
今も絶大な人気を誇る’80年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末長く楽しむには、何に注意しどんな整備を行えばよいのだろうか? その1台を知り尽くす専門家から奥義を授かる本連載、今回はホンダのCB750フォアについて、本機に精通するベイエリアモータース代表・市川直寛氏に話を伺った。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明 ●取材協力:ベイエリアモータース
【ベイエリアモータース|市川直寛さん】’78年生まれの市川さんは、20歳の頃から2/4輪の旧車専門ショップで修業を積み、25歳のときにベイエリアモータースを創業。自身の長年の愛車はカワサキZ1だが、これまでに整備を手がけた車両は、ZシリーズよりCB750フォアのほうが多いそうだ。
【ベイエリアモータース|市川直寛さん】’78年生まれの市川さんは、20歳の頃から2/4輪の旧車専門ショップで修業を積み、25歳のときにベイエリアモータースを創業。自身の長年の愛車はカワサキZ1だが、これまでに整備を手がけた車両は、ZシリーズよりCB750フォアのほうが多いそうだ。
ホンダ CB750フォア 有識者インタビュー:型式に対する認識が徐々に変化
’03年の創業以来、ベイエリアモータースでは多くのCB750フォアの販売・整備を行っている。創業時と現在を比較して、この車両を取り巻く状況にはどんな変化はあったのだろうか。
「一番大きな変化は、中古車価格が上がって入手のハードルが高くなったことですが、一方でリプロパーツが充実してきたので、整備は行いやすくなっています。それに加えて、後期型をそのままの姿で普通に乗る人が増えたことは、面白い変化だと思いますね。
一昔前の後期型オーナーは、いつかはK0と考えている人や、K0ルックのカスタムを希望する人が多かったのですが、最近は型式にこだわる人が少なくなってきました。ちなみにK0好きの間では、かつてはネジ1本まで純正でなくては…という主張が珍しくなかったのですが、近年はそういう話を聞く機会も減ってきたように思います」
ホンダ CB750フォア 有識者インタビュー:ノーマルのフィーリングは絶妙です
同時代のカワサキZシリーズが、カスタムの素材と考えられることが多いのに対して、CB750フォアはノーマル派が主力である。その理由を、市川さんはどう考えているのだろう。
「あくまでも私見ですが、いい意味でも悪い意味でもスキがあって、ライディング中にいろいろなカスタムプランが浮かぶZとは異なり、CB750フォアはノーマルがベスト、と感じることが多いんですよ。
そしてノーマルの重要パーツの筆頭に挙がるのが大アップハンドルと4本出しマフラーで、この2つに価値を見出すと、カスタムが進めづらいような気はします。また、車載状態でエンジンがいじれないことや(Zシリーズは腰上の分解整備が可能)、特殊な構造のフロントブレーキキャリパーの変更が難しいことも、カスタムを妨げる一因かもしれません」
【HONDA CB750 FOUR(’69年型K0)】■全長2160 全幅885 全高1120 軸距1455 シート高── 乾燥重量218kg キャスター/トレール27度/95mm ■空冷4ストローク並列4気筒OHC2バルブ 736cc 内径×行程61×63mm 圧縮比9.0:1 最高出力67ps/8000rpm 最大トルク6.1kg-m/7000rpm 変速機5段リターン 燃料タンク容量19L ■タイヤF=3.25-19 R=4.00-18 ※撮影車は北米市場のみで販売された’73年型K3
ホンダ CB750フォア 有識者インタビュー:各部の熟成が進んだK3以降がオススメ
CB750フォアの購入を希望しているお客さんがベイエリアモータースに来店して、年式/型式に関するこだわりが特にない場合、市川さんはK3~K6を勧めることが多いと言う。
「K0やK1と比べると、価格が格段に安いという理由もありますが、K3以降は構造を一新したフロントフォークの動きがすごくよくなっているんですよ。ただし信頼性や安全性という視点で見るなら、K2で1段、K4でさらに1段上がったという印象ですから、厳密に言うとK4以降がいいのかもしれません。もちろんスタイルが気に入っているなら、タマ数は多くないですが、最終型のK7やカフェレーサーのIIもアリだと思いますよ」
