
世に出ることなく開発途中で消えて行ってしまったマシンは数あれど、それが表に出てくることは滅多にない。ここではそんな幻の名車を取り上げてみたい。今回はホンダVT250Fターボを紹介しよう。
●文:ヤングマシン編集部
幻のVTターボを発見!
4輪でターボチャージャーがブームになる中、ホンダは’81年に輸出専用のCX500ターボを発売したが、国内向けにVT250Fにターボを装着したのがこれだ。YMでもその存在をスクープしたものの、 存在理由が明確ではないために市販はされなかった。 ※ヤングマシン2000年12月号より
【HONDA VT250F TURBO 1984年】市販予定だったVT250Fターボ。一見はノーマルVTながら、前シリンダー下にタービンを配置。53psから最高速度は200km/h超を記録した。運輸省の認可がおりず幻の市販車に。
スピードメーターも240km/hまで刻まれていた。メーターの左右は電圧計と時計で、過給圧計は付いていない。量産直前の完成度だ。
以下、1987年にPOP吉村こと吉村秀雄氏にインタビューした記事を再掲しよう。
POP吉村が関心を示したNR250ターボは153psの驚異パワー
YM読者:4ストでGPを闘うのは不可能でしょうか?
可能性はある。十分にね。ただし、自然吸気型のエンジンでは駄目だろうな。
YM:というと……
ターボチャージャーならいけるだろう。今、ウワサになっているホンダの250ターボ、あれがデビューして、本格的に活躍できれば、まぁ、ヤマハもスズキも太刀打ちできないんじゃないか。コンペティションモデルとして本格的にやれるようになれば、2ストロークエンジンは2年で消滅するようになるんだろうよ。ただし、デビューできればのハナシだがな。
YM:でも、マシンは相当に仕上がっていると聞いてますが……
いや、そういう問題じゃなくて、FIMとメーカー側の問題、ということだな。早い話がホンダ以外のメーカーが、今、あわてて反対しとるんだよ。GP500には過給器付エンジンは250まで参加できる、などというレギュレーションを作った時には、まさかそんなもん、どこもつくらんだろう――と、皆がタカをくくっていたんだな。ところが、ホンダが出すぞ、というジャスチュアをみせたとたんに、他メーカーがアワくって、レギュレーションの変更をいいだしてるらしい。
YM:しかし、そう考えると技術というものはすごいもんですね。ホンダは4輪のF1でも、わずか3年目でチャンピオンになってしまいましたし…。
そうとも!! 技術というものはそういうもんだ。勝てそうにないからといって、レギュレーションを変える、なんちゅうのは最低中の最低だな。今、4輪のF1でも’88年からノンターボの3.5Lにしようなんて言ってるだろう。こりゃ、露骨なホンダつぶしだな。確か、4輪のF1にターボを持ち込んだのはルノーだったと思うが、たった3年で自分とこのターボ技術が東洋のメーカーに追い越されたもんだから、よってたかって規則を変えようとする。ヨーロッパ人は恥を知れ!! と言いたいな。大体、同じような技術で抜かれたら、〝よーし、じゃあ来年は見てろよ!! 技術競争じゃ負けんぞ!!〞 と燃えるのが技術者のあるべき姿だろうに……。
2輪にしたって同じこと。ターボやスーパーチャージャーでレースができるのは前から決められていたことなのに、新技術に挑戦するより前に規則を変えようなんて、いんちきもいいところだ。俺は昔からアンチ・ホンダだが、このことに関しては全面的にホンダの味方をするね。
YM:オヤッさんとこでは、ターボチャージャーやスーパーチャージャーをやってみたいとは思いませんか?
