もう、絶対に無理だと思っていた。弾ける高周波サウンド、そしてあの痛快なパワーを、もう一度新車で味わえるかもしれないなんて! イタリア語で“250”を意味する「ドゥエチンクワンタ」は、レプリカ世代の涙腺崩壊間違いなしのニューモデルだ!
●文:Klaus Nennewitz ●翻訳:小島聖美(KOJI&CO) ●写真:Marco Chilá ●取材協力:モータリスト合同会社
ヴィンスモータース(Vins Motors)とは?
フェラーリの本拠地でもあるイタリア・マラネロにて’17年に設立。独自開発のモーターサイクルはもちろん、カーボンファイバー製高機能部品の設計や製作を事業の柱とし、切削設備やオートクレーブも所有する。代表のヴィンセンツォ・マッティア(写真右)は、海洋工学や航空宇宙工学の知識を生かしてエンジンと車体設計を担当。フェラーリのR&Dで同僚だったニコラ・トレンターニ(中央)が車体全体をデザイン。2人の高校時代からの親友、ジュゼッペ・エヴァンゲリスタ(左)が会社のオペレーションを担当する。現在の従業員数は12名。
ドゥエチンクワンタストラーダ:「2ストを最新技術で…」の夢が叶う!
エンジン:90度V2は2軸。クランクケース内へ燃料を噴射
ヴィンスのオリジナル設計による2サイクルエンジンは、アプリリアの250ccレーサーに搭載されたロータックス258を手本としつつ、切削加工されたクランクケースにギヤ接続された2本のクランクシャフトを収め、360度同時爆発点火の90度Vツインという独自性あふれる構成。ボア×ストローク54mm×54.5mmという、わずかにロングストロークな設定から249.5ccの排気量を得る。
ピストンはボルテックス(Vortex)製のシングルリング鍛造品で、写真のシリンダーはヤマハ製を流用しているが、量産品はオリジナルとなる予定。カセット式の6段ミッションも内製だ。電子制御される排気デバイスは一般的なパワーバルブで、スムースなアクセラレーションに貢献。1次振動はゼロのため、カウンターバランサーを不要としたエンジンはスロットルボディを含んでもわずか28kgだ。
独自設計でユーロ5をクリア予定
テストしたレースエキゾースト付きのエンジンは75hp/45Nmを発揮。驚くべきことにユーロ5に適合する公道モデルもこのスペックは維持される予定だ。保安部品を装着してもわずか105kgの車重が貢献し、ベンチ上の走行モードテストでほぼスロットルを開ける必要がないため、結果として規制値以下の排出ガスに収まるのだという。エンジンの制御ECUには世界最速として知られるアメリカPE製を採用している。取材時の燃費はヨーロッパ郊外を走らせて15.38km/Lだった。
凝りまくりのFI&スロットルシステム
3件の特許を有する独自のFIは、気筒あたり1本のインジェクターをリードバルブ上流に備え、2組のギロチン式スライドバルブで吸気量をコントロールする(作動はワイヤー式)。これは全開時の吸気面積を確保しつつ、スロットル微開領域から正確に吸入量をコントロールできるヴィンス独自の構造で、10年以上にわたり直噴やロータリーバルブなど、あらゆるFI機構や吸入方式を研究した結果とのこと。加えて2気筒同爆の採用が、抜群のドライバビリティや幅広く実用的なパワーバンドに貢献しているという。
2ストオイル消費はかつての10分の1!?
2サイクルオイルは4つのデロルト製電子制御オイルポンプを介し、リードバルブ付近の通路(1気筒あたり2つ)からエンジンに供給。ガソリンとの混合比はエンジン負荷やスロットル開度に応じて、ECUが0.1%〜5%の範囲で算出する。このシステムにより、オイル消費量はユーロ5走行モード時で8200km/1Lという、かつての2サイクル250ccレプリカの1/8〜1/10に相当する驚異的なレベルを実現。エミッション改善に大きく寄与している。
ロスを低減する電動式ウォーターポンプ
エンジン側面に装備されるデバイスは電子制御のウォーターポンプ。補器類をエンジンから切り離すことで出力のロスを防ぐとともに、安定してエンジンを冷やすことに貢献している。
正面のダクトから内蔵ラジエターを冷却
エアロダイナミクスに優れたフェアリングからは4本のダクトがマシンに伸びる。上2本がダミータンク内のラジエーターに十分な冷却力を与え、下2本が前方吸気のエンジンに新気を導入する。
エンジンに劣らぬ超先進車体
フレームはアメリカズカップの双胴船のデザインにもヒントを得たというカーボンモノコック。わずか100kg余りという驚異的な軽さの源でもある。これはヴィンスがもっとも得意とするもので、社内にはカーボンを焼成するオートクレーブも持ち、設計から製造まで自社内で完結させている。こうした設備や、フェラーリでフォーミュラカー開発に携わった経験を生かしたエンジニアリングの提供も、同社の事業のひとつなのだ。
エアロダイナミクスに優れたフェアリングは、モノコック内の小さなラジエーターを確実に冷やすなど車体全体のフローも研究したもの。ダミータンク下には8Lの燃料タンクが配され、公道用はこれに加えてシート下に4Lのリザーブタンクを設置。ダブルウィッシュボーン構造のサスペンションなど、フォーミュラカーの技術も多く採用される。
サスペンションはフロント=Wウィッシュボーン/リア=横置き両押し式
ダブルウィッシュボーン構造のホサック式サスペンションは、カーボン製のフロントフォークで保持され、一般的なテレスコピック式よりはるかに軽量。ノーズダイブを抑え、鋭いコーナリングを演出する。
リヤサスペンションはウィリアムズのF1からヒントを得た構造。横置きのボディはスイングアーム内で完結するユニット構造で、2本のカーボン製プッシュロッドとロッカーアームで構成され、マスの集中化に貢献している。
復活の2サイクル250マシン・ドゥエチンクワンタストラーダのスペック紹介に続き、後編では試乗インプレッションをお届けする。
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