‘70s国産名車 カワサキ 500SS マッハIII 再見【世界を震撼させた2ストトリプル】

今も絶大な人気を誇る’70年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末長く楽しむには、何に注意しどんな整備を行えばよいのだろうか? その1台を知り尽くす専門家から奥義を授かる本連載、今回はカワサキの「500SS マッハIII」をあらためて紹介する。まずはこの名車の特徴と歴史について振り返ろう。


●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明/YM ARCHIVES ●取材協力:トリプルフィールド

世界最速を目指したカワサキ車の原点【500SS マッハIII】

カワサキが2輪事業に本腰を入れ始めたのは、他の国産3社より10年以上遅い’60年代中盤からだった。にも関わらず、同社は’70年代以降の長きに渡って“世界最速”の称号を保持してきた。その原点となったモデルが、スチール製ダブルクレードルフレームに2スト並列3気筒を搭載する、’69年型500SSマッハIIIである。

当時としては驚異的なリッター当たり120psを実現したこのモデルは、既存の大排気量車を凌駕する200km/hをマーク。カタログに記された最高速は、124mph≒198.41km/hだったものの、量産試作車は208km/hを実測していた。

ただしそういった数値は、同年にデビューした量産初の4スト並列4気筒車、ホンダCB750フォアも同等だったのである。とはいえ、2ストならではの圧倒的な加速感や車重の軽さ、価格の安さなども追い風になり(乾燥重量/初代の価格は、マッハIII:174kg/29万8000円、CB750フォア:218kg/38万5000円)、マッハIIIは絶大な人気を獲得。

’72年以降は兄弟車の750/350/250SSも加わり、カワサキが生み出した2ストトリプルシリーズは世界中のライダーを魅了していくこととなった。

【KAWASAKI 500SS MACH III】■全長2095 全幅840 全高1080 軸距1400 シート高── 乾燥重量174kg キャスター/29度 トレール/110mm ■空冷2ストローク並列3気筒ピストンバルブ 498cc 内径×行程60×58.8mm 圧縮比6.8:1 最高出力60ps/7500rpm 最大トルク5.85kg-m/7000rpm 変速機5段リターン(ボトムニュートラル) 燃料タンク容量15.2L ■タイヤF=3.25-19 R=4.00-18 ●発売当時価格29万8000円 ※’69年型国内仕様 ※撮影車のエンジンガードは現役時代の純正オプションで、リヤキャリアは当時のアフターマーケット製。

【リッター当たり120psをマーク】’68年に発売したA1/7では吸気方式をロータリーディスクバルブとしたカワサキだが、マッハシリーズはピストンバルブを選択。キャブレターは2スト専用のミクニVM28SCで、点火は当時としては画期的なCDI。

【2連メーターは4ストツインのW1SSと共通】メーターの基本構成は同時代に販売されていたW1SSと共通だが、日本仕様の極初期モデルはスピードメーターの80km/h以上をレッドゾーンに設定。ステムナット上部にはフリクション式ステアリングダンパーのノブが備わる。

カワサキ 500SS マッハIII 絶版中古車の現状

もっとも、現役を退いて40年以上が経過した現在、マッハシリーズを語るとなったら、(真っすぐ)走らない、止まらない、曲がらない…という言葉が出て来ることが少なくない。今回の取材に協力してくれたトリプルフィールドの稲村隆寛さんは、そういった世間の評価をどう考えているのだろう。

「そう感じるなら、間違いなく整備不良車でしょうね(笑)。きちんと整備されたマッハシリーズは、決して危険な乗り物ではないですから。ただし500SSの’69~’71年型に限っては、エンジン特性がちょっとシビアで、フロントフォークとブレーキが頼りないのは事実です。でもまあ、それは’72年型以降と比較しての話で、各部のコンディションが良好で、オーナーがこのバイク特有の扱い方を理解していれば、500SSの前期型でも、現代の路上で普通にツーリングを楽しめますよ」

稲村さんの言葉に対して、読者の中には違和感や疑問を持つ人がいるかもしれない。事実、同店を訪れるマッハシリーズオーナーも、初来店時は世間の噂を真に受けているケースが多いのだが、稲村さんがレストアした空冷2スト並列3気筒に乗ると、あまりの乗りやすさに目からウロコ…という状況になることが珍しくないそうだ。

カワサキ 500SS マッハIIIの変遷

500SSの変遷は非常にややこしく、何年型までを前期、何年型からを後期と呼ぶかは、人によって異なる。まずフロントまわりに注目すると、φ34mmフォーク+ドラムブレーキのH1/H1Aが前期、φ36mmフォーク+ディスクブレーキのH1B以降が後期なのだが、外装の雰囲はH1~H1Cが前期(ただしエグリタンクはH1のみ)、H1D以降が後期。

そして点火に注目すると、H1/H1A/H1CがバッテリーCDI(欧州仕様はポイント)、H1Bはポイント、H1D以降はマグネトーCDIを採用。また、500SSの後継として’76年に登場したKH500(A8)は、エンジンのラバーマウント化に加えて、1down4up式シフトや3系統ヒューズなどを導入した。

なお500SSの販売台数に明確な手応えを感じたカワサキは、’72年になると3種の2ストトリプルをイッキに追加。750SSは’75年、350SSは’73年(後継車の400SSは’79年)、250SSは’80年まで生産が続いた。

【‘70 KAWASAKI 500SS(H1)】

【‘72 KAWASAKI 500SS(H1B)】

【‘76 KAWASAKI KH500(A8)】

【‘72 KAWASAKI 750SS(H2)】

中古相場は200~500万円:前期型だけではなく、後期型も上昇中

500SSの価格はここ数年で急騰。一昔前ならフタケタ万円台がゴロゴロしていた後期型も、最近はコンディションが良好なら200万円以上が普通になりつつある。ただしシリーズ全体で見るとタマ数はかなり豊富で、中古車検索サイトでは約30台、ネットオークションでは40台以上が確認できた。なお750SSの相場もほとんど同じ。

【取材協力|トリプルフィールド】屋号からは3気筒専門店? と思えるものの、’13年から活動を開始したトリプルフィールドでは、年式や国籍を問わず、多種多様なバイクを取り扱っている。と言っても、最も入庫が多いのは’69年型500SSに端を発するカワサキ マッハシリーズで、それに次ぐのは同時代のW1/Z1系/スズキGTシリーズなど。■住所:静岡県沼津市小諏訪136-7-202 ■電話番号:080-1560-4831


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