リッターSSより軽量コンパクトな車格が魅力。レース参戦を見据えた600ccはラインナップが縮小したが、YZF-R6、そして2019年にニンジャZX-6Rがモデルチェンジし、気を吐く。さらに、ファンライド寄りのCBR650Rがブランニューとしてデビューした。より排気量をチョイ乗せしたアッパーミドルとしてMVアグスタのF3 800も選べる。
レースを視野に入れるか、排気量+αで楽しむか?
人知を超えたハイパワーのリッターSSに対し、600〜800ccのSSはより軽く小柄なボディと適度な出力で、より付き合いやすいのが特徴。
’90年代〜’00年代前半に600SSが欧州でブームを呼んだが、今や市場が変化。新排ガス規制に対応せず、そのまま消滅する可能性さえあった。しかし、ヤマハのYZF-R6が2017年型でいち早く規制に対応。同じくサーキット指向のニンジャZXー6Rが2019年型でモデルチェンジした。扱いやすく、パッと乗ってタイムを出せるのは後者。前者は、街中も走れるレーサーの趣だ。
そもそも600ccという排気量はレース規則に準じた設定だったが、公道では低中速域の力強さに欠ける場面も。そこでレースに縛られない+αの排気量帯が充実しているのが現状だ。
気軽にスポーツできるCBR650Fが、CBR650Rに新生したのもトピック。ライバルのニンジャ650より攻められる性格になった。
YAMAHA YZF-R6[旋回命の零戦]スパルタンと名高い純血種のレーサー
サーキット指向の本格600SSとして知られるR6。’17年型で9年ぶりにモデルチェンジを受け、現行YZF-R1譲りの技術を注入したが、その素性は不変だ。ガッツリ前傾するライポジをはじめ、超高回転型のピーキーな599cc直4ユニット、ソリッド感のある足まわり、とまさにレーシー。とはいえ、現行型は6段階式のトラコンや3種類のパワーモードが与えられ、最高出力とレスポンスをマイルドに変更可能になった。足着き性は今ひとつながら、意外と市街地も難なくこなせてしまうのだ。
心臓は、高周波サウンドを伴いつつ1万2000rpmから本領を発揮。1万45000rpmでピークを迎え、レッドゾーン1万6000rpmまで伸び上がる。1万~1万1000rpmで若干トルクの谷があり、タイムを削るにはこれ以上の回転域をキープしながらコーナリング速度を落とさずに走る技術が必要。緻密なライディングが求められるが、上手くクリアできた時は、リッターSSと異質の満足感を得られるのだ。R1譲りのKYBサスはよく動き、限界域でビシッと決まる。同じくR1と同様のADVICS製ラジアルキャリパーは初期からガツンと効くタイプではなく、コントロール性抜群。この足まわりを活かし、己のスキルでコーナリングスピードを稼ぐ。R6はまさに正統派レーサーだ。
KAWASAKI Ninja ZX-6R/KRT EDITION[リアリストへ]乗りやすく、余裕。実質的な速さが光る
レース規則に縛られない636ccの排気量で、サーキットから公道まで高い使い勝手を求めた6R。2019年型は、2013モデルをベースに排ガス対応を施し、スタイルを一新した。+37ccのおかげで下から上までトルクの谷を感じさせないのが美点。スムーズに伸び上がり、パワーバンドも8000~1万5000rpmと広く、特に中間域が扱いやすい。高回転パワーも排気量の分だけ、YZF-R6のようなジャスト600ccより余裕がある。
エンジンとハンドリングのバランスも非常にナチュラル。ショーワ製SFF-BP倒立フォークは、SSとしてはソフトでよく動く。フレンドリーな設定と言えるが、決して限界は低くなく、激攻め時にはしっかり踏ん張る。積極的に前後ピッチングを利用できるため、スロットルを開けやすいキャラだ。R6はスキルが必要だが、一般ライダーがポンと乗ってもタイムを出せるのは本作だろう。
加えて乗り心地も良好。荒れた路面でも柔らかいサスがしっかり路面に追従し、シートのクッション性も高い。足着き性もなかなかだ。ハンドルはタレ角や絞り角があってSSらしいが握りやすく、上半身は軽い前傾姿勢となる。本格的なレースではなく、ストリートからサーキットまで幅広く、実質的な速さを求める人にオススメしたい。
HONDA CBR650R[ツラくないSS]優しさと激しさと心強さと
