’66年のことである。ハーレーダビッドソンは’57年に発売したXL用の4カム・ショベルヘッドエンジンをビッグツイン用に1カム化し、ナックル、パンに続くOHV空冷Vツインの第3世代とした。鋳鉄シリンダーを採用し、ボア×ストローク87.3×100.6mmで1206cc。FLHは78年から、FXS LOWRIDERでは’79年から88.85×107.95mmの1340ccへとスケールアップしている。ナックルに似たロッカーアームシャフトは、ロッカーカバーを兼ねるアルミ製ハウジングで支持されるが、これを裏返すとショベルに似ていることから「ショベルヘッド」と呼ばれる。
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夢のままで終わらせるのはもったいない
体を突き上げるような力強く心地よい鼓動、スロットルグリップを操作する右手と駆動輪が直結したかのようなダイレクトなトルクフィール、これぞハーレーダビッドソンのVツインと言わんばかりのエンジンフィーリングに、感動すら覚えてしまう。心臓部は世界中に熱狂的ファンを持つショベルヘッドエンジン。不等間隔爆発を生む挟角45度のV型2気筒エンジンに、完全に陶酔しきっている。もうこのままどこまでも走り続けたい!
ビッグツインモデル用としては’66〜85年に製造されたショベルヘッド搭載車だが、なかでもひときわ人気が高いのが、’77年発売の初代FXSローライダー。H-D創業者の孫であるウイリー・G・ダビッドソンによる最高傑作のひとつと名高く、市場ではいつの時代もプレミアムプライスのタグがつく。ハーレー好きでなくともバイクファンなら一度は乗ってみたい、そう思う人も少なくないだろう。
実車を目の当たりにすると、別格のオーラが漂う。「我こそハーレーを代表するレジェンド」と言わんばかりで、圧倒的な存在感には尊敬の念を禁じ得ない。
全身をくまなく見ていくだけで、もう興奮してしまう。’71年にリリースしたFXスーパーグライドより2インチ長いフロントフォークを、フレームネック角30度、キャクター角34度に寝かせてセットし、シート高を27インチ(68.58cm)にまで下げてロー&ロースタイルを強調。当時の最新装備であるキャストホイールに前輪ダブルディスクブレーキを組み合わせ、H-Dロゴを赤くペイントした3.5ガロン(容量13.25L)燃料タンク上には、リンクルブラック仕上げのコンソールとデュアルメーターを縦列配置した。
シートの下、車体左側にあるイグニッションスイッチ、メインキーを回しスターターボタンを押せば、セルモーターが一発で始動。ポテトサウンド(アメリカの人には「ポテトッ、ポテトッ、ポテトッ」と聞こえるらしい)と呼ばれる三拍子の不規則なリズムを奏でているから、もうこれだけで鳥肌が立ってくる。
抜群のコンディションを保っているこの車両を取り扱うのは、大阪・高槻市の「鼓動館」。鈴鹿8時間耐久ロードレースを走るなど一線級のサーキットライダーだった代表の藤岡氏が、渡米を機にハーレーに魅せられ、’05年に専門店をオープン。
アメリカで輸入した貴重なハーレーを、どんなにコンディションが良好であってもいったん自社ですべてバラし、フルオーバーホールし販売するという念の入れよう。つまり限りなく新車に近い状態でユーザーに納車する、というスタンスをとっている。藤岡氏はこう教えてくれた。
「すべて自社で組み直しているので、万一トラブルがあってもすぐに対処できますし、そもそも整備に万全を期しているので、大きなトラブルで困るということはまずありません。『ショベルは壊れる』は誤解で、きちんと整備されていれば、そんなことはないんですよ」
絶好調であることを証明する耳触りの良いポテトサウンドに惹きつけられ、2in1マフラーをまじまじと眺めてしまう。リアシリンダーからのエキゾーストパイプは、一旦フロント側を回って、ナンバー1ロゴがあしらわれたタイマーカバーのまわりを囲むように弧を描いてから、フロントバンクの排気管とバッテリーケースの下で集合し、太く頼もしくそのまま後方へまっすぐエキゾーストシステムが伸びている。スラッシュカットされたマフラーエンドも、ローライダーらしさ。ノーマルマフラーかと思いきや、サンダンス製のオールステンレス製で、キャブレターもケイヒン・バタフライからミクニHSR42に、エアクリーナーケースもハイフロータイプに交換されている。オリジナルの美しいフォルムを残しつつも吸排気が見直され、ノーマルより力強いエンジンフィーリングを獲得し、走りがいっそう官能的になっているのだ。
低中回転域もトルクに満ちあふれ、スロットルレスポンスに優れる。ショベルヘッドエンジンはボア87.3×ストローク100.8mmの74キュービックインチ(1200cc)からスタートし、初代FXSローライダーもこれを搭載するが、’79年からはボアを88.8mmに広げ、80キュービックインチ(1340cc)に排気量をスケールアップしている。パワフルがゆえに、念のため藤岡氏に「これ、1200ですよね?」と確認すると、「そうですよ」と微笑む。その顔には、絶対的な自信が満ち溢れていた。
青木タカオの”もうひと言インプレ”
ドラッグバーハンドルを握り、バケット風デザインのダブルシートで力強い加速を受け止める。なんたる爽快感か、ショベルFXSローライダー。エンジンにブラックペイントを施したのも、このモデルが初めて。冷却フィンだけを残して、シリンダーヘッドを黒く塗装し、フィンの美しさを際立たせている。
「壊れる」と言われがちなショベルだが、しっかりと整備された車両なら、これほどにキビキビと走ってくれ、扱いやすくもある。コンディションの大切さを改めて知ることとなった。鼓動館のショベル、また乗りたいと切に思う。同店では憧れのハーレーたちが所狭しと並んでいる。ビギナーも歓迎だ。
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