クルマは通行できるが、バイクは通行禁止という道路がある。多くは暴走族対策のための規制措置だが、もちろん一般ライダーにも規制がかかる。標識に出合えば、進路変更をしたり、Uターンしたり、迂回ルートを探すのに苦労することもあり、とりわけ神経を使わされる標識だ。その二輪車の通行禁止規制が、近年各地で解除される傾向にある。ライダーにとってはありがたいニュースだが、どのような路線がなぜ規制解除されたのか、実際のケースを見てみたい。
※日本自動車工業会『モーターサイクルインフォメーション』2019年6月号より
二輪車の規制路線が700ヵ所から450ヵ所に減少
一般社団法人日本二輪車普及安全協会(日本二普協)は、都道府県警察の協力を得て「二輪車通行規制区間情報」というWebサイトを開設している。これは都道府県ごとに二輪車(原付・自動二輪車)の通行禁止路線を一覧化したもので、規制地点や規制時間などを確認できる。ライダーに情報を提供することで、違反を犯さないよう注意を促すのが目的だ。また、それぞれの規制路線に対する意見や要望も同サイトで受け付けており、該当する警察本部へ届けられることになっている。
日本二普協によると、このサイトの情報は、毎年できる範囲での更新を行っているが、4年ほど前までは全国で約700カ所あった規制路線(掲載数)が、2019年3月末時点では約450カ所(同)に減っている状況となっている。
同サイトでは、規制が解除された路線についても、一定期間は「解除されました」と赤色で表記して情報を残してあるので、それらのデータを拾ってみると、近年では、東京・埼玉・大阪・広島・熊本で、それぞれ規制の見直しが行われたことがわかる。
バイクだけが通行禁止になる理由
こうした二輪車の通行禁止規制は、どのような目的で実施されているのか――。警察が運用している『交通規制基準』に、「交通規制の実施基準及び道路標識等の設置基準」がある。そのなかで、規制標識「二輪の自動車・原動機付自転車通行止め」の目的は、「二輪車の通行を禁止することにより、交通事故および道路の交通に起因する障害等を防止し、交通の安全と円滑を図る」とある。
つまり、「交通事故防止」の観点から、二輪車での通行そのものが危険な道路を回避させるほか、「交通に起因する障害等の防止」の観点から、違法改造された二輪車による騒音や、暴走族らによる社会脅威など、一部の悪質なライダーの排除が目的となっている。
そうした目的を踏まえ、各都道府県警察では、次表に示す4つの道路に対して二輪車の通行規制を実施することとしている。
※二輪車通行規制の対象となる道路(警察庁「交通規制基準」より)
- オーバーパス、アンダーパス、トンネル等で自動車の通行が多く、かつ、十分な車道幅員がないため、自動二輪車または原付とその他の車両との混在通行により、交通事故が発生する恐れのある道路
- 高速自動車国道等と接続しているため、125cc以下の自動二輪車および原付の通行を禁止する必要がある道路
- カーブまたは急な坂が連続しており、自動二輪車または原付の通行により、交通事故が発生する恐れのある道路
- 暴走行為等による交通の危険防止および地域の静穏を確保する必要がある道路
埼玉県警が解除した7カ所の二輪車通行規制
日本二普協の「二輪車通行規制区間情報」担当者に話を聞くと、ここ数年の間に、埼玉県では約20路線の規制が解除されていることがわかった。それら路線の位置を精査すると、下表のように7カ所の区域に集約された。
※近年規制が解除された路線(埼玉県内の規制)
路線・区域【規制対象】規制時間 | |||
(1) | 川口市・国道122号[岩槻街道]【原付・自動二輪】土日休日(終日)、平日(21〜翌5時) | ||
(2) | 加須市・加須工業団地周辺【250cc以下除く自二】日曜・休日(0〜5時) | ||