【’74 HONDA CB750FOUR K4】K3以降のCB750フォアは、ガソリンタンクのカラーリングの方向性を変更。K4ではエンジンの大物部品の設計変更に加えて、リヤショックや電装系の刷新が行われた。
【’74 HONDA CB750FOUR K4】K3以降のCB750フォアは、ガソリンタンクのカラーリングの方向性を変更。K4ではエンジンの大物部品の設計変更に加えて、リヤショックや電装系の刷新が行われた。
【’76 HONDA CB750FOUR K6】K4とK5/6の相違点は外装類のカラーリング程度。ただしK6ではガソリンコックが右→左に移設されている。なおK4~6の装備重量は、K0より17kg、K1/2より15kg重い235kg。
【’76 HONDA CB750FOUR K6】K4とK5/6の相違点は外装類のカラーリング程度。ただしK6ではガソリンコックが右→左に移設されている。なおK4~6の装備重量は、K0より17kg、K1/2より15kg重い235kg。
ホンダ CB750フォア 有識者インタビュー:状態のいい車両は多め
中古車の程度に関しても、ZとCB750フォアには差がある模様。
「素性がハッキリしない中古車が新規で入庫した場合、Zシリーズは十中八九以上の確率で重整備が必要になりますが、CB750フォアは一般的な整備で気持ち良く走り出せる車両が、まだ多少は存在します。やっぱり生産台数が多いぶん、CB750フォアのほうが良好な車両が残っている確率は高いのでしょう。
と言っても、それはあくまでも傾向の話で、CB750フォアも程度が劣悪な中古車は少なくないですし、いくらコンディションが良好な車両でも、40年以上という年月の経過を考えれば、フルレストアをしない限り、実際に走り出してからはいろいろな整備が必要になります。まあでも、乗りながら少しずつ完調に戻していくのは、それはそれで楽しいものですよ」
ホンダ CB750フォア 有識者インタビュー:旧車デビューの入門的存在
近年の同店に新規で来店するお客さんは、初めての旧車がCB750フォアというケースが少なくないと言う。そんなお客さんに対して、市川さんはどんなアドバイスをしているのだろう。
「真夏の渋滞路をできるだけ避けること、ブレーキが近年のバイクのようには利かないこと、異変を感じたら絶対に無理をしないこと、くらいでしょうか。逆に言うならCB750フォアは、決して扱いが難しいバイクではないんですよ。
もし気軽に乗れないなら、その車両はどこかに問題があるはずなので、そういう場合はプロの診断を受けたほうがいいと思います。もちろんウチでも診断は行っているので、どんなことでも気軽に相談して欲しいですね」
【CB400/500シリーズの入庫車も多い】本記事ではCB750フォアにスポットを当てているものの、ベイエリアモータースではCB400/500シリーズの入庫も多い。また、近年はノーマルのバランスのよさに感心する機会が増えていると言う市川さんだが、この写真の手前のヨンフォアのように、お客さんの要望があればカスタムも行う。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事([連載] プロに学ぶ’80s国産名車メンテナンス)
ホンダ CB750フォア:経年劣化はあるものの耐久性は十二分 CB750フォアの弱点をネットで調べると、カムチェーンテンショナーの作動不良、シリンダーヘッド下部のシーリングラバーの劣化によるオイル漏れ[…]
ホンダ CB750フォア:同時代のカワサキZより敷居は低い? 第二次世界大戦後の’48年に創業したにも関わらず、’60年代初頭に2輪車生産台数世界一の称号を獲得し、’66年には世界グランプリで驚異の全[…]
カワサキ 900スーパー4 Z1:Z1乗りの”夢”を実現するGPクラフト 空冷Zシリーズを得意とするショップでは、ノーマルスタイルを重視したり、往年のAMAスーパーバイクレーサーが念頭にあったり、現代[…]
