサーキットでの第5戦スペインGPが終わったところ。ヤマハのファビオ・クアルタラロが予選でポールポジシ[…]
1位:スズキ『MotoGP復帰』&『850ccで復活』の可能性あり?! スズキを一躍、世界的メーカーに押し上げたカリスマ経営者、鈴木修氏が94歳で死去し騒然となったのは、2024年12月27日のこと。[…]
XSR900GPとの組み合わせでよみがえる”フォーサイト” ベテラン、若手を問わずモリワキのブースで注目したのは、1980年代のモリワキを代表するマフラー、「FORESIGHT(フォーサイト)」の復活[…]
上田昇さんとダニと3人で、イタリア語でいろいろ聞いた 先日、ダイネーゼ大阪のオープニングセレモニーに行ってきました。ゲストライダーは、なんとダニ・ペドロサ。豪華ですよね! 今回は、ダニとの裏話をご紹介[…]
マシンの能力を超えた次元で走らせるマルケス、ゆえに…… 第2戦アルゼンチンGPでは、マルク・マルケス(兄)が意外にも全力だった。アレックス・マルケス(弟)が想像以上に速かったからだ。第1戦タイGPは、[…]
人気記事ランキング(全体)
カワサキの新世代モビリティが大阪万博で公開 2025年日本国際博覧会、通称「大阪万博」のカワサキブースで、未来のオフロードビークル「CORLEO(コルレオ)」が注目を集めている。バイクのように乗車する[…]
「その時、スペンサーになれた気がした」 MVX250Fの上位モデルとして400版の発売が検討されていたが、250の販売不振を受け計画はストップ。この心臓部を受け継ぎ、NS250Rの技術を融合したモデル[…]
日本でもっとも人気の高いジャンル=ネオクラシック プロポーションの枷を覆す【カワサキ Z900RS】 まず、現代のバイクと昔のバイクではプロポーションがまったく違うんです。昔のバイクはフロントタイヤが[…]
バイクキャビン:小型エアコンを装備すれば抜群の環境に! 難しく考えることなく、手っ取り早く購入できるガレージとして高い人気を得ているのが、デイトナが取り扱う各種シリーズ製品だ。 全モデルに共通している[…]
〈WEBIKE FESTIVAL〉2024.10.19 SAT. ロングウッドステーション(千葉県長柄町) 【X500 ヒデヨリさん】「見た目など、あえてハーレーらしさを捨てたチャレンジ精神の塊のよう[…]
最新の投稿記事(全体)
2ストエンジンの新時代を切り開いた名車 1980年代中頃、スズキのガンマ、ホンダのNSと、高性能レプリカが矢継ぎ早に出揃い、大ヒットを記録していた。 この潮流をみたヤマハはRZ250Rにカウルを装着し[…]
かつての人気モデル「キャンパー」のDNAと手巻きムーブメントの融合 「MK1ハンドワインド」のルーツは、1980年代に登場し、シンプルかつ実用的なデザインで人気を博したキャンパーモデルに遡る。そのデザ[…]
都市型イベント「My Yamaha Motorcycle Exhibition」開催へ ヤマハは、2025年9月20日に桜木町駅前(神奈川県横浜市)にて「My Yamaha Motorcycle Ex[…]
走行回数の多さと模擬レースのセットでコストパフォーマンスの高さは折り紙付き 絶版車やクラシックマシンでサーキットを走行してみたいが、レースに参戦するほどではない。あるいはクラシックレースにエントリーし[…]
エアインパクトレンチ:手のひらに収まるサイズで500Nmを発揮。狭い場所で活躍する力自慢 ガレージにエアコンプレッサーを導入したら、まず揃えておきたいのがエアブローガンとエアゲージ、そしてインパクトレ[…]
- 1
- 2