
レース用のライディングテクニックとして、マシンの挙動をより安定させやすいスタンディングフォームが推奨されるが、とはいえまったく座らないというワケでもない。今記事では「シッティング」について、世界的ライダー・渡辺学選手によるオフロードライディング指南企画『渡辺学のスキルアップラボ』から、座る位置によって変化する特性やオススメの着座方法などを前後編にわたって解説する。レース派はもちろんだが、林道派や街乗りライダーもガッツリ参考にできる内容になっているゾ!!
●まとめ:ゴーライド編集部(山田晃生) ●写真:長谷川徹 ●取材協力:ウエストポイント
【ツイスターレーシング 渡辺学】2021年は主宰するツイスターレーシングにIBライダーが4名も揃い、全日本選手権モトクロスでの監督業が軸に。スケジュールの合間にJNCCシリーズに参戦予定の「スキルアップラボ」院長。サンデーライダーに好評の「ヒーローズえんでゅーろ」にもコース監修とスクールイベントで参加の予定だ。さらに本業であるマナブギョーザもメールで随時承り中! 一度食べたらクセになる味なのだ。マナブ先生は今日もオフロードを走り、ギョーザを焼く。
コーナリングでの着座位置をクローズアップ:前めに座るのが基本
スポーツライディングにおいて、マシンコントロールはスタンディングがメインになるが、時としてシッティングするシーンもある。今回はおもにスポーツライディング、とくにコーナリングでの着座位置に着目した。自身でも違いを探りながら乗ってみてほしい。
マナブ先生「なぜ座るのかといえば、トラクションさせるためです。スタンディングでもある程度はトラクションさせることは可能ですが、座ったほうがより楽に、強くかけられるようになります。
ただ、座る位置によってもマシンの挙動は変わってしまいます。前に座ると前輪の接地感が高くなり、マシンを倒しやすく、スライドした際のコントロール性も高くなる。足を地面に着けやすいので、安心感も高いといえます。林道でも濡れていたり滑りやすそうな路面や、予期せぬ操作が必要になりそうな時も、前に座ったほうがすぐに対応しやすいのでオススメです。ただし、ポジション的に窮屈になりがちなので、街乗りであればちょっと後ろめに座ってリラックスするのもいいでしょう。
スポーツライディングで後ろに座るシーンは速度域が高いコーナリングくらい。後ろに座るとリヤサスペンションに無駄な動きを与えやすく、マシンの挙動が不安定になりがちなのです。車体も起き上がりやすく、後輪がスライドした時にもカラダが一緒に持っていかれやすくなる。腕も伸び気味のためチカラも入れにくい。もしハイサイドのような動きになった場合、後ろに荷重があるから前輪が浮き気味で接地感がなく、ハンドルも切れるだけ。そうなると吹っ飛ばされるしかない。それが前に座っていればハンドルをグッと押さえて、立て直すこともできるんです。
最近のマシンは、インジェクションになりレスポンスもトラクションもかなり良くなってきました。だからあまり後ろめに座ると、カラダが置いていかれるイメージがあり、コントロールしにくいと思うんです。だからチカラの入れやすい前に座るのが基本。挙動を安定させやすいので、安心して乗れると思います」
オフロードマシンのシートは細く長い:座る位置による違い
今のシートの表皮はグリップが高く、お尻がズレることはまずない。スポーツライディング中に座り直すことは至難の業。だからどこに座るかをあらかじめ決めておくことが大事になる。ここで4例の着座位置の違いとオススメの用途をざっくり解説しよう。
白のテープでおおまかに着座位置を区切ってみた図。[1]はタンクカバー(YZ450FXの場合)で、ほぼ座ることはなく、スポーツライディングで使用するのは[2]と[3]がメイン。[4]と[5]の位置はスポーツ向きとはいえないが、ここまでシートの長さがないと困る場面もある。
着座位置[2]:「前に座る」時のポジションで、コーナリングで使用する着座位置。タンクの上の[1]に座ることもまれにあるが、極端なので今回は割愛。
着座位置[3]:[2]よりもちょっと後ろの着座位置は、高速コーナーなどで使用することが多い。[3]~[4]にかけては”後ろに座る”位置。