カワサキ 900スーパー4 Z1:クランクやフレームにもダメージが発生している GPクラフトではメンテナンスとカスタムだけではなく、車両販売も行っている。そして’90年代の同店がアメリカから輸入した空[…]
カワサキ 900スーパー4 Z1: 車両価格は高価だが整備環境は良好 量産初の並列4気筒車という称号は、’69年にホンダが発売したCB750フォアに譲ったものの、’72年秋からカワサキが海外市場での販[…]
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
従来色の赤が廃止された 発売は、2022年1月20日のこと。2020年モデルでマイナーチェンジを受けたこともあり、スペックはそのまま。前モデルのアップデート内容を振り返っておこう。プラス3psの最高出[…]
“Ninja”の伝説はここから始まった 滑走路で戦闘機と加速競争する姿、美人教官とのタンデム、苦悩を抱えて丘の上に佇む夕暮れ──。数々の印象的なシーンに初代ニンジャ=GPZ900Rがいた。 1986年[…]
2021年カラーがSP版で蘇った?! ホンダのキングオブネイキッド「CB1300スーパーフォアSP」および「CB1300スーパーボルドールSP」の2024年モデルには、赤いフレームのニューカラーが導入[…]
新5色ラインナップとなった2022年モデル 2022年モデルが発売されたのは、2022年6月23日のこと。2021年のフルモデルチェンジの際には、新設計の水冷エンジンが4バルブの「eSP+(イーエスピ[…]
ヤマハRZ201概要:同社らしさ溢れる、美しき工芸品 ドイツのヴァンケル氏が発明したロータリー式エンジンは、ピストン運動で動力を得る従来のストローク式のエンジンと比べ低振動で高出力、しかもサイズも小さ[…]
人気記事ランキング(全体)
シェルパの名を復活させたブランニューモデル カワサキが、KLX230シリーズをモデルチェンジするとともに、KLX230Sとしては3年ぶり(その他の無印やSMは2~5年ぶり)に復活させたのは、2024年[…]
新5色ラインナップとなった2022年モデル 2022年モデルが発売されたのは、2022年6月23日のこと。2021年のフルモデルチェンジの際には、新設計の水冷エンジンが4バルブの「eSP+(イーエスピ[…]
まず車間が変わることを理解しておこう! ツーリングでキャリアのある、上手なライダーの後ろをついてゆくのが上達への近道。ビギナーはひとりだと、カーブでどのくらい減速をすれば良いかなど判断ができない。そう[…]
ナンバー登録して公道を走れる2スト! 日本では20年以上前に絶滅してしまった公道用2ストローク車。それが令和の今でも新車で買える…と聞けば、ゾワゾワするマニアの方も多いのではないか。その名は「ランゲン[…]
15番手からスタートして8位でフィニッシュした小椋藍 モナコでロリス(カピロッシ)と食事をしていたら、小椋藍くんの話題になりました。「彼は本当にすごいライダーだね!」と、ロリスは大絶賛。「ダイジロウ・[…]
最新の投稿記事(全体)
メンテナンスが必要になった時に必要な部品が手に入る 全日本ロードレース選手権のJ-GP3クラスでEXACTホイールやダイレクトドライブレーシングディスクのユーザーが増加し、MotoGP Moto2クラ[…]
従来色の赤が廃止された 発売は、2022年1月20日のこと。2020年モデルでマイナーチェンジを受けたこともあり、スペックはそのまま。前モデルのアップデート内容を振り返っておこう。プラス3psの最高出[…]
H-D正規販売店との絆を取り戻す! 「日本において、ハーレーダビッドソンは世界の中でも稀有な“ハーレー大国”であり続けています。これからもともに、一緒に走り続けていきましょう!」 ハーレーダビッドソン[…]
犬吠埼を目指し、走景に染まるハーレー乗り かつてはハーレーは、乗り手を育てる乗り物だった。走っている途中で不調を訴え、時には急に呼吸を止めたりもした。だから乗り手は路肩にバイクを寄せ、工具を片手に処置[…]
シェルパの名を復活させたブランニューモデル カワサキが、KLX230シリーズをモデルチェンジするとともに、KLX230Sとしては3年ぶり(その他の無印やSMは2~5年ぶり)に復活させたのは、2024年[…]