
スズキは東京モーターサイクルショーで、今後のレース活動について発表。なんとGSX-R1000Rにサステナブル燃料&素材などを用い、今夏の鈴鹿8時間耐久ロードレースに出場するというのだ。
●文/写真:ヤングマシン編集部(ヨ) ●外部リンク:Team SUZUKI CN Challenge チームスズキCNチャレンジ(X)
最高峰レース撤退からサステナブル領域での先駆者へ
おかえりスズキ!! そんなファンの叫びが聞こえてきそうなプロジェクトの発表が、東京モーターサイクルショーのプレスカンファレンスで行われた。
ユーロ5排出ガス規制の導入により多くの地域で販売終了となっている最終型GSX-R1000Rを用い、サステナブル燃料や再生可能素材パーツを組み合わせて、2024年7月に開催される鈴鹿8時間耐久ロードレース、つまり鈴鹿8耐に参戦するというのだ。
チーム名は「チームスズキCNチャレンジ」とし、プロジェクトリーダーには元MotoGPエクスタースズキのプロジェクトリーダーだった佐原伸一さんが務めることに。マシンは昨年ヨシムラがEWCに参戦していた仕様をベースとし、エクスペリメンタルクラスという、開発中心のクラスに参戦する。
こ、これはっ……!
キターーーー!!!
使用燃料はエルフ40%バイオ由来 FIM公認燃料で、オイル、タイヤ、艤装、ブレーキなどにサステナブルアイテムを採用するという。ライダーは3名体制(ラインナップ未定)で、ゼッケンはカーボンニュートラルを目指す姿勢を象徴するナンバーとして「0」が選ばれた。
サステナブルアイテムの詳細は以下の通りだ。
| アイテム | サプライヤー | 詳細 |
| 燃料 | エルフ | Moto R 40 FIM 40%バイオ由来の燃料 |
| マフラー | ヨシムラジャパン | 触媒内蔵サイレンサー |
| タイヤ | ブリヂストン | 再生資源・再生可能資源の比率を向上したタイヤ |
| オイル | MOTUL | バイオ由来ベースオイルを使用したエンジンオイル |
| カウル | JHI | 再生カーボン材(仕様期限切れプリプレグ材を処理) |
| 前後フェンダー | トラス | スイス Bcomp(天然亜麻素材を使用した複合材) |
| 前ブレーキ | サンスター技研 | 熱処理廃止鉄製ブレーキディスク、ローダストパッド |
| バッテリー | エリーパワー | 車載LFPバッテリー、ピット電源供給用の蓄電池 |
燃料やオイルだけでなく、タイヤやブレーキ素材にもおよび、もちろん外装のカーボンにも再生素材を用いる。
スズキが配布したGSX-R1000R Team SUZUKI CN Challenge のオフィシャルショット。
FIMから世界耐久選手権で協力するとオファーがあった
2022年を最後にMotoGPや全日本ロードレースからワークス活動を終了し、完全撤退したスズキだったが、その当時にMotoGPプロジェクトリーダーを務めていた佐原さんの心の内は察するに余りある。そんな佐原さんが再びレース活動のプロジェクトリーダーになるというのだから、そこへ辿り着くまでの努力には本当に頭が下がる思いだ。
現在の所属は二輪事業本部の電動パワートレイン設計グループだが、4月より本プロジェクトにかかわるための部署に異動予定だという佐原伸一さん。MotoGPで長らくプロジェクトリーダーを務めたことでお馴染みの読者も多いことだろう。ちなみにケビン・シュワンツと同い年。
普段は飄々とした雰囲気の佐原さんだが、内に秘めたレースへの情熱は並外れているに違いない。そんな思いでお話を伺った。
──おかえりなさい!(YM・以下同)
「ただいま!(笑)」
──どういった経緯でこのプロジェクトが始まったのですか?