着座位置[4]:ステップの上に立ち、すっと腰を下ろしただけの着座位置。各関節が楽なので林道ツーリングや公道走行に向いていると言える。
着座位置[5]:スポーツライディングでこれほど後ろに座ることはないが、フープスやギャップでオシリを叩かれた際のダメージを軽減してくれる。
コーナリング中の座る位置でマシンの挙動が変わる
結論から言えば、コーナリング中は前に座っていたほうが圧倒的に安心感が高いばかりか、マシンを倒しやすい/滑った時に修正しやすい/接地感が高い、などのメリットがある。後ろに座るとリヤサスに無駄な動きを与えやすく、安定させにくいなどがデメリット。前後の着座位置の差はほんの15cmほどではあるものの、マシンの挙動は大きく変わるのだ。安全に配慮したうえで、前後の着座位置の違いを体験してみるといいだろう。
前と後ろのおもな挙動の違い
着座位置によって起こるおもな挙動の違いはこのとおり。コーナリング中は前に座ったほうが良いことが分かるだろう。
[1]進入で足を出したところ。前に座っていたほうがスムーズにマシンを倒すことができ、前輪の接地感がつかみやすいほか、咄嗟の時にもすぐに地面に足を着けられる。後ろに座ると接地感が薄く、マシンを倒しにくく感じる。
[2]後ろに座っていると腕が伸び気味になり、ハイサイドが起こった時に身体をもっていかれてしまう。前に座ったほうが腕に余裕があるため力も入れやすく、コントロールの幅が広がる。
[3]ほんの15cmほどの差ではあるものの、後ろに座っているとトラクションがかかりやすく脱出の加速力も強まる。が、その反面、アウトに膨らみやすいデメリットも出てきてしまう。
[4]前に座っているとトラクション的には弱まってしまうが、後輪が滑った時でもコントロールしやすいため安心感もある。狙ったラインをトレースしやすいのもメリットだ。
[5]後ろに座っていると、後輪がスライドした際に身体ももっていかれやすくなる。修正のためアクセルを戻してしまうのでタイムロスになる。前に座っていたほうがスムーズに次のアクションに移れる。
後編では、座るタイミングに加え、座り直さずトラクションさせるなどのちょっとした応用編などを紹介する。
※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
あなたにおすすめの関連記事
巻頭特集:小林直樹のオフロード基礎(ベーシック)ライド 林道ツーリングに役立つオフロードライディングの基礎を、全日本トライアルで活躍した元ホンダワークスライダーの小林直樹師範が非常にわかりやすく伝授し[…]
オフロードも林道走行も楽しめるのはやはりトレールマシン オフロードマシンとひと口にいっても、競技用モデルと公道モデルでは、その作りも大きく変わってくる。モトクロス/エンデューロ/トライアルとあるが、モ[…]
ファンティック XEF125/250:本格装備のプレミアムトレール 低中速で粘るトルクと高回転までスムーズに伸びるエンジンを、軽量な車体に搭載。軽さと扱いやすさが、高いオフロード走破性として結実してい[…]
まずは斜面に慣れるところから始めよう ビギナー参加型のエンデューロレースではコースマーシャルや初心者向けスクールの講師も担当、ジャンプセクションでもかなりの数のライダーたちを指導してきたマナブ先生(=[…]
今よりも成績を確実にアップさせる丸太セクション攻略 国内エンデューロシーンではすっかり定着した感のある丸太セクション。目の前に立つと壁のようにも見えるが、トップライダーは何ごともなかったかのようにスム[…]
最新の記事
- ホンダレーシングが2023年限りでマルク・マルケスとの契約を早期終了、11年の旅路に終止符
- スズキがJMS2023で電動スクーターや水素エンジン試験車両を展示! 市販車はVストSXやハヤブサが並ぶ【JMS2023】
- ホンダのバイク整備士 世界一を決める「テクニシャンコンテスト」を10月8日に開催
- 〈動画〉スズキの超新星! GSX-8SはライバルMT-07とはぜんぜん違った!? 試乗インプレッション
- オークション形式だから高く売れるかも!?「グーバイク買取」サービス開始
- 1
- 2