’20年型で排気量拡大を伴うモデルチェンジを果たした、英国のトライアンフ タイガー900RALLY PROと日本のホンダ CRF1100Lアフリカツイン。多彩なツーリング環境を走りつないで比較テストした。バージョンアップによって獲得した、それぞれの魅力とは? プロ目線で本誌テスターの丸山浩が、一般目線でフリーライターの田宮徹がレポート。
’20年型で排気量拡大を伴うモデルチェンジを果たした、英国のトライアンフ タイガー900RALLY PROと日本のホンダ CRF1100Lアフリカツイン。多彩なツーリング環境を走りつないで[…]
素で勝負のタイガー、手厚い支援のアフリカツイン
高速道路や市街地、あるいはワインディングといった舗装路で走らせていると、タイガー900は前後サスペンションのストロークがかなり長めで、普通にツーリングしている場合は、もう少しオンロード寄りでも…と感じてしまう。ただし、タイガー900にはフロント19インチ径のキャストホイールで前後サスペンションも短めのGT仕様もあるので、ラリーを引っ張り出しておきながらサスペンションストロークが云々…というのはちょっと違う気もする。
対するアフリカツインのアドベンチャースポーツES仕様には、セミアクティブサスペンションが採用されていて、ライディングモードと連動して減衰特性が大きく変化する。ユーザーの任意設定を保存しておく2モード以外に、4モードのプリセットがあり、このうちツアーとアーバンが舗装路向き。キャラクターが明確に変化するため、操縦性と快適性に優れる。やはり電子制御式サスペンションの恩恵は大きい。
アフリカツインのライディングモードはDCTの変速タイミングなども連動することから、違いがわかりやすい。対してタイガー900は、実際のところはアフリカツイン同様にIMU(慣性計測装置)の情報も活用しながら、トラクションコントロールや最新コーナリングABSなどの制御もライディングモードと連動しているが、これらは激しいライディングにより作動させてみないとわからない効果であり、通常の走行ではパワーフィールの変化が感じられる程度となっている。
しかしだからこそ、タイガー900には素のモーターサイクルとしての楽しさも感じられる。ワインディングでは、アフリカツインと比べれば軽量な車体がアドバンテージとなり、リッターに迫る排気量なので大柄ではあるのだが、意外と本格的な走りにも対応できる。高い着座位置で振り回すように乗れるのも魅力だ。
一方でアフリカツインは、低めの重心で落ち着いた運動性能。かなりの車格を感じ、ラグジュアリーな雰囲気だ。ただし、ライディングモードの恩恵もあり、スポーティに走れてしまう感覚も十分にある。
リッタークラスのアドベンチャーでどれくらいの日本人が実際にダートを走るか……という疑問は置いておいて、ダートでも少しテストしてみたが、ここではタイガー900のニューエンジンが持つ特性がプラスに寄与。低回転域からトルクがあり、従来型に感じられたピーキーさやトルクの谷がないため、扱いやすさが増している。さらに、長めで柔らかめの足まわりもオフロード向きだ。それだけに、純正装着タイヤはもっとオフロード寄りでも良かったのではないか……と思う。一方でアフリカツインは、かなりの巨漢ながら、電子制御に助けられながら意外と遊べてしまう懐の広さがある。
とはいえ、アフリカツインのアドベンチャースポーツ仕様はやはり秀逸なラグジュアリーツアラーというイメージが強い。対してタイガー900は、フラットなエンジン特性で走行環境などへの適応性を増しながらも、スポーティな要素が盛り込まれている。個人的には、従来型の個性があるエンジンフィーリングも趣味性が高くて好きなのだが、アドベンチャーツアラーとのマッチングということでは、ニューエンジンが持つメリットが大きいように想う。
【一般ライダー・田宮目線】どんな旅をするかで評価が大きく変わる
新たなクランク形式を採用したタイガー900は、これまで知っていた並列3気筒エンジンとは明らかに異なるフィーリング。高回転域のパンチは先代に譲るが、低回転域でのトラクション性能はこれまで以上に磨かれていて、ダートも走りやすかった。対してアフリカツインは、アドベンチャースポーツ仕様の場合はもはや巨漢ツアラーの雰囲気。”スポーツ”を名乗るが、実際には快適に旅するための機種だと思った。一般的なレベルのライダーにとっては、アクティブに楽しみたいならタイガー900、優雅にツーリングしたいならアフリカツインというのが、選択の基本となるだろう。
まとめ:トラの新しい挑戦にも注目!