そりゃ、やってはみたいけどね。だけど、小規模のプライベーターじゃ満足なものはできやせんよ。基礎研究や材料選択だけで膨大な金がかかる。まぁ、ウチじゃ、やりきれんな。だけど、俺も技術者として、特に4ストロークの進歩という点で過給器付のエンジンを搭載したバイクがどこまでやれるか見てみたいね。
YM:街乗り用バイクでターボ付きもあるにはりますけどね。
いや、あれはホンモノとは言いがたいよ。ターボチャージャーにしろ、スーパーチャージャーにしろ、本当の威力を存分に使えば、あんなもんじゃおさまらんね。俺が飛行機いじってた戦争中は、B29のターボチャージャーの威力を目のあたりにして、もう、悔しくて悔しくてしょうがなかった。俺が整備した飛行機なんか、高々度をゆうゆうと飛ぶB29には敵わないんだから。
まぁ、俺自身は実用化できるものを作ったことはないんだけど、過給エンジンの本当のものすごさは知ってるつもりだ。そのパワー、熱、ひずみ、耐久性……どれをとっても全く次元の違う技術の問題だ。馬力というのは要するに、トルク×回転数なんだが、今、もっとも多くとられている方法は回転数のほうを上げてパワーアップするというものだ。20〜30%馬力をアップさせるのは大変なことなんだな。
過給圧をあげるということはトルクのほうをアップさせることになるわけで、要するにシリンダーに圧力をかけて混合気を押し込むわけだ。1回転あたりの混合気の質量は飛躍的にでかくなる。ま、2〜3倍増やすのはどうってことないな。
YM:はぁ……そんなにすごいもんなんですか……
そうさ、だから、この技術は4ストロークエンジンの進む方向としては、突破口になると思うよ。乗りこなすのも至難の業で、レースやったからって、すぐ街乗りにフィードバックできるようなシロモノじゃないことも確かだけどな。でも、だからこそ、俺はやるべきだと思う。あらかじめ予測できない、色々な問題も次から次へと出てくるだろう。そいつをね……安全の方向に持っていくことだってできるだろうしな。その技術進歩の余地たるや、2ストの比じゃない。
YM:やっぱり駄目ですか、2ストは?
ああ、あんなもんは動物で言えば、機能をたくさん持たない言わば、ミミズみたいな下等動物と同じ。肺と腸が一緒になったような機械に未来はありゃせんよ。この質問の立花君も、2ストと4ストを単純に比較するなんてナンセンスな発想は、早く捨てたほうがいい。おわかりかな?
※ヤングマシン1987年2月号「POP吉村のゲンコツ人生相談」より
ポップの話に登場する通称NR250 TURBOのエンジン図面。NR500のエンジンを半分にしたV2の前後バンク外側にタービンを配置したツインターボで、過給圧2.0で153ps/18500rpmを発揮! こちらも残念ながら実戦投入には至らず。
吉村秀雄氏(故人/1922年10月7日~1995年3月29日)。ヨシムラジャパン創業者。世界初の集合管を開発したほか、1960年代~1980年代のレースシーンで、プライベートチームながら当時最強のホンダワークスチーム相手に勝利するなどし、バイクチューニングの神と呼ばれた。愛称“ポップ吉村”POP(ポップ)は「おやじ」の意味。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事([特集] 幻の名車)
石油危機で消えたポストZ1候補2台目はロータリーエンジン 1970年代初頭、ロータリーエンジンは一般的なレシプロエンジンよりも低振動でよりフラットなトルクカーブとスムーズなパワーデリバリーが実現できる[…]
イタリアンイメージをネーミングやデザインに注入 これらデザインスケッチ等は、1989年8月にウェルカムプラザ青山で実施された「MOVE」展で公開されたもの。これは本田技術研究所 朝霞研究所が企画して実[…]
2ストローク90ccの「CO-29」は、キーレスにポップアップスクリーン採用 1988年に劇場版「AKIRA」が公開された翌年、1989年8月にウェルカムプラザ青山で「MOVE HONDA MOTOR[…]
1984年にツインチューブフレームを採用していた これはホンダウェルカムプラザ青山で1989年8月に開催されたイベント「MOVE」に出品されたプロトタイプのCR-1。モトクロッサー、CR500Rのエン[…]