(3) | 蓮田市および白岡市実ヶ谷周辺(市区町村道)【250cc以下除く自二】日曜・休日(0〜5時) | ||
(4) | 蓮田市・黒浜周辺[市区町村道]【250cc以下を除く自二】日曜・休日(0〜5時) | ||
(5) | さいたま市岩槻区・蓮田市・黒浜周辺[市区町村道]【250cc以下を除く自二】日休日(0〜5時) | ||
(6) | 日高市および入間・高麗本郷、権現堂周辺[林道]【原付・自二】終日 | ||
(7) | 飯能市・宮沢湖周辺[市区町村道]【250cc以下を除く自二】日曜・休日(0〜5時) |
そこで埼玉県警察本部に取材し、これら規制解除の経緯について話を聞いた。同警察本部交通部交通規制課・主席調査官 秋山英夫氏は、「本県における二輪車通行規制は、交通規制基準に則って実施しています。なかには、長い時間が経つことで規制の必要性がなくなるケースもあり、警察としては常に規制の点検・見直しを図っています。表に挙がった二輪車の規制解除に関しては、その区域において二輪車の事故が減り、暴走行為がほぼ解消されたため、規制を廃止したものです」と説明する。
表中(1)~(7)の交通状況が現在どうなっているか、現場を視察した。
ケース(1):騒音バイクなどの減少で規制解除(国道122号・岩槻街道)
埼玉県川口市を南北に走る国道122号は、同市北原台で東西に走る市道50号とインターチェンジ方式で交差している(上表の(1))。国道から市道へ右折したい場合は、まず左の側道に入り、ループを回って市道へと合流することができる。
しかし自動二輪車(全排気量)に関しては、1992年10月から、平日(21時~翌5時)と、土日休日(終日)、国道から側道への進入が禁止され、市道へは右折も左折もできない規制が実施されていた。国道の東側と西側が住宅区域となっており、夜間と休日の静穏を確保するための規制だった。その後、この周辺で騒音をたてる違法改造二輪車は激減し、2015年6月、同規制は解除された。
この交差点近くで二輪車販売店を経営する川島大輔氏は、「標識を見落として取り締まりを受けるライダーがけっこういました。普通のまじめな人たちだから、気の毒でした。ウチのお客さんにも気をつけるように注意していたので、規制が解除されてホッとしています」と語る。
この店の対面にはバイク用品店「ライダーズスタンド 東川口2りんかん」もある。スタッフの龍翔平氏は、「土日の終日規制だったので、国道から来るお客さんがこの店にたどり着けなくて、ほかの競合店に流れることも多かったようです。規制解除後はお客さんの数が2~3割は増えています。規制が復活することがないように、これからもマナーを心がけたいものです」と話していた。
ケース(2)~(5):暴走行為がなくなり規制解除(加須工業団地周辺ほか)
埼玉県加須市内には、工場や倉庫が集積する加須工業団地がある(上表の(2))。このエリアは休日になるとクルマや人通りが極端に少なくなるため、1980年代には改造した二輪車や四輪車が集まって違法競走を行う”サーキット族”のたまり場になっていた。
1983年4月、このサーキット族の取り締りを目的に、日曜・休日の0時~5時まで、工業団地への自動二輪車(250㏄以下を除く)の乗り入れが禁止された。10年ほど前までは、そうした暴走行為がある程度残っていたが、近年までにほぼ解消されており、2016年8月、に工業団地一帯の規制が解除された。
また、(3)〜(5)の区域に関しても、規制の理由は二輪車の暴走行為を排除するためのもの。(3)(4)の区域には大きな病院(療養施設)があり、とくに静穏な環境が求められ、加須と同様の規制が1983年4月に導入された。ここも時代の変化により、現在では二輪車の騒音や暴走行為がほぼなくなり、(3)(4)の区域ともに2017年9月に規制が解除されている。
(5)のさいたま市岩槻区には、やはり工業団地があり、サーキット族対策として加須と同様の規制が1983年4月に導入され、暴走行為の実態がなくなり、2014年7月に解除されている。