まだ粗削りな部分もあるけど、そこも含めて楽しさも感じられるスポーティなタイガー900ラリープロと、クルマの世界で言えばSUV的で、快適で装備が充実したツアラーとしての完成度が高いアフリカツインのアドベンチャースポーツES仕様という印象。ただし、どちらのモデルもバリエーションは豊富で、どの仕様を選ぶかによって当然ながら評価には違いが生まれてくるだろう。
従来型と比較すると、アフリカツインがまさに正常進化で走行性能と装備を進化させてきたのに対して、タイガー900はトライアンフがこだわる3気筒というレイアウトを守りながらも、かなり新しいことに挑戦してきた。将来を見据えた場合に、何かを”変える”という選択も必要だったのだろう。これまで持ち続けてきた「トライアンフの3気筒らしさ」から脱却したこのニューエンジンが、今後どのように発展しながら歴史を刻んでいくのかにも興味津々だ。
(右)【タイガー】ボアアップにより先代比88cc増の888ccとなったが、それ以上に大きな違いはクランク形式。これまでは120度ごとの等間隔配置だったが、手前から90度ずつ位相されたTプレーンに。(左)【アフリカツイン】ユーロ5に対応しながらさらなる余裕を与えるため、ストロークアップにより先代から排気量を84cc増して1082cc化。内部構造も見直され、単体重量は2.2kg(MTは2.5kg)削減された。 [写真タップで拡大]
(右)【タイガー】変速機はマニュアルクラッチ式。上級版となるラリープロおよびGTプロは、シフトアップ&ダウンの双方向に対応したクイックシフターを標準装備して、ライダーの疲労軽減が狙われている。(左)【アフリカツイン】MT仕様もあるが、今回試乗したDCT仕様は、クラッチ操作なしで発進停止と自動または任意の有段変速が可能。新たに搭載したIMUの情報を、シフトダウン制御に活用。 [写真タップで拡大]
(右)【タイガー】通常はオンロードスポーツ系に使われる、ブレンボの最新世代となるスタイルマ仕様のモノブロックブレーキキャリパーを採用。ラリーは前後スポークホイールで、前輪が21インチ径。(左)【アフリカツイン】ダブルディスク式のフロントブレーキには、ニッシン製のラジアルマウントキャリパーを採用。すべての仕様が前輪21インチ径/後輪18インチ径のスポークホイールを採用している。 [写真タップで拡大]
(右)【タイガー】左手側スイッチでライディングモードの切り替えやクルーズコントロールの設定などができる。ホーンボタンの右側にあるのは、十字方向+プッシュのスティック型スイッチ。(左)【アフリカツイン】もはやバイクのハンドルスイッチとは思えないボタン数の多さ。指が短いと、慣れるまでウインカーの操作がしにくく、ホーンボタンを押しがち……。最下段はDCTの変速用。 [写真タップで拡大]
(右)【タイガー】タイガー900シリーズのうちオフロード走行性能を高めたラリーは、ショーワ製の前後サスペンションを搭載。フロントはフルアジャスタブル、リヤはプリロードと伸側減衰力が調整可能。(左)【アフリカツイン】アドベンチャースポーツ仕様にはショーワ製電子制御サスペンションのEERAを搭載したESもタイプ設定。IMUを制御に活用し、各走行モードと連動した減衰特性もプリセットされる。 [写真タップで拡大]
(右)【タイガー】4タイプの表示スタイルを備えたメーターは、7インチのフルカラーTFT。各仕様の上級版となるプロは、スマートフォンおよびゴープロとの連携機能が標準装備されている。(左)【アフリカツイン】ホンダ二輪車初のタッチパネル式メーターは、6.5インチフルカラーTFT仕様。直感的な操作ができる。スマートフォンとの連携機能もあり、AppleCarPlayにも対応する。 [写真タップで拡大]
●まとめ:田宮徹 ●写真:長谷川徹 ※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
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