GLの元となった水平6気筒試作車 CB750フォアの発売後、モーターサイクルキングとは何かを探るために試作された1台。ロータリーエンジンのような滑らかさを求めて水平6気筒としたが、ミッションを後ろにつ[…]
最新の関連記事(カワサキ [KAWASAKI] | 名車/旧車/絶版車)
「ガンマ」が火をつけたレプリカ戦線にカワサキも参入 スズキRG250Γ(ガンマ)の登場で活気づいたレプリカ戦線に、勇んでカワサキも参入する。 1984年に投入されたKR250は、異彩を放つタンデムツイ[…]
8耐の熱い走りを思わせるライムグリーンと赤の差し色 2020年モデルの発売は、2019年9月1日。250ccと基本設計を共通化した2018年モデルにおけるフルモデルチェンジ時のスペックを引き継ぐ形で登[…]
一大ブームが巻き起こった1986年 滑走路で戦闘機と加速競争する姿、美人教官とのタンデム、苦悩を抱えて丘の上に佇む夕暮れ──。数々の印象的なシーンに初代ニンジャ=GPZ900Rがいた。 1986年に公[…]
250と共通設計としたことでツアラーから変貌した400 2019年モデルの発売は、2018年10月1日。250ccと基本設計を共通化した2018年モデルにおけるフルモデルチェンジ時のスペックを引き継ぐ[…]
量産車とは異なる無骨さを持ったカワサキ Z750 turbo 【1981】 洗練されたスタイルで後に登場した量産車とは異なり、武骨な雰囲気の外装が目を引くカワサキのプロトタイプは、1981年の時点では[…]
人気記事ランキング(全体)
カワサキの新世代モビリティが大阪万博で公開 2025年日本国際博覧会、通称「大阪万博」のカワサキブースで、未来のオフロードビークル「CORLEO(コルレオ)」が注目を集めている。バイクのように乗車する[…]
「その時、スペンサーになれた気がした」 MVX250Fの上位モデルとして400版の発売が検討されていたが、250の販売不振を受け計画はストップ。この心臓部を受け継ぎ、NS250Rの技術を融合したモデル[…]
日本でもっとも人気の高いジャンル=ネオクラシック プロポーションの枷を覆す【カワサキ Z900RS】 まず、現代のバイクと昔のバイクではプロポーションがまったく違うんです。昔のバイクはフロントタイヤが[…]
バイクキャビン:小型エアコンを装備すれば抜群の環境に! 難しく考えることなく、手っ取り早く購入できるガレージとして高い人気を得ているのが、デイトナが取り扱う各種シリーズ製品だ。 全モデルに共通している[…]
〈WEBIKE FESTIVAL〉2024.10.19 SAT. ロングウッドステーション(千葉県長柄町) 【X500 ヒデヨリさん】「見た目など、あえてハーレーらしさを捨てたチャレンジ精神の塊のよう[…]
最新の投稿記事(全体)
2ストエンジンの新時代を切り開いた名車 1980年代中頃、スズキのガンマ、ホンダのNSと、高性能レプリカが矢継ぎ早に出揃い、大ヒットを記録していた。 この潮流をみたヤマハはRZ250Rにカウルを装着し[…]
かつての人気モデル「キャンパー」のDNAと手巻きムーブメントの融合 「MK1ハンドワインド」のルーツは、1980年代に登場し、シンプルかつ実用的なデザインで人気を博したキャンパーモデルに遡る。そのデザ[…]
都市型イベント「My Yamaha Motorcycle Exhibition」開催へ ヤマハは、2025年9月20日に桜木町駅前(神奈川県横浜市)にて「My Yamaha Motorcycle Ex[…]
走行回数の多さと模擬レースのセットでコストパフォーマンスの高さは折り紙付き 絶版車やクラシックマシンでサーキットを走行してみたいが、レースに参戦するほどではない。あるいはクラシックレースにエントリーし[…]
エアインパクトレンチ:手のひらに収まるサイズで500Nmを発揮。狭い場所で活躍する力自慢 ガレージにエアコンプレッサーを導入したら、まず揃えておきたいのがエアブローガンとエアゲージ、そしてインパクトレ[…]
- 1
- 2