
今も絶大な人気を誇る’80年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末長く楽しむには、何に注意しどんな整備を行えばよいのだろうか? その1台を知り尽くす専門家から奥義を授かる本連載、今回は、’80年代中盤に登場した2ストGP500レーサーレプリカ「スズキRG400/500Γ」について、メンテナンス上のポイントを明らかにする。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明 YM ARCHIVES ●取材協力:クオリティーワークス
【取材協力:クオリティーワークス】2ストオーナーの駆け込み寺。今年で創業23年目を迎えるクオリティーワークスは、そんな表現が似合うショップだ。もっとも同店の姿勢はエンジン形式を問わずで、4ストロークも幅広く扱っているのだが、入庫車の半数以上は常に2ストローク。取材日の作業スペースには4台のスズキ製スクエア4に加えて、RZ/やTZR/NSR/KMXなどが並んでいた。 ●住所:埼玉県川口市芝宮根町18-13 ●TEL:048-261-0262
ワークス/市販レーサーに保安部品を装着しただけ? '80年代中盤に登場した2ストGP500レーサーレプリカの中で、最も本物に近いモデルと言ったら、筆頭に挙がるのはスズキが'85年に発売したRG400/[…]
- 1 長期放置した車両の再始動には要注意
- 2 スズキRG400Γ/500Γ メンテナンスポイント
- 3 パーツ流通:リプロパーツの使用は必須
- 4 [連載] プロに学ぶ’80s国産名車メンテナンスに関連する記事
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長期放置した車両の再始動には要注意
過去に本連載で取り上げたRZV500RやNS400Rと同じく、スズキRG400/500Γも、決して耐久性が低いバイクではない。とはいえ、それは新車かきっちりレストアをした車両の話で、「放置期間が長い車両は問題が起こって当たり前」とクオリティーワークスの山下伸氏は言う。
「ウチに入庫する2スト車で多いトラブルは、納屋などに10年以上眠らせていた車両のエンジンをかけて、『お、イケそうだ』という気持ちで走り続けての焼きつきです。その原因はエンジン内部の細かい錆びで、これがピストン/シリンダー/ベアリングなどに大きなダメージを与えるんですよ。だから長期放置車両を再始動するときは、面倒でも腰上を分解して、シリンダー内壁/ピストン/コンロッドなどの状況を確認してからのほうがいいでしょう」
弱点とまでは言えないものの、固有のトラブルという表現をするなら、キャブレターボディの2次エア吸入(部品設定が行われていないガスケットの劣化が原因)/左側キャブのオーバーフロー/排気バルブ周辺のカーボン堆積/ロータリーディスクバルブの破損/CDIユニットのパンクなどが、Γオーナーの間では話題になることが多いようだ。
「そういった部品の消耗は、生産年度を考えればやむを得ないことで、きちんとした整備や新品パーツへの交換を行えば、以後はトラブルは起こりません。なお消耗と言えば、リヤショックも確実に終わっているパーツで、ウチでは現代のアフターマーケット製への交換が定番になっています」
スズキRG400Γ/500Γ メンテナンスポイント
クランクシャフト:消耗品の交換や芯出しで、本来の性能を回復
組み立て式クランクシャフトは2軸で、基本的な構成は前後共通。マニュアルに記載されたフレの規定値は5/100mm以内だが、同店の基準は3/100mm以内。
クランク1本分の消耗品。ボールベアリング×4とニードルベアリング×2は純正で、メーカー欠品になったセンターシール×2とスペーサーは同店が独自に準備。
補修用としてストックしているアフターマーケット製のコンロッド。最近はこの部品の大端部の相方=クランクピンの修正が必要になる個体が増えているそうだ。
シリンダー:定期的にクリーニングを行いたい、排気バルブ周辺のカーボン
シリンダーのエキゾーストポート上部には、排気デバイスSAEC用の回転式バルブが備わっている。この周辺にカーボンが堆積すると、バルブの動きが悪くなるだけではなく、逆電流によってCDIユニットにダメージが発生することがあるそうだ。シリンダー下側の鋳鉄スリーブの出っ張り×4は、分解整備時に折れやすいので、DIY派は要注意。
ピストン:各部が正常なら焼きつきは起こらない
ピストンとシリンダーの焼きつきは「2ストの持病」と言う人がいるが、各部が正常に機能していれば、そんなに頻繁には起こらない。なおエンジンオーバーホール時にすべての気筒のピストンサイズを揃えるかどうかは、オーナーによりけり。
キャブレター:純正部品だけでは行えない、VM28キャブレターのオーバーホール
クオリティーワークスが純正のミクニVM28キャブレターをオーバーホールする際は、ボディの前後分割面に入るガスケットやニードルバルブの筒側外周に備わるOリングなど、スズキがパーツとして設定していない、独自に準備した補修部品を使用。すでにメーカー欠品となったフロートチャンバー用ガスケットは、リプロ品で対応している。
トランスミッション:いまひとつの耐久性はカセット式ならでは?
2型で抜け対策が施されたものの、当時としては画期的なカセット式を採用したためか、ミッションはあまり丈夫ではない。中古の良品に交換するのが定番の解決策だが、現在も新品が存在するクロスレシオのレース用を選ぶ人もいる。
2スト&トランスミッションオイル:ミッションオイルは3000kmごとに交換
2ストオイルとミッションオイルについては、クオリティーワークスではワコーズ2CT/MT-75が人気。後者は交換を怠る人が多いようだが、ミッションの劣化を抑えるため(ドッグが磨耗しやすい)、同店では3000kmごとの交換を推奨。
ロータリーディスクバルブ:吸気系の重要部品は長期使用で割れが発生
吸気口に備わるスチール製のロータリーディスクバルブも、消耗部品のひとつ。[写真左]1型用/[写真中央]割れ&磨耗対策として取り付け部に補強が追加された2型用/[写真右]クオリティーワークスが独自に開発を進めているリプロ品
ラジエーター:ストリートならノーマルで問題ナシ
厚さが抑えめのため、素人目には冷却性能が心配になるが、現代の視点で考えても、ストリートならラジエターはノーマルで十分。ただし長期放置車両は、ウォーターポンプの腐食やホースの劣化が進んでいることが珍しくない。
フレーム:スキ間の均一さで骨格の曲がりを判断
ヘッドパイプ後部にエアボックスを配置したせいか、転倒などで車体に大きな衝撃が加わると、Γのフレームはネック部が曲がりやすい。フレームのメインパイプとタンクのスキ間が均一でない場合は、曲がっている可能性が濃厚。
スイングアーム:1型で起こりやすいピボット部のクラック
軽量化を徹底追求しすぎたのだろうか、1型のアルミスイングアームは、ピボット部のドライブスプロケット側にクラックが入ることが多い。溶接で修理はできるが、対策が施された2型や他機種用に交換するという解決策もある。
リヤショック:現代製品の導入で運動性と快適性が向上
リヤショックは、オーナーの使い方や予算に応じてFG/ナイトロン/YSS(写真は他機種用)などを使用。交換時にはリンクのグリスアップも行いたい。なお車高調整機能を備えるリンクロッドは、トラブルの原因になることがある。
タイヤ:レアサイズなので選択肢ごくわずか
F=110/90-16/R=120/90-17という組み合わせはかなり特殊で、前後が合致する製品はブリヂストンBT-45/46のみ。もっとも、以前の同店はBT-45のHレンジを推奨していたが、BT-46はVレンジしか該当サイズが存在しない。
スプロケット:400専用品としてリヤ用を独自に準備
530サイズの500用はいろいろなメーカーが前後スプロケットを発売しているが、525サイズの400用はリヤの選択肢が皆無(フロントは他機種用が転用できる)。そこでクオリティーワークスでは、400用を独自に開発。純正の41T以外の歯数は要相談。
フロントブレーキキャリパー:ブレンボ用として独自のサポートを開発
制動力向上を求めるユーザーのために、クオリティーワークスではブレンボキャリパー用サポートを準備。価格は2万5000円。ディスクはメタルギアのリプロ品が存在。前後17インチ化を主眼とした足まわりの刷新で、制動力向上を目指す人も多い。
フロントブレーキマスターシリンダー:タイトな設計だから交換は大変
旧車のマスターシリンダーは、現代の製品への交換を推奨するクオリティーワークスだが、Γはカウルとのクリアランスが極小なので、ノーマルのオーバーホールを行うことが多い。ただしメーター位置やハンドル切れ角などを調整すれば、現代の製品も装着可能。
CDIユニット:ジールトロニックで良好な火花を実現
純正の代替品として、同店ではジールトロニック製プログラミングCDIを用意。標準搭載の点火マップは、ノーマルと中高回転域をやや遅めとした2種類で、カプラーオンで使用可能。価格は4万3780円で、クイックシフターにも対応。
メインハーネス:経年変化によって硬化&変形が進行
新車時から1回も交換していないなら、メインハーネスは配線の硬化やカプラーの変形が起こっているはず。と言っても、すでにこの部品はメーカー欠品になっているので、クオリティーワークスではリプロ品の準備を進めている。
バッテリー:容量を拡大して最新電子機器に対応
RG400/500ΓのバッテリーはMF式が標準で、ノーマルはかなり小さい5L。電装系装備の充実化を図りたい人には、7Lへの変更を推奨。上下寸法は25mmほど大きくなるが、純正と同様にガソリンタンク下に収納できる。
パーツ流通:リプロパーツの使用は必須
ひと昔前は「旧車に優しい」と言われていたスズキだが、数年前から状況は一変。RG400/500Γの場合は、ガスケットやシール類といった消耗部品ですら、もはや完全には揃わないそうだ。「スズキの方針変更には驚きましたが、企業としての利益を考えれば、旧車用部品の切り捨てはやむを得ないでしょうし、逆に数年前までよくあんなに出してくれたと思いますよ。いずれにしても現在のΓの整備は、アフターマーケットのリプロ品が不可欠です」(山下氏)
【3種類のオーバーサイズを準備】ピストンはTKRJの鋳造品が定番。+0.5mm/+1.0mm/+1.5mmの3種類が存在するが、残念ながらすでに生産終了が決定。スリーブが限界に達した場合は、ワンオフで対応。
【ガスケットはアテナのセットが定番】エンジンの整備で欠かせないガスケット/シール類に関して、近年のクオリティーワークスでは、イタリアのアテナが販売するリプロ品を使用。コンプリートキットの価格は2万5300円。
【チャンバーはスガヤが定番】パワーアップの要にして、エンジン特性を左右するチャンバーは、現役時代と同様にSRSスガヤが人気。ただし最近のクオリティーワークスでは、チェコのJL製を選択する人も少なくない。
【外装は社外新品が入手できる】ガソリンタンクのリプロ品は存在しないものの、外装部品はマジカルレーシングがFRPで純正スタイルを復刻。中華製は精度と耐久性が低いため、同店でオススメすることはないと言う。
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