CBR600RR由来の648cc直4は、優しくスムーズに回り、回転を増すほど速さが盛り上がる、いかにも直4らしい味付け。適度にトルクのある中低速域を経て、8000rpmを超えてから一段と伸び、二次曲線的にキレイなパワーが立ち上がる。1万3000rpmでレブリミットが効き、スパッとパワーがカットされるのは残念だが、前作の650Fよりパワー感と伸び切り感は確実に増し、レスポンスも向上しているのが体感できた。兄弟車でネイキッドのCB650Rは同じエンジンを採用しながら、若干印象が異なり、CBRの方が扱いやすい特性。これはCBR専用であるラムエアの恩恵もあるのだろう。
新たに獲得した倒立フォークは、ほどよい剛性感とソフトな動きを両立。スチールフレームの車体と相まって、敏感すぎず、安定感がある。アップハンドルのCB650Rより挙動に落ち着きがあるのも特徴だ。そのため、コーナーでは安心してスロットルを開けられ、車体を倒し込んでいくことが可能。リラックスしながらスポーツランが楽しめるのだ。
ライポジは適度に前傾し、ステップも窮屈すぎない。シートも快適で、ツーリングもキッチリ楽しめる。主戦場はあくまでストリート。前作と同様オールランダーでありながら、よりアグレッシブに攻めたくなる仕上がりだ。
KAWASAKI Ninja 650/KRT EDITION[心優しきユル系]ビギナーにもフレンドリー
FUNスポーツとして親しまれてきたミドルニンジャは、’17年型でフルチェンジを受け、現在に至る。フルカウルでいかにもSS然した外観に反し、走りはひたすら優しくイージーだ。180度クランクの649cc並列2気筒は、中低速域のパルス感とトルクが濃厚。6000rpm以降で振動が激しくなり、元気に伸び上がるが、全体的にフラットな特性だ。
この特性によりハンドリングも素直かつ安心感にあふれる。トレリスフレームを用いて193kgを実現した車体は、実に軽快コンパクト。加えて低重心設計のため、不安なく車体を倒し込むことができ、ナチュラルに向きを変えられる。バンクの速度も穏やかだ。
しなやかによく動くφ41㎜正立フォーク+リンク式リヤサスの恩恵で、乗り心地も良好。コントロール性に優れた片押し2ポットフロントキャリパーと相まって、取っつきやすさに貢献している。峠道をビギナーが気負わず流して楽しく、ベテランによる攻めの走りにも応える懐の広さを持つ。
ライポジは上体がわずかに前傾する程度で、ヒザの曲がりもラク。3段階の角度調整可能なスクリーンも備え、ロングランが得意だ。アシストスリッパークラッチによる軽い操作感も特筆すべき。普段使いしたくなる気軽さとFUNな走りが同居する秀作だ。
MV AGUSTA F3 675/800[辛口の玄人仕様]高回転まで回せば本領発揮
ショートストローク&超高回転型の3気筒に、モトGPマシンも採用する逆回転クランクを投入。675cc版はレースに対応した排気量設定となる。2017年型から国内版も欧州と同様の3本マフラーを採用し、フルパワー化を果たした。またがると、3気筒によるスリムな車体と前傾のキツい戦闘的なライポジが際立つ。ライドバイワイヤ式のエンジンは、発進時や極低速域のトルクが薄めで、やや操作に気を遣う。一方、中速域ではレスポンスが鋭く、8000rpm前後が実用域だ。真骨頂は1万rpm以降。3つのシリンダーが咆哮するかのようなサウンドを奏でつつ二次曲線的に吹け上がり、アドレナリン全開の走りが味わえる。ちなみにユーロ4対応後の現行型も、官能サウンドは健在なのでご安心を。
逆回転クランクは、高回転時にアンチウイリー効果を持ち、実に独特。コーナリング中でも車体の挙動を抑えてくれるので、慣れると立ち上がりでスロットルを積極的に開けていける。車体は、スチールフレーム独特のしなりがあり、ヘッドパイプも常に高い位置に感じられて安心感がある。さらに高い重心位置とシート位置から落としていくようなハンドリングは、軽快でありながら操る楽しみ満点。古風なスポーツバイクの雰囲気で、これらがライバルにない味わいとなっている。主軸をサーキットに置いたレーサー仕様ながら、コーナリングマシンとしての資質は十分だ。
味は濃く、間口は広く[800]
【掲載インプレッションについて】本文は、本誌の膨大なデータベースから、様々なテスターのインプレを統合し、凝縮している。そのため掲載写真のライダーによるインプレとは必ずしも限らないので、ご留意を! また、限られたスペースを有効活用するため、車両の解説は最小限としている。マシンデータは関連記事をサブテキストとして参照されたい。
※表示価格はすべて8%税込です。
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