なお、越谷市にある越谷工業団地では、現在もサーキット族対策の二輪車規制が残っている。つまり、同様のシチュエーションでも規制が解除されるケース、残されるケースがあり、その違いについても気になるところだ。
ケース(6):車両の通行実態からみて規制は不要(日高市高麗本郷・林道)
日高市高麗本郷から奥武蔵グリーンラインへとつながる林道は、1995年1月から原付・自動二輪車の通行が終日禁止とされてきた。狭い山坂でカーブが連続するため、道路から谷へ転落するおそれもあり、二輪車の通行は危険と判断されて規制された道路と考えられる。
しかしこの林道は、林業関係者以外に車両の通行は乏しく、ゴミの不法投棄を防ぐためとして、地元の農林センターが車両通行止めを行っている箇所もある。
こうした状況にあって、通行実態がほとんどない二輪車への規制を実施することは、標識の維持に費用がかかるだけで合理的ではない。埼玉県警では「必要ない規制ならば順次見直して廃止していく」という考えで、2016年8月にこの路線の規制を解除した。
ケース(7):環境変化による規制見直し(飯能市・宮沢湖周辺)
埼玉県飯能市の宮沢湖周辺は、かつて深夜に暴走行為をはたらくバイクが多く集まり、1983年4月から自動二輪車(250㏄以下除く)の乗り入れを禁止していた(日曜・休日の0時~4時)。しかし年月が経ち、現在の湖畔には日帰り温泉施設やカフェ・レストランがオープン。今年3月にはムーミンバレーパークが開園するなど、環境が大きく変化している。
このため、二輪車の通行規制も2017年3月に解除され、四輪車と同じ扱いになった。現在は湖畔入口に二輪車専用駐車場が開設され、そこまで進入することができる。環境変化に合わせて交通規制も対応して見直されることを示す一例だ。
規制解除には周辺住民の理解が必要
ここまでのケースで見たように、二輪車の通行規制が解除される理由としては、違法改造車による騒音公害や、悪質なライダーによる暴走行為が排除されて、静穏な交通環境が取り戻されることが大きなカギになっている。ただ、それだけでは足りない。交通規制課の秋山さんは、「二輪車の暴走行為がすでに沈静化していたとしても、規制を見直す際には周辺の住民にも意見を求めますから、規制解除を不安に思う意見が多ければ、見直しは容易ではありません」と話す。さらに、「警察としては、変化する街の環境や交通実態に合わせて、より合理的な規制を実施したいと考えています。古くなった規制などについて、ライダーの皆さんからの意見や要望にも耳を傾けたいので、日本二普協のサイトなどからぜひ情報を寄せてほしい」と話している。
ライダー自らマナーアップ活動を展開
通行規制解除のみならず、二輪車の利用環境を向上させるには、社会からの受容が必要だ。ライダー自身のマナーアップが不可欠で、そのための活動に取り組んでいるライダーも少なくない。二輪ジャーナリストのKAZU中西氏もそのひとり。安全運転とマナーアップを呼びかけるチラシを作成し、主に静岡県の伊豆スカイラインや箱根の観光道路で一般のライダーに配布。「沿道に人がいそうな区間では、アクセルを少し緩めてくださいね」と声をかける。アクセルを戻すことで、走りが穏やかになり、周辺住民の印象も改善。速度も落ちるので事故防止にもつながる。
中西さんは、「バイクの事故が多い路線では、いまも二輪車の通行禁止が検討されています。規制が導入されてからでは遅いので、いまこそライダー1人ひとりが安全運転を心がけて、周りからの信頼を得ていくことが大切です」と話す。
全国的に二輪車の通行規制が解除される傾向にあるいま、中西さんらの呼びかけが、より多くのライダーに伝わることを期待したい。
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