
今も絶大な人気を誇る’80年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末長く楽しむには、何に注意しどんな整備を行えばよいのだろうか? その1台を知り尽くす専門家から奥義を授かる本連載、今回は、’80年代中盤に登場した2ストGP500レーサーレプリカ「スズキRG400/500Γ」について、メンテナンス上のポイントを明らかにする。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明 YM ARCHIVES ●取材協力:クオリティーワークス
今も絶大な人気を誇る’80年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末長く楽しむには、何に注意しどんな整備を行えばよいのだろうか? その1台を知り尽くす専門家から奥義を授かる本連載、今回は、ライバル勢と[…]
長期放置した車両の再始動には要注意
過去に本連載で取り上げたRZV500RやNS400Rと同じく、スズキRG400/500Γも、決して耐久性が低いバイクではない。とはいえ、それは新車かきっちりレストアをした車両の話で、「放置期間が長い車両は問題が起こって当たり前」とクオリティーワークスの山下伸氏は言う。
「ウチに入庫する2スト車で多いトラブルは、納屋などに10年以上眠らせていた車両のエンジンをかけて、『お、イケそうだ』という気持ちで走り続けての焼きつきです。その原因はエンジン内部の細かい錆びで、これがピストン/シリンダー/ベアリングなどに大きなダメージを与えるんですよ。だから長期放置車両を再始動するときは、面倒でも腰上を分解して、シリンダー内壁/ピストン/コンロッドなどの状況を確認してからのほうがいいでしょう」
弱点とまでは言えないものの、固有のトラブルという表現をするなら、キャブレターボディの2次エア吸入(部品設定が行われていないガスケットの劣化が原因)/左側キャブのオーバーフロー/排気バルブ周辺のカーボン堆積/ロータリーディスクバルブの破損/CDIユニットのパンクなどが、Γオーナーの間では話題になることが多いようだ。
「そういった部品の消耗は、生産年度を考えればやむを得ないことで、きちんとした整備や新品パーツへの交換を行えば、以後はトラブルは起こりません。なお消耗と言えば、リヤショックも確実に終わっているパーツで、ウチでは現代のアフターマーケット製への交換が定番になっています」
スズキRG400Γ/500Γ メンテナンスポイント
クランクシャフト:消耗品の交換や芯出しで、本来の性能を回復
シリンダー:定期的にクリーニングを行いたい、排気バルブ周辺のカーボン
シリンダーのエキゾーストポート上部には、排気デバイスSAEC用の回転式バルブが備わっている。この周辺にカーボンが堆積すると、バルブの動きが悪くなるだけではなく、逆電流によってCDIユニットにダメージが発生することがあるそうだ。シリンダー下側の鋳鉄スリーブの出っ張り×4は、分解整備時に折れやすいので、DIY派は要注意。 [写真タップで拡大]
ピストン:各部が正常なら焼きつきは起こらない
キャブレター:純正部品だけでは行えない、VM28キャブレターのオーバーホール
クオリティーワークスが純正のミクニVM28キャブレターをオーバーホールする際は、ボディの前後分割面に入るガスケットやニードルバルブの筒側外周に備わるOリングなど、スズキがパーツとして設定していない、独自に準備した補修部品を使用。すでにメーカー欠品となったフロートチャンバー用ガスケットは、リプロ品で対応している。 [写真タップで拡大]
トランスミッション:いまひとつの耐久性はカセット式ならでは?
2スト&トランスミッションオイル:ミッションオイルは3000kmごとに交換
ロータリーディスクバルブ:吸気系の重要部品は長期使用で割れが発生
ラジエーター:ストリートならノーマルで問題ナシ
フレーム:スキ間の均一さで骨格の曲がりを判断
ヘッドパイプ後部にエアボックスを配置したせいか、転倒などで車体に大きな衝撃が加わると、Γのフレームはネック部が曲がりやすい。フレームのメインパイプとタンクのスキ間が均一でない場合は、曲がっている可能性が濃厚。 [写真タップで拡大]
スイングアーム:1型で起こりやすいピボット部のクラック
リヤショック:現代製品の導入で運動性と快適性が向上
タイヤ:レアサイズなので選択肢ごくわずか
スプロケット:400専用品としてリヤ用を独自に準備
フロントブレーキキャリパー:ブレンボ用として独自のサポートを開発
制動力向上を求めるユーザーのために、クオリティーワークスではブレンボキャリパー用サポートを準備。価格は2万5000円。ディスクはメタルギアのリプロ品が存在。前後17インチ化を主眼とした足まわりの刷新で、制動力向上を目指す人も多い。 [写真タップで拡大]
フロントブレーキマスターシリンダー:タイトな設計だから交換は大変
CDIユニット:ジールトロニックで良好な火花を実現
メインハーネス:経年変化によって硬化&変形が進行
バッテリー:容量を拡大して最新電子機器に対応
パーツ流通:リプロパーツの使用は必須
ひと昔前は「旧車に優しい」と言われていたスズキだが、数年前から状況は一変。RG400/500Γの場合は、ガスケットやシール類といった消耗部品ですら、もはや完全には揃わないそうだ。「スズキの方針変更には驚きましたが、企業としての利益を考えれば、旧車用部品の切り捨てはやむを得ないでしょうし、逆に数年前までよくあんなに出してくれたと思いますよ。いずれにしても現在のΓの整備は、アフターマーケットのリプロ品が不可欠です」(山下氏)
※本記事は”ヤングマシン”から寄稿されたものであり、著作上の権利および文責は寄稿元に属します。なお、掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。 ※特別な記載がないかぎり、価格情報は消費税込です。
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