「昨年の鈴鹿8耐で、弊社の鈴木俊宏社長とFIM会長が会う機会があり、エクスペリメンタルクラスというカテゴリーがあってそれにもし参戦するならFIMとしてバックアップしていくという話をいただきました。そしてスズキでレースということなら……と私に声がかかったわけです。私としては2022年にMotoGP撤退ということになった後も、どんな形であれレースに関わりたいと思っていましたので渡りに船でした。ちょっとおこがましいかもしれませんが、2輪全体が盛り上がればいいなと思っています」
──こうしたカテゴリーで先駆者になるわけですね。
「鈴鹿8耐において一番最初にやれることになったのは、よかったと思っています。いずれはEWCなどもこういうサステナブル燃料に切り替わっていくでしょうから、ルールがそうなったときにはスズキがその1歩先にいる、というのが理想ですね。とはいえ、すでにMotoGPも合成燃料に切り替わっていくことが決まっていますから、元々はMotoGPに継続参戦していればやろうと思っていたことではあります。MotoGPよりも耐久レースでの開発になったことで条件的に厳しい部分もありますが、ハードルが上がるぶん開発も進むのかなと思っています」
──MotoGP撤退からここまで辿り着くには相当なご苦労もあったかと想像します。
「スズキだけではできないことですからね。ヨシムラさんのマシンや色々な条件がそろって、今年の8耐に出られるということになりました。でも、撤退したから何かやらなければということではなく、先ほども申し上げましたように元々MotoGPでやろうとしていたことの中にエコ関連のこともありましたから」
──そうした意味でも、この参戦の話は渡りに船だったわけですね。
「MotoGP撤退が決まったことで、後進への継承というものが切れてしまっていたことは気がかりでした。そこを再開できるということもありますし、ある意味では私自身の再利用でもあります(笑)。このままだと、失敗も成功も含めて私が経験してきたことがそのまま消えていってしまうという状況だった。それを後進に引き継げるというのはいいことだなと思うんです。なので、これをやるということになり、私が関わることになったというのは自然な流れだったのかなと思います」
──カーボンニュートラル燃料で性能的なビハインドはあるのでしょうか?
「0ではありませんが、馬力のほかにドライバビリティや燃費というのも重要なファクターになってきます。耐久レースでは、燃費が悪いとピット回数が増えてしまったりするので、よりハードルは上がるんですが、使用するエルフの燃料はワールドスーパーバイクで使われるのと同じFIM公認のものだと聞いていますので、これに対応していくというのは我々にとってもいい経験になるなと」
──全日本ロードレースで使用している合成燃料と比較すると?
「全日本のものは100%合成ですので直接的な比較はできませんが、エルフの燃料はバイオ由来のものをガソリン状に変質させたものを40%混合しているということで、セッティングはもちろん必要ですが、ガソリンエンジンにそのまま使っても特別な加工や素材が必要になるということはないです。ちなみに走行テストはヨシムラさんが主体になってやるのですが、危険なもの以外は性能向上のためにどんどんトライしていきたいと思っています」
カウルは再生カーボンを使用。
サンスターによる熱処理廃止鉄製ブレーキディスク+ローダストパッドを採用。かつての鋳鉄ディスクに近いフィーリングや制動力を発揮する模様だ。
ヨシムラのマフラーは触媒入り。
コックピットも参考までに。
このレース活動が、現スズキユーザーの愛車の存続にも繋がっていく
──佐原さんのプロジェクトの中における役割とは?
「今はまだ事務局も全て自分でやっている状態ですので、まだまだこれからですが、MotoGPレース経験のあるスタッフなど手伝ってくれる人はだんだん増えてきています。でも、そんな経験者だけでなく、サインボード出しとか教えればできるようなことについては社内から募集しようと思っています。人数としてはヨシムラさんが8耐に参戦するのと同じくらいのスタッフ数になるかもしれませんが、その内訳はもっと育成的な要素や、社内でのレースへの理解を広めること、チャレンジする企業風土を形成するといったことに繋がればと思っています。場合によってはディーラーのメカニックさんなどにも手伝ってもらったら、その人にとってもいい経験になると思うんですよ」
──マシンカラーの意味合いは?
「私がこだわったのはブルーです。グラフィックパターンは昨年のヨシムラさんのマシンのままですが、あちらは赤でこちらは青。白と黄色のラインについては、昨年のジャパンモビリティショーのスズキブースのテーマがその色だったので反映しています」
──そういえばeチョイノリなどがそんな色でしたね!
「まさしく。ですので、これもエコに繋がるイメージということで採用しました」
この白と黄色がJMSでイメージカラーだった。
──先日スズキ二輪事業部長の田中さんにインタビューした際、やはりエンジンを生き残らせていくには、今ガソリンエンジン車を所有しているユーザーさんがそのまま使えるようなサステナブル燃料の開発が不可欠だとおっしゃっていました。このチームスズキCNチャレンジにはそうした技術開発も含まれますか?
「もちろんです。バイクに特別なことをせずにサステナブル燃料を使えるようになれば、今世の中にあるバイクがサステナブルになるとうことですから。でも、じつはエルフのサステナブル燃料をガソリンエンジンに入れて問題が起こるかといったら、起こらないんです。エタノール燃料がアルミを腐食するとかゴムシールが傷むとか、過去にあったそうした課題も特になく……。もちろんセッティングは必要ですが」
──市販バイクにも繋がる重要なプロジェクトになりそうですね。
「そう、私一人でやっている場合じゃないよね(笑)……って、一人じゃないですけど。いずれにせよ、今後もオートバイの世界が続いていけばいいなと思っています」
──レースに参戦するライダーは決まっているんですか?
「有力な候補は一人います。あとは……誰かいいライダーがいたら教えてください(笑)。今年はまず第一歩とはいえ、レース成績も出るならそれに越したことはありませんから。とはいえまずは第一歩。これが来年に続き、気が付いたら上位にいる、というふうにしていきたいです」
ゼッケン0を纏う。
ヨシムラジャパンの新社長にも聞いた!
ヨシムラジャパンの新社長になったばかりの加藤陽平さんも発表会場にいらしたので、合わせてお話を伺っている。
吉村不二雄さんから継承し、新たにヨシムラジャパンの代表取締役社長となった加藤陽平さん。
「マシンは昨年ヨシムラがEWCで走らせたものがベースで、スズキさんがカーボンニュートラル対応をしていくとうい分担になります。我々としては、スズキさんがやるというならエンジンでもハイブリッドでも水素でも一緒にやろうという気持ちでいました。再生素材だからどうのこうのということはなく、あるものの性能を最大限に引き出していくのが我々の仕事です。
今回のプロジェクトは、今年の8耐で勝とうとかそういうものではなく、サステナブルアイテムを使っていかに性能や効率を向上していくかというチャレンジです。(スズキはMotoGPを撤退したが)こうしたカテゴリーで先駆者になるということは、性能がどうしても今のところは純ガソリンエンジンに敵わない中、『10位にも入れなかったね』と言われてしまうようなことを覚悟しなきゃいけない。そこを踏み切ってチャレンジしていこうというスズキさんの姿勢を私は高く評価しています。もちろん、『8時間でいいの? 24時間とか、もっと高い壁を目指しましょうよ!』と発破をかけながら(笑)。
今年はまず鈴鹿8耐ですが、これは第一歩にすぎません。ヨシムラジャパンとして自分たちの赤いマシンを走らせ、スズキさんの青いマシンに協力する──。今年は忙しくなりそうです」
そんなふうに、嬉しそうに語ってくれた加藤陽平さんだった。
【動画】東京モーターサイクルショー スズキのプレスカンファレンスの模様
YOUTUBEチャンネル バイクライター青木タカオ【〜取材現場から】より
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