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●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明 YM ARCHIVES ●取材協力:クオリティーワークス
ワークス/市販レーサーに保安部品を装着しただけ?
’80年代中盤に登場した2ストGP500レーサーレプリカの中で、最も本物に近いモデルと言ったら、筆頭に挙がるのはスズキが’85年に発売したRG400/500Γだろう。同時期に販売された2台のライバル、ヤマハRZV500RとホンダNS400Rが、細部を観察すると意外にレーサーとの共通点が少ないのに対して、アルミ製ダブルクレードルフレームにロータリーディスクバルブ吸気のスクエア4気筒を搭載するΓは、ワークスマシン(あるいは市販レーサーRGBの’84年型)に保安部品を付けただけ、と言いたくなる構成だったのだから。

【’85 SUZUKI RG500Γ】■全長2100 全幅695 全高1185 軸距1425 シート高760mm 乾燥重量156㎏ キャスター/トレール23度35分/102mm ■水冷2ストスクエア4気筒ロータリーディスクバルブ498cc 内径×行程56.0×50.6mm 圧縮比7.0:1 最高出力64ps/8500rpm 最大トルク5.8㎏-m/7500rpm 変速機6段リターン 燃料タンク容量22L ■タイヤF=110/90-16 R=120/90-17 ●発売当時価格75万9000円 [写真タップで拡大]
【500の輸出仕様は95ps】一般公道を意識した各部の見直しは行われているが、2ストロークスクエア4気筒の基本構成は、’82~’83年型ワークスRG-Γと同時代の市販レーサーRGBに準じている。輸出仕様の500は95ps、日本仕様の400は59psを発揮。 [写真タップで拡大]
そんなΓの新車価格は、NSの62万9000円より高く、RZVの82万5000円よりは安い、65万9000/75万9000円。これらの数字をどう捉えるかは人ぞれぞれだが、4スト750ccスポーツモデルが70万円台、逆輸入という形で販売されたリッターバイクが100万円前後だった当時の状況を考えれば、決して高かったわけではない。もっとも、GP500レーサーに憧れるライダーは大勢いても、一般公道でGP500レプリカに乗りたいライダーはあまり多くなかったのか、Γ/RZV/NSの3機種は、いずれも大人気は獲得できなかった。
とはいえ、近年になってGP500レプリカを取り巻く状況はガラリと変化。唯一無二の資質を高く評価するライダーが着実に増えているようだ。「状況がガラリと変化と言うなら、僕がそれを痛感しているのはΓです。ひと昔前のΓは、速い/安い/維持が容易と3拍子揃ったバイクでしたが、”安い”と”維持が容易”については、最近ではもう当てはまらなくなりました」
そう語るのは、これまでに100台以上のΓの面倒を見てきた、クオリティーワークスの山下伸氏。確かに、昨今のΓの価格は急上昇中で、数年前までは’80年代の車両とは思えないほど良好だった純正パーツの供給状況は、現在では欠品が目立つようになった。
「もっともウチの場合は、補修用として大量の中古部品をストックしていますし、海外の専門店との取り引きもあるので、今のところ修理で困ることはありません。どうしても新品が必要なパーツに関しては、独自のリプロ品を増やしていく予定です。状況が変わっても、Γはウチが以前から力を入れて来た、主力機種の1台ですからね。中古車価格の高騰はどうにもできないですが、今後もできるかぎりΓユーザーの希望に応えていくつもりです」
大人気は獲得できず、わずか3年で生産が終了
スズキにとって初のレーサーレプリカは、’83年型RG250Γ。もっとも’81/’82年の世界GP500を制した同社は、当初はRG-Γ500の忠実なレプリカを製作…という構想を練っていたものの、市場の動向を探るため、まずは250ccを先行開発。結果的にRG400/500Γの発売時期は、4スト並列4気筒レプリカのGSX-Rとバッティングすることとなった。
それが原因かどうかはさておき、2ストスクエア4の生産数はGSX-Rに遠く及ばず、400=約6000台/500=約9000台。日本ではミッションやスイングアームの改良が行われた’86年型が最後になったが、輸出仕様の500は’87年まで販売が続いた。
なおRG400/500Γが登場した’85年は、世界GP参戦を休止していたスズキだが、当時の日本ではウォルターウルフカラーのRG-Γ500を駆る水谷勝が大活躍。そのイメージを反映するべく、RG400/500Γには4種のレプリカカラーが設定された。
現在の中古相場は150~300万円:500は高額車にして希少車
10年前は2ケタ万円台で購入できたものの、現在のΓの中古車相場は400=150万円~/500=200万円~。ただし500の中古車は、最近は販売店にもネットオークションにもめったに出てこないようだ。なお400をベースに500化を行う場合は、シリンダー交換が必要だが、昨今では500用シリンダーの良品は入手困難になっている。
※本記事は”ヤングマシン”から寄稿されたものであり、著作上の権利および文責は寄稿元に属します。なお、掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。 ※特別な記載がないかぎり、価格情報は消費税込